神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

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 窓際に立った兄が窓の外を眺めているので、私もつられるように同じ方向を見れば夕日によってオレンジ色に照らされた美しい森の一角、周囲の木々よりひときわ高く沢山の枝を伸ばしている樹に、黒い鳥たちが「カァ、カァ」という鳴き声を上げながら集まっていることに気付いた。

「あ、カラスだ。北海道にもいるのね」

「カラスは地域によって色や大きさ種類に多少の違いはあるが大体、世界中どこにでもいるからな」

「こんな寒い場所で生きていけるなんて、カラスってたくましい鳥よねぇ……」

「それにしても、ずいぶん集まってるな……。カラスは寝る時、群れで過ごすが」

「この森を寝床にしてるのね」

 兄が自分のアゴに指をかけて何やら考え込んでいる。私が再び、窓の外に視線を向けると黒いカラスたちとは明らかにサイズが違う大きな鳥が舞い降りて来て、カラスたちが大きな鳥に遠慮するかのように避ける様子が見えた。

 距離が遠いのではっきりとは分からないが、大きな体長に鋭いクチバシやツメを持っているのは分かる。そしてその特徴はさきほど、このペンションに入った時に見た物を彷彿とさせた。

「あら? もしかして、あれってオオワシじゃない?」

「そうだな……。遠目ではっきりとは分からないが、あの大きさと特徴は……」

「わ~! 動いてるオオワシを生で見たの初めて! せっかくだから、もっと近くで見たいなぁ!」

「オオワシやオジロワシを直接、見ることが出来るツアーもある。確か、海の方なら流氷とアザラシとオオワシやオジロワシを見ることが出来るはずだ。前日までに予約すれば今の時季なら間に合うだろう。行くか?」

 兄の提案は非常に魅力的だし、すぐにでも首を縦に振ってしまいたい所だが、ここに来た当初の目的を達成しないまま物見遊山を優先するというのは如何なものかと思う。やはり観光をするならやるべきことを済ませてからにすべきだろう。

「ううっ。行きたいけど、沖原沙織さんの依頼が片付いてからにするわ」

「そうか……」

「あっ、夕食の時間だわ! 行きましょう!」

 時計を見れば18時を回っていた。兄と取り留めなく話をしている内にすっかり日も傾いている。お腹もすいてきたきた頃なのでちょうど良い。私は兄と共に部屋を出てウキウキと階段を下り食堂に入った。

 食堂の中には宿泊客らしき老夫婦の姿などがあったが、まだ時間が早い為かさほど混雑しているという程でも無さそうだ。私と兄は席に着き、三つ編みのウェイトレス横塚千香さんに夕食を頼む。すると程なくして夕食が乗ったトレイが運ばれてきてテーブルの上に置かれた。

 ジャガイモやニンジンなど野菜がたっぷり入ったシチューの注がれたメインの大皿を中心に、白磁器の皿に盛られているレタス、トマト、ブロッコリー、紫キャベツのみずみずしい野菜サラダ、こんがりとキツネ色に焼かれたパン。赤い薄切り肉が盛られた小皿、白い湯気を立てる黄金色のコーンスープなどが食欲をそそる美味しそうなニオイを漂わせている。

「うわー。美味しそう! あれ、このお肉は……?」

「そちらのローストはエゾ鹿肉の薄切りです。メインは北海道の有機野菜とエゾ鹿肉のシチューです。ごゆっくりどうぞ」

 ウェイトレスの横塚千香さんがにっこりと微笑んで去った後、私はテーブルの上に視線を戻した。白磁器の小皿に盛られた薄切り肉の鮮やかな赤色に視線がクギ付けになる。今まで私が見てきた肉とは明らかに別物だ。

「これが鹿肉。すっごい赤いわね……」

「鹿肉は鉄分が多い。それが見た目の色にも現れてるんだろう」

「へぇ、そうなの?」

 兄の言葉を受けてためしに一切れ鹿肉の薄切りを食べてみると意外と柔らかく、色の割に血なまぐさくも無かった。酸味のあるソースのおかげで食欲が増す味だ。

「ふむ。色味はきついけど、意外と生臭くも無いしクセがなくて食べやすいわね」

「それは良かった。狩った後、迅速に処理したかいがあるよ」

「あ、金森さん」

 ペンションオーナーの金森さんはいつの間にか食堂に入っていたようで、私や兄が食事をしている姿を見ていたようだ。

「日本で一般的によく食べられてるのは鶏肉、豚肉、牛肉でその三種類の中では牛肉が最も鉄分が多いんだけど、鹿肉は牛肉よりもずっと多くの鉄分が含まれてるから貧血予防にも良いと言われているし、高たんぱくで低カロリーだから、すごくヘルシーな食材なんだ」

「へぇ、そうなんですね」
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