14 / 62
14
しおりを挟む
「そういえばナオミちゃん。犬が好きなのかい?」
「はい」
「そうか……。実はそろそろウチの犬たちにエサをやる時間なんだ。ナオミちゃんたちの食事が終わったら一緒に仔犬の所に行ってみないか?」
「行きたいです! うわぁ、嬉しい!」
「じゃあ、食事が終わったら一緒にスタッフルームに行こう」
「はい!」
こうして金森さんと約束した私はデザートに外側はパリッとしたチョコレートでコーティングされている、半熟ザッハトルテケーキと食後のお茶を美味しく頂いた後、兄と共に食堂を出た。
食堂の調理場から廊下に出た金森さんと落ち合えば、金森さんの両手には白い深皿の陶器に仔犬用のエサが入れられていた。サイコロ状にカットした赤い肉とドッグフードを混ぜているのが分かる。
「スタッフルームはこの扉なんだけど、この通り両手がふさがってるから悪いんだけど扉を開けてもらえるかい?」
「お安いご用ですよ」
私が木製の扉を開けば休憩などに使っているのだろう。ローテーブルやソファ、棚などが置かているスタッフルームの片隅に設置されたケージの中。二匹の白い仔犬が私たちの姿をみるなり、ちぎれんばかりに尻尾を振り黒い瞳を輝かせた。そんな仔犬たちの前でエサが入った深皿を置くと金森さんはようやくケージから仔犬たちを出す。
「おまえたち、待たせてすまないな。さぁ、出してやるけどまずお座りだ」
二匹の子犬は金森さんに言われたとおり、ちょこんとお座りをしてじっとエサの皿を見つめている。
「まだ『待て』だぞ。…………『よし!』」
ご主人からのOKサインが出た途端、仔犬たちはガツガツとすごい勢いでエサにがっつき始めた。
「わぁ~。すごい食欲ですね。ところでこのエサに入ってる肉って、もしかして鹿肉ですか?」
「うん。この仔たちは猟犬にするからね。猟犬には獲物の肉を定期的に与えておいた方が良いんだ。まぁ、鹿肉はさっき話したとおり高タンパクで低カロリーだから犬にとっても良い食べ物なんだ」
「美味しそうに食べてるし、健康にも良いなら言うことないですね」
「うん。しかし、鹿肉は普通に購入すると高いけどウチの仔たちには、自分で狩った新鮮な鹿肉を頻繁にあげているから、すっかり高級肉が大好きなグルメ犬になってしまったよ」
ガツガツと元気よく鹿肉入りのエサを食べる二匹の仔犬を見ながら金森さんは、ウェーブのかかったダークブラウンの髪をかきあげて苦笑した。
「金森、おまえの婚約者。沖原沙織から飼っていた犬が三匹立て続けに亡くなったと聞いたが?」
「……知っていたのか」
兄が問いかければ、金森さんの表情から笑みが消え去った。そんな金森さんを真っ直ぐ見据えながら兄は自身の両腕を組んだ。
「ああ。沖原沙織は今でも犬の死因について気にしている。一番手っ取り早いのは犬の遺体を調べることだが……」
「死んだ犬はすでに埋葬済みでペンション裏の林に墓を作ってる。安らかに眠らせてるんだ……。今さら掘り起こすようなことはしたくないよ」
瞳に悲しみの色を浮かべて、沈痛そうな面持ちでうつむく金森さんの姿に私は胸が痛くなった。
「そうか……。じゃあ、犬が死んだ時の状況を教えてくれないか? 第三者がちゃんと調べれば、沖原沙織も納得するだろう」
「そうだな……。僕が狩猟をする時は必ず犬と一緒に行っているんだ。北海道犬は昔からマタギの猟犬としてヒグマやエゾ鹿の狩猟で活躍してきた犬種だからね。猟の時は獲物の探索に役立つんだ」
「へぇ、かしこい仔たちなんですね」
「うん。それで先月、いつもの通り雪山でエゾ鹿の狩猟をしていたんだけど共に連れていた二匹の北海道犬の内、一匹が獲物を追っている内にはぐれてしまってね……。その後、エゾ鹿を仕留めたし、夕方になっていたからその日は切り上げて帰路についたんだ。しかし、帰る途中でもう一匹の北海道犬が山に向かって駆けだしたんだ」
「ええっ、なんでまた?」
「きっともう一匹が帰ってこないのを心配して迎えに行ったんだろうと思う……。僕としても犬のことは心配だったがペンションの客に夕食でメインディッシュとして提供する鹿肉を持って帰らないといけないし、北海道犬は寒さに強いから多少、帰宅が遅くなっても大丈夫だろうと思って僕は一人でペンションに戻ったんだ。しかし結局、二匹の犬は戻って来なかった。翌日、ペンションから出ると半ば雪に埋もれた状態で冷たくなっている二匹の遺体が見つかった」
「そんな……。凍死だったんですか」
「ああ、僕も当時はそう思った」
「当時は?」
眉根を寄せる金森さんの表情と言葉に妙な引っかかりを覚えて、私は小首を傾げた。
「とにかく二匹の北海道犬を同時に二匹亡くしたのは痛かったけど幸い北海道犬がもう一匹いたから、そいつを猟に連れて行ったんだが途中で姿が見えなくなってね……」
「ええっ、またですか?」
「ああ。心配したんだが、とにかく獲物を仕留めて一度ペンションに戻って鹿肉を持って帰った後、前のようなことにならないように犬を探しに行ったんだ。すでに日が暮れかけていたけどギリギリまでは、はぐれた犬を探そうと思って山に入った時、雪の上でぐったりと横たわってる北海道犬の傍に今まで見たこともないような大きな鳥が翼を広げていた」
「はい」
「そうか……。実はそろそろウチの犬たちにエサをやる時間なんだ。ナオミちゃんたちの食事が終わったら一緒に仔犬の所に行ってみないか?」
「行きたいです! うわぁ、嬉しい!」
「じゃあ、食事が終わったら一緒にスタッフルームに行こう」
「はい!」
こうして金森さんと約束した私はデザートに外側はパリッとしたチョコレートでコーティングされている、半熟ザッハトルテケーキと食後のお茶を美味しく頂いた後、兄と共に食堂を出た。
食堂の調理場から廊下に出た金森さんと落ち合えば、金森さんの両手には白い深皿の陶器に仔犬用のエサが入れられていた。サイコロ状にカットした赤い肉とドッグフードを混ぜているのが分かる。
「スタッフルームはこの扉なんだけど、この通り両手がふさがってるから悪いんだけど扉を開けてもらえるかい?」
「お安いご用ですよ」
私が木製の扉を開けば休憩などに使っているのだろう。ローテーブルやソファ、棚などが置かているスタッフルームの片隅に設置されたケージの中。二匹の白い仔犬が私たちの姿をみるなり、ちぎれんばかりに尻尾を振り黒い瞳を輝かせた。そんな仔犬たちの前でエサが入った深皿を置くと金森さんはようやくケージから仔犬たちを出す。
「おまえたち、待たせてすまないな。さぁ、出してやるけどまずお座りだ」
二匹の子犬は金森さんに言われたとおり、ちょこんとお座りをしてじっとエサの皿を見つめている。
「まだ『待て』だぞ。…………『よし!』」
ご主人からのOKサインが出た途端、仔犬たちはガツガツとすごい勢いでエサにがっつき始めた。
「わぁ~。すごい食欲ですね。ところでこのエサに入ってる肉って、もしかして鹿肉ですか?」
「うん。この仔たちは猟犬にするからね。猟犬には獲物の肉を定期的に与えておいた方が良いんだ。まぁ、鹿肉はさっき話したとおり高タンパクで低カロリーだから犬にとっても良い食べ物なんだ」
「美味しそうに食べてるし、健康にも良いなら言うことないですね」
「うん。しかし、鹿肉は普通に購入すると高いけどウチの仔たちには、自分で狩った新鮮な鹿肉を頻繁にあげているから、すっかり高級肉が大好きなグルメ犬になってしまったよ」
ガツガツと元気よく鹿肉入りのエサを食べる二匹の仔犬を見ながら金森さんは、ウェーブのかかったダークブラウンの髪をかきあげて苦笑した。
「金森、おまえの婚約者。沖原沙織から飼っていた犬が三匹立て続けに亡くなったと聞いたが?」
「……知っていたのか」
兄が問いかければ、金森さんの表情から笑みが消え去った。そんな金森さんを真っ直ぐ見据えながら兄は自身の両腕を組んだ。
「ああ。沖原沙織は今でも犬の死因について気にしている。一番手っ取り早いのは犬の遺体を調べることだが……」
「死んだ犬はすでに埋葬済みでペンション裏の林に墓を作ってる。安らかに眠らせてるんだ……。今さら掘り起こすようなことはしたくないよ」
瞳に悲しみの色を浮かべて、沈痛そうな面持ちでうつむく金森さんの姿に私は胸が痛くなった。
「そうか……。じゃあ、犬が死んだ時の状況を教えてくれないか? 第三者がちゃんと調べれば、沖原沙織も納得するだろう」
「そうだな……。僕が狩猟をする時は必ず犬と一緒に行っているんだ。北海道犬は昔からマタギの猟犬としてヒグマやエゾ鹿の狩猟で活躍してきた犬種だからね。猟の時は獲物の探索に役立つんだ」
「へぇ、かしこい仔たちなんですね」
「うん。それで先月、いつもの通り雪山でエゾ鹿の狩猟をしていたんだけど共に連れていた二匹の北海道犬の内、一匹が獲物を追っている内にはぐれてしまってね……。その後、エゾ鹿を仕留めたし、夕方になっていたからその日は切り上げて帰路についたんだ。しかし、帰る途中でもう一匹の北海道犬が山に向かって駆けだしたんだ」
「ええっ、なんでまた?」
「きっともう一匹が帰ってこないのを心配して迎えに行ったんだろうと思う……。僕としても犬のことは心配だったがペンションの客に夕食でメインディッシュとして提供する鹿肉を持って帰らないといけないし、北海道犬は寒さに強いから多少、帰宅が遅くなっても大丈夫だろうと思って僕は一人でペンションに戻ったんだ。しかし結局、二匹の犬は戻って来なかった。翌日、ペンションから出ると半ば雪に埋もれた状態で冷たくなっている二匹の遺体が見つかった」
「そんな……。凍死だったんですか」
「ああ、僕も当時はそう思った」
「当時は?」
眉根を寄せる金森さんの表情と言葉に妙な引っかかりを覚えて、私は小首を傾げた。
「とにかく二匹の北海道犬を同時に二匹亡くしたのは痛かったけど幸い北海道犬がもう一匹いたから、そいつを猟に連れて行ったんだが途中で姿が見えなくなってね……」
「ええっ、またですか?」
「ああ。心配したんだが、とにかく獲物を仕留めて一度ペンションに戻って鹿肉を持って帰った後、前のようなことにならないように犬を探しに行ったんだ。すでに日が暮れかけていたけどギリギリまでは、はぐれた犬を探そうと思って山に入った時、雪の上でぐったりと横たわってる北海道犬の傍に今まで見たこともないような大きな鳥が翼を広げていた」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる