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「そういえばナオミちゃん。犬が好きなのかい?」
「はい」
「そうか……。実はそろそろウチの犬たちにエサをやる時間なんだ。ナオミちゃんたちの食事が終わったら一緒に仔犬の所に行ってみないか?」
「行きたいです! うわぁ、嬉しい!」
「じゃあ、食事が終わったら一緒にスタッフルームに行こう」
「はい!」
こうして金森さんと約束した私はデザートに外側はパリッとしたチョコレートでコーティングされている、半熟ザッハトルテケーキと食後のお茶を美味しく頂いた後、兄と共に食堂を出た。
食堂の調理場から廊下に出た金森さんと落ち合えば、金森さんの両手には白い深皿の陶器に仔犬用のエサが入れられていた。サイコロ状にカットした赤い肉とドッグフードを混ぜているのが分かる。
「スタッフルームはこの扉なんだけど、この通り両手がふさがってるから悪いんだけど扉を開けてもらえるかい?」
「お安いご用ですよ」
私が木製の扉を開けば休憩などに使っているのだろう。ローテーブルやソファ、棚などが置かているスタッフルームの片隅に設置されたケージの中。二匹の白い仔犬が私たちの姿をみるなり、ちぎれんばかりに尻尾を振り黒い瞳を輝かせた。そんな仔犬たちの前でエサが入った深皿を置くと金森さんはようやくケージから仔犬たちを出す。
「おまえたち、待たせてすまないな。さぁ、出してやるけどまずお座りだ」
二匹の子犬は金森さんに言われたとおり、ちょこんとお座りをしてじっとエサの皿を見つめている。
「まだ『待て』だぞ。…………『よし!』」
ご主人からのOKサインが出た途端、仔犬たちはガツガツとすごい勢いでエサにがっつき始めた。
「わぁ~。すごい食欲ですね。ところでこのエサに入ってる肉って、もしかして鹿肉ですか?」
「うん。この仔たちは猟犬にするからね。猟犬には獲物の肉を定期的に与えておいた方が良いんだ。まぁ、鹿肉はさっき話したとおり高タンパクで低カロリーだから犬にとっても良い食べ物なんだ」
「美味しそうに食べてるし、健康にも良いなら言うことないですね」
「うん。しかし、鹿肉は普通に購入すると高いけどウチの仔たちには、自分で狩った新鮮な鹿肉を頻繁にあげているから、すっかり高級肉が大好きなグルメ犬になってしまったよ」
ガツガツと元気よく鹿肉入りのエサを食べる二匹の仔犬を見ながら金森さんは、ウェーブのかかったダークブラウンの髪をかきあげて苦笑した。
「金森、おまえの婚約者。沖原沙織から飼っていた犬が三匹立て続けに亡くなったと聞いたが?」
「……知っていたのか」
兄が問いかければ、金森さんの表情から笑みが消え去った。そんな金森さんを真っ直ぐ見据えながら兄は自身の両腕を組んだ。
「ああ。沖原沙織は今でも犬の死因について気にしている。一番手っ取り早いのは犬の遺体を調べることだが……」
「死んだ犬はすでに埋葬済みでペンション裏の林に墓を作ってる。安らかに眠らせてるんだ……。今さら掘り起こすようなことはしたくないよ」
瞳に悲しみの色を浮かべて、沈痛そうな面持ちでうつむく金森さんの姿に私は胸が痛くなった。
「そうか……。じゃあ、犬が死んだ時の状況を教えてくれないか? 第三者がちゃんと調べれば、沖原沙織も納得するだろう」
「そうだな……。僕が狩猟をする時は必ず犬と一緒に行っているんだ。北海道犬は昔からマタギの猟犬としてヒグマやエゾ鹿の狩猟で活躍してきた犬種だからね。猟の時は獲物の探索に役立つんだ」
「へぇ、かしこい仔たちなんですね」
「うん。それで先月、いつもの通り雪山でエゾ鹿の狩猟をしていたんだけど共に連れていた二匹の北海道犬の内、一匹が獲物を追っている内にはぐれてしまってね……。その後、エゾ鹿を仕留めたし、夕方になっていたからその日は切り上げて帰路についたんだ。しかし、帰る途中でもう一匹の北海道犬が山に向かって駆けだしたんだ」
「ええっ、なんでまた?」
「きっともう一匹が帰ってこないのを心配して迎えに行ったんだろうと思う……。僕としても犬のことは心配だったがペンションの客に夕食でメインディッシュとして提供する鹿肉を持って帰らないといけないし、北海道犬は寒さに強いから多少、帰宅が遅くなっても大丈夫だろうと思って僕は一人でペンションに戻ったんだ。しかし結局、二匹の犬は戻って来なかった。翌日、ペンションから出ると半ば雪に埋もれた状態で冷たくなっている二匹の遺体が見つかった」
「そんな……。凍死だったんですか」
「ああ、僕も当時はそう思った」
「当時は?」
眉根を寄せる金森さんの表情と言葉に妙な引っかかりを覚えて、私は小首を傾げた。
「とにかく二匹の北海道犬を同時に二匹亡くしたのは痛かったけど幸い北海道犬がもう一匹いたから、そいつを猟に連れて行ったんだが途中で姿が見えなくなってね……」
「ええっ、またですか?」
「ああ。心配したんだが、とにかく獲物を仕留めて一度ペンションに戻って鹿肉を持って帰った後、前のようなことにならないように犬を探しに行ったんだ。すでに日が暮れかけていたけどギリギリまでは、はぐれた犬を探そうと思って山に入った時、雪の上でぐったりと横たわってる北海道犬の傍に今まで見たこともないような大きな鳥が翼を広げていた」
「はい」
「そうか……。実はそろそろウチの犬たちにエサをやる時間なんだ。ナオミちゃんたちの食事が終わったら一緒に仔犬の所に行ってみないか?」
「行きたいです! うわぁ、嬉しい!」
「じゃあ、食事が終わったら一緒にスタッフルームに行こう」
「はい!」
こうして金森さんと約束した私はデザートに外側はパリッとしたチョコレートでコーティングされている、半熟ザッハトルテケーキと食後のお茶を美味しく頂いた後、兄と共に食堂を出た。
食堂の調理場から廊下に出た金森さんと落ち合えば、金森さんの両手には白い深皿の陶器に仔犬用のエサが入れられていた。サイコロ状にカットした赤い肉とドッグフードを混ぜているのが分かる。
「スタッフルームはこの扉なんだけど、この通り両手がふさがってるから悪いんだけど扉を開けてもらえるかい?」
「お安いご用ですよ」
私が木製の扉を開けば休憩などに使っているのだろう。ローテーブルやソファ、棚などが置かているスタッフルームの片隅に設置されたケージの中。二匹の白い仔犬が私たちの姿をみるなり、ちぎれんばかりに尻尾を振り黒い瞳を輝かせた。そんな仔犬たちの前でエサが入った深皿を置くと金森さんはようやくケージから仔犬たちを出す。
「おまえたち、待たせてすまないな。さぁ、出してやるけどまずお座りだ」
二匹の子犬は金森さんに言われたとおり、ちょこんとお座りをしてじっとエサの皿を見つめている。
「まだ『待て』だぞ。…………『よし!』」
ご主人からのOKサインが出た途端、仔犬たちはガツガツとすごい勢いでエサにがっつき始めた。
「わぁ~。すごい食欲ですね。ところでこのエサに入ってる肉って、もしかして鹿肉ですか?」
「うん。この仔たちは猟犬にするからね。猟犬には獲物の肉を定期的に与えておいた方が良いんだ。まぁ、鹿肉はさっき話したとおり高タンパクで低カロリーだから犬にとっても良い食べ物なんだ」
「美味しそうに食べてるし、健康にも良いなら言うことないですね」
「うん。しかし、鹿肉は普通に購入すると高いけどウチの仔たちには、自分で狩った新鮮な鹿肉を頻繁にあげているから、すっかり高級肉が大好きなグルメ犬になってしまったよ」
ガツガツと元気よく鹿肉入りのエサを食べる二匹の仔犬を見ながら金森さんは、ウェーブのかかったダークブラウンの髪をかきあげて苦笑した。
「金森、おまえの婚約者。沖原沙織から飼っていた犬が三匹立て続けに亡くなったと聞いたが?」
「……知っていたのか」
兄が問いかければ、金森さんの表情から笑みが消え去った。そんな金森さんを真っ直ぐ見据えながら兄は自身の両腕を組んだ。
「ああ。沖原沙織は今でも犬の死因について気にしている。一番手っ取り早いのは犬の遺体を調べることだが……」
「死んだ犬はすでに埋葬済みでペンション裏の林に墓を作ってる。安らかに眠らせてるんだ……。今さら掘り起こすようなことはしたくないよ」
瞳に悲しみの色を浮かべて、沈痛そうな面持ちでうつむく金森さんの姿に私は胸が痛くなった。
「そうか……。じゃあ、犬が死んだ時の状況を教えてくれないか? 第三者がちゃんと調べれば、沖原沙織も納得するだろう」
「そうだな……。僕が狩猟をする時は必ず犬と一緒に行っているんだ。北海道犬は昔からマタギの猟犬としてヒグマやエゾ鹿の狩猟で活躍してきた犬種だからね。猟の時は獲物の探索に役立つんだ」
「へぇ、かしこい仔たちなんですね」
「うん。それで先月、いつもの通り雪山でエゾ鹿の狩猟をしていたんだけど共に連れていた二匹の北海道犬の内、一匹が獲物を追っている内にはぐれてしまってね……。その後、エゾ鹿を仕留めたし、夕方になっていたからその日は切り上げて帰路についたんだ。しかし、帰る途中でもう一匹の北海道犬が山に向かって駆けだしたんだ」
「ええっ、なんでまた?」
「きっともう一匹が帰ってこないのを心配して迎えに行ったんだろうと思う……。僕としても犬のことは心配だったがペンションの客に夕食でメインディッシュとして提供する鹿肉を持って帰らないといけないし、北海道犬は寒さに強いから多少、帰宅が遅くなっても大丈夫だろうと思って僕は一人でペンションに戻ったんだ。しかし結局、二匹の犬は戻って来なかった。翌日、ペンションから出ると半ば雪に埋もれた状態で冷たくなっている二匹の遺体が見つかった」
「そんな……。凍死だったんですか」
「ああ、僕も当時はそう思った」
「当時は?」
眉根を寄せる金森さんの表情と言葉に妙な引っかかりを覚えて、私は小首を傾げた。
「とにかく二匹の北海道犬を同時に二匹亡くしたのは痛かったけど幸い北海道犬がもう一匹いたから、そいつを猟に連れて行ったんだが途中で姿が見えなくなってね……」
「ええっ、またですか?」
「ああ。心配したんだが、とにかく獲物を仕留めて一度ペンションに戻って鹿肉を持って帰った後、前のようなことにならないように犬を探しに行ったんだ。すでに日が暮れかけていたけどギリギリまでは、はぐれた犬を探そうと思って山に入った時、雪の上でぐったりと横たわってる北海道犬の傍に今まで見たこともないような大きな鳥が翼を広げていた」
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