神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

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「ああ。鹿と電車の衝突事故が起これば車両の安全確認に加えて、電車を運転していた運転手が自ら衝突した鹿を線路上から線路の横まで引っ張って移動させないといけない……。その作業によって電車に遅れが出て、列車の運行状況に支障が出ることなどは鉄道会社にとっても、現場の運転手にとっても頭の痛い話だろう」

「線路上にある鹿の遺体を運ぶのって、運転手さんが自分でやってるの?」

「都会では考えられないだろうが田舎のローカル線では、一両編成のワンマン運行という形で電車の運転手が車掌の役割もする。電車の運転と安全確認、緊急時の車内放送、鳥獣と接触した際や線路上に異物があった際の排除など全て一人の運転手が行う」

「電車が一両編成なんて信じられないけど、そういえばテレビだと田舎でそういう電車が運行してるの見たことあるわね……。そっか、運転手さんが全部ひとりでやってたのね」

 都会の電車だと複数の車両が長く繋がれていて、最後尾の車両にいる車掌さんが駅から出発するとき、安全確認を行ったり、車内放送を行ったりしている。運転手は運転業務にだけ集中しているイメージが強い。

 鉄道で鹿との衝突事故が起こった後、遺体を線路上から排除するという作業まで電車の運転手さんが行っているということまで考えていなかったので驚いた。

 しかし、よく考えれば北海道など鹿が出る様な山間部で電車が停止した際、さらに他の作業員が駅などから駆け付けるまで待機しているより電車を運転している運転手が直接、自分の手で線路上の異物である鹿の死骸を排除するというのが一番手っ取り早いのは事実だ。

 鉄道会社にしてみれば運行時間を守りたいし、事故で遅れが出れば一分、一秒でも遅れを取り戻したいだろうから現場にいる鉄道職員が運転手だけなら、その運転手が遺体の排除作業に当たるのは合理的な話ではあるのだ。

「雪深い北海道の路線でエゾ鹿と電車が衝突すれば、雪の中で一人の運転手が重い鹿の死骸を線路横まで運ばないといけない。無残な鳥獣の死骸を間近で目にしないといけないんだから精神的にもキツイだろうし、大きなエゾ鹿の重さは170kg以上になることもある。それをたった一人で移動させないといけないというのは、肉体的にも大変な重労働だろう……。鹿が電車にひかれて即死していたケースだけでなく、即死していなかった場合は息があって人間に対してある程度の抵抗をしようとするが、その場から碌に動けない鹿の脚を引っ張って線路横に移動させないといけないというケースもある」

「そんなことが? 何とかならないのかしら……。年間、二千件もそんな事故が起こっているんでしょう?」

「もちろん鉄道会社や民間企業も鹿と列車の衝突事故をなくしたいと考えている。鹿と電車の接触事故は北海道ばかりじゃない。本州などでも鹿が生息している山間部などに線路が走っている場合、鹿と電車の接触事故はたびたび起こって問題になっている」

「そうよね。北海道にはエゾ鹿がいるけど、奈良とか本州にも普通の鹿が生息しているものね……」

「奈良の鹿は『ホンシュウ鹿』だな。和歌山県の南部では地元の動物園の協力で、鹿の天敵であるライオンの糞尿を線路にまいて『鹿避け』の効果を狙ってみたり、鹿が鉄分補給のために鉄道のレールを舐める習性に着目して、鹿が必要としている塩分やミネラル、鉄分が摂取できる『鹿寄せ用の金属』を開発して鹿の生息地に置くことで線路内に鹿が侵入しないようになる効果を狙ったが、ライオンの糞尿は雨が降れば流れるし『鹿寄せの金属』は一定の効果はあったが、鹿による線路内侵入を完全になくすまでにはいたらなかった」

「やっぱり野生に生きている鹿の行動をコントロールするなんて、簡単にはできないのね……」
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