花言葉を俺は知らない

李林檎

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ハイドの幸せ

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「瞬様、ちょっといいかな」

「はい、なんですか?」

瞬は自分の部屋で本を読んでいた。
また料理の本か、瞬は本当に好きなんだなと思った。

「単刀直入に聞くけど、ハイドの事好き?」

直球で聞いた方が瞬の本音を聞けると思った。

そして瞬の顔を見て確信した。

ーあーあ、恋しちゃってるんだねー

顔を真っ赤にして下を向いている瞬を見て、ハイドが守りたくなる気持ちが何となく分かった。
否定する事なく「ハイドさんには、言わないで下さい」と言っていた。
両片思いの奴を見るほどもどかしいものはない。

リチャードは親友として、二人の恋を応援した。
ハイドが幸せになれば、何も望まない。

リチャードはハイドを忘れるためにいろんな女の子達と遊んだ。
いつか自分にもハイドに自慢出来るほどの恋人が現れたら、自然とハイドへの気持ちも忘れるだろう。

二人が恋人になるまでそう時間は掛からなかった。
きっと二人は一目惚れだったのだろう、幸せそうなハイドを見るとリチャードも嬉しくなった。
瞬をからかうとハイドが怒るのが楽しかった、瞬を通してハイドに親友として構ってもらっているような気分になった。

でも、幸せな日々はそう長くは続かなかった。

ハイドは知らない間に婚約者が出来ていたらしく、婚約破棄をすると言って街を出た。
リチャードもハイドの望まない結婚なんて反対だから一緒に行く事にした。
馬車の中でも瞬の事を気にしているハイドに苦笑いする。

帰ったら会えるのに、ハイドはこんなに恋に情熱的な男だったのか?

そして、事件は起こった。

ハイドとリチャードの留守中に起こった悲劇。
瞬が死んでしまった。

国と国はまだ戦争をしているくらい危険ではあったが、まさか城の中でそんな事が起きるとは思わなかった。

ハイドはこの世で一番愛しい者を失い、絶望していた。
リチャードも瞬なら……と考えていたからが悔しかった。
ハイドを幸せに出来ない…と…

それからのハイドは中身がなくなったようだった。
昔も似たような感じだが、今はもっと酷い。

死んだ人間をずっと想い続けていた。
好きな相手はまたいつか会える、ハイドを幸せにしてくれるのは瞬だけではない。
いろんな女や男を紹介しても見向きもしなかった。

失敗した……リチャードはそう思った。

瞬は好きだった、本当の弟のように可愛がり…瞬の棺を掘り起こした時は本気で怒っていた。

でも、瞬の存在がハイドから消えないかぎりハイドは幸せになれない。
一瞬ミゼラに興味を持ったかと嬉しかったが、それも違った。
ハイドは瞬の幻覚まで見だして、リチャードは見ていられなくなった。

瞬は好きだ、でも…ハイドをこんなにした瞬が許せない。
勝手に死んだくせに、何故…ずっとハイドを縛り付けるんだ。
解放してほしい、死んだ人間とは違いハイドには未来があるのに…

瞬は死んでいる、そう思っていた…イブに会うまでは…

まさか、瞬が生きているなんて思わなかった…ハイドの幻覚ではなかった?

イブは慌てて「瞬なんてしらないんだから!」と走って何処かに向かって行った。
イブが言いかけたあの言葉、あのお菓子屋の店主が瞬。
確かに瞬は死ぬ前もお菓子ばかり作っていたから納得出来る。

お菓子屋か……何処にあったっけ、ちょっと調べる必要があるな。

イブは瞬が傷付いていると言っていた、違う…傷付いているのはハイドだ。

瞬は弱い、ハイドと再会してもまた誰かに殺されてハイドが傷付く。
リチャードはそんな事、絶対にさせないと思った。
死んで生まれ変わってハイドに会いに来なかった理由は分からない…きっとなにか後ろめたい事でもあったのか。
もしかして、死んだ人間のままだったらハイドの心にずっと居られるから?だとしたら……

グッと強く手を握りしめた。

もう瞬にはハイドは渡さない、ちゃんとその事を直接瞬に言いに行こう。
ハイドとちゃんと別れて、ハイドを解放してほしい。
ハイドを好きなら瞬だって分かるだろ?

ハイドには幸せになる権利がある、ハイドを置いて死んだ瞬には分からないだろう。

城にある瞬の部屋に入ると、ハイドは寝ていた。
この部屋にいるからハイドは一歩も前に進めないんだ。
ハイドの糸のように繊細で美しい髪に触れると、すぐに腕を振られて叩かれた。

「……起きてたのか?」

「お前がズカズカと入るからだ」

「鍵開いてたけど」

「…閉め忘れた、今掛けるから出ていけ」

「いーやーだー」

いつものように笑ってリチャードを捕まえようと伸ばされた手を避ける。
ハイドはしつこく追いかける気がないのか、ため息を吐いていた。

ハイドの顔色は良さそうだ、これなら明日から仕事が出来そうだ。

それが瞬の贈り物のおかげだなんて思いたくなくて、自分が買った飲み物の感想を聞いた。
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