花言葉を俺は知らない

李林檎

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もう一度会いたい.

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ーハイドsideー

ハイドは机に向かいとある雑誌を真剣に読んでいた。
音も聞こえないほど集中していた。
パラパラと捲ると後ろから影が重なりページが見づらくなった。
さすがに邪魔されたら、嫌でも気付く。

この部屋に来るのは一人だけだと分かり、後ろを振り返らず拳を上げて顎を殴りつけた。

不意打ちで避けられなかった男は痛みに顔を歪めていたが無視して再びページを捲る。

「酷い、残虐非道の鬼畜騎士団長だ!」

「……」

「ハイドってそういうのに興味あったのか?」

長年の腐れ縁幼馴染みだからかリチャードはすぐに気にせず話題を変えてこちらに懲りずにやってくる。
また殴ろうかと拳を握ると影が重ならないように少し離れた場所でハイドの見る雑誌を見ていた。
何故今まで興味のなかったその雑誌を見てるのか気になりハイドが真剣に見るページに気付き眉を寄せた。

ハイドが見ていたのはマニア向けの心霊雑誌だ。
そして、そのページには遠い国の霊媒師の特集が書かれていた。
…ハイドが霊媒師に頼るのはこれが初めてではない。

ただ、一言でもいいから瞬と話したかったのだろう。
でも、何人もの霊媒師を頼ったが全てインチキ霊媒師だった。

本物か確かめるために前情報は名前とハイドとの関係だけを伝えた。
霊媒師達は病気や事故で死んだと勝手に思い込み…最悪な場合瞬を女だと勘違いしている奴もいた。

数ある中、もしかしたら一人くらい本物がいるのではないかとずっと探していた。

リチャードはこの部屋に来た用事も忘れハイドを見る。

「…その霊媒師、本物なのか?」

「さぁな、でも…瞬に会える方法があるなら全て試す」

「瞬様が会いたくないなら?」

ずっと瞬に会うためにハイドがいろいろしてきた事を知っているリチャードは呆れを通り越して感心している。
リチャードはそんなに想われている瞬が少し羨ましく感じていた。

あまりにも必死な幼馴染みに対して少し悪戯がしてみたくて言ったらハイドはパタンと雑誌を閉じた。
そして明らかに落ち込んだ顔をしていた。
まさか無表情の騎士の氷を一人の青年の名前を出しただけで溶けてしまうとは思わずリチャードも驚いていた。

「…会いたくないなら会いたくないと一言言ってほしい」

「わ、悪かったよ」

「霊媒師は南の大陸のヴァイデル国にいる」

南の大陸と言ったら砂漠だ。
ハーレー国が近くにあり、ハーレー国の戦争に利用された場所でもある。
足場は悪いわ暑いわで地獄のようだった記憶しかない、それが暑さに強いハーレー国の作戦だったのだろう。
まさか足止めされる事なく馬を使いこなし涼しげに戦う英雄様がいるなんて誰も思わなかっただろう。

そしてヴァイデル国と聞き霊媒師に心当たりがあった。
…そういえば瞬の死で放ったらかしだったなと思い出した。

「お前、ミゼラ様に会いに行くのか?」

「…あぁ」

ミゼラ・ヴァイデルという名の女性が南の大陸の小国にいる。
名の通り王族の血が通うが、本人は御霊みたま送りをする巫女…つまり霊媒師だ。
姉が三人もいるから末っ子のミゼラは継がないと聞いて、ならばとハイドの両親が勝手に決めた婚約者。

瞬が死んだあの日、ハイドはヴァイデル国には行っていない。
行く途中の馬車の中で瞬の事を知り急いでイズレイン国に戻った。
だから、婚約はそのままずっと放置されていた。

ハイドは霊媒のついでに婚約破棄を伝えるためにヴァイデル国に行こうと言ってるようだ。
瞬を呼ぶと考えた時、真っ先に思い浮かんだが無意識に避けていた。
でも、今のハイドは切羽詰まっていて見境なくなっていた。

第一は瞬に会う事でその他はついでなのかとリチャードは呆れた。
…でもハイドらしいと言ったららしいと苦笑いした。

「まぁなんだ、頑張ってこいよ」

「…それより、お前…なにか用があったんじゃないのか?」

瞬の時のようになにかあっては困るからリチャードは国に残る事にして、ハイドが一人で行く事になった。
そしてやっとリチャードは何しに来たのか思い出し、ハイドにとあるものを見せた。
それは巡回中の騎士が証拠に撮った写真だと言う。
そこにはとんでもない光景が写し出されていた。

ハイドは言葉を失い怒りで拳を震わせていた。
リチャードも同じ気持ちで手は硬く握られ、写真を机の上に置く。

「…なんだ、これは」

「今朝撮れた写真みたいで現像にちょっと時間掛かったんだよ…まだ写真というものは数少ないからな、異国の土産に買ってきていたコイツにボーナスあげたいくらいだよ」

撮影者にそう言うが声は震えていた。
写真には酷い光景が写っていた。
そして、写真に写る人物に殺意が湧いた。

きっと写真に写る人物を知らなくても誰でも胸糞悪い光景だろう。
そして一番関係あるであろうハイドが黙って見ているわけがない。
立ち上がりすぐに部屋を出ようとしたがリチャードに腕を掴まれ止められすぐに腕を振り払った。

「待てよ、お前…また無茶して死のうとか思ってないだろうな」

「…許さない、絶対に」

ハイドは全く聞いていないのかブツブツと恨みを込めて呟き部屋を出た。
この事を知らせるのは事件が解決してからが良かったかと思うが、それだとハイドの怒りが自分に向きそうだったから我が身可愛さに今言った。

誰もいなくなった部屋で再び写真を見て虫唾が走った。
リチャードも見つけたらタダじゃおかないと思いながら俺の後を追う。

リチャードにとって弟のような存在であり、ハイドの大切な恋人が眠る墓。
…それが荒らされた写真を見て平常心でいられる人間はいるのだろうか。

きっと荒らした写真に写る男は生きていられないだろう。
ハイドの大切な人を汚した罪を償うには当然の事だろう。

そしてハイドは知らなかった…

これから先にどんな運命が待つのかを…
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