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戦う理由
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「はぁっ、はぁ…何とか逃げれたかな」
「…お兄さんって、なんか手慣れてない?」
「えっ?」
「いやぁ、だってコントロールいいし銃の扱い上手いし」
銃なんて今さっきまで触れた事がなかったから、そう思われている事が驚きだ。
仕事で人の動きを見ているから、魔物の動きも分かりやすいからだろうか。
ハイドの訓練を何度も見た事があったが、ハイドの武器は剣だったから銃だとあまり参考にはならない。
まだまだ先が見えない、どのくらいあるのだろうか。
背後から足音が聞こえる。
スカーレットが後ろを振り返ろうとしたから、すぐに止めた。
どうせ虫だろうからとイノリが後ろを振り返った。
そこにいたのは口で言うのも気持ちが悪いものがあった。
身体は人間で頭が虫なんて、グロすぎでイノリでさえ目を覆いたくなる。
スカーレットが見たらトラウマになりそうだ…幸い後ろにいるなら走れば何とかなると思った。
「スカーレットくん!走って!!」
「わ、分かった!」
スカーレットは後ろを見る事なく、走り出した。
後ろから追いかけてくる地響きが聞こえてくる。
ただ、大きな身体だからか走るスピードは遅いらしい。
ここは一本道だからロイスを見つけやすい。
何処かで魔物をまかないといけないなと、考える。
後ろになにがいるか分からない不安かスカーレットはイノリに話しかけた。
「お兄さんって、好きな人いるのっ?」
「はぁ、はぁ…っえ?」
「俺ばっかり恋の相談してて…お兄さんはどうかと思って」
イノリは言うべきか、迷った。
でも、ただ…好きなだけならイノリ以外にもあの人を好きな人は大勢いる。
イノリは「いるよ」とだけ言った。
前を見ると、岩の壁に不自然な窪みがあり…その先は急カーブになっていた。
イノリはスカーレットを見ると、スカーレットも頷き急カーブギリギリまで走り足を止めた。
そしてスカーレットに向かって全身で抱きしめて岩の壁の窪みに滑り込んだ。
スカーレットの顔をイノリの身体で隠したから最後まで魔物を見る事はなかっただろう。
何処からか、金切り声が聞こえて大きな音がした。
下に落ちたのだろうか、死んだかは分からないけど…悪い事をしてしまった。
元々魔物は平和に暮らしていたのに人間達が来て驚いただけかもしれない。
イノリは銃を見て、魔物を傷付けてしまったとスカーレットに銃を返した。
「やっぱり俺、戦うのは無理みたい…でもスカーレットくんの目の代わりになって逃げるよ」
「お兄さん、才能あると思うけど」
「…怖いんだ、誰かを傷付ける武器が」
「俺は、自分の武器を誰かを守る武器だと思ってるよ」
スカーレットはそう言い、イノリが返した小型の銃を見つめる。
瞬は、ハイドが守るこの国を守りたいと思った。
ハイドは、この国を守るために騎士団長になった。
そんなハイドの背中を見て、瞬は愛しさと同時に憧れていた。
自分にも誰かを守る力がほしいと…
イノリが誰かを傷付ける武器だと思うと、誰かを守るために戦っている人達に失礼だ。
武器は使う人によって、全然意味が違ってくる。
「……ごめんね、酷い事言って」
「お兄さんも俺を守るために戦ってくれたじゃないですか」
「俺は、自分が死なないように自分を守るために戦う力が欲しかったんだ」
「死ぬ?」
「俺は弱かったから、あの人を傷付けてしまった……だから、俺はどうしても生きなきゃいけないんだ」
ポロポロと涙が溢れてきて、拳を握りしめた。
きっと死んだらもう、あの人のいる世界に生まれ変われないと思う。
だから、生きなきゃいけない…なにがあっても…絶対に…
この世界は決して平和ではない、何度も何度も分かっていた筈なのに…
イノリの考えは、優しいとかそういうのではない……傷付きたくないから逃げているだけだ。
あの日、ハイドに直接聞けなかったのは…傷付きたくないから…
変わりたいって思っていたのに、何も変われていない。
変わりたいなら、中途半端で逃げないで…戦わなくてはいけない。
この世界で生きるために、堂々とした自分を……弱虫で泣き虫だった自分とお別れをしないと…
スカーレットが手にしていた銃を掴んだ。
何をするのか分かっていないスカーレットは呆然とイノリを見ていた。
イノリが銃を自分に向けたところで、驚いていた。
「ちょっ、お兄さん!!早まらないで下さい!!」
「………」
スカーレットが近付いてくるから、何の躊躇いもなく引き金を引いた。
スカーレットはギュッと目を瞑った。
大きな音を立てて、銃弾が壁に当たった。
スカーレットが目を開けると、イノリの頬に一本の赤い線が出来る。
銃を持つ手を下ろして、スカーレットの方を見た。
清々しいほどに、イノリの笑みは晴れやかなものだった。
「弱い俺を殺した」
「……はぇ?」
「三度目の転生、俺は…守るために戦うよ……ありがとう、スカーレットくん」
スカーレットは意味が分からず、目を丸くさせていた。
俺にしか分からなくていい、理解して欲しいから言ったんじゃない。
優しいだけの自分は何も生まれない、誰も守れない……誰かを悲しませるだけだ。
スカーレットは吹っ切れたイノリを見て、よく分からないが笑っていた。
スカーレットに銃を返した。
イノリは自分の武器を探す、だから銃は一番似合うスカーレットがいい。
そして、思い出したかのようにスカーレットは大きな声を上げた。
「あぁー!!ロイス!!」
慌てたように窪みから出て、走る。
もう虫を見ても立ち止まらず、ただスカーレットは走り続ける。
後ろからイノリも着いていく。
愛がそうさせているのか、ハエの魔物が出てきても手で追い払っていた。
本物の小さなハエのように……
ただ、ロイスを探して…
「…お兄さんって、なんか手慣れてない?」
「えっ?」
「いやぁ、だってコントロールいいし銃の扱い上手いし」
銃なんて今さっきまで触れた事がなかったから、そう思われている事が驚きだ。
仕事で人の動きを見ているから、魔物の動きも分かりやすいからだろうか。
ハイドの訓練を何度も見た事があったが、ハイドの武器は剣だったから銃だとあまり参考にはならない。
まだまだ先が見えない、どのくらいあるのだろうか。
背後から足音が聞こえる。
スカーレットが後ろを振り返ろうとしたから、すぐに止めた。
どうせ虫だろうからとイノリが後ろを振り返った。
そこにいたのは口で言うのも気持ちが悪いものがあった。
身体は人間で頭が虫なんて、グロすぎでイノリでさえ目を覆いたくなる。
スカーレットが見たらトラウマになりそうだ…幸い後ろにいるなら走れば何とかなると思った。
「スカーレットくん!走って!!」
「わ、分かった!」
スカーレットは後ろを見る事なく、走り出した。
後ろから追いかけてくる地響きが聞こえてくる。
ただ、大きな身体だからか走るスピードは遅いらしい。
ここは一本道だからロイスを見つけやすい。
何処かで魔物をまかないといけないなと、考える。
後ろになにがいるか分からない不安かスカーレットはイノリに話しかけた。
「お兄さんって、好きな人いるのっ?」
「はぁ、はぁ…っえ?」
「俺ばっかり恋の相談してて…お兄さんはどうかと思って」
イノリは言うべきか、迷った。
でも、ただ…好きなだけならイノリ以外にもあの人を好きな人は大勢いる。
イノリは「いるよ」とだけ言った。
前を見ると、岩の壁に不自然な窪みがあり…その先は急カーブになっていた。
イノリはスカーレットを見ると、スカーレットも頷き急カーブギリギリまで走り足を止めた。
そしてスカーレットに向かって全身で抱きしめて岩の壁の窪みに滑り込んだ。
スカーレットの顔をイノリの身体で隠したから最後まで魔物を見る事はなかっただろう。
何処からか、金切り声が聞こえて大きな音がした。
下に落ちたのだろうか、死んだかは分からないけど…悪い事をしてしまった。
元々魔物は平和に暮らしていたのに人間達が来て驚いただけかもしれない。
イノリは銃を見て、魔物を傷付けてしまったとスカーレットに銃を返した。
「やっぱり俺、戦うのは無理みたい…でもスカーレットくんの目の代わりになって逃げるよ」
「お兄さん、才能あると思うけど」
「…怖いんだ、誰かを傷付ける武器が」
「俺は、自分の武器を誰かを守る武器だと思ってるよ」
スカーレットはそう言い、イノリが返した小型の銃を見つめる。
瞬は、ハイドが守るこの国を守りたいと思った。
ハイドは、この国を守るために騎士団長になった。
そんなハイドの背中を見て、瞬は愛しさと同時に憧れていた。
自分にも誰かを守る力がほしいと…
イノリが誰かを傷付ける武器だと思うと、誰かを守るために戦っている人達に失礼だ。
武器は使う人によって、全然意味が違ってくる。
「……ごめんね、酷い事言って」
「お兄さんも俺を守るために戦ってくれたじゃないですか」
「俺は、自分が死なないように自分を守るために戦う力が欲しかったんだ」
「死ぬ?」
「俺は弱かったから、あの人を傷付けてしまった……だから、俺はどうしても生きなきゃいけないんだ」
ポロポロと涙が溢れてきて、拳を握りしめた。
きっと死んだらもう、あの人のいる世界に生まれ変われないと思う。
だから、生きなきゃいけない…なにがあっても…絶対に…
この世界は決して平和ではない、何度も何度も分かっていた筈なのに…
イノリの考えは、優しいとかそういうのではない……傷付きたくないから逃げているだけだ。
あの日、ハイドに直接聞けなかったのは…傷付きたくないから…
変わりたいって思っていたのに、何も変われていない。
変わりたいなら、中途半端で逃げないで…戦わなくてはいけない。
この世界で生きるために、堂々とした自分を……弱虫で泣き虫だった自分とお別れをしないと…
スカーレットが手にしていた銃を掴んだ。
何をするのか分かっていないスカーレットは呆然とイノリを見ていた。
イノリが銃を自分に向けたところで、驚いていた。
「ちょっ、お兄さん!!早まらないで下さい!!」
「………」
スカーレットが近付いてくるから、何の躊躇いもなく引き金を引いた。
スカーレットはギュッと目を瞑った。
大きな音を立てて、銃弾が壁に当たった。
スカーレットが目を開けると、イノリの頬に一本の赤い線が出来る。
銃を持つ手を下ろして、スカーレットの方を見た。
清々しいほどに、イノリの笑みは晴れやかなものだった。
「弱い俺を殺した」
「……はぇ?」
「三度目の転生、俺は…守るために戦うよ……ありがとう、スカーレットくん」
スカーレットは意味が分からず、目を丸くさせていた。
俺にしか分からなくていい、理解して欲しいから言ったんじゃない。
優しいだけの自分は何も生まれない、誰も守れない……誰かを悲しませるだけだ。
スカーレットは吹っ切れたイノリを見て、よく分からないが笑っていた。
スカーレットに銃を返した。
イノリは自分の武器を探す、だから銃は一番似合うスカーレットがいい。
そして、思い出したかのようにスカーレットは大きな声を上げた。
「あぁー!!ロイス!!」
慌てたように窪みから出て、走る。
もう虫を見ても立ち止まらず、ただスカーレットは走り続ける。
後ろからイノリも着いていく。
愛がそうさせているのか、ハエの魔物が出てきても手で追い払っていた。
本物の小さなハエのように……
ただ、ロイスを探して…
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