花言葉を俺は知らない

李林檎

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ハイドを想う者

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ーーー

ロミオの家を出てイノリの家まで送ってもらった。

お互い店に着くまで無言だった。

店に着くとイブに頭を下げた。

「今日はありがとうございました」

「お礼ならハイド様に…って言えないか」

再会して初めて少しだけイブが笑った。
イノリもつられて微笑むとイブはイノリの店を眺めていた。
イブはこの店を見るの初めてだろうか、あまり目立たない場所にあるからだろうか。
この店は口コミで広まっただけだから知らない人は知らないだろう。

イノリと瞬の『お菓子を食べてもらいたい』という夢の塊の店だ。

イブはなにか思い出すように目を瞑る。

「…まだ、お菓子作ってるの?」

「うん」

「そう………たまになら来てやってもいいよ」

イブはムスッとした顔で言った。
耳が真っ赤でイノリがニコニコしていると更に不機嫌になった。

また会ってくれる、それだけで嬉しかった。
イノリが思うほど嫌われていないと思ってもいいのだろうか。

イブを見送り店の中に入る。
短時間しか経ってない筈なのに酷く疲れた。
今なら布団に寝転がっただけで熟睡出来そう。

急いで開けっ放しにしていた店を閉めて家のドアを開けた。
なくなった物はなく幸い泥棒は来てなくて良かった。

布団を敷き眠りについた。

すぐに熟睡したから夢は見ないだろうと思っていたが、夢を見た。

昔の幸せだった日々の夢だった。
昨日は悲しい夢を見たからか嬉しくて楽しかった。
それだけだったら良かったのに…

いきなり目の前が真っ赤な色で塗りつぶされていく。
赤い水溜りの真ん中に立つのは赤く濡れたハイド。

怪我をしたのかとハイドに近付くと腕を掴まれた。

夢のハイドはなにか言っていたが、ノイズに掻き消され聞こえなかった。






ーハイドsideー

深夜の寝静まったを窓から眺める。

あんなに賑やかだったのに身を潜めるように静かだ。
あの事が頭から離れず眠れなかった。
もう終わった筈なのにグルグルと思考を掻き乱していく。

瞳を閉じると思い出す。

…ロミオのあの言葉…

『目の前に瞬がいるのに諦めるバカが何処にいる!?俺は絶対に諦めない!瞬が再び死んだ時のために地獄で待っている!!そしたら今度こそ』

ただハイドを煽っただけかと思ったが妙な引っかかりがあった。
目の前に瞬がいるというのはきっと墓から掘り起こした瞬の身体の事だろう。
瞬の身体をそこまで愛してるなんて、ロミオは相当ヤバイ奴なのかもしれない。

ハイドは身体だけを愛してるわけではない、瞬の魂に惹かれたんだ。
瞬の姿形が変わっても同じくらい愛せる自信がある。
…でも、魂がなくなっても瞬の身体を他人に好き勝手されるのは許せない…だからハイドは怒った。

もうロミオはこの世にいないから怒ったって仕方ないが、黄泉の国があるなら黄泉の国で瞬を追いかけ回してるんじゃないかと不安になり、ハイドも今すぐ黄泉の国に行きたい気分だった。
そこで違和感がある。

瞬が黄泉の国にいないような事を言っていたような気がする。
…それに再び死ぬとはどういう意味だ。
まるで瞬が蘇ったように…

自分にとって都合が良すぎる解釈だなと苦笑いする。

「…瞬、俺が死んだら迎えにきてくれるか?」

返事はない…当然だ。
もう、ハイドの側にいないのだから…

早く瞬に会いたい、カーニバルが終わってからヴァイデル国に行こうと思ったが早めに仕事を終わらせて向かおうと思った。

カーニバル…本当は瞬と行きたかった、瞬とずっと一緒だと信じて疑わなかったあの頃に戻りたい。
そしたらヴァイデル国に行くのを止めてずっと瞬と一緒にいて守るのに…

イズレイン国のカーニバルは恋愛の女神を祝う祭だ。
だから恋人達だけではなく、恋人を探す人達にとっても待ち遠しい祭だった。
数々のデートスポットがあり、城下町の噴水の前で告白すると永遠に結ばれるだとか、恋愛の女神が愛した氷の花を相手にあげると必ず両思いになるとかいろいろある。

…瞬と見て回りたいなとあの時のハイドは誰も見た事がないほど緊張したりそわそわしていた。
瞬はカーニバルを知らないから当日まで黙っていようと話してない。

今は、興味は微動もない。
好きな奴がいないカーニバルなんて行っても仕方ない。
カーニバルまで二週間ある。

騎士の仕事は見回りと揉め事の解決だけだからそう忙しくはない。
…敵と戦っている時が一番楽だ、気を紛らわせる事が出来るから…
幸せそうな恋人達を見ると悲しい気持ちになるからハイドにとって今年の見回りはある意味地獄だ…去年は瞬が死んだばかりだったからリチャードが気を遣い見回りの仕事を休ませてもらっていた。

二回も騎士団長が休むわけにはいかず、今年は出るつもりだ。
だから気分を楽にしたいから早めに霊媒師に瞬と会わせてもらいたいとカーニバル前に行く事に決めた。
…ロミオの言葉も引っかかるし…

霊媒師が本物ならばの話だが…

ギィッとドアが開く音がして鍵を掛け忘れたと今気付きそっちを見ると、リチャードが酒瓶とグラスを持ちやってきた。

「なんだ、寝てるのかと思ってた」

「…起きてると思ったからそれを持ってきたんだろ」

リチャードはニカッと笑い机にグラスと酒瓶を置く。
酒は強いし嫌いではないが、悲しみを紛らわそうと大量に飲んだりするから一人ではいかない…必ずストッパー(リチャード)がいる時だけにしている。
そんなリチャードも酒癖悪いからあまり行かない。

瞬がいた頃は二人で酒を楽しんでいた。
瞬は果物酒が好きで、酒が弱いくせにハイドのペースに合わせて飲むからすぐに酔っ払っていた…その時の瞬は可愛いかったが身体には悪いだろうと次から瞬には果物を搾っただけの飲み物を飲ませていた。

…今となってはもうそんな楽しかった日々はもう戻ってこないのだが…

グラスに注がれる酒を眺めてふと思った。

………そういえば今まで興味なかったが、他の騎士より遅れて帰ってきたイブの様子が少し変だったような…気のせいか?






ーイノリsideー

翌朝、とてもモヤモヤした気持ちで起きた。
…ハイドのあんな夢を見た事もきっと関係しているだろう。
そして、ロミオの事も少し考えていた。

ロミオの気持ちに早く気付いていれば、ちゃんと断っていたら彼にとって別の幸せがあったのではないかと…
いくら考えたってもう遅いけど…
そしてもう一つ、気になってる事を1日寝てすっきりした脳が思い出した。

ロミオは誰に瞬がイノリだと教えたのか、イノリが瞬なんて知ってるのは本人だけなのに…
聞きたくてもロミオはいない、その事実がイノリを不安にさせる。
……ただ一つ、そうなんじゃないかという疑問があった。

誰かがイノリを殺そうとしている。

考え過ぎだったらいいけどと思いながら布団から出て片付ける。
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