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アナザー(順不同)
指輪の話①本編が終わってからしばらくあと。
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屋台がずらりと並び、地元の食材や観光客向けの土産物など、多種多様な商品が売られている。
いつもなら威勢の良い掛け声に、ついついフラフラと寄ってしまうのだが、今日はそんな気分になれない。
この商店街を過ぎると行き交う人が減り、魔法具の店などの専門店が増えてくる。
私は緊張をほぐすように軽く深呼吸をして、キリッと前を見据えた。
その時、小さな手が私の左手を軽く揺らす。
「ママ、顔がこわいよ。眉間にシワが寄ってる」
「え、やだ。本当?」
私は慌てて、眉間を指で擦って伸ばした。
馬車にひかれないように左側を歩いているリンクは、私の真似をして顔をしかめている。
「こんな顔してたよ。大丈夫?」
「もう、そこまで変な顔はしてないわよ」
少し緊張が溶けて、口角を少しだけあげることに成功した。
反対側に私を挟んで歩いているノルドも何か言いたそうに、私を見る。
何も手入れをしていないというのに、サラサラの金髪を揺らして止まっていた私の前に立つと、少し緊張で白くなってる私の両手を温めるように握る。
「そんなに、緊張するような店じゃないよ。待ち合わせしてる人は信頼できる人だし、安心して」
そう。これから私達は、この街唯一の貴金属の店へ向かう途中なのである。
ことの発端は、ノルドの妹のフィオナが境地に遊びに来ていた時の事。
何度か会っている内に仲良くなり、言葉遣いも砕けてきて、その日も一緒に手作りのクッキーを作っていた。
2人で味見しながら感想を言い合っていると、ふとフィオナの左手の薬指にはめられている指輪が目に入る。
「その指輪とっても綺麗ね。深い海の色の宝石に吸い込まれてしまいそう」
「でしょ?」と、フィオナは嬉しそうに頷いて指輪を窓から差し込む光に当てる。
「サクラの世界では、結婚する相手に指輪を贈るのですって? とても素敵な風習だからって、ウイルがくれたの」
フィオナは、長い間片想いをしていたウイルと交際を始めたらしい。
彼女は王族らしく、いつも優雅で、こんな年相応の可愛さを見ることはなかった。想像しているだけで、こんなにも女性を幸せにしてくれる恋は素晴らしい。
いまも、甘いお菓子のような笑顔で、大切そうにゆっくりと指輪を撫でている。
「なんか、そんな話を聞くと私も嬉しくなっちゃう。本当に、良かったわね」
あの、無表情で感情を表に出さないウイルが、フィオナの前では楽しそうに笑ったりするのだろうか。
少し前、ウイルが婚約したと聞いた時には、恋愛ごとには無縁だと思っていたから心底驚いた。
「ええ。私、幸せよ」
「ねえ。彼って、笑ったりするの?」
「もちろん、大声で笑うわよ。案外、そそっかしいし」
……そそっかしいなんて、信じられない。
しかも、笑うなんて。誰も知らないウィルの笑顔は、フィオナだけの特権なんだろう。
そう納得して、私はニコニコと微笑みながら少し形の崩れたクッキーをつまんだ。
フィオナは、私のクッキーを持った指をじっと見て、何かに気付いたかのように顎に指先を当てる。
「そういえば、ノルドお兄さまから、指輪は贈られた事はあるの?」
「え、ええ。前に王宮に行く時にネックレスを……。あと、今、髪をまとめている髪飾りも貰ったわ。指輪は貰ってないけど、料理をする時、邪魔だし。だから、くれるって言っても断るもの」
私は嫌な予感がして、思わず早口で言い訳のように答えしまつ。
すると、フィオナは何とも言えない表情して立ち上がる。
「ちょっと、失礼するわ」
「ど、どうしたの?」
淑女の見本であるフィオナにしては、お茶の途中で席を立つなどめずらしい。
嫌な予感をしつつお茶を飲みながら数分待つと、ノルドの腕を掴んで戻ってきた。
突然、連れてこられ、よく分からないと言った顔で、私を見るけれど、曖昧な微笑みで返すしかない。
フィオナは、キリッとした顔でノルドを見る。
「明日、王室御用達の宝石商をここへ呼ぶわ。サクラに、結婚指輪を贈ってあげて」
いつもなら威勢の良い掛け声に、ついついフラフラと寄ってしまうのだが、今日はそんな気分になれない。
この商店街を過ぎると行き交う人が減り、魔法具の店などの専門店が増えてくる。
私は緊張をほぐすように軽く深呼吸をして、キリッと前を見据えた。
その時、小さな手が私の左手を軽く揺らす。
「ママ、顔がこわいよ。眉間にシワが寄ってる」
「え、やだ。本当?」
私は慌てて、眉間を指で擦って伸ばした。
馬車にひかれないように左側を歩いているリンクは、私の真似をして顔をしかめている。
「こんな顔してたよ。大丈夫?」
「もう、そこまで変な顔はしてないわよ」
少し緊張が溶けて、口角を少しだけあげることに成功した。
反対側に私を挟んで歩いているノルドも何か言いたそうに、私を見る。
何も手入れをしていないというのに、サラサラの金髪を揺らして止まっていた私の前に立つと、少し緊張で白くなってる私の両手を温めるように握る。
「そんなに、緊張するような店じゃないよ。待ち合わせしてる人は信頼できる人だし、安心して」
そう。これから私達は、この街唯一の貴金属の店へ向かう途中なのである。
ことの発端は、ノルドの妹のフィオナが境地に遊びに来ていた時の事。
何度か会っている内に仲良くなり、言葉遣いも砕けてきて、その日も一緒に手作りのクッキーを作っていた。
2人で味見しながら感想を言い合っていると、ふとフィオナの左手の薬指にはめられている指輪が目に入る。
「その指輪とっても綺麗ね。深い海の色の宝石に吸い込まれてしまいそう」
「でしょ?」と、フィオナは嬉しそうに頷いて指輪を窓から差し込む光に当てる。
「サクラの世界では、結婚する相手に指輪を贈るのですって? とても素敵な風習だからって、ウイルがくれたの」
フィオナは、長い間片想いをしていたウイルと交際を始めたらしい。
彼女は王族らしく、いつも優雅で、こんな年相応の可愛さを見ることはなかった。想像しているだけで、こんなにも女性を幸せにしてくれる恋は素晴らしい。
いまも、甘いお菓子のような笑顔で、大切そうにゆっくりと指輪を撫でている。
「なんか、そんな話を聞くと私も嬉しくなっちゃう。本当に、良かったわね」
あの、無表情で感情を表に出さないウイルが、フィオナの前では楽しそうに笑ったりするのだろうか。
少し前、ウイルが婚約したと聞いた時には、恋愛ごとには無縁だと思っていたから心底驚いた。
「ええ。私、幸せよ」
「ねえ。彼って、笑ったりするの?」
「もちろん、大声で笑うわよ。案外、そそっかしいし」
……そそっかしいなんて、信じられない。
しかも、笑うなんて。誰も知らないウィルの笑顔は、フィオナだけの特権なんだろう。
そう納得して、私はニコニコと微笑みながら少し形の崩れたクッキーをつまんだ。
フィオナは、私のクッキーを持った指をじっと見て、何かに気付いたかのように顎に指先を当てる。
「そういえば、ノルドお兄さまから、指輪は贈られた事はあるの?」
「え、ええ。前に王宮に行く時にネックレスを……。あと、今、髪をまとめている髪飾りも貰ったわ。指輪は貰ってないけど、料理をする時、邪魔だし。だから、くれるって言っても断るもの」
私は嫌な予感がして、思わず早口で言い訳のように答えしまつ。
すると、フィオナは何とも言えない表情して立ち上がる。
「ちょっと、失礼するわ」
「ど、どうしたの?」
淑女の見本であるフィオナにしては、お茶の途中で席を立つなどめずらしい。
嫌な予感をしつつお茶を飲みながら数分待つと、ノルドの腕を掴んで戻ってきた。
突然、連れてこられ、よく分からないと言った顔で、私を見るけれど、曖昧な微笑みで返すしかない。
フィオナは、キリッとした顔でノルドを見る。
「明日、王室御用達の宝石商をここへ呼ぶわ。サクラに、結婚指輪を贈ってあげて」
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