全方位、光る海面世界

イトウ 

文字の大きさ
44 / 58
次へ

浅い底と、渦の中

しおりを挟む
 会場の15分前。

 地元ではない、大きな駅の駅前にある公会堂の入口に風灯は立っている。

 チケットは昨日、完売した。
 最後に買ってくれたのは、近くの大学生らしい。

 駅前で、足早く歩く人の波を見る。

 結局、本人たちだけが気負ってるだけで、来てくれている人は、底の浅い子供用プールの渦で溺れそうになって、パチャパチャしているのを手助けしてやろう、みたいな感じなのかもしれない。
 きっと、だれも、期待なんかしていない。
 だとしても、緊張はする。

「もう、観客が集まってきてるから、中に入ってもらって良いですかーーー?」

 入場門で、人案内を任されている一年生の後輩が風灯に大声で聞く。
 腕につけている時計を見て時間を確認すると、まだ、5分前だ。

 舞台の設営は作業でバタバタしているが、なんとか終わって確認のチェック作業らしい。

 少し思案して、みんなが準備をしている舞台の方へ走った。

「………みんな!来てくれた人、もう、入ってもらって良いかな?」

 全員に聞こえるように、長年鍛えたお腹から声を出す。
 各自、返事がくるが、問題ないみたいだ。

 すぐさま、モギリにいこうと入口に走る。
 外の通行人に迷惑はかけられない。

 すると、一番最初に並んでいるのは蒼衣だった。

「……普通に関係者として入ってください。」
「一年生がね、驚かしてあげて下さいって言うから」

 喫茶灯台の管理している蒼衣は、たまにしか合わない風灯よりも後輩と仲が良い。

「…………来てくれて、嬉しいです」
「こちらも、来れて嬉しいよ」

 いつものように、心にふわっと染み込むような優しい返事をくれる。

「おい。俺も来たんだが?わざわざ買って」
 隣にいた星野が、恩着せがましくチケットを風灯の顔の前でパタパタと動かしている。

「はい。星野先輩もありがとうございます。売上に貢献して頂いて」
「分かれば、よろしい。じゃ、行こう?蒼衣。」
「そうだね、星野」

 あいかわらず、二人だけにしかない空気感を出していて、悔しくて後ろから星野だけを睨む。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初恋は檸檬の味 ―後輩と臆病な僕の、恋の記録―

夢鴉
BL
写真部の三年・春(はる)は、入学式の帰りに目を瞠るほどのイケメンに呼び止められた。 「好きです、先輩。俺と付き合ってください」 春の目の前に立ちはだかったのは、新入生――甘利檸檬。 一年生にして陸上部エースと騒がれている彼は、見た目良し、運動神経良し。誰もが降り向くモテ男。 「は? ……嫌だけど」 春の言葉に、甘利は茫然とする。 しかし、甘利は諦めた様子はなく、雨の日も、夏休みも、文化祭も、春を追いかけた。 「先輩、可愛いですね」 「俺を置いて修学旅行に行くんですか!?」 「俺、春先輩が好きです」 甘利の真っすぐな想いに、やがて春も惹かれて――。 ドタバタ×青春ラブコメ! 勉強以外はハイスペックな執着系後輩×ツンデレで恋に臆病な先輩の初恋記録。 ※ハートやお気に入り登録、ありがとうございます!本当に!すごく!励みになっています!! 感想等頂けましたら飛び上がって喜びます…!今後ともよろしくお願いいたします! ※すみません…!三十四話の順番がおかしくなっているのに今更気づきまして、9/30付けで修正を行いました…!読んでくださった方々、本当にすみません…!!  以前序話の下にいた三十四話と内容は同じですので、既に読んだよって方はそのままで大丈夫です! 飛んで読んでたよという方、本当に申し訳ございません…! ※お気に入り20超えありがとうございます……! ※お気に入り25超えありがとうございます!嬉しいです! ※完結まで応援、ありがとうございました!

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...