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七:登山
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「ここから、足場が悪いから気を付けてね」
メガネを外した陽尊は、先ほどより視界が広くなったようで、歩きやすそうにしている。
……うん。良かった。表情も明るそうだ。
「なあ……」
「ん?」
「俺っ、さ。ここで、何すればっ、良い、のっ?」
平地を歩いていたと思ったら、いきなり岩場の崖が登場しやがった。
でもこれくらい楽勝だなと、大股でのぼっていたら、そんな訳はなかった。自分で思っていたよりも、運動不足だったらしい。
普段は気づかないけれど、こういう時に自覚をする。
そのため、伝える言葉が途切れ途切れになってしまったが、なんとか伝わったようだ。
「何をしようか?あるは、あるけど、とりあえず頂上へ登ろうか」
そんな疲労困憊の俺に、陽尊の手がそっと伸びてきて、俺の左手を握って軽く引っ張られる。
すると、体が急に軽くなり足が自動的に動く。あっという間に目の前が開け、頂上付近まで到着したようだ。
「陽尊、体幹が良いんだな。こんな足場の悪いところで力強く引っ張っても、体が倒れないなんて」
「こういう仕事してるから、少しはトレーニングしてるんだ。ある程度、戦って攻撃受けたら集落のあたりまで強制送還させられるだけなんだけど、負けたくないし。また、戦ってた場所に戻るの、面倒だし」
「そうだよな。うん。直前でセーブポイントなかったら、負けたくないよな」
「例えが、相変わらず面白いね。そう、そういう事」
なるほどなるほど。
「秩序の統制」は、陽尊にとって逃げられないことなんだ。
……すごいな。同い年くらいなのに、使命があるなんて大人って感じだ。
なんて、俺は世間知らずなんだ。まぁ、こんな世界がある知らなくて当然だとは思うけど。
「……じゃ、俺もさ、陽尊の事、手伝いたい。さっきみたな中ボスじゃなくてさ、手頃な化物とか出てこないの?」
「ごめん。言ってなかったけど。この世界は言霊というか、話した言葉が事実になることが多いから、気をつけて」
申し訳なさそうに、今さら注意事項を伝えてきた。
「……ということは?」
……なんだか、右足がゾワゾワする。
何かが、俺の履いていたジーンズと靴下の隙間をクチバシのようなものが触ってるのだが……。
きっと、気のせいじゃないだろう。
「ぎゃあ!!」
慌てて右足を振って、得体のしれないものを振り落とすと、陽尊の後ろにダッシュした。
「……ひどいなぁ。挨拶をしに来たのに」
なんだ?誰が喋ってる?
この甲高い声は……。まさか、コレ?
「……しゃべられるのか?」
「やあ!元気?」
「ぎゃあ!!!」
何だコレ。
雉っぽい鳥の形をしてるが。
雉か?
「……もしかして、俺にちょうどよい化物って、コレのこと?」
「みたいだね。さすがに失礼だよね」
「さすがに、勝てるだろ。でも、戦いたくない……」
雉らしい生き物が、ジャンプしたり、はたたぎして臨戦態勢を整えている。
申し訳ない。
さすがに、戦意は消失している。
「おい、お前。やらないのか?」
「うっかり、戦いたいって言葉に出したけど……。嘘です。やりません」
「へー……、バカにしてんのか?」
鳥に睨まれるのなど、人生で初だ。
「いや、はい。あ、いいえ」
しどろもどろにも、なるだろう。
こんなに言葉が重要なんて。失言ができない。
「奏採。この世界は、神と人と動物との境目がないんだ。なんなら自然とか物とかもね。丁重に謝って、言って帰ってもらおう」
「……すみません。お帰りください」
当たり障りのない言葉が思いつかない!
こんなもんだろうか。
「チッ!仕方ねぇなあ」
何て、ガラが悪い鳥だ。
捨て台詞を言って、すくすく帰っていった。
「説明しなくて、ごめんね。でも、奏採が住む世界と違う所が多くて…、話が長くなるから説明しづらいけど」
「……その都度で、いいや。多分、忘れそうだし」
「そう?気になったら、聞いて?」
深呼吸をすると、標高が高くなり神々の住まう世界に近くなったからか、さらに空気がきれいな気がする。
山の下でさえ、人工物がなくて空気が澄んでいるのに。
「ここ、良いな。何もないけど、物以外は全部そろってる」
おもわず、草が生えている地面に寝転ぶ。
目を閉じると、遠くから聞いたことのない生き物の声、それに、鳥の鳴き声と、虫のさわさわしている声まで聞こえてきた。
さらには、人以外の何かの話し声が入り混じっている。
やっぱ。
ここは、世界が違うんだな。
そもそも、日本はコンビニより神社が多いくらいの神様大国だ。
不可思議なことがあっても、おかしくないだろう。
こんなことだってある。
「……口づけても良いかな」
「ん」
そうだ。
だから、男から、キスされたっておかしくない。
……って、おかしいか?
そのあたりが無恋愛体質の俺は、良く分からなくて、軽くパニックになる。
ふわっと、軽くふれられた唇は柔らかかったが、風が通り過ぎたくらいの、ささやかなものだった。
「陽尊って。俺の、なんなの?」
何もわからない世界だけど、これだけはハッキリしておきたい。
それさえ、分かれば。
きっと、これから、どんなことがあっても、大丈夫。
そう思える気がした。
メガネを外した陽尊は、先ほどより視界が広くなったようで、歩きやすそうにしている。
……うん。良かった。表情も明るそうだ。
「なあ……」
「ん?」
「俺っ、さ。ここで、何すればっ、良い、のっ?」
平地を歩いていたと思ったら、いきなり岩場の崖が登場しやがった。
でもこれくらい楽勝だなと、大股でのぼっていたら、そんな訳はなかった。自分で思っていたよりも、運動不足だったらしい。
普段は気づかないけれど、こういう時に自覚をする。
そのため、伝える言葉が途切れ途切れになってしまったが、なんとか伝わったようだ。
「何をしようか?あるは、あるけど、とりあえず頂上へ登ろうか」
そんな疲労困憊の俺に、陽尊の手がそっと伸びてきて、俺の左手を握って軽く引っ張られる。
すると、体が急に軽くなり足が自動的に動く。あっという間に目の前が開け、頂上付近まで到着したようだ。
「陽尊、体幹が良いんだな。こんな足場の悪いところで力強く引っ張っても、体が倒れないなんて」
「こういう仕事してるから、少しはトレーニングしてるんだ。ある程度、戦って攻撃受けたら集落のあたりまで強制送還させられるだけなんだけど、負けたくないし。また、戦ってた場所に戻るの、面倒だし」
「そうだよな。うん。直前でセーブポイントなかったら、負けたくないよな」
「例えが、相変わらず面白いね。そう、そういう事」
なるほどなるほど。
「秩序の統制」は、陽尊にとって逃げられないことなんだ。
……すごいな。同い年くらいなのに、使命があるなんて大人って感じだ。
なんて、俺は世間知らずなんだ。まぁ、こんな世界がある知らなくて当然だとは思うけど。
「……じゃ、俺もさ、陽尊の事、手伝いたい。さっきみたな中ボスじゃなくてさ、手頃な化物とか出てこないの?」
「ごめん。言ってなかったけど。この世界は言霊というか、話した言葉が事実になることが多いから、気をつけて」
申し訳なさそうに、今さら注意事項を伝えてきた。
「……ということは?」
……なんだか、右足がゾワゾワする。
何かが、俺の履いていたジーンズと靴下の隙間をクチバシのようなものが触ってるのだが……。
きっと、気のせいじゃないだろう。
「ぎゃあ!!」
慌てて右足を振って、得体のしれないものを振り落とすと、陽尊の後ろにダッシュした。
「……ひどいなぁ。挨拶をしに来たのに」
なんだ?誰が喋ってる?
この甲高い声は……。まさか、コレ?
「……しゃべられるのか?」
「やあ!元気?」
「ぎゃあ!!!」
何だコレ。
雉っぽい鳥の形をしてるが。
雉か?
「……もしかして、俺にちょうどよい化物って、コレのこと?」
「みたいだね。さすがに失礼だよね」
「さすがに、勝てるだろ。でも、戦いたくない……」
雉らしい生き物が、ジャンプしたり、はたたぎして臨戦態勢を整えている。
申し訳ない。
さすがに、戦意は消失している。
「おい、お前。やらないのか?」
「うっかり、戦いたいって言葉に出したけど……。嘘です。やりません」
「へー……、バカにしてんのか?」
鳥に睨まれるのなど、人生で初だ。
「いや、はい。あ、いいえ」
しどろもどろにも、なるだろう。
こんなに言葉が重要なんて。失言ができない。
「奏採。この世界は、神と人と動物との境目がないんだ。なんなら自然とか物とかもね。丁重に謝って、言って帰ってもらおう」
「……すみません。お帰りください」
当たり障りのない言葉が思いつかない!
こんなもんだろうか。
「チッ!仕方ねぇなあ」
何て、ガラが悪い鳥だ。
捨て台詞を言って、すくすく帰っていった。
「説明しなくて、ごめんね。でも、奏採が住む世界と違う所が多くて…、話が長くなるから説明しづらいけど」
「……その都度で、いいや。多分、忘れそうだし」
「そう?気になったら、聞いて?」
深呼吸をすると、標高が高くなり神々の住まう世界に近くなったからか、さらに空気がきれいな気がする。
山の下でさえ、人工物がなくて空気が澄んでいるのに。
「ここ、良いな。何もないけど、物以外は全部そろってる」
おもわず、草が生えている地面に寝転ぶ。
目を閉じると、遠くから聞いたことのない生き物の声、それに、鳥の鳴き声と、虫のさわさわしている声まで聞こえてきた。
さらには、人以外の何かの話し声が入り混じっている。
やっぱ。
ここは、世界が違うんだな。
そもそも、日本はコンビニより神社が多いくらいの神様大国だ。
不可思議なことがあっても、おかしくないだろう。
こんなことだってある。
「……口づけても良いかな」
「ん」
そうだ。
だから、男から、キスされたっておかしくない。
……って、おかしいか?
そのあたりが無恋愛体質の俺は、良く分からなくて、軽くパニックになる。
ふわっと、軽くふれられた唇は柔らかかったが、風が通り過ぎたくらいの、ささやかなものだった。
「陽尊って。俺の、なんなの?」
何もわからない世界だけど、これだけはハッキリしておきたい。
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きっと、これから、どんなことがあっても、大丈夫。
そう思える気がした。
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