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九:交渉
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「交換条件?」
「……そう。奏採と僕は確かに、昔、同じ時を過ごしていた。でもね。覚えてないでしょう?」
「うん。ごめん」
「謝ることはないよ。奏採は、悪くない」
そう言って、そっと俺の髪をさわる。
軽く揺らされた髪は、少しくすぐったくて肩をすくめた。
愛おしいように見られているのが、何とも言えず下を向いていると、「疲れてない?座ろうか」と心配してくれて、さらに恥ずかしくなる。
陽尊は平地しかない草地を見渡し、特に草がふかふかの所を選んで座り込んだ。
「この場所に、しよう」
その後に続いて、横に並んで座るが、やっぱり熟視されていて、どうしようもなくドキドキして陽尊の方を向けない。
その代わり、目線を上げて空を見ようと、上を向く。
そこには、厚い雲がおおっていて、雲の上は見る事が出来ない。だが、確実に何か別の世界が広がっているのは、わかった。
それは、遠い昔の記憶の欠片なんだろうか。
モヤモヤとしている、自分の心の中にも厚い雲が塞がっているようだ。その雲の中には、きっと、真実がある。
どちらから先に、声を発するのかタイミングをはかるが、待っていても陽尊が黙っているので話の続きを聞いてみた。
「その時に、俺たちは何をしてた?」
検討もつかなくて、悪いことではないと良いなと、期待する。
だが、陽尊はその気持ちを知らずに、穏やかな顔で、厚い雲とあざやかな青空を同時に見て、微笑む。
「その前に、昔話をしても良い?」
「うん」
「……僕は、君が好きだったんだ。昔、一緒にいた時から、変わらず。それから、ずっと好き」
いきなり、愛の言葉を、丁寧にポツンと紡ぎ出す。
それは「好き」という誰もが口に出す、軽い言葉だった。
あえて俺が重く受け止めないで良いように、軽い表現で伝えてくれたのかもしれない。
でも、あまりにもサラッと言われたので、上手く言葉が返せない。
「そう、なんだ」
でも、それは、ストンと俺の足りない所の隙間に埋まるように、しっくりきた。
何故、自分が誰にも興味を持てなかったのか。
誰を見ても何の感情も起きなかった自分が、陽尊には美しいと思って、目が離せなかったのか。
一瞬で理解をした気がする。そして、それは、俺も……、
「でもね、君は若くして、病気で死んでしまった」
「え?そうなの?」
「……僕は君を好きで、君のいない世界には、生きる意味がなくなった。だから、後を追った」
それって……、
「さっきの話?自分を七支刀で刺したって言ってた」
「そう、だね」
陽尊は、下を向いているから表情が見えないけれど、その時の様子を想像するだけでつらくて、どうしてよいのかわからず声をかけられない。
何で、そこまで俺に想いを寄せてくれていたのだろうか。
「そこで、してはいけないことをした」
「もしかして……、」
「そう。願いを叶えるために、わざと2つの禁忌を犯した」
「禁忌?」
「君を追うために自死をした事と、社が違う君と同じ穴にわざと入った。どうなるかが、分かっていて。わざと」
陽尊は軽く髪を揺らすと、意を決したように俺を見た。
横にいた俺の右手を織りなすように左手で重ね、見つめてくる。
だから、すこしでも想いを返したくて、目の中をのぞき込んだ。
「君が、病気になって死を覚悟した時に、根の国へ行った。そして、そこの管理者と仲良くなってね、策を練ったんだ」
「ど、どんな?」
「常夜行を計画し、実行した。そして、その解決を材料に地上の神に協力を仰ぎ、万物の根源を司っている神に進言してもらうことにした」
「協力?」
「地上の神へは、権威を神聖化することへの後ろ盾になったし、お互いに得になる方法にしたよ」
「進言って?気になる事が、たくさんあるけど……!」
「そのあと、黄泉の管理者と地の神と共に、高天原の万物生成の天主神へ、生き返らせてくれる代わりに、何でもすると誓いを立てたんだ」
「それが、もしかして……」
「そう。この秩序を守る役割。僕たちがいる日本と、この平行世界を、言われるがまま巡回してる」
「そっか。じゃ、その……これからも、ずっと?」
こんな、世界を行き来する生活をしていくのだろうか。
詳しく聞きたいが、こわい気もする。
「……ずっと?」
「やっぱ、何でもない。……そ、そうだ!その時、特に困った人とかはいたの?」
「いないと思う。けっこう需要と供給が合って、上手くやれたよ。強いて言えば、無理矢理に復活させられた奏採くらい、かな?」
「……そんなこと、ないけど」
「……そう。奏採と僕は確かに、昔、同じ時を過ごしていた。でもね。覚えてないでしょう?」
「うん。ごめん」
「謝ることはないよ。奏採は、悪くない」
そう言って、そっと俺の髪をさわる。
軽く揺らされた髪は、少しくすぐったくて肩をすくめた。
愛おしいように見られているのが、何とも言えず下を向いていると、「疲れてない?座ろうか」と心配してくれて、さらに恥ずかしくなる。
陽尊は平地しかない草地を見渡し、特に草がふかふかの所を選んで座り込んだ。
「この場所に、しよう」
その後に続いて、横に並んで座るが、やっぱり熟視されていて、どうしようもなくドキドキして陽尊の方を向けない。
その代わり、目線を上げて空を見ようと、上を向く。
そこには、厚い雲がおおっていて、雲の上は見る事が出来ない。だが、確実に何か別の世界が広がっているのは、わかった。
それは、遠い昔の記憶の欠片なんだろうか。
モヤモヤとしている、自分の心の中にも厚い雲が塞がっているようだ。その雲の中には、きっと、真実がある。
どちらから先に、声を発するのかタイミングをはかるが、待っていても陽尊が黙っているので話の続きを聞いてみた。
「その時に、俺たちは何をしてた?」
検討もつかなくて、悪いことではないと良いなと、期待する。
だが、陽尊はその気持ちを知らずに、穏やかな顔で、厚い雲とあざやかな青空を同時に見て、微笑む。
「その前に、昔話をしても良い?」
「うん」
「……僕は、君が好きだったんだ。昔、一緒にいた時から、変わらず。それから、ずっと好き」
いきなり、愛の言葉を、丁寧にポツンと紡ぎ出す。
それは「好き」という誰もが口に出す、軽い言葉だった。
あえて俺が重く受け止めないで良いように、軽い表現で伝えてくれたのかもしれない。
でも、あまりにもサラッと言われたので、上手く言葉が返せない。
「そう、なんだ」
でも、それは、ストンと俺の足りない所の隙間に埋まるように、しっくりきた。
何故、自分が誰にも興味を持てなかったのか。
誰を見ても何の感情も起きなかった自分が、陽尊には美しいと思って、目が離せなかったのか。
一瞬で理解をした気がする。そして、それは、俺も……、
「でもね、君は若くして、病気で死んでしまった」
「え?そうなの?」
「……僕は君を好きで、君のいない世界には、生きる意味がなくなった。だから、後を追った」
それって……、
「さっきの話?自分を七支刀で刺したって言ってた」
「そう、だね」
陽尊は、下を向いているから表情が見えないけれど、その時の様子を想像するだけでつらくて、どうしてよいのかわからず声をかけられない。
何で、そこまで俺に想いを寄せてくれていたのだろうか。
「そこで、してはいけないことをした」
「もしかして……、」
「そう。願いを叶えるために、わざと2つの禁忌を犯した」
「禁忌?」
「君を追うために自死をした事と、社が違う君と同じ穴にわざと入った。どうなるかが、分かっていて。わざと」
陽尊は軽く髪を揺らすと、意を決したように俺を見た。
横にいた俺の右手を織りなすように左手で重ね、見つめてくる。
だから、すこしでも想いを返したくて、目の中をのぞき込んだ。
「君が、病気になって死を覚悟した時に、根の国へ行った。そして、そこの管理者と仲良くなってね、策を練ったんだ」
「ど、どんな?」
「常夜行を計画し、実行した。そして、その解決を材料に地上の神に協力を仰ぎ、万物の根源を司っている神に進言してもらうことにした」
「協力?」
「地上の神へは、権威を神聖化することへの後ろ盾になったし、お互いに得になる方法にしたよ」
「進言って?気になる事が、たくさんあるけど……!」
「そのあと、黄泉の管理者と地の神と共に、高天原の万物生成の天主神へ、生き返らせてくれる代わりに、何でもすると誓いを立てたんだ」
「それが、もしかして……」
「そう。この秩序を守る役割。僕たちがいる日本と、この平行世界を、言われるがまま巡回してる」
「そっか。じゃ、その……これからも、ずっと?」
こんな、世界を行き来する生活をしていくのだろうか。
詳しく聞きたいが、こわい気もする。
「……ずっと?」
「やっぱ、何でもない。……そ、そうだ!その時、特に困った人とかはいたの?」
「いないと思う。けっこう需要と供給が合って、上手くやれたよ。強いて言えば、無理矢理に復活させられた奏採くらい、かな?」
「……そんなこと、ないけど」
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