誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

イトウ 

文字の大きさ
4 / 66

一緒に Ⅳ

しおりを挟む
「わぁぁーー!」
「なにこれなにこれ? お祝いごと?」

 みんなが嬉しそうにさわぐ。
 テーブルの上には、普段は食卓にあがらない肉や素朴な焼菓子が並んでいるからだ。

「もう。みんな、そんなに子供みたいにはしゃいで」
「ユーディア。私は、まだ子供よ」
「そうだったわ。エンジュはしっかりしてるから忘れてた」

 今、エンジュと話をしているのは、義姉のユーディア。
 とにかく優しくて美しくて、優しくて美しい。

 2回言ってしまうくらい大好きな義姉だ。
 濃紫の髪色に薄いブルーの瞳をしていて、見つめられると胸がドキドキする。
 明日はユーディアの18才の誕生日だから、もしかして今日のごちそうの理由はそれかもしれない。

「みんな、席について」
「そうだ。大切な話がある」

 義両親は普段はめったにしない真面目な顔で、食卓の横に立った。

「ユーディアが明日から、王都へ働きに行くことになった」

 想像通りだ。
 この村は過疎化していて働く場所は少ない。
 若者はみんな王都へ出ていってしまうのだ。
 続けて、義父が話す。

「あと追加で働き手を受け入れてくれるそうだ。誰か一緒に行きたい者はいないか?」

 ついでだからどうか、という感じに軽く言ってはいるが、ちょっと行ってすぐ帰って来るという距離ではない。
 それに対象者はエンジュとグランしかいない。
 きっと自分の意志のもと行かせたいという意向から、みんなの前で発言させるつもりだろう。

「はーーーい」
 そんな簡単なものだとではない事を全く知らない、グランより一つ年下の義弟のユンティは、元気に手を上げた。

 あわてて、それを止めようとグランは席を立ったが、その前に義母の優しい声が響く。
「私は、行きませんよ?」
 その言葉に、ゆっくりとピーンと立てた腕を下げていった。

 まだ、母親からは離れられないらしい。
「間違えましたぁー」

 また、静かになっていく。

 そこで、ユーディアが話をしだした。

「良いのよ。私は一人で行くわ。まだ、みんなは小さいし……」
「いや、でも。この機会を逃すと一生、この村で生活する可能性も出でくる。今回は幸運にも宿付きの食堂へ紹介されたから良いものの、こんな機会はなかなかないぞ……!」

 一度もこの村から出たことがない父親が、かなり王都へのあこがれがあるのかユーディアの言葉をさえぎる。

 王都から来た母親も、将来的には村に戻ってきたとしても、一度くらいは王都に見せてあげたいと悩んでいるようだ。

「……じゃ、僕、行こうと思います!」

 グランが、元気に手をあげる。

 直後に、エンジュとユンティの泣きそうな顔も横に見えるが、心配しなくても良い。

 実は、僕には考えがあるのだ。

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...