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三十話 成長
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それから猛勉強が始まった。
冬休みが明けてから、学校でも友達と喋る時間を自習にあて、放課後は先生に質問してから家に帰って自習をした。
やっても分からない事だらけで頭がこんがらがる。そういう時は樹良に質問をする。
樹良は自分も忙しそうにしながらも、丁寧に教えてくれる。頼れる兄だ。
直陽には今まで世話をしてもらった事がなく、なんとなく話しかけにくい。歌陽に至っては、「出来なくても可愛いから大丈夫」と、両親同様に甘やかされてしまう。
が、その日は歌陽が珍しく桜子に勉強を教えようとしてくれた。
(どういう心境の変化だろう? いつもは勉強なんてしないでおねぇちゃんと遊ぼって言ってくるのに)
そして、悩みを打ち明けると、なんと諭を家庭教師にしてくれたのだ。
イケメンで優しい諭なら桜子も安心だ。
(でもやっぱり、イケメンだから緊張しちゃう)
諭と会えるのが楽しみになってしまう。だが、相手は陽翔の恋人だ。好きになってはならない人を好きになりそうで、桜子はそわそわしていた。
勉強を始めて二ヶ月半が過ぎた。終業式を終え、春休みに入った。
学校がないので教師に質問が出来ない。昼間は勉強を休んだので、夜はきちんとしようと思い、机に座る。
どうにか一人でも頑張るべく、取り掛かろうとした時、陽翔から電話がかかってきた。
「桜子、勉強はどうだ?」
「難しいよ。私には無理な気がする」
「しっかりやってね。諭はバイトで塾講師してるし、桜子に合った勉強をしてくれる筈だよ。
家庭教師代はお父さんが出すって、後でお礼を言うんだよ。
僕もつい桜子には甘くなっちゃうよ。期待してるから頑張るんだよ」
「はぁい」
期待されていると分かると、桜子は少し嬉しくなった。
初心を思い出すのはこういう時だ。諭への妙な感情より、陽翔に認められたいという気持ちが大きくなる。
電話を切って学習机に向かうと、右手に拳を握り、天井に向けて腕をピンと伸ばした。
「よーし、頑張るぞー!!」
だが、十分もしない内に飽きてきた。つい動画を見ながらベッドに横になり、そのまま寝そうになる。
(私がS女子高入れなくても、陽おにぃちゃんが諭さんと別れて、直陽おにぃちゃんと樹良おにぃちゃんが家を出るだけなんだよね……)
大事のようだと思っていたが、落ち着いて考えると大した事ないように思えてきた。
陽翔はいつ諭と別れてもおかしくはないし、直陽と樹良もいつかは家を出ていく。その時期が早まっただけだ。
「やっぱ無理だし、諦めようかなぁ」
「何が無理だって?」
自分以外の声に驚いて飛び起きると、部屋の中に樹良が立っていた。
「やだ、おにぃちゃんのエッチ! ダメなんだよ、人の部屋に勝手に入っちゃ!」
「僕は元々エッチだよ。それにノックは何度もしたし、返事がないからそれだけ勉強に集中してるのかな? って思って入ってみただけ」
「ぶー。ねぇ、どうしたら勉強しないで受かるかなぁ?」
「バカ言ってないで起きろ。諦めんな」
「やぁぁぁ」
桜子は無理矢理起こされて椅子に座らされた。今までやっていた数学のノートと問題集を開く。
「どこが分からないの?」
樹良が桜子の隣に立つとそう問うてきた。
「え、教えてくれるの?」
「うん。本当は諭……諭さんがいない時、自分で分からないところをまとめた方がいいんだろうけど」
「なんで諭さんの名前言い直したの?」
そう聞くと、一瞬樹良の顔が強ばった気がした。
(気のせいかな?)
「言い間違いそうになったの。とにかく、分からなくなったら俺が教えるから、諦めて寝ないで僕を呼びなよ」
「おにぃちゃん優しいね」
「普通の事だよ。僕は桜子のお兄ちゃんだからね」
家族全員が桜子に甘いのは、桜子自身感じている事だ。それに甘えるのも末っ子の特権だと思い、素直に言う事を聞く事にした。
お陰で次の諭との授業までに予習も出来て、分からないところの確認まで出来てしまった。
それから一ヶ月後。
「私、天才かも!!」
年度始めの実力テストの答案が返ってきて、桜子は目を輝かせた。
「一位は櫻だ。よく頑張ったな」
皆の目の前で先生にそう言われる。
「やったぁ! 私頑張ったもーん!」
(こんな事言われるの初めて~! すっごぉぉく嬉しい!!)
そのお陰で勉強に身が入るようになり、桜子は家庭教師に来た諭に、積極的に勉強を教えて欲しいとせがんだ。
最近の諭は元気がない。
特に、いつも勉強場所にしているリビングで、桜子以外の兄姉がいる時は大人しい。
直陽が邪魔にならない程度で近くのソファーに座っており、歌陽は床にクッションを敷いて座って読書をしている。
樹良も見学と言って、桜子の近くで授業を見ている。特に諭はやりにくそうにしている。
「私、落ち着かないから自分の部屋で勉強する! 諭さん、移動しよ!」
桜子と諭以外の三人がビクリと驚き、桜子を注視した。
変な違和感に、桜子も居心地が悪く感じるが、勉強に集中出来ないのだから仕方がない。
自室に移動して問題集を開いた。諭と部屋に二人きりになるのは初めてだ。
それはそれで落ち着かないような、ソワソワとした気分になったが、陽翔の彼氏だということを思い出すと治まった。
(もっともっと勉強頑張れば、諭さんも元気になるかな?
そレで私がS女子に合格したら、陽お兄ちゃんともずっとラブラブだろうし。私も見てて萌えるし。
もっと頑張らなきゃ!!)
「最近、凄くやる気だね。陽翔から、桜子ちゃんは飽き性だから、飽きないような教え方してって言われててさ。
無理だなーって思ってたけど、桜子ちゃんからやる気出してくれて良かったよ」
先程の気まずさとは打って変わって、諭は饒舌に喋り始めた。物凄い違和感を感じて不安になる。
(皆と喧嘩でもしちゃったのかなぁ?)
そうは思っても、桜子は相手に合わせるしかない。変に見えないよう、雑談に乗った。
「陽おにぃちゃんそんな事言ってたの!? ひっどーい。
私だって、やる時はやるんだから!!」
「そうみたいだね! 桜子ちゃんは偉いよ」
「本当!? 陽おにぃちゃんってば、私の事全然褒めてくれないんだよ。
直おにぃちゃんには勉強頑張ってて偉いね、歌おねぇちゃんにはバイト頑張ってて偉いね、樹良おにぃちゃんには桜子の面倒いつも見て偉いねって。
でも、私には絶対そういう事言わないの。意地悪なんだよ!
皆は私の事褒めてくれるのに、陽おにぃちゃんだけ私に厳しい!」
桜子が頬を膨らませると、諭はクスクスと笑った。
「そうなんだ? 想像出来ないな。俺と二人の時は、桜子ちゃんの事、褒めてたのに」
「えー!? なんて? なんて?」
「それは俺からは言えないな。
陽翔が褒めるのって、多分理由があるんじゃないかな? だから桜子ちゃんを褒めないのも敢えてなのかもしれないね」
「そうなのかなぁ? でもね、S女子合格したら褒めるって約束してもらったの。
私ぜーーーーったい、合格するんだから!」
「うん、頑張って!」
桜子がやる気を出すと、諭は優しくにっこりと笑った。
それが純粋に桜子を応援し、励ましてくれているのだと、この時はそう信じていた。
冬休みが明けてから、学校でも友達と喋る時間を自習にあて、放課後は先生に質問してから家に帰って自習をした。
やっても分からない事だらけで頭がこんがらがる。そういう時は樹良に質問をする。
樹良は自分も忙しそうにしながらも、丁寧に教えてくれる。頼れる兄だ。
直陽には今まで世話をしてもらった事がなく、なんとなく話しかけにくい。歌陽に至っては、「出来なくても可愛いから大丈夫」と、両親同様に甘やかされてしまう。
が、その日は歌陽が珍しく桜子に勉強を教えようとしてくれた。
(どういう心境の変化だろう? いつもは勉強なんてしないでおねぇちゃんと遊ぼって言ってくるのに)
そして、悩みを打ち明けると、なんと諭を家庭教師にしてくれたのだ。
イケメンで優しい諭なら桜子も安心だ。
(でもやっぱり、イケメンだから緊張しちゃう)
諭と会えるのが楽しみになってしまう。だが、相手は陽翔の恋人だ。好きになってはならない人を好きになりそうで、桜子はそわそわしていた。
勉強を始めて二ヶ月半が過ぎた。終業式を終え、春休みに入った。
学校がないので教師に質問が出来ない。昼間は勉強を休んだので、夜はきちんとしようと思い、机に座る。
どうにか一人でも頑張るべく、取り掛かろうとした時、陽翔から電話がかかってきた。
「桜子、勉強はどうだ?」
「難しいよ。私には無理な気がする」
「しっかりやってね。諭はバイトで塾講師してるし、桜子に合った勉強をしてくれる筈だよ。
家庭教師代はお父さんが出すって、後でお礼を言うんだよ。
僕もつい桜子には甘くなっちゃうよ。期待してるから頑張るんだよ」
「はぁい」
期待されていると分かると、桜子は少し嬉しくなった。
初心を思い出すのはこういう時だ。諭への妙な感情より、陽翔に認められたいという気持ちが大きくなる。
電話を切って学習机に向かうと、右手に拳を握り、天井に向けて腕をピンと伸ばした。
「よーし、頑張るぞー!!」
だが、十分もしない内に飽きてきた。つい動画を見ながらベッドに横になり、そのまま寝そうになる。
(私がS女子高入れなくても、陽おにぃちゃんが諭さんと別れて、直陽おにぃちゃんと樹良おにぃちゃんが家を出るだけなんだよね……)
大事のようだと思っていたが、落ち着いて考えると大した事ないように思えてきた。
陽翔はいつ諭と別れてもおかしくはないし、直陽と樹良もいつかは家を出ていく。その時期が早まっただけだ。
「やっぱ無理だし、諦めようかなぁ」
「何が無理だって?」
自分以外の声に驚いて飛び起きると、部屋の中に樹良が立っていた。
「やだ、おにぃちゃんのエッチ! ダメなんだよ、人の部屋に勝手に入っちゃ!」
「僕は元々エッチだよ。それにノックは何度もしたし、返事がないからそれだけ勉強に集中してるのかな? って思って入ってみただけ」
「ぶー。ねぇ、どうしたら勉強しないで受かるかなぁ?」
「バカ言ってないで起きろ。諦めんな」
「やぁぁぁ」
桜子は無理矢理起こされて椅子に座らされた。今までやっていた数学のノートと問題集を開く。
「どこが分からないの?」
樹良が桜子の隣に立つとそう問うてきた。
「え、教えてくれるの?」
「うん。本当は諭……諭さんがいない時、自分で分からないところをまとめた方がいいんだろうけど」
「なんで諭さんの名前言い直したの?」
そう聞くと、一瞬樹良の顔が強ばった気がした。
(気のせいかな?)
「言い間違いそうになったの。とにかく、分からなくなったら俺が教えるから、諦めて寝ないで僕を呼びなよ」
「おにぃちゃん優しいね」
「普通の事だよ。僕は桜子のお兄ちゃんだからね」
家族全員が桜子に甘いのは、桜子自身感じている事だ。それに甘えるのも末っ子の特権だと思い、素直に言う事を聞く事にした。
お陰で次の諭との授業までに予習も出来て、分からないところの確認まで出来てしまった。
それから一ヶ月後。
「私、天才かも!!」
年度始めの実力テストの答案が返ってきて、桜子は目を輝かせた。
「一位は櫻だ。よく頑張ったな」
皆の目の前で先生にそう言われる。
「やったぁ! 私頑張ったもーん!」
(こんな事言われるの初めて~! すっごぉぉく嬉しい!!)
そのお陰で勉強に身が入るようになり、桜子は家庭教師に来た諭に、積極的に勉強を教えて欲しいとせがんだ。
最近の諭は元気がない。
特に、いつも勉強場所にしているリビングで、桜子以外の兄姉がいる時は大人しい。
直陽が邪魔にならない程度で近くのソファーに座っており、歌陽は床にクッションを敷いて座って読書をしている。
樹良も見学と言って、桜子の近くで授業を見ている。特に諭はやりにくそうにしている。
「私、落ち着かないから自分の部屋で勉強する! 諭さん、移動しよ!」
桜子と諭以外の三人がビクリと驚き、桜子を注視した。
変な違和感に、桜子も居心地が悪く感じるが、勉強に集中出来ないのだから仕方がない。
自室に移動して問題集を開いた。諭と部屋に二人きりになるのは初めてだ。
それはそれで落ち着かないような、ソワソワとした気分になったが、陽翔の彼氏だということを思い出すと治まった。
(もっともっと勉強頑張れば、諭さんも元気になるかな?
そレで私がS女子に合格したら、陽お兄ちゃんともずっとラブラブだろうし。私も見てて萌えるし。
もっと頑張らなきゃ!!)
「最近、凄くやる気だね。陽翔から、桜子ちゃんは飽き性だから、飽きないような教え方してって言われててさ。
無理だなーって思ってたけど、桜子ちゃんからやる気出してくれて良かったよ」
先程の気まずさとは打って変わって、諭は饒舌に喋り始めた。物凄い違和感を感じて不安になる。
(皆と喧嘩でもしちゃったのかなぁ?)
そうは思っても、桜子は相手に合わせるしかない。変に見えないよう、雑談に乗った。
「陽おにぃちゃんそんな事言ってたの!? ひっどーい。
私だって、やる時はやるんだから!!」
「そうみたいだね! 桜子ちゃんは偉いよ」
「本当!? 陽おにぃちゃんってば、私の事全然褒めてくれないんだよ。
直おにぃちゃんには勉強頑張ってて偉いね、歌おねぇちゃんにはバイト頑張ってて偉いね、樹良おにぃちゃんには桜子の面倒いつも見て偉いねって。
でも、私には絶対そういう事言わないの。意地悪なんだよ!
皆は私の事褒めてくれるのに、陽おにぃちゃんだけ私に厳しい!」
桜子が頬を膨らませると、諭はクスクスと笑った。
「そうなんだ? 想像出来ないな。俺と二人の時は、桜子ちゃんの事、褒めてたのに」
「えー!? なんて? なんて?」
「それは俺からは言えないな。
陽翔が褒めるのって、多分理由があるんじゃないかな? だから桜子ちゃんを褒めないのも敢えてなのかもしれないね」
「そうなのかなぁ? でもね、S女子合格したら褒めるって約束してもらったの。
私ぜーーーーったい、合格するんだから!」
「うん、頑張って!」
桜子がやる気を出すと、諭は優しくにっこりと笑った。
それが純粋に桜子を応援し、励ましてくれているのだと、この時はそう信じていた。
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