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三十六話 きょうだい会議①
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桜子の泣き声で、直陽、歌陽、樹良の三人が桜子の部屋の扉をノックしたり声をかけてくる。
「桜子、どうしたの!?」
「桜子ー?」
部屋の扉には鍵をかけている為、三人とも入れずに外から声をかけるしか出来ない。桜子は
「なんでもないってば!!」
と、突っぱねていたが、なんでもない訳がないのだ。三人とも部屋の扉の前から動かずに、桜子を呼び続けていた。
桜子は無視を続けた。一人にして欲しかった。
その一時間後に陽翔は実家に帰ってきた。
チャイムの音、直陽や歌陽、樹良が玄関に向かう音が響いたが、桜子は出迎えに行く事が出来なかった。
大泣きした顔を皆に見られたくなかった。せめて、親以上に桜子の全てを知る陽翔にだけなら見せられる。
部屋に来てくれるのを待った。
しばらくして、扉をノックする音が聞こえた。
「桜子ー!」
「陽おにぃちゃん?」
「うん。僕だよ、ただいま」
「他に誰もいない?」
「皆いるけど、皆は入っちゃダメ?」
「ダメェ! ……泣き顔見られたくない」
扉に向かってそう返すと、歌陽が必死な声で訴えかけた。
「桜子! 私が何度桜子の泣き顔見てると思ってんの!? 赤ちゃんの時も、幼稚園生の時にしょうもない理由で泣いた時も、小学生の時に友達と喧嘩した時も見てるし。
二年前くらいまでは樹良と喧嘩してしょっちゅう大泣きしてたでしょ!」
樹良も後に続いた。
「そうだよ。僕が何かしたか分からないけど、何怒ってたのかも教えてよ。
謝るから! 謝り倒すから! 僕の中で一番可愛いのは妹の桜子なんだよ。
泣き顔なんて今まで何度も見てるし! 恥ずかしくないよ! 僕は今桜子の顔が見たいんだよ」
今まで桜子にほとんど話しかけた事のなかった直陽まで、その後に続く。
「桜子。俺、良いお兄ちゃんじゃなかったと思う。正直、桜子の泣き顔ってピンと来ないし。
でも、笑顔は毎日見てたんだ。桜子が泣いてるなら、また笑顔にしたいと思うよ。
俺にとっても可愛い妹なんだから」
心が動く。言ったら駄目だと分かっているのに、もう隠し続ける事は出来ない。
皆ならきっと助けてくれるだろう、そう信じて桜子は扉を少しだけ押して開いた。
顔半分だけを覗かせて、真っ赤になった泣き顔を見せる。
「私の泣き顔見て笑わない?」
「笑わない。寧ろ、僕達も泣きそうだよ。
僕達の一番大事な宝物を泣かす奴は誰であっても許さないよ」
陽翔が苦痛を耐えるように、辛そうな顔を見せた。
「ありがとう。でもね、このまま話そ? 見られたくないの」
「そっか。桜子、扉から離れててね」
「え?」
陽翔が強い力で扉を無理矢理引いた。ドアノブを押さえていた桜子は、引っ張られて前に倒れる。
「ひぃっ!!」
床が眼前に迫った。その瞬間、陽翔が桜子を抱き留めた。
心に溢れていた不安が、一気に放出された。
「うぅぅぅうっ!! おにぃちゃん!! うわぁぁぁぁんっ!!」
桜子は全て話してしまった。諭が樹良に虐められているらしい事。
諭に言われた事を全て信じてしまい、身体を許してしまったと。
ずっと玩具のように扱われて、クリトリスが痛い事や、生理が三ヶ月も来ていない事、妊娠の可能性を感じている事、全てだ。
異様だった。広いとは言えない桜子の部屋に、五人きょうだいが揃っている。
桜子はベッドに座り、その隣に陽翔が座って桜子の肩を抱いて支えている。
勉強机の椅子には樹良が座り、直陽と歌陽は床にクッションを敷いて座っている。
「……で、樹良? 僕の諭に何してんの?
浮気相手はやっぱりお前か?」
まず陽翔が樹良を睨んだ。なんの事だろう? と桜子は黙って話を聞く事にした。
「まぁ。諭って、本当最低な人でさ。これ、暴露していいかな?
ねぇ、直にぃ、歌ねぇ、もう隠しきれないよ。全部言うわ」
樹良がそう言うと、歌陽と直陽が慌て始めた。
「えっ!? 何? 樹良、なんの事!?」
「何を言おうとしてるんだ?」
「え? 直にぃと歌ねぇが、諭とエッチしてる事だよ」
「ほー?」
陽翔のジト目が直陽と歌陽に向かった。
歌陽が慌てて説明を始めた。
「ち、違うの! いや、違わないんだけど! 先に諭さんに襲われたの! 陽にぃのアパートに泊まった日に!」
陽翔の顔に怒りの表情が浮かぶ。その顔が見えていない桜子以外は、顔が青くなる。
「マジかあいつ! 許せない。……でも、歌はそれ僕に言わなかったよね?」
「だって! 諭さんに、陽にぃが私を迷惑だと思ってるって言われたんだもん!
私が陽にぃ離れ出来ないせいで、陽にぃが困ってるって! 歌陽ちゃんは酷い人だねって言われたんだから」
「はぁ。それ諭の嘘だよ。僕は桜子だけじゃなく歌も大事な大事な妹だと思ってる。迷惑だなんて思った事もないし、困った事なんて一度もない。
それこそ、僕に相談して欲しかったよ?」
「あの……諭さんだけのせいじゃないの。私、陽にぃの事好きで」
「うん知ってる」
「えっ!? 知って……? うぅ、それで、陽にぃにはあんまり近寄れないって思って、それなら諭さんを通じて陽にぃを感じたかったの。
それで諭さんと……シてました。陽にぃごめんなさい」
「掃除頑張ってたのって、諭さんに惚れてたからじゃないの?」
樹良が不思議そうな顔で歌陽を見つめて問う。それは桜子も感じていた事だ。ここ半年近く、諭が来る日の前日はやけに歌陽が掃除に精を出していた。
「違うよ。イケメンだからちょっとグラついてたけど。
諭さんを通じて陽にぃを見てたの。
だから、陽にぃが帰ってきた時と同じように事前に掃除してただけだよ。もしかしたら諭さんから陽にぃの匂い嗅げるかもしれないし」
歌陽は顔を赤らめて純情乙女のように恥ずかしがっているが、陽翔だけでなく他の誰もが歌陽にドン引きした。
「えっと、それで諭から僕の匂い嗅げた?」
「嗅げなかったよ! 陽にぃ、ごめんなさい。諭さんの事は特に愛してない。私は陽にぃだけ。
それは諭さんも同意の上だよ」
「なら良かった。全く、歌は隙があり過ぎる。今後気を付けるように。で、次は」
陽翔がそれで終わらせようとしたが、歌陽がそれを許さない。
「ちょっと待ってよ! 私、陽にぃに告白したんだよ!? 驚くとかないの!?
せめて妹とは付き合えないって振ってよ!!」
桜子はビックリして陽翔の腕に抱き着いた。初めて歌陽を怖いと感じた。
「あっ、桜子! 密着し過ぎじゃないかな!?」
「ひぃっ」
桜子は余計に陽翔にしがみついた。陽翔は桜子の頭を撫でながら、呆れた顔を歌陽に向けた。
「さっき知ってたって言っただろ。普通に考えて妹とは付き合えないし、僕ゲイだし、どうにもならないからスルーしてた。
別に振らなくてもいいけど。何? 歌は僕に振られたいの?」
「振られたくないっ!」
次は歌陽が泣き出した。直陽が歌陽の肩をぽんぽんと優しく叩いて慰めている。
「じゃあ、歌は僕の彼女ね。これからよろしく。もう人の男に手を出さないように。
じゃあ次は直か。急に垢抜けたのは、諭に恋したからだったんだね?」
さっさと話を終わらされた歌陽は少しショックを受けていたが、彼女になれたのが嬉しいのか、すぐに回復してガッツポーズをし始めた。
反対に、話を振られた直陽は肩をビクリと震わせて硬直していた。陽翔に怯えて上手く言葉が出ないようだ。
「ご、ごめん、なさい。にーちゃん」
「謝罪は求めてない。どうして僕の男の愛人になってんの? 経緯を教えて」
「俺、にーちゃんにどうしても勝てないのが悔しくて、にーちゃんの彼女寝とってやろうと思って文化祭に行ったんだけど、彼女だと思ってたのは女装した諭さんで。
媚薬入りの飲み物飲まされて、ホテルに連れ込まれて、その時頭働いてなくて、されるがまま犯されたんだよ」
「直も、なんで相談しなかったの?」
「諭さんに、俺の従順なところが陽にぃより優れてるって言われて、俺、陽にぃより上だって言われたのが初めてで、嬉しくて……つい。ごめんなさい」
「直にぃが従順だから何よ。口車に乗せられてバカじゃないの?」
歌陽が直陽を見下すように言うと、陽翔が呆れた顔でたしなめた。
「歌は人の事言えないでしょ」
「うっ」
何も言い返せないのは当然で、今まできょうだいの中で一番優しいと感じていた姉に、桜子は呆れた目を向けていた。
「桜子、どうしたの!?」
「桜子ー?」
部屋の扉には鍵をかけている為、三人とも入れずに外から声をかけるしか出来ない。桜子は
「なんでもないってば!!」
と、突っぱねていたが、なんでもない訳がないのだ。三人とも部屋の扉の前から動かずに、桜子を呼び続けていた。
桜子は無視を続けた。一人にして欲しかった。
その一時間後に陽翔は実家に帰ってきた。
チャイムの音、直陽や歌陽、樹良が玄関に向かう音が響いたが、桜子は出迎えに行く事が出来なかった。
大泣きした顔を皆に見られたくなかった。せめて、親以上に桜子の全てを知る陽翔にだけなら見せられる。
部屋に来てくれるのを待った。
しばらくして、扉をノックする音が聞こえた。
「桜子ー!」
「陽おにぃちゃん?」
「うん。僕だよ、ただいま」
「他に誰もいない?」
「皆いるけど、皆は入っちゃダメ?」
「ダメェ! ……泣き顔見られたくない」
扉に向かってそう返すと、歌陽が必死な声で訴えかけた。
「桜子! 私が何度桜子の泣き顔見てると思ってんの!? 赤ちゃんの時も、幼稚園生の時にしょうもない理由で泣いた時も、小学生の時に友達と喧嘩した時も見てるし。
二年前くらいまでは樹良と喧嘩してしょっちゅう大泣きしてたでしょ!」
樹良も後に続いた。
「そうだよ。僕が何かしたか分からないけど、何怒ってたのかも教えてよ。
謝るから! 謝り倒すから! 僕の中で一番可愛いのは妹の桜子なんだよ。
泣き顔なんて今まで何度も見てるし! 恥ずかしくないよ! 僕は今桜子の顔が見たいんだよ」
今まで桜子にほとんど話しかけた事のなかった直陽まで、その後に続く。
「桜子。俺、良いお兄ちゃんじゃなかったと思う。正直、桜子の泣き顔ってピンと来ないし。
でも、笑顔は毎日見てたんだ。桜子が泣いてるなら、また笑顔にしたいと思うよ。
俺にとっても可愛い妹なんだから」
心が動く。言ったら駄目だと分かっているのに、もう隠し続ける事は出来ない。
皆ならきっと助けてくれるだろう、そう信じて桜子は扉を少しだけ押して開いた。
顔半分だけを覗かせて、真っ赤になった泣き顔を見せる。
「私の泣き顔見て笑わない?」
「笑わない。寧ろ、僕達も泣きそうだよ。
僕達の一番大事な宝物を泣かす奴は誰であっても許さないよ」
陽翔が苦痛を耐えるように、辛そうな顔を見せた。
「ありがとう。でもね、このまま話そ? 見られたくないの」
「そっか。桜子、扉から離れててね」
「え?」
陽翔が強い力で扉を無理矢理引いた。ドアノブを押さえていた桜子は、引っ張られて前に倒れる。
「ひぃっ!!」
床が眼前に迫った。その瞬間、陽翔が桜子を抱き留めた。
心に溢れていた不安が、一気に放出された。
「うぅぅぅうっ!! おにぃちゃん!! うわぁぁぁぁんっ!!」
桜子は全て話してしまった。諭が樹良に虐められているらしい事。
諭に言われた事を全て信じてしまい、身体を許してしまったと。
ずっと玩具のように扱われて、クリトリスが痛い事や、生理が三ヶ月も来ていない事、妊娠の可能性を感じている事、全てだ。
異様だった。広いとは言えない桜子の部屋に、五人きょうだいが揃っている。
桜子はベッドに座り、その隣に陽翔が座って桜子の肩を抱いて支えている。
勉強机の椅子には樹良が座り、直陽と歌陽は床にクッションを敷いて座っている。
「……で、樹良? 僕の諭に何してんの?
浮気相手はやっぱりお前か?」
まず陽翔が樹良を睨んだ。なんの事だろう? と桜子は黙って話を聞く事にした。
「まぁ。諭って、本当最低な人でさ。これ、暴露していいかな?
ねぇ、直にぃ、歌ねぇ、もう隠しきれないよ。全部言うわ」
樹良がそう言うと、歌陽と直陽が慌て始めた。
「えっ!? 何? 樹良、なんの事!?」
「何を言おうとしてるんだ?」
「え? 直にぃと歌ねぇが、諭とエッチしてる事だよ」
「ほー?」
陽翔のジト目が直陽と歌陽に向かった。
歌陽が慌てて説明を始めた。
「ち、違うの! いや、違わないんだけど! 先に諭さんに襲われたの! 陽にぃのアパートに泊まった日に!」
陽翔の顔に怒りの表情が浮かぶ。その顔が見えていない桜子以外は、顔が青くなる。
「マジかあいつ! 許せない。……でも、歌はそれ僕に言わなかったよね?」
「だって! 諭さんに、陽にぃが私を迷惑だと思ってるって言われたんだもん!
私が陽にぃ離れ出来ないせいで、陽にぃが困ってるって! 歌陽ちゃんは酷い人だねって言われたんだから」
「はぁ。それ諭の嘘だよ。僕は桜子だけじゃなく歌も大事な大事な妹だと思ってる。迷惑だなんて思った事もないし、困った事なんて一度もない。
それこそ、僕に相談して欲しかったよ?」
「あの……諭さんだけのせいじゃないの。私、陽にぃの事好きで」
「うん知ってる」
「えっ!? 知って……? うぅ、それで、陽にぃにはあんまり近寄れないって思って、それなら諭さんを通じて陽にぃを感じたかったの。
それで諭さんと……シてました。陽にぃごめんなさい」
「掃除頑張ってたのって、諭さんに惚れてたからじゃないの?」
樹良が不思議そうな顔で歌陽を見つめて問う。それは桜子も感じていた事だ。ここ半年近く、諭が来る日の前日はやけに歌陽が掃除に精を出していた。
「違うよ。イケメンだからちょっとグラついてたけど。
諭さんを通じて陽にぃを見てたの。
だから、陽にぃが帰ってきた時と同じように事前に掃除してただけだよ。もしかしたら諭さんから陽にぃの匂い嗅げるかもしれないし」
歌陽は顔を赤らめて純情乙女のように恥ずかしがっているが、陽翔だけでなく他の誰もが歌陽にドン引きした。
「えっと、それで諭から僕の匂い嗅げた?」
「嗅げなかったよ! 陽にぃ、ごめんなさい。諭さんの事は特に愛してない。私は陽にぃだけ。
それは諭さんも同意の上だよ」
「なら良かった。全く、歌は隙があり過ぎる。今後気を付けるように。で、次は」
陽翔がそれで終わらせようとしたが、歌陽がそれを許さない。
「ちょっと待ってよ! 私、陽にぃに告白したんだよ!? 驚くとかないの!?
せめて妹とは付き合えないって振ってよ!!」
桜子はビックリして陽翔の腕に抱き着いた。初めて歌陽を怖いと感じた。
「あっ、桜子! 密着し過ぎじゃないかな!?」
「ひぃっ」
桜子は余計に陽翔にしがみついた。陽翔は桜子の頭を撫でながら、呆れた顔を歌陽に向けた。
「さっき知ってたって言っただろ。普通に考えて妹とは付き合えないし、僕ゲイだし、どうにもならないからスルーしてた。
別に振らなくてもいいけど。何? 歌は僕に振られたいの?」
「振られたくないっ!」
次は歌陽が泣き出した。直陽が歌陽の肩をぽんぽんと優しく叩いて慰めている。
「じゃあ、歌は僕の彼女ね。これからよろしく。もう人の男に手を出さないように。
じゃあ次は直か。急に垢抜けたのは、諭に恋したからだったんだね?」
さっさと話を終わらされた歌陽は少しショックを受けていたが、彼女になれたのが嬉しいのか、すぐに回復してガッツポーズをし始めた。
反対に、話を振られた直陽は肩をビクリと震わせて硬直していた。陽翔に怯えて上手く言葉が出ないようだ。
「ご、ごめん、なさい。にーちゃん」
「謝罪は求めてない。どうして僕の男の愛人になってんの? 経緯を教えて」
「俺、にーちゃんにどうしても勝てないのが悔しくて、にーちゃんの彼女寝とってやろうと思って文化祭に行ったんだけど、彼女だと思ってたのは女装した諭さんで。
媚薬入りの飲み物飲まされて、ホテルに連れ込まれて、その時頭働いてなくて、されるがまま犯されたんだよ」
「直も、なんで相談しなかったの?」
「諭さんに、俺の従順なところが陽にぃより優れてるって言われて、俺、陽にぃより上だって言われたのが初めてで、嬉しくて……つい。ごめんなさい」
「直にぃが従順だから何よ。口車に乗せられてバカじゃないの?」
歌陽が直陽を見下すように言うと、陽翔が呆れた顔でたしなめた。
「歌は人の事言えないでしょ」
「うっ」
何も言い返せないのは当然で、今まできょうだいの中で一番優しいと感じていた姉に、桜子は呆れた目を向けていた。
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