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第三章「聖女就任式」
38.刺客襲撃
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「あ、あの……、これこの間助けて頂いたお礼です。た、食べてください!!」
美しいドレスを着た見知らぬ貴族の令嬢が、恥ずかしがりながらロレンツに手作りのお菓子を渡した。
「ん、ああ……」
ロレンツはぶっきらぼうにそう答えてそれを受け取る。令嬢は嬉しそうな顔をして頭を下げて走り去っていった。
(むかっ!!)
一緒に居たアンナはイライラしていた。
【赤き悪魔】がネガーベル王城を襲いロレンツがそれを退けて以来、彼の評価はうなぎ上りに上がっていた。
『寡黙だが、強くて渋い護衛職』
相変わらず不愛想ではあったが、聖騎士団長エルグですら退けなかった魔物を一方的に倒したという男の話は貴族、特に若い令嬢の間で大きな話題となっていた。
「娘を助けて頂いて感謝致します。ロレロレ殿」
「あ、ありがとうございました!! カッコ良かったです、ロレロレ様!!」
アンナと一緒に城内を歩くロレンツに、必ず毎日と言っていいほど誰かが寄って来てはお礼を述べて行った。
(むかっ、むかっむかっ!!)
権力争いばかりで策略計略に明け暮れる言葉ばかりの貴族の若い男達と違い、誰に対しても不愛想で武骨だが職責に忠実、そして底抜けに強いロレンツ。そんな彼は女性貴族にとっては新鮮で、つまらない貴族生活の中で強い刺激となって輝いて見えた。
「ロレロレ様は独身なんですか??」
「あ? ああ……」
(むかっむかっむかっ!!!!)
若い令嬢に囲まれ矢継ぎ早に質問を受けるロレンツ。そんな彼を見てアンナの怒りは頂点に達しようとしていた。
(わ、私にキスとかしておきながら、デレっとした顔でっ!!!!)
ロレンツにしてみれば一切表情など変えていないのだが、アンナの目にはどうやらそう映るらしい。
「どいてくんねえか。俺は仕事中だ」
「きゃー、ロレロレ様がしゃべったわ!!!」
一躍アイドルのようになってしまったロレンツ。イライラが隠せないアンナが何かを言おうとした時、三人組の若い貴族の男が現れてロレンツを睨みつける。
「……何か用か?」
腕を組みじっとロレンツを睨みつける男達。
高貴な服を着て肌艶もいい男達。育ちの良さ身なりで分かるが、目つきは悪くまるでそこらのチンピラのよう。貴族が言う。
「俺の婚約者をよぉ、あんた、弄んだって本当か?」
「ちょ、ちょっとあなた達……」
そう言いかけたアンナを手で制してロレンツが言う。
「知らぬ。人違いじゃねえのか」
只ならぬ雰囲気に周りにいた貴族達が距離を取り始める。
声をかけて来た男達は、城中でも特に貴族意識が高く、ロレンツのような元平民を馬鹿にするタイプ。そんなロレンツが活躍し、令嬢達からちやほやされるのが気に食わなかった。
「ああ? 調子に乗ってんじゃねえぞ!! この平民が!!!!」
「なっ!!」
それを聞いたアンナの怒りが爆発寸前になる。ロレンツに制されていなければとっくに大暴れしていただろう。ロレンツが答える。
「悪いが俺には関係ねえ。じゃあな」
そう言って怒りが収まらないアンナと一緒に立ち去ろうとする。貴族の男のひとりが大声で言う。
「逃げるのか!? 逃げるのかよ、平民っ!!!」
「懲らしめてやるぞ~、本物の貴族様がっ!!」
そう言って皆が懐から短刀を取り出し一斉にロレンツに襲い掛かって来た。
「きゃあああ!!!」
周りにいた貴族令嬢がそれを見て逃げ始める。
(やれやれ……)
ロレンツは面倒なことになったと思いながら彼らの前に出て、その斬り掛かって来る短剣をゆらりとかわす。
「なっ!?」
「くそっ!!」
三人がかり。
貴族達は必死に短剣を振り回しロレンツに斬り掛かるが、それをゆらりゆらりといとも簡単にかわしていく。
「ど、どうなってやがる!? 当たらねえ!!??」
周りで見ていた貴族達もその光景に驚き、口を開けて眺める。そしてロレンツはひとりの腕を掴む。
「いててててっ……」
腕を掴まれた男は苦痛に歪んだ表情で声を上げた。ロレンツは腕を関節とは逆の方向へ締め上げ、残った貴族達に言う。
「どうする、まだやるか? やるならこのままこいつの腕をへし折るぞ」
腕を締め上げられた男が震えた声で言う。
「や、やめてくれ。悪かった、悪かったから、頼む……」
「ほらよ」
ロレンツが腕を放すと男は勢いでそのまま床に無様に倒れる。
「く、くそっ!! くそくそっ!!!!」
男達は倒れた仲間の貴族に手を貸しそのまま逃げて行った。
「ふう、やれやれ……」
ロレンツはため息をつきながら逃げて行った男達を見て、そしてアンナを探した。
(あれ、嬢ちゃん……?)
いつの間にか人だかりができていた周囲。ロレンツがアンナを探して周りを見間渡すと、その一番後ろに金色の美しい髪をしたアンナが立ってこちらを見つめていた。
「嬢ちゃん、すまねえ……、!!」
ロレンツがそう言ってアンナのことろに行こうとした時、彼女の後ろに黒装束を着た男が剣を振り上げているのが目に入った。
(くそっ!!!!)
ロレンツは貴族達の合間を縫って高速でアンナの元へと駆け寄る。
「え?」
アンナは後ろに何かの気配を感じて振り返る。そこには真っ黒の衣装を着た男が今にも自分に向けて剣を振り下ろそうとしていた。
ガン!!!
ロレンツはアンナの前に一瞬でやって来ると、男の剣を腕で受けた。
「ロ、ロレンツーーーーっ!!!」
黒装束の剣はロレンツの腕に食い込み、ドクドクと赤い血が流れ始める。幸い剣は骨で止まり切り落とされずに済んでいた。
黒装束の男は小さく舌打ちをすると、そのまま城内の大きな窓から外へと逃げ始める。ロレンツがアンナに叫んだ。
「嬢ちゃん、部屋に帰ってろ!!!」
「あ、ちょ、ちょっと待って……」
アンナが叫ぶよりも先にロレンツは、出血した腕を押さえながら黒装束の後を追い始めた。殺気はあの男ひとり。仲間はいない。ただロレンツは追い掛けながら怪我の痛みよりも、アンナを危険に晒してしまった自分の不甲斐なさを恥じた。
(呪剣……、黒破漸!!)
ロレンツは血が滴る右手に漆黒の剣を発現させ、前を走る黒装束の男に向けて振り下ろす。
シュン!!!
漆黒の剣から放たれる黒き衝撃波。
それは確実に逃げる男の腕を捉え、勢いでそのまま転倒させた。
「ぐっ!!!」
男は攻撃を受けた腕を押さえながら立ち上がり再度逃げようとしたが、もう目の前にはアンナの『護衛職』である男が立っていた。
「よお、どこへ行くんだい?」
そう言ってロレンツは太い腕で繰り出す拳を男の腹に打ち込む。
ドン!!
「ぐふっ……」
男は一瞬ふらつきかけたが、すぐに後方へ跳躍し剣を抜き構える。ロレンツが言う。
「おめえ、何者だ? 狙いは嬢ちゃんか?」
男は息を整えながら剣を向けて答える。
「そうだ。『守護職』ロレロレ、お前に決闘を申し込む!!!」
ロレンツはその名前を聞いた瞬間、手っ取り早く締め上げて早く立ち去りたいと心から思った。
美しいドレスを着た見知らぬ貴族の令嬢が、恥ずかしがりながらロレンツに手作りのお菓子を渡した。
「ん、ああ……」
ロレンツはぶっきらぼうにそう答えてそれを受け取る。令嬢は嬉しそうな顔をして頭を下げて走り去っていった。
(むかっ!!)
一緒に居たアンナはイライラしていた。
【赤き悪魔】がネガーベル王城を襲いロレンツがそれを退けて以来、彼の評価はうなぎ上りに上がっていた。
『寡黙だが、強くて渋い護衛職』
相変わらず不愛想ではあったが、聖騎士団長エルグですら退けなかった魔物を一方的に倒したという男の話は貴族、特に若い令嬢の間で大きな話題となっていた。
「娘を助けて頂いて感謝致します。ロレロレ殿」
「あ、ありがとうございました!! カッコ良かったです、ロレロレ様!!」
アンナと一緒に城内を歩くロレンツに、必ず毎日と言っていいほど誰かが寄って来てはお礼を述べて行った。
(むかっ、むかっむかっ!!)
権力争いばかりで策略計略に明け暮れる言葉ばかりの貴族の若い男達と違い、誰に対しても不愛想で武骨だが職責に忠実、そして底抜けに強いロレンツ。そんな彼は女性貴族にとっては新鮮で、つまらない貴族生活の中で強い刺激となって輝いて見えた。
「ロレロレ様は独身なんですか??」
「あ? ああ……」
(むかっむかっむかっ!!!!)
若い令嬢に囲まれ矢継ぎ早に質問を受けるロレンツ。そんな彼を見てアンナの怒りは頂点に達しようとしていた。
(わ、私にキスとかしておきながら、デレっとした顔でっ!!!!)
ロレンツにしてみれば一切表情など変えていないのだが、アンナの目にはどうやらそう映るらしい。
「どいてくんねえか。俺は仕事中だ」
「きゃー、ロレロレ様がしゃべったわ!!!」
一躍アイドルのようになってしまったロレンツ。イライラが隠せないアンナが何かを言おうとした時、三人組の若い貴族の男が現れてロレンツを睨みつける。
「……何か用か?」
腕を組みじっとロレンツを睨みつける男達。
高貴な服を着て肌艶もいい男達。育ちの良さ身なりで分かるが、目つきは悪くまるでそこらのチンピラのよう。貴族が言う。
「俺の婚約者をよぉ、あんた、弄んだって本当か?」
「ちょ、ちょっとあなた達……」
そう言いかけたアンナを手で制してロレンツが言う。
「知らぬ。人違いじゃねえのか」
只ならぬ雰囲気に周りにいた貴族達が距離を取り始める。
声をかけて来た男達は、城中でも特に貴族意識が高く、ロレンツのような元平民を馬鹿にするタイプ。そんなロレンツが活躍し、令嬢達からちやほやされるのが気に食わなかった。
「ああ? 調子に乗ってんじゃねえぞ!! この平民が!!!!」
「なっ!!」
それを聞いたアンナの怒りが爆発寸前になる。ロレンツに制されていなければとっくに大暴れしていただろう。ロレンツが答える。
「悪いが俺には関係ねえ。じゃあな」
そう言って怒りが収まらないアンナと一緒に立ち去ろうとする。貴族の男のひとりが大声で言う。
「逃げるのか!? 逃げるのかよ、平民っ!!!」
「懲らしめてやるぞ~、本物の貴族様がっ!!」
そう言って皆が懐から短刀を取り出し一斉にロレンツに襲い掛かって来た。
「きゃあああ!!!」
周りにいた貴族令嬢がそれを見て逃げ始める。
(やれやれ……)
ロレンツは面倒なことになったと思いながら彼らの前に出て、その斬り掛かって来る短剣をゆらりとかわす。
「なっ!?」
「くそっ!!」
三人がかり。
貴族達は必死に短剣を振り回しロレンツに斬り掛かるが、それをゆらりゆらりといとも簡単にかわしていく。
「ど、どうなってやがる!? 当たらねえ!!??」
周りで見ていた貴族達もその光景に驚き、口を開けて眺める。そしてロレンツはひとりの腕を掴む。
「いててててっ……」
腕を掴まれた男は苦痛に歪んだ表情で声を上げた。ロレンツは腕を関節とは逆の方向へ締め上げ、残った貴族達に言う。
「どうする、まだやるか? やるならこのままこいつの腕をへし折るぞ」
腕を締め上げられた男が震えた声で言う。
「や、やめてくれ。悪かった、悪かったから、頼む……」
「ほらよ」
ロレンツが腕を放すと男は勢いでそのまま床に無様に倒れる。
「く、くそっ!! くそくそっ!!!!」
男達は倒れた仲間の貴族に手を貸しそのまま逃げて行った。
「ふう、やれやれ……」
ロレンツはため息をつきながら逃げて行った男達を見て、そしてアンナを探した。
(あれ、嬢ちゃん……?)
いつの間にか人だかりができていた周囲。ロレンツがアンナを探して周りを見間渡すと、その一番後ろに金色の美しい髪をしたアンナが立ってこちらを見つめていた。
「嬢ちゃん、すまねえ……、!!」
ロレンツがそう言ってアンナのことろに行こうとした時、彼女の後ろに黒装束を着た男が剣を振り上げているのが目に入った。
(くそっ!!!!)
ロレンツは貴族達の合間を縫って高速でアンナの元へと駆け寄る。
「え?」
アンナは後ろに何かの気配を感じて振り返る。そこには真っ黒の衣装を着た男が今にも自分に向けて剣を振り下ろそうとしていた。
ガン!!!
ロレンツはアンナの前に一瞬でやって来ると、男の剣を腕で受けた。
「ロ、ロレンツーーーーっ!!!」
黒装束の剣はロレンツの腕に食い込み、ドクドクと赤い血が流れ始める。幸い剣は骨で止まり切り落とされずに済んでいた。
黒装束の男は小さく舌打ちをすると、そのまま城内の大きな窓から外へと逃げ始める。ロレンツがアンナに叫んだ。
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「あ、ちょ、ちょっと待って……」
アンナが叫ぶよりも先にロレンツは、出血した腕を押さえながら黒装束の後を追い始めた。殺気はあの男ひとり。仲間はいない。ただロレンツは追い掛けながら怪我の痛みよりも、アンナを危険に晒してしまった自分の不甲斐なさを恥じた。
(呪剣……、黒破漸!!)
ロレンツは血が滴る右手に漆黒の剣を発現させ、前を走る黒装束の男に向けて振り下ろす。
シュン!!!
漆黒の剣から放たれる黒き衝撃波。
それは確実に逃げる男の腕を捉え、勢いでそのまま転倒させた。
「ぐっ!!!」
男は攻撃を受けた腕を押さえながら立ち上がり再度逃げようとしたが、もう目の前にはアンナの『護衛職』である男が立っていた。
「よお、どこへ行くんだい?」
そう言ってロレンツは太い腕で繰り出す拳を男の腹に打ち込む。
ドン!!
「ぐふっ……」
男は一瞬ふらつきかけたが、すぐに後方へ跳躍し剣を抜き構える。ロレンツが言う。
「おめえ、何者だ? 狙いは嬢ちゃんか?」
男は息を整えながら剣を向けて答える。
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