覆面バーの飲み比べで負かした美女は隣国の姫様でした。策略に嵌められて虐げられていたので敵だけど助けます。

サイトウ純蒼

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第四章「姫様の盾になる男」

54.ミンファの攻勢!?

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「え!? ミンファを家政婦として雇いたい??」

 少し前、ロレンツがアンナとリリーに相談した内容は彼女達が想像もしていないことだった。ロレンツが答える。


「ああ、簡単に言えばあの銀髪の嬢ちゃんは敵からの刺客で、その任務に失敗して仕事を失い、恐らく今後は身の危険も考えられる。だから雇おうと思ったんだ」

 無言で聞いていたアンナが言う。


「馬鹿なの?」


 アンナが立ち上がって大声で言う。

「あなた、やっぱり馬鹿なの? 馬鹿でしょ!? どうして敵の刺客を味方に引き入れるようなことをするの??」

 リリーも同調して言う。


「そうですよ!! 敵なんでしょ? イコちゃんとふたりきりにさせて誘拐とかされたらどうするんですか!!」

 ロレンツは困った顔をして答える。


「まあ、そりゃそうなんだが、大丈夫だ」

 アンナとリリーがふたりして言う。


「「あなた、バッカじゃないの!!!」」

 リリーが言う。

「アンナ様。このような男、早く首にしましょう。姫様の『護衛職』にするには不安過ぎます!!」

 アンナもロレンツに向かって感情丸出しで罵る。


「ホントに馬鹿なの? 馬鹿なんでしょ? 馬鹿、馬鹿っ、きィーーーー!!!」

 善意だと思っていたロレンツ。その後、ほとんど予期していなかったふたりの令嬢からの罵声を浴び続けた。




 ロレンツが去った後も、アンナはひとり苛立っていた。

(あの銀髪の女……、むかっ!!)

 アンナがミンファの姿を思い出す。
 長く美しい銀髪、透き通るような白い肌。豊満な胸にお淑やかな性格。


(それが家政婦!? ロレンツの家政婦ですって!!??)

 彼女と同じ銀髪のロレンツ。
 そのふたりの間にイコが立ち、嬉しそうに手を繋いで歩く。


(ちょ、ちょっと!! まるでじゃない!!?? 何それ? 何よ、それ!!!)

 アンナは仲睦まじく三人で歩くその光景を想像し、苛立ちが頂点に達する。


「あー、くやしい!!! 許せないわ!! 飲むわよ、飲むわ!!!」

「アンナ様、公務中でございます」

(うぐっ……)

 そんな彼女の前にリリーが腕組みをして仁王立ちする。


「ちょ、ちょっとだけ、いいでしょ……?」

「ダメです」

 アンナはリリーに睨まれながら渋々仕事に戻った。





「家政婦、ですか……?」

 ミンファはその意外過ぎる言葉に驚き、そして少しだけ悲しくなった。
 ロレンツに強引に押し倒されることを心のどこかで期待していたミンファ。あまりにも次元が違い過ぎる話に拍子抜け感は否めない。ロレンツが言う。


「ああ、家政婦として嬢ちゃんを雇いたい。ダメか?」

「あ、あの……」

 ミンファはまだ話の内容がつかめない。
 自分は敵から送られてきた刺客。仲間になった訳でもないのになぜそのような話をするのか。


「イコは知ってるよな」

「はい……」

 以前、彼の部屋に行った時にいた薄紫のボブカットの可愛い女の子。ロレンツの子供かと思い驚いたことを思い出す。


「俺は仕事で部屋を空けることが多い。だからその時だけでいいで、うちに来て貰いたい」

「で、でも、私は敵からの刺客で、あなたを……」

 そう言い掛けたミンファにロレンツが答える。


「嬢ちゃんは信頼できる。俺の直感だがな」


(え?)

 ミンファの体の力が抜けていった。
 エルグ達からは『信頼できない』という意味であの恐ろしい呪いの首飾りをつけさせられた。でも目の前の男はただその『直感』だけで自分を信じるという。


「そんな、ただ直感と言うだけで、一体何が……」

「言い方は悪りぃが、お前さんには刺客なんて仕事は向かねえ。それが俺の直感」

「でも……」

 それでも頭の整理がつかないミンファ。


「嫌だったなら無理強いはしない。ただ俺もそんなに知り合いがいる訳じゃなくてよ。頼まれてくれると有難いんだが……」

 真剣にロレンツを見つめていたミンファに笑いが込み上げてくる。


「ぷっ、くすくす……」

 ミンファは思わず笑ってしまった。
 敵の刺客に対して妙な依頼をし、困り果てた顔で頭を掻くその男を見て。


(どうせこのままじゃエルグ様にお叱りを受けるだけだし、実家にも帰ることなんてできないし……)

 それどころか下手をすれば秘密を漏らす可能性があるとして、消されることだって考えられる。
 それならば現在『ネガーベル最強』と称される目の前の男の傍にいることの方が都合がいい。姫様にだってお近づきできる。悪い話、というよりは素晴らしいお誘いである。


「私で、よろしいんでしょうか……?」

「ああ、頼まれてくれるか」

 ミンファは目の前の男に少しでも恩返しをしたいと思っている。戸惑ったが、最初から断るつもりなど微塵もなかった。ミンファが笑顔で答える。


「はい。何でも言うことを聞くと約束しましたから」

「そうか、助かる。部屋は俺の近くに準備させる。きちんと給金も払うから心配しないでくれ。ええっと、あとは……」


「ぷっ、くすくす……」

「どうした? 何が可笑しい……??」

 よくその意味が理解できないロレンツ。
 ミンファは無骨で無愛想、【赤き悪魔】をも倒してしまうネガーベル最強の男が、自分みたいな何の取り柄もない女に家政婦を依頼するだけであたふたする姿が可笑しくて笑い出してしまった。


「何でもありません。それより……」

 ベッドの上に座ったまま話すミンファが少し色っぽい表情になって言う。


「私、覚悟していたんですよ……」


「覚悟?」

「ええ……」

 ロレンツはそれを任務に失敗しを捨てる覚悟だと理解した。


「ああ、分かっている……」

 そう言うロレンツにミンファが妖艶な声で言う。


「責任、取ってくださいね」

「善処する」

 だからロレンツは彼女を家政婦として雇おうと思った。少しでもその身の安全にと。ミンファが言う。


「私、てっきりこのままベッドにと思っていました……」


「ん?」

 ロレンツがミンファを見つめる。
 真っ白な彼女の頬が赤に染まっている。ミンファが続ける。


「成人男性が未婚の女の部屋に、このような夜更けにひとりで訪れる。ロレロレ様はその意味をご存知で?」

「え、あ、俺はそんなつもりじゃ……」

 いくら鈍いロレンツでもその意味は理解できる。ミンファが顔を赤らめてロレンツに言う。


「私はその覚悟でおりました。『何でも言うことを聞く』と告げ、ベッドの上でこうしてお待ちしておりました」


「い、いや、おりゃ、そんなつもりは……」

 ロレンツが動揺し始める。ミンファは自分のそのふくよかな胸に手を当てロレンツに言う。


「覚悟は、できております……」


「ちょ、ちょっと待て……」

 ロレンツが慌てて椅子から立ち上がり、部屋の壁の方へと移動しながら言う。


「そ、そう言うのはきちんと交際をして、その、なんだ……、夫婦の契りを交わしてだな、それでお互いの同意のもとに……」


「ぷっ、くすくす……、きゃはははっ!!!」


「お、おい……!?」

 ロレンツは突然ベッドの上で笑い出すミンファを見て驚く。ミンファが言う。


「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。襲ったりしませんから。ぷっ、くくくっ……」

 ミンファはお腹を押さえながら笑う。


「いや、そんなんじゃ……」

 ミンファは心から笑った。
『剣遊会』ではキャロルを圧倒し、聖騎士団長エルグでも勝てなかった【赤き悪魔】をひねり潰し、武骨で不愛想、ジャスター家にも物怖じしない銀髪の男が、そっちに関してはまるで無垢な少年のようになって慌てる。

 少し悪戯心が芽生えたミンファが立ち上がり、長い銀髪をかき上げながら壁際に立つロレンツの元へと歩み寄る。


「お、おい、嬢ちゃん……」

「うふふふっ……」

 ミンファは歩きながら自分のこんな一面があるのだとちょっと楽しくなった。そしてロレンツの前まで来て言った。


「あまり女の子を悲しませちゃ、ダメですよ」

 そう言ってロレンツのキリっと高い鼻を人差し指でつつっと撫でる。そして一歩下がり、脂汗を流すロレンツに向って深く頭を下げて言った。


「どうぞよろしくお願い致します。


「あ、ああ……」

 ロレンツは何かをされるんじゃないかと初めてのの恐怖に身を震わせた。




 数日後、初めて『家政婦』としてロレンツの部屋を訪れたミンファが部屋のドアをノックする。

 コンコン……


「あ、ミンファお姉ちゃんだ!!」

 事前に聞かされていたイコがそのノックに反応してドアへと走り出す。ロレンツはそれをコーヒーを飲みながら見つめる。


「うわあああ!!! 可愛いい!!!!!」

 ドアから響くイコの大きな声。ロレンツがそれに気付いて顔を上げると部屋に入って来たミンファが深々と頭を下げた。ロレンツが固まった。


「お、おい、なんだ、その格好は……?」

 ロレンツはミンファが着て来た衣装を見つめる。
 濃紺の短いワンピースに可愛いフリルの付いた白のエプロン。頭には同じく白で統一されたホワイトブリム。ミンファの均整の取れた足は黒のストッキングに覆われ、靴も黒の革靴で綺麗にまとめられている。ミンファが笑顔で答える。


「メイド服でございます。私の地方では家政婦はこの服を着て奉仕致しますので」

「そ、そうなのか……」

「ミンファお姉ちゃん、可愛いい!!!!」

 目を輝かせてイコがミンファを見つめる。

「ありがと、イコちゃん」


 それに笑顔で答えるミンファ。
 そしてロレンツに向かって頭を下げてから言った。


「それではよろしくお願い致します。

 ロレンツは自分が思っていたのと随分違う展開に戸惑いながらも、嬉しそうにミンファを見つめるイコを見てまあいいかと思うことにした。
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