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最終章「ふたりの想い」
86.私も頑張るから!!
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中立都市『ルルカカ』を歩くロレンツとアンナ。
予定外の宿泊となってしまったが、もしかしたらふたりとも心のどこかでそうなるのではないかと思っていたのかもしれない。
いつも通りの賑やかな街。それとは対照的に、以前来た時とは少し関係の違うふたりが一緒に歩く。
(酔ってあまり覚えていないけど、私、ロレンツさんに何か失礼なこと言わなかったのかな……)
無言で歩くアンナ。
『護衛職』として後ろにつくロレンツを意識しながら考える。
以前の自分がどのような接し方をしていたのか知らないが酔って記憶をなくし、嘔吐して背負われ宿に連れられ、その上汚れた服まで洗濯されたとあればさすがに恥ずかしくてまともに顔が見られない。
(下着も見られちゃったし!! ああ、もっと可愛いのつけて来ればよかった……)
可愛いとか可愛くないとかロレンツにとっては特段意識もしていないことだったが、何も話さない彼をアンナはやはり気になってしまう。
「ねえ、ロレンツさ……」
アンナが振り返り何かを言おうとした時、ロレンツの視線がそんな自分の後ろに向けられていることに気付いた。
「ロレンツさん……、ですか?」
自分の『護衛職』の名前を呼ばれたアンナが振り返ってその声の主を見る。
(ミンファさん??)
長い銀髪が美しい女性。すらっとしていてスタイルが良い。それでいて出るところは出ている。まるでジャスター家が刺客として送り込んで来たミンファのようであったが、よく見ると別人だ。
「ヘレンか?」
(ヘレン?)
アンナは全く知らない女性の名前を聞いてまじまじと見つめる。ヘレンがロレンツの前まで来て頭を下げて言う。
「お久しぶりです、ロレンツさん。ここにいらしていたのですね」
「ああ、ちょっとした野暮用でな」
(野暮用ですって!? むかっ!!!)
自分から誘って置いて『野暮用』と言われたアンナがイラっとする。
ヘレンは以前ロレンツが『ルルカカ』に住んでいた時にイコの面倒を見て貰っていた家政婦だ。ヘレンがアンナに気付いて言う。
「ロレンツさん、こちらのお方は……?」
ロレンツが小さな声で答える。
「姫だ。ネガーベルの姫。今護衛の仕事をしている」
「え? 姫様??」
驚いたヘレンが一歩下がり頭を下げて言う。
「お初にお目にかかります。ヘレンと申します」
アンナはむっとしながらもそれに答える。
「アンナよ。よろしくね」
そう言って差し出す手。ヘレンが恐縮しながらそれを握り返して頭を下げる。
(この人、ロレンツさんのことが好きなんだわ。一体どういう関係で?? それにしてもどうして彼の周りにはこう美人が多いのかしら!!)
顔で笑顔を作りながらも内心苛立つアンナ。彼女がロレンツに気があることはすぐに分かった。同時にヘレンも似たようなことを感じた。
(綺麗なお姫様。護衛って言ってたけど、それ以上の関係のようだわ……)
そして以前ロレンツが『少し遠いところに行く』と言っていた意味を理解する。ヘレンがロレンツに尋ねる。
「今日はどうしてこちらへ?」
答えようとしたロレンツより先にアンナが言う。
「彼に誘われてプライベートで来たの。夜は一緒にお酒を飲んで酔った私を介抱してくれて、一緒の宿に泊まったわ。今日は公務。これからお城へ戻るの。では失礼するわ」
そう言ってアンナはロレンツの手を取り立ち去ろうとする。
「お、おい、嬢ちゃん!? ま、そう言う訳だ、じゃあな!!」
そうヘレンに言ってアンナと共に立ち去るロレンツ。
「あ、ロレンツさん……」
ヘレンは何か言いたげであったが、アンナの何も言わせないようなオーラを感じそのまま黙って見送った。
(何よ、何よ!! 私に『可愛い』とか『綺麗だ』とか、『結婚しよう』とか言って……、あれ……!?)
ロレンツの手を引きながらアンナが思う。
(私、彼にそんなこと言われたことないのに、どうしてそんな風に思うの??)
立ち止まるアンナ。
ずっと強い力で手を引かれていたロレンツがアンナに言う。
「お、おい、嬢ちゃん。一体どうしたんだ!?」
アンナが思う。
(もしかして記憶を失う前の私って、彼にそんなことを言われていたのかしら??)
「嬢ちゃん……?」
黙って何も言わないアンナ。
(だとしたら私は彼と結婚を誓い合っていたとか? リリーも頑なにロレンツさんのことは何も言わないし。そもそも婚約者の私に何も話さないって、一体彼は何を考えているの??)
「どうしたんだ、ずっと黙ったままで?」
(きっとそうだわ! 最愛の婚約者が自分のことを忘れてしまって、彼は悲しみのどん底にいる。それで私に記憶を取り戻して欲しいから、こんなところに誘ったんだし、『早く俺を思い出せ』とか言ったんだわ!!)
アンナが笑みを浮かべて言う。
「分かっているわ。私も頑張るから」
「あ、ああ……」
ロレンツは一体何の話をしているのかと思いながらも、笑顔になったアンナを見てそれ以上何かを言うのをやめた。
「アンナ様、アンナ様っ!!!」
ネガーベル王城に戻ったアンナとロレンツを、顔を真っ赤にした侍女のリリーが迎えた。馬車から降りたアンナが答える。
「あら、リリー。ただいま」
「ただいまじゃないですよ!!! どこへ行っていたんですか!!!」
リリーは続けて降りてくる『護衛職』の男を見てむっとする。アンナが答える。
「どこって『ルルカカ』よ。視察に行ったの」
すまし顔で答えるアンナにリリーが言う。
「どうしてその男も一緒なんですか!!」
「どうしてって、彼は私の『護衛職』でしょ? 一緒に居るのが仕事よ」
リリーが大きな声で言う。
「違います!! どうして、その宿泊もして来たんですか!!」
「視察がちょっと長くなっちゃってね、急遽泊ることにしたの。大丈夫、彼とはちゃんと部屋も分けて泊まったから」
そう言って話すアンナの顔がなぜか嬉しそうなのに気付くリリー。
アンナも嘘は言っていない。きちんと『ルルカカ』の街も視察と言う名目で楽しんだし、部屋も分かれて泊まった。泥酔したとか、ベッドに運ばれたとか、服を彼に洗濯されたとか、つまらないことは無論言うつもりはない。リリーが言う。
「私はアンナ様が心配で……」
そう言って静かになるリリーにアンナが言う。
「大丈夫よ。ロレンツさんが一緒に居てくれるから。ありがと、心配してくれて」
「はい……」
アンナはそう言うとロレンツと共に公務室へと歩き出す。
(アンナ様が幸せなら。それでいいのかな……)
リリーも慌ててふたりの後を追って歩き出した。
予定外の宿泊となってしまったが、もしかしたらふたりとも心のどこかでそうなるのではないかと思っていたのかもしれない。
いつも通りの賑やかな街。それとは対照的に、以前来た時とは少し関係の違うふたりが一緒に歩く。
(酔ってあまり覚えていないけど、私、ロレンツさんに何か失礼なこと言わなかったのかな……)
無言で歩くアンナ。
『護衛職』として後ろにつくロレンツを意識しながら考える。
以前の自分がどのような接し方をしていたのか知らないが酔って記憶をなくし、嘔吐して背負われ宿に連れられ、その上汚れた服まで洗濯されたとあればさすがに恥ずかしくてまともに顔が見られない。
(下着も見られちゃったし!! ああ、もっと可愛いのつけて来ればよかった……)
可愛いとか可愛くないとかロレンツにとっては特段意識もしていないことだったが、何も話さない彼をアンナはやはり気になってしまう。
「ねえ、ロレンツさ……」
アンナが振り返り何かを言おうとした時、ロレンツの視線がそんな自分の後ろに向けられていることに気付いた。
「ロレンツさん……、ですか?」
自分の『護衛職』の名前を呼ばれたアンナが振り返ってその声の主を見る。
(ミンファさん??)
長い銀髪が美しい女性。すらっとしていてスタイルが良い。それでいて出るところは出ている。まるでジャスター家が刺客として送り込んで来たミンファのようであったが、よく見ると別人だ。
「ヘレンか?」
(ヘレン?)
アンナは全く知らない女性の名前を聞いてまじまじと見つめる。ヘレンがロレンツの前まで来て頭を下げて言う。
「お久しぶりです、ロレンツさん。ここにいらしていたのですね」
「ああ、ちょっとした野暮用でな」
(野暮用ですって!? むかっ!!!)
自分から誘って置いて『野暮用』と言われたアンナがイラっとする。
ヘレンは以前ロレンツが『ルルカカ』に住んでいた時にイコの面倒を見て貰っていた家政婦だ。ヘレンがアンナに気付いて言う。
「ロレンツさん、こちらのお方は……?」
ロレンツが小さな声で答える。
「姫だ。ネガーベルの姫。今護衛の仕事をしている」
「え? 姫様??」
驚いたヘレンが一歩下がり頭を下げて言う。
「お初にお目にかかります。ヘレンと申します」
アンナはむっとしながらもそれに答える。
「アンナよ。よろしくね」
そう言って差し出す手。ヘレンが恐縮しながらそれを握り返して頭を下げる。
(この人、ロレンツさんのことが好きなんだわ。一体どういう関係で?? それにしてもどうして彼の周りにはこう美人が多いのかしら!!)
顔で笑顔を作りながらも内心苛立つアンナ。彼女がロレンツに気があることはすぐに分かった。同時にヘレンも似たようなことを感じた。
(綺麗なお姫様。護衛って言ってたけど、それ以上の関係のようだわ……)
そして以前ロレンツが『少し遠いところに行く』と言っていた意味を理解する。ヘレンがロレンツに尋ねる。
「今日はどうしてこちらへ?」
答えようとしたロレンツより先にアンナが言う。
「彼に誘われてプライベートで来たの。夜は一緒にお酒を飲んで酔った私を介抱してくれて、一緒の宿に泊まったわ。今日は公務。これからお城へ戻るの。では失礼するわ」
そう言ってアンナはロレンツの手を取り立ち去ろうとする。
「お、おい、嬢ちゃん!? ま、そう言う訳だ、じゃあな!!」
そうヘレンに言ってアンナと共に立ち去るロレンツ。
「あ、ロレンツさん……」
ヘレンは何か言いたげであったが、アンナの何も言わせないようなオーラを感じそのまま黙って見送った。
(何よ、何よ!! 私に『可愛い』とか『綺麗だ』とか、『結婚しよう』とか言って……、あれ……!?)
ロレンツの手を引きながらアンナが思う。
(私、彼にそんなこと言われたことないのに、どうしてそんな風に思うの??)
立ち止まるアンナ。
ずっと強い力で手を引かれていたロレンツがアンナに言う。
「お、おい、嬢ちゃん。一体どうしたんだ!?」
アンナが思う。
(もしかして記憶を失う前の私って、彼にそんなことを言われていたのかしら??)
「嬢ちゃん……?」
黙って何も言わないアンナ。
(だとしたら私は彼と結婚を誓い合っていたとか? リリーも頑なにロレンツさんのことは何も言わないし。そもそも婚約者の私に何も話さないって、一体彼は何を考えているの??)
「どうしたんだ、ずっと黙ったままで?」
(きっとそうだわ! 最愛の婚約者が自分のことを忘れてしまって、彼は悲しみのどん底にいる。それで私に記憶を取り戻して欲しいから、こんなところに誘ったんだし、『早く俺を思い出せ』とか言ったんだわ!!)
アンナが笑みを浮かべて言う。
「分かっているわ。私も頑張るから」
「あ、ああ……」
ロレンツは一体何の話をしているのかと思いながらも、笑顔になったアンナを見てそれ以上何かを言うのをやめた。
「アンナ様、アンナ様っ!!!」
ネガーベル王城に戻ったアンナとロレンツを、顔を真っ赤にした侍女のリリーが迎えた。馬車から降りたアンナが答える。
「あら、リリー。ただいま」
「ただいまじゃないですよ!!! どこへ行っていたんですか!!!」
リリーは続けて降りてくる『護衛職』の男を見てむっとする。アンナが答える。
「どこって『ルルカカ』よ。視察に行ったの」
すまし顔で答えるアンナにリリーが言う。
「どうしてその男も一緒なんですか!!」
「どうしてって、彼は私の『護衛職』でしょ? 一緒に居るのが仕事よ」
リリーが大きな声で言う。
「違います!! どうして、その宿泊もして来たんですか!!」
「視察がちょっと長くなっちゃってね、急遽泊ることにしたの。大丈夫、彼とはちゃんと部屋も分けて泊まったから」
そう言って話すアンナの顔がなぜか嬉しそうなのに気付くリリー。
アンナも嘘は言っていない。きちんと『ルルカカ』の街も視察と言う名目で楽しんだし、部屋も分かれて泊まった。泥酔したとか、ベッドに運ばれたとか、服を彼に洗濯されたとか、つまらないことは無論言うつもりはない。リリーが言う。
「私はアンナ様が心配で……」
そう言って静かになるリリーにアンナが言う。
「大丈夫よ。ロレンツさんが一緒に居てくれるから。ありがと、心配してくれて」
「はい……」
アンナはそう言うとロレンツと共に公務室へと歩き出す。
(アンナ様が幸せなら。それでいいのかな……)
リリーも慌ててふたりの後を追って歩き出した。
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