1 / 1
メモリーストーン
しおりを挟む
「……何これ」
「メモリーストーンだ」
私は確かに、ずっと一緒にいたいと願った。でもそれは人としての彼であり、掌の上で輝く石ではない。
「馬鹿じゃないの」
「そう言ってやらないでくれ。ザイの判断がなかったら全団滅んでたんだ」
副隊長であったディーンが哀しそうに笑う。
「いくら、周りが英雄だって言ったって。私にとっては約束を守らなかった大馬鹿もんよ」
「ま、そうなるか。……でもな」
「ディーン隊長お時間です」
部下のような男が、小さな声で囁く。彼、ザイが居なくなったことにより、位が一つ押し上げになったようだ。
「戦後の処理は大変なようね、隊長様」
「わりぃ、また顔出すな」
嫌味で言ってやったのに、ディーンは私を心配するように去っていった。
一団が去り、エンジン音やらで騒がしかった外は一気に静かになった。
部屋の中には私と、ディーンから手渡されたメモリーストーンだけだ。
──必ず、帰ってくるから。
思い出すのはザイと交わした最後の言葉。
あのね、ザイ。帰ってくるのはメモリーストーンじゃ意味ないのよ。
メモリーストーン、つまりは形見の石である。
この石の中に故人の記憶が詰められており、記憶を再生する事ができる──なんてハイテク機能は付いていない。
ただ、この石を見て"自分"を思い出して欲しい、側に置いていて欲しい。そんな人に贈る、故人の身体から一つだけしか精製できない、そんな身勝手な石。
そんなメモリーストーンを家族にではなく、私に贈った。
──必ず、帰ってくるから。
──ずっと一緒にいよう。
──結婚、してくれないか。
沢山、約束を破ったくせに。
考えれば考えるほどに憎たらしくなる。こんな石がザイの代わりになるはずがない。側に置いたって虚しいだけだ。
「馬鹿じゃないの!」
叫びながら、ザイの瞳と同じ色した石を床へと投げつけた。鈍い音をたてた石は床に弾かれ、転がり私から遠ざかっていく。
「一緒にいたかっただけなのに!」
どれだけ泣いても、当たり前だ、メモリーストーンは背中に腕を回してくれない。
私は自分で自分を抱きしめた。
どこかの英雄になり、名を残すよりも私の側に居て欲しかった。こんな石を創る時間があるのなら、ボロボロでいいから駆けつけて欲しかった。
私がもう今さら何を言ったって、どうにもならないけれど。
数日後、ディーンが再び訪ねてきた。今日はどうやら一人で来たらしく、外は静かだった。
「また顔出すって、いったろ」
「社交辞令かと」
正直に言えばディーンは苦笑いした。
「まあ、いい。今日来たのはな──」
本当に、心底どうっでもいい話だった。
英雄様になったザイは、石像になるらしい。
「みんな石が好きなのね。好きついでに、どうぞメモリーストーンも持っていってちょうだい」
私は無造作に石を掴みディーンへと投げつける。慌ててキャッチしたディーンは私を鋭く睨みつけてきた。
「?! お前それは!」
「ザイじゃない」
私は言い切る。
「ザイじゃないわよ、そのメモリーストーンは」
「そりゃ、本人じゃないけど──」
「本人じゃないと意味がないのよ!」
一緒にいたい、そう私が思った──ザイじゃないと。
「……そうだな。悪かった」
「ディーンが謝っても意味ない」
「ああ。でもな……そのメモリーストーン……お願いだ。もっと大切にしてやってほしい」
ディーンが駆けつけた時、ザイはもう虫の息だったらしい。いつ灯火が消えてもおかしくない、そんな状況だったが、メモリーストーンを創るそれだけのために、心臓を動かしていたそうだ。
先の戦いで両親に先立たれた私が、独りになるのを恐れて──。
「メモリーストーンが完成したのと……同時にな」
初めて聞かされた最期に、胸がぐっと圧迫されたように苦しくなる。
「"ずっと一緒に"って」
「いないよ。いないじゃん、馬鹿」
分かってる、そういう意味じゃないって分かってる。
このメモリーストーンは、ザイが最期に残してくれた、私への──。
それでも、今はひたすらに呼吸が苦しかった。
「まさか、来ると思わなかったな」
「嘘でしょ? 愛する人の石像よ?」
ディーンと軽口を交わし、広場へ向かえば沢山の人が集まっていた。大きな布で覆われたものが広場の中心に鎮座している。あれがきっと、ザイの石像なのだろう。
──一緒に居る事は叶わなかったけれど
私はペンダントに加工してもらった、メモリーストーンをそっと握りしめる。
──ずっと一緒にはいられるから
大きな布が取り払われ、一気に歓声が上がる。
「本人の方がイケメンね」
現れた石像を前に、私は大きく笑うのだった。
「メモリーストーンだ」
私は確かに、ずっと一緒にいたいと願った。でもそれは人としての彼であり、掌の上で輝く石ではない。
「馬鹿じゃないの」
「そう言ってやらないでくれ。ザイの判断がなかったら全団滅んでたんだ」
副隊長であったディーンが哀しそうに笑う。
「いくら、周りが英雄だって言ったって。私にとっては約束を守らなかった大馬鹿もんよ」
「ま、そうなるか。……でもな」
「ディーン隊長お時間です」
部下のような男が、小さな声で囁く。彼、ザイが居なくなったことにより、位が一つ押し上げになったようだ。
「戦後の処理は大変なようね、隊長様」
「わりぃ、また顔出すな」
嫌味で言ってやったのに、ディーンは私を心配するように去っていった。
一団が去り、エンジン音やらで騒がしかった外は一気に静かになった。
部屋の中には私と、ディーンから手渡されたメモリーストーンだけだ。
──必ず、帰ってくるから。
思い出すのはザイと交わした最後の言葉。
あのね、ザイ。帰ってくるのはメモリーストーンじゃ意味ないのよ。
メモリーストーン、つまりは形見の石である。
この石の中に故人の記憶が詰められており、記憶を再生する事ができる──なんてハイテク機能は付いていない。
ただ、この石を見て"自分"を思い出して欲しい、側に置いていて欲しい。そんな人に贈る、故人の身体から一つだけしか精製できない、そんな身勝手な石。
そんなメモリーストーンを家族にではなく、私に贈った。
──必ず、帰ってくるから。
──ずっと一緒にいよう。
──結婚、してくれないか。
沢山、約束を破ったくせに。
考えれば考えるほどに憎たらしくなる。こんな石がザイの代わりになるはずがない。側に置いたって虚しいだけだ。
「馬鹿じゃないの!」
叫びながら、ザイの瞳と同じ色した石を床へと投げつけた。鈍い音をたてた石は床に弾かれ、転がり私から遠ざかっていく。
「一緒にいたかっただけなのに!」
どれだけ泣いても、当たり前だ、メモリーストーンは背中に腕を回してくれない。
私は自分で自分を抱きしめた。
どこかの英雄になり、名を残すよりも私の側に居て欲しかった。こんな石を創る時間があるのなら、ボロボロでいいから駆けつけて欲しかった。
私がもう今さら何を言ったって、どうにもならないけれど。
数日後、ディーンが再び訪ねてきた。今日はどうやら一人で来たらしく、外は静かだった。
「また顔出すって、いったろ」
「社交辞令かと」
正直に言えばディーンは苦笑いした。
「まあ、いい。今日来たのはな──」
本当に、心底どうっでもいい話だった。
英雄様になったザイは、石像になるらしい。
「みんな石が好きなのね。好きついでに、どうぞメモリーストーンも持っていってちょうだい」
私は無造作に石を掴みディーンへと投げつける。慌ててキャッチしたディーンは私を鋭く睨みつけてきた。
「?! お前それは!」
「ザイじゃない」
私は言い切る。
「ザイじゃないわよ、そのメモリーストーンは」
「そりゃ、本人じゃないけど──」
「本人じゃないと意味がないのよ!」
一緒にいたい、そう私が思った──ザイじゃないと。
「……そうだな。悪かった」
「ディーンが謝っても意味ない」
「ああ。でもな……そのメモリーストーン……お願いだ。もっと大切にしてやってほしい」
ディーンが駆けつけた時、ザイはもう虫の息だったらしい。いつ灯火が消えてもおかしくない、そんな状況だったが、メモリーストーンを創るそれだけのために、心臓を動かしていたそうだ。
先の戦いで両親に先立たれた私が、独りになるのを恐れて──。
「メモリーストーンが完成したのと……同時にな」
初めて聞かされた最期に、胸がぐっと圧迫されたように苦しくなる。
「"ずっと一緒に"って」
「いないよ。いないじゃん、馬鹿」
分かってる、そういう意味じゃないって分かってる。
このメモリーストーンは、ザイが最期に残してくれた、私への──。
それでも、今はひたすらに呼吸が苦しかった。
「まさか、来ると思わなかったな」
「嘘でしょ? 愛する人の石像よ?」
ディーンと軽口を交わし、広場へ向かえば沢山の人が集まっていた。大きな布で覆われたものが広場の中心に鎮座している。あれがきっと、ザイの石像なのだろう。
──一緒に居る事は叶わなかったけれど
私はペンダントに加工してもらった、メモリーストーンをそっと握りしめる。
──ずっと一緒にはいられるから
大きな布が取り払われ、一気に歓声が上がる。
「本人の方がイケメンね」
現れた石像を前に、私は大きく笑うのだった。
4
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
真実の愛の祝福
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。
だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。
それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。
カクヨム、小説家になろうにも掲載。
筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
婚約者の番
ありがとうございました。さようなら
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。
大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。
「彼を譲ってくれない?」
とうとう彼の番が現れてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる