リドル・ストーリーズ!~riddle stories~

魔法組

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第7話 ギャンブル(Poker Face)

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 配り手ディーラーの手によって、俺と対戦相手の目の前にそれぞれ五枚ずつのカードが無造作に投げ置かれた。

 どうせまた無役ブタだろう。だけどもしかしてもしかしたら今度こそ……。そんな淡い期待と言うか、はかない望みを抱きながら俺は震える手で恐る恐るそれらのカードを手に取り、目の前に扇形にと広げてみる。

(ほほぉ……!)

 その手札にちらりと目をやると、俺は外見は渋い表情を保ったまま心の中だけで小さく歓声をあげた。

 結論から言おう。無役ブタだった。だが実に希望あふれる無役である。そのカードとは『ハートの4』『ハートの5』『ハートの6』『ハートの7』そして、『スペードの9』だったのだ。

 ご存知の通りポーカーでは一度だけ、自分の手札の中から任意の数のカードを交換することが出来る。

 つまりもしここで俺が『スペードの9』を捨てて代わりに得たカードが、種類スートはともかく数字が『3』か『8』だったらストレート。『4』から『7』までのどれかならワンペアが成立するわけだ。

 さらに、数字はなんであっても種類スートが『ハート』であったならフラッシュが成立し。加えて『ハートの3』か『ハートの8』ならストレートフラッシュである。

 ここまでとことん運に恵まれず、すでに全財産のほとんどを目の前の対戦相手にプレゼントし続けていた俺だが。最後の最後でようやくツキが回ってきたらしい。

 トランプのカードは、ジョーカーを入れて全部で五十三枚。うち、俺と対戦相手がそれぞれ五枚ずつ手にしているわけだから、現在テーブルの中央に置かれている山札は四十三枚ということになる。

 その四十三枚の中で一番上に置かれているカード。そいつが『ハート』、もしくは『3』か『8』、ジョーカーなら俺の勝ちはほぼ間違いない。『4』から『7』の場合は少々微妙。

 いや。これまでの勝負において、この対戦相手は『J』ジャック『Q』クイーン『K』キングのワンペアやスリーカードを何度も出してきた。どういうわけだかこの男、絵札にかなり好かれているようなのである。

 今回もそうだとすると、こちらが『4』から『7』までの小粒なワンペアでは勝ち目はかなり薄いと言わざるを得ない。無役ブタの場合はなおさらだ。やはり俺がこの最後の勝負に確実に勝利するためには『ハート』『3』『8』、ジョーカーのうちどれかを引くしかないということだろうか。

 この最後の勝負。俺は内臓を担保として、この非合法の賭場を主催している某暴力団に借りられるだけの金を借りて挑んでいる。その額、これまでの勝負で俺が負けた分の三倍だ。

 つまりこの最後の勝負に勝てば、これまでの負け全てを帳消しにし、さらに借金全てを利子付きで返してもなお相当の額が手元に残ることになるが。敗れた場合、俺は全財産と内臓の一部を失った上、文字通りの裸一貫で路頭に迷うこととなる。

 さて、この勝負。俺が勝てる確率はどれくらいなのだろうか? 高校を中退して以来ろくに使ったことのない脳みそをフル回転させて、俺は必死に思考をめぐらせた。

 トランプは『スペード』『ダイヤ』に『ハート』『クラブ』という四つの種類があり、それぞれ『A』エースから『K』キングまでの十三枚の合計五十二枚と、それにジョーカーを加えた五十三枚で成っている。

 つまり単純計算で『ハート』が出る確率は四分の一、二十五パーセント。『3』か『8』が出る可能性は十三分の二で約十五パーセント。

 いや、違う。俺の手札にはすでに『ハート』が四枚あるのだから、『ハート』は残り九枚。さらに確率的に考えれば、対戦相手の手札の中にも『ハート』が一枚以上あってもおかしくないわけで。さらには『3』や『8』も……。

 駄目だ。あまり条件が複雑になりすぎると、容量の小さい俺の脳みそでは処理しきれない。仕方がないので、ここは単純化していこう。つまりこの際山札も相手の手札も一緒くたにして、俺の手札を除く四十八枚のうちの一枚が『ハート』か『3』『8』、あるいは万能札であるジョーカーである可能性に絞って考えてみるのだ。

 そうなると残り四十八枚のうち『ハート』は九枚で、『3』と『8』はあわせて八枚。ジョーカーは一枚。合計十八枚か。俺が勝ちをつかめる可能性……すなわち、山札にある一番上のカードがこれら四種類のうちのいずれかである確率……は四十八分の十八。すなわち三十七・五パーセント。

 ……意外と低い。五割にすら遠く及ばないわけだ。最後の最後でようやく幸運の女神が微笑んでくれたと思っていたが、冷静に考えてみればどうやらそうでもなかったようである。

 とは言え、ここで降りるという選択肢はない。俺は覚悟を決めて……と言うより半ば以上やけくそで『スペードの9』を捨て、山札の一番上のカードを手に取った。

 そのカードは……『ハートのAエース』!!

(……やった!)

 俺は表向き平静を保ちつつ、脳内では大量の打ち上げ花火を一度に放った。どうやら一世一代の賭けに勝ったようだ。これで俺の手札はフラッシュ。まず負けることはないだろう。

 ほっと安堵しながら、俺は対戦相手のほうを見やった。こいつは何枚のカードを交換するんだろうと思ったのだ。しかし。あろうことか対戦相手は俺の顔をちらりと一瞥いちべつするやニヤリと不敵な笑みを浮かべ、自らの手札である五枚のカードを裏向きに伏せテーブルの上に置きながら、

「私は交換は結構。このままで勝負します」

 などと、しれっとした口ぶりで言い放ったのだ。

(な、なんだとぉー!?)

 当然のことながら、俺は内心で困惑と驚嘆の声をあげずにはいられなかった。

 一度はカードを交換する権利があるのだから、少しでも手札が良くなる可能性があるなら誰でもカードを変えるだろう。ましてや、この勝負は大金がかかった大勝負。お互いにとって絶対に負けられない戦いなのである。

 にも関わらずカードチェンジをしないということは、元の手札がよほどよかったのだろうか? たとえばロイヤルストレートフラッシュとか、フォーカードとか……。それはさすがにありえないような気がするが、フルハウスくらいなら確率的に、絶対ないとは言い切れない。

 もしそうだとしたらフラッシュごときでは到底勝ち目はないわけで。俺は一転して天国から地獄に叩き落されたような気分になった。

 だが、待てよ。これってマンガなどでは結構よくあるパターンではないか?

 AB二人がポーカーで勝負して、Aはかなりいい手がそろったので、勝利を確信。ところが対戦相手のBはカードを変えることもせずに余裕の表情。それを見てAは、Bはよほどいい手がそろっているのではないかと怖気おじけづき、勝負を降りてしまう。

 ところがフタを開けてみればBの手はただの無役ブタ。要するにBはただブラフをかましただけで、Aは自信たっぷりのBに気圧され、自分で勝手に負けてしまっただけでしたというパターンだ。

 うん。考えれば考えるほど、いまの状況はそのパターンそっくり……いや、そのものである。となるとこの対戦相手の余裕もただのブラフで実際は無役か、せいぜいがいいところワンペアかツーペアなのだろう。

 しかし……。事実は小説より奇なりと言うし。冷静に考えてみれば、マンガでこうだから現実でも必ずこうなるとは限らないではないか。

 第一、対戦相手のこの余裕に満ちた表情は演技とは思えない。そもそも大金がかかった勝負で、自分は無役ブタなのに敢えてカードチェンジもせず余裕ぶった態度で相手をビビらせ、自分から勝負を降りるよう仕向ける、などということが出来る人間が現実に存在するだろうか。

 とは言え。確率的に考えて、カードチェンジもせず最初に配られた五枚のカードだけでフラッシュ以上の好手が成立していましたなんて、それこそマンガみたいな話だ。もちろんありえない話ではないけれど、この土壇場どたんばでそんな奇跡みたいなことが起こるほど、現実というのはドラマティックではないような気がする。

 となると、やっぱりハッタリか? 俺は必死に隠していたつもりだったけれど、フラッシュがそろったことで内心大歓喜だった。その表情がわずかに表に出てしまい、目ざとくそれに気づいた対戦相手が『これでは勝てない』と判断し、一か八かブラフをかけてきたということなのではないだろうか。

 そう思い。俺は対戦相手の真意を見極めるべく、その顔を正面からジッと見つめた。だが彼はそんな俺の視線にたじろぐ気配すら見せず、ただ平然とポーカーフェイスを保っている。

 残念ながら俺ごときの洞察力では、このポーカーフェイスのさらに奥にあるこの男の真意を読み解くことなど、到底出来そうもない。

 だがそんな俺にも分かることがたった一つだけある。それは、どの道いまさら勝負を降りるわけにはいかないということだ。

 ここで降りたとしても、借金が消えるわけでもいままでの負けがなくなるわけでもないのだから。対戦相手の余裕に満ちた態度が本物だろうがニセモノだろうが、俺はこのまま勝負を続けるしかないのである。

 俺は小さくため息をつくと本日二度目の覚悟を決めて勝負を降りないことを告げると、自らの手札……ハートのカード五枚を表にして、テーブルの前に置いたのだった。

 そしてそれに続いて、対戦相手もまたおもむろにカードを広げていく……。




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