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第一章
◆今宵も痴態を演じさせる
あれから、私たちの『当て馬当番』の日程が決まった。
私たちは三日に一度、王太子殿下の寝所へ行き、痴態を演じる。
私たちは王太子殿下を興奮させ、正妻との性交をスムーズにする役割を担っている。『当て馬』と言っても過言ではないだろう。馬の繁殖も、本命馬と性交する前に別の馬と接触し、興奮してから行うらしい。
王太子殿下は正妻を深く愛しているが、愛しているがゆえに彼女そのものに興奮することが難しいそうだ。王太子殿下は幼い頃、両親の性交を偶然目にしてしまい、特殊性癖に目覚めてしまった。卑猥な事柄が子どもから隠されるのは、王太子殿下のような下劣な人間を生み出さないためだろう。
「あぁぁぁんんっ‼︎」
今宵も私は王太子殿下の前で、ベイジルに痴態を演じさせていた。ベイジルの上半身は騎士服を着たままだ。濃紺の上着も中に着るシャツも前ボタンが外されていて、彼が身をよじるたびに筋肉が浮いた白い肌がちらりと見える。ベイジルの両腕は彼の頭の上で手首を合わせるように拘束されていて、下半身は丸出しだった。
私は上からベイジルのそそり立つ雄を咥え込むと、舌を這わせて頬を思い切り窄めた。彼の膝の上へ置いた手に力を込め、頭を上下に振る。口内に溜めた唾液の量は充分で、私が抽送するたびに、じゅっぽじゅぽと淫らな水音が漏れる。
「あっ、あおぉっ、お、おおかしくなるっっ……! ひぃぃっ、ひぎっっ、おちんちんきもちいぃっっ……!」
ベイジルは顔を真っ赤にしながら腰を揺らし、割れた腹筋を凹ませている。卑猥な言葉を吐きながら、自身をがちがちに固くさせていた。
王太子殿下は、ベイジルに卑猥なことを口にするよう命じていた。ベイジルが気持ちいいと叫ぶと、王太子殿下の口許が綻んだ。
私たちが王太子殿下の寝所へ呼ばれるようになってから、すでに一ヶ月が経とうとしていた。当初は丸裸だったベイジルは、上半身だけ騎士服を身に着けるようになり、脚の拘束は無くなった。騎士服を着ていたほうがより興奮すると、王太子殿下は口端を上げた。
唾液塗れになった赤黒い棒から口を離し、今度は肉棒の下にある丸く膨れたものにべろりと舌を這わせる。ベイジルは肉棒を舐めしゃぶられるのが好きだが、陰嚢を舐められるのはもっと好きだ。舌先で円を描きながら、二つある玉を一つずつ舐めあげると、彼の肉棒がぶるると震えた。
「あううぅっっ……!」
ベイジルの肉棒はばきばきと血管が浮き、とても苦しそうだ。早く楽にしてあげたい。
私がベイジルの後孔へ手を伸ばそうとした。その時だった。
「う~~ん、悪くないんだけど、最近ちょっとマンネリだねえ」
壁際に立ち、こちらをじっと見つめていた王太子殿下がため息をつく。彼からの要求は、回を重ねるごとに過激になっている。
最近ではミラテは立ち会っていない。ミラテが来なくなってからより一層行為の卑劣さは増しているような気がする。
「また、ベイジルの後孔に数珠を挿れますか?」
「それもいいんだけど、私はそろそろリアネの言葉責めがみたいかな」
この間、ミラテから差し入れされた本の存在を思い出す。
ミラテは高級娼館の女支配人だ。客のはば広い要求に応えられるよう、日夜閨事の研究に余念がない。娼婦が客を罵るための指南書も持っており、もしもの時のためにと私にくれたのだ。
ミラテの娼館に来るのは金持ちや要人ばかり。責任ある立場の者が多いらしいが、何故か人の上に立つ立場にある者ほど、娼婦から罵られることを望むらしい。
──理解できないわ……。
私は怒るのが苦手だ。もちろん、演技とはいえベイジルを罵りたくはない。それに彼にはなんの非もない。
しかし、これは他ならぬ王太子殿下からのご命令。断ることなど出来ない。
「承知致しました」
「ベイジルの尻を扇子の先で叩きながら、彼のことを罵ってね」
私はベイジルの腕の拘束を取ると、彼にベッドの上で両手と膝をつくように命令した。
ベイジルはシルクのシーツの上にぼたぼたと涙をこぼしながら、四つん這いになった。
白く、引き締まった尻が我々の方へ向けられる。羽織ったままの騎士服の上は、ベッドの上でみじろぎしたせいで皺が寄っている。
いつもの清廉としたベイジルからは想像もできないような姿だ。
私は、剥きたての白桃のような尻へ、扇子の先を振り落とした。
バシンッと大きな音が鳴ったが、ベイジルは苦悶の声ひとつ上げない。いつもは肉棒と後孔を弄られて、愉悦を含んだ喘ぎ声をあげる、彼が。
痛くないわけがない。事実、扇子の先を当てたところは赤くなっている。
ベイジルは、はぁはぁと荒く息を吐き出す。彼は肉棒の張り出た先からも、糸をひく涎を垂らしていた。
先走りの液がぽちょりと一滴、シルクのシーツへ落ちる。
ミラテが持って来た指南書にあった下僕役のセリフを、ベイジルは口にする。
同様に私も、指南書にある女王役のセリフを発した。
「り、リアネ様……! 私はもう限界です……! お慈悲をください……!」
「お慈悲を、なんて言われても分からないわ」
私は涙を零すベイジルを冷たくあしらう。
本当はあの雄の昂りを癒やしてあげたくて仕方ない。力いっぱい肉棒を握りしめて、ごしごし音がするほど激しく扱いてあげたい。頭を撫でて、慰めの言葉をかけてやりたい。
しかし、今夜の王太子殿下は私の言葉責めをご所望だ。
「ベイジル、あなたはとても身体が柔らかかったわよね? 自分で舐めなさい」
ベイジルは滑らかな頬に涙をぼろぼろ零しながら、ベッドの上に座り直すと、背を曲げる。そして、脚の間にある自身を口に含んだ。頭を振り、抽送を始めるベイジルに、王太子殿下は感嘆の声を漏らす。
「はわわっっ……すごいっ!」
王太子殿下は口を両手で覆うと、頬を赤らめ、小声ですごいすごいと言っている。今すぐその浮かれた顔を扇子でひっぱたいてやりたいが、これでもこの国の最高主権者なので殴れない。
どうしてベイジルは尻を叩かれなければいけないのか。どうしてどろどろになった自身を口に含み、扱かねばならないのか。本当に怒りの感情しか沸かない。
「ベイジル、美味しい?」
「うぅっっ……うぅううっっ……」
「答えなさい、ベイジル」
私はベイジルの顎の下へ扇子の先を当てる。
美味しいわけがない。私は何度も飲んでいるから慣れているが、ベイジルはまだ自分の精液を飲んだことがないのだ。
可哀想に。今すぐ変わってあげたい。
「お、おいしくない……です」
「そんな美味しくないものを、いつもあなたは私の口へ出してるの?」
「も、申し訳ございませ……」
「お黙りなさい!」
パンッと音を立てて、ベイジルの肩へ扇子の先を叩きつける。ベイジルが上に着ている騎士服はデザインこそスマートだが、生地の裏側には細かい鎖が縫い付けられている。扇子の先どころかナイフを突き立てられても破れることはない。
あくまでも安全に配慮しつつ、私たちは当て馬行為をしていた。
「いや~~、今夜も素晴らしかったよ。また三日後の夜、頼むよ」
「はっ、お休みなさいませ、殿下」
身だしなみを軽く整え、私たちは王太子殿下をお見送りする。私たちの犠牲のかいあって、王太子夫妻の閨事情は良好だそうだ。
王太子殿下の正妻は、当て馬係たちの存在を知っているのだろうか。それは定かではない。少なくとも、私はまだ奥様に直接お会いしたことはない。
奥様がもしも私達のことを知ったら……と思わなくもないが、きっと見て見ぬふりをするだろう。
何せ王太子殿下は、欲しいものを手に入れるためならば手段を選ばないお方だ。触らぬ神になんとやらだ。
◆
「ベイジル、お尻大丈夫?」
「ははっ、平気ですよ。私はこう見えても叩き上げの騎士ですからね。訓練中にあざの一つや二つ、こさえる事なんかよくありますよ」
ベイジルの言う通り、彼は叩き上げの騎士だ。
貴族の子息は全寮制の士官学校へ入り、形ばかりの騎士号を取得する者が多いが、ベイジルは違う。彼は現場仕事を続けながら騎士となるための知識を蓄え、自力で騎士号を勝ち取った努力家だ。その努力も、国を護るためにしたことなのに。
「リアネ様、今夜も殿下はお喜びでしたよ。リアネ様も、もっと明るい顔をなさってください」
半月前、ベッドに蹲ってわんわん泣いていたベイジルは、たった半月で精神的にとても逞しくなった。彼は荒事にも慣れた騎士だ。心を決めてしまえば、割り切れるのかもしれない。
「ちょっと疲れてしまったかもしれないわ」
「それはいけませんね、湯殿の準備をしましょうか?」
「入浴する元気もないの。せっかくだけど、今日はもう寝るわ」
「そうですか。では……お休みなさいませ、リアネ様」
「ええ、お休みなさい、ベイジル」
汗でベタつくドレス姿、廊下はひんやりしていて、ときどき吹いてくる風が気持ちいい。
ベイジルは時が経つほど、当て馬行為に慣れていっているみたいだが、私は逆に悩むことが増えたような気がする。
ふと、胸元に目線を下ろす。少しばかり、膨らみが小さくなったような気がする。後宮に来てからというもの、食事は豪華になったが、食が進まなくなってしまったのだ。
──気を確かにもたなければ。
まだ、私の任期はあと二年十一ヶ月も残っているのだから。
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