シラスの王

とんでけ

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シラスと王

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口31シラスと王






白き荒野には、枯れ木が数本そそり立つ。

灰色の荒野だ。

白い突風。

白塵の舞う荒野。

1面の白。

風の鳴き声が聞こえる。

ビューー
ビューーオ
ビューー
ビューーオ

荒野の中に、人影が見える。

荒野の中、一人、立ち尽くす、老王。

苦労を経た相貌は、シワが年輪のように、深く刻まれ、彫像のようである。

老王「はては、まだ、現れぬか」
「ファルムノームよ」

「酸に土。酸に土」
老王はしゃがみこむと、シラス灰を掴む。
立ち上がると、辺り一面に、灰をまく、老王。

「この土地は、酸性土壌だが、まだ、灰がある」

「答えおろうー。ファルムノームよ」

「ワシの命は、もう、短い」

「世継ぎは、ワシより、先に去った」

「せめてもの、この領土」

「土の力し、儚い力」

「花さえ咲かぬ」

スックと立つと、天空に向かい、両手を広げる。

「ファルムノームよ~ー!」

「土壌に光」

一眼は、目を見開く。

虚空に向かい、気が触れたように、叫ぶ老王。

「ファルムノームよ~ー! 我が土地を救いたまえ~~ー!!」

風が鳴き止む。

無音。

巨大な崩落音。

竜巻に思える、白塵の、突風が吹き荒れる。

何か、龍を思わせる、巨大な影が見える。

跪く、老王。

白塵は、止まるところを知らない。

しかし、老王の周りだけ、ポツンと虚空が広がる。

老王「ファルムノームよ~ー」

跪いて、土をすくう、老王。

ゴツゴツを節くれだった指は、小枝をも、思わせる。

そのすくった両手の、指の間から、こぼれ落ちる砂。




研究室。長椅子。

ハッと起きる。博士。

博士「夢か‥」

服を着替えて、いつもの、安楽椅子に座る。

壁にある、数多くの、賞状。

目をやる博士。

昔のことを思い出している、博士。
助手、紅茶を持ってくる。
助手「どうなされましたか?」
博士「いや、ふと、若かりし頃のことを思い出していて」
助手「そうですか」
紅茶をテーブルに置く助手。
助手「どうぞ」
紅茶をすすりながら、サナトリウムにある、ガーデンに目をやる博士。
博士「この、始末か‥」
助手「?」
「かえって、良かったのでは?」
博士「ふふ」
「よし、研究に戻ろう!」

口研究室
博士「インキュベータで発芽させた種子を、太陽光での保温率と湿度を合わせる」
所狭しと置かれた、セパレーターとスターラー。
種子の入った、キャビネットを持って、環境チャンバーに入って行く、博士。
研究用スポイトで薬剤を垂らす。
博士「666を2ミリ」
博士「あとは、リンをやって、人工擬似状態を作る」
「ふぅー」
「今日はここまでにしよう」
環境チャンバーから出てくる博士。
助手「お疲れさまでした」


学会は、頓挫し、借金につぐ、借金。
子供を育てるも、妻と離散し。
今に至る。

ランド=ダデム。エセック地方。領主。ユーハン=フリーベリ子爵。
ユーハンは、ランド=ダデムの、国王エドガーに、養子縁組で呼ばれた子爵だ。
施設で育った、超IQ児だ。

現在では、子爵は、助手とともに、博士に、融資している。



現在、研究中の、植物育成薬。666。
研究も大詰めに来ていた。
論文では、リンと温度。湿度。の割合が事細かく書かれていた。
特に、リンの、太陽光での、保温率と水の割合など。






連日、冒険で名を成したカール。

冒険者の国ダデム。

ランド=エスオゴの、王位継承者ということもあり、連日連夜、社交界に招かれていた。
美しい女性と社交ダンスをするカール。
ダンスが終わると、豪華な食事をとっている。

オードブルを、ひたすら、つついている、カール。

カール「んっ? これも美味しい」

振り向きざまに、オードブルをフォークでつつく、カール。

ゴッツンコ。

若い、男性の、フォークと当たって、エスカルゴが宙を飛ぶ。

笑い話になる。

ユーハン「私は、レイク=ギカポート南西の、エセック地方の領主。ユーハン」
「ユーハン=フリーベリと申します」

子爵ユーハンと知り合いになる、カールとソフィアとアラゴー。



子爵ユーハンの屋敷に招かれることに。



口ユーハンフリーベリ
たまたまの偶然。

ユーハン「同じになってはいけない」

道中、帰り道。

一陣の風が吹く。
風でなびく髪に、手ぐしを入れる、フリーベリ。
艶のある、柔らかい、ブロンドの髪だ。
木の葉が待っている。
顔を伏せる、フリーベリ。
「!」
落ちている、キャロットを見た、フリーベリ子爵。
「?!」
「あれっ? 土になりかけているぞ」

ユーハン「屋敷に戻って、研究してみたい」


各国で、著作権を争わせて、認定していた、ランド=ダデムのキング=エドガー。
貧差の差で、他国に、著作権が移ってしまうことなど、多くあった。



アラゴー「ふーむ、ニンジンで、土を作るという」
「本来は、アブラナが一般的」
「天日干しで、腐らせると、土、灰に変えても、殺菌作用、栄養がある」


ランド=ダデム。エセック地方。洋館。フリーベリ邸。

屋敷に戻ると、急いで、研究材料を集めてくる。
フリーベリ子爵。

カール「カサが増すから、ニンジンのピューレを、土に混ぜたら良いんじゃ?」

ブイの字を出しながら、ミキサーを回す、カール。

見事土が腐る。

カール、アラゴー、ソフィア「…」


ユーハン「カール? 農業やったことあるの?」
カール「いや」
カール「ランド=エスオゴでは、父王アリエルが、農業をやっているのですが、あいにく、土は、エルフの森から購入していまして」
ユーハン「腐葉土ですね」
カール「ハハハ」
「土の正体が何かは、よくは解らないのです」



口アラゴー

ユーハン「土が腐ると、いけない」
ソフィア「しかし、腐りが土である」
ソフィア「キャロットを、殺菌乾燥する?」

アラゴーの機転。
「待てよ?!」
「キャロットをフライにしたら?」

ユーハン「!!」
「フライにした後の堆肥か‥」

ソフィア「いいかもしれないけど、油に雑菌がつくかも」

アラゴー「油を、洗い落とす薬剤か」

ソフィア「水酸化ナトリウムは?」

ユーハン「えーと、NaOHだから、C17H33COOH   33NaOH  ~ 33H2O   16CO2     C17  (33COOH)  ~ 18C(土)」

アラゴー「17か18Cか、確かに、土じゃな」

ソフィア「言ってしまってなんだけど」
「確かに、分解するけど、皮膚が溶ける、薬剤。胃に入ったら危ないんじゃ」

頷く、ユーハン。

アラゴー「ガハハハハ、ソフィアの、冗談じゃ」

ユーハン「多めの水を、使ったらどうじゃろう?」

ソフィア「なるほど、確かに」

ユーハン「塩素はどうだろう?」

ソフィア「Clね」

向こうから、博士がゆっくりやってくる。

ユーハン「博士、何か、油を分解する、良い薬剤はないのでしょうか?」
博士「うむ、水酸化ナトリウムか。良いところに、気がついたな」
ユーハン「塩素で何か、ないでしょうか?」

博士「確か、何かあった気がするな」
「最近、王国で開発された、次亜塩素酸ナトリウム」
「油を、分解する効果がある」

アラゴー「それじゃ!」

博士「確か。化学式は、NaClO」
アラゴー「ヨッコラセっと」
ユーハン「再び、描いてみよう」
「C17H33COOH    (NaClO+<H2O)   CO2  H2O  NaCl  」
「NaClは、水 H2Oで、洗い流される」
「塩素臭  NaClCO2   Nal2CO」
「あと、オレイン酸(油)(C17H33COOH)は、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)と反応して、油が分解される」
「大量の、H2Oでよく洗い落とすと、18C(ニンジンだ)」

カール「&%$#~」

博士「もっと良い油でやってみよう」
「アブラナの油で」

ユーハン「C18H34O2」
博士「同様な方法でやってみよう」

アラゴー、ユーハン「できた~ー!」

博士「うむ、早速、実験をやってみよう」

アラゴー「まず、フライヤーで、キャロットを揚げる」
「これは、わしに任せとけ」

ニンジンが、ぷかぷか浮いてくる。
アラゴー「すかさず、すくう!」

ユーハン「冷やさないと」

博士、キャビネットから、何か持ってくる。

博士「うむ、これが、薬剤じゃ」

アラゴー「揚げたキャロットに、次亜塩素酸ナトリウムをつける」

ユーハン「塩素の匂いだ、反応してきたぞ」

真剣に、キャロットを見る、ユーハンとアラゴー。

ユーハン「OK!」
アラゴー「よし良いじゃろう!」

アラゴー「次に、水道水を流す」
ユーハン「洗い落とそう」

油分を洗い落とす、ユーハンと、アラゴー。

博士「よし、もう良いじゃろう」

ニンジンが。

アラゴー「試しに、食べて見るか」
「むっ! 塩素臭がするぞい」

ユーハン「美味しい!」
ソフィア「ホント」
アラゴー「!!」
カール「マズッ」
ユーハン「あとは、これを、天日で乾燥、風化させて」

博士「よし、最後の工程は、私が、環境チャンバーでやってみよう」



口博士

3日後。
サナトリウム。
シャワーを浴び、出てくる博士。
博士「科学者に、肉体はいらない」
  お酢を、グビグビ飲んでいる。
助手「博士、また、美容で飲んで」
博士「配合は、これであっていると思うのだが」
助手「お酢をそんなに、飲みますと、また骨が折れますよ」
博士「んっ、アイタタタタ」
博士「んっ?」
プランターに、たくさん、小さな芽が息吹いている。
博士「できたーー」
「はて、どうしたものか?」
「芽吹いたのは良いが、肝心の、良い土がない」

マキシム「博士ー、ルクス王から、言づけです」
博士「わーー」
マキシム「あーー」
「発芽している!!」
「すごい!!」
「土ができたんですか!」
博士「コホン、今日、発見したのだよ」
話し合う、博士と、マキシム。
マキシム、神妙な面持ちになる。
マキシム「ルクス王に伝えても、よろしいでしょうか?」
助手「くれぐれも内密に」
マキシム「わかりました」

マキシム心の声『バカな、博士、すごい額になる話だぞ』
マキシム心の声『アブラナで、同じ工程でやったらどうなるんだ?』

マキシム「で、用件はと言いますと」
耳打ちする、マキシム。
博士「!?」

助手「それでは、ゆっくりしていってください」
「博士、お昼はいつもので、良いですね」
博士「ああ」
助手「それでは、行って来ます」

出て行く助手。
背後から、後をつける影。





口カールの夢。

何を食べても、「美味しいね」と食べる。ソフィア。

カールは、これは美味い。これはマズイと文句を言って注文をつけている。

シェフには及ばないとしても。

将来、家を建て、キッチンをつけたい。

そして、本当に、ソフィアに満足をしてもらいたいと考える、カール。

社交界。

社交界の、立食ディナーの、オードブル、スープなど、カールの目下、勉強中の範疇だ。

カール「ええっと、こう下ごしらえしてと‥」

厨房まで、出向き、練習させてもらう、カール。


ソフィア「いつも、食べてばっかり」
「カール、食べ物は、どこからきているか解るの?」
カール「えっ?」
「そりゃ、えーと、ファーマーが作っているのかなぁ?」
ソフィア「もう、知らない!」
去る、ソフィア。





「ミーン、ミン、ミン、シュクシュク、ジーオ、ジーオ」
「ミーン、ミン、ミン、シュクシュク、ジーオ、ジーオ」
風が動く。
流れる、雲の影。
野原は、雲の陰影が出来、動く、パノラマのようだ。

積乱雲重なる、山を遠景に、一軒の屋敷。
吹く風の音。
ゴオオオオオー。
屋敷に、重なる、雲の影。
辺りにある、ビニールサナトリウムが旗めき、小さく光っている。


風の音。
ゴオオオオオー。
ビューオ、ビューオ。
強い風の中、ビニールがはためいている。
反射する日差し。
シスター。
汗をタオルで拭うと、種を出して、慎重に、一粒づつ土に埋める、シスター。
ビニールサナトリウムの中、一人、黙々と、作業を続けている。
腰にぶら下げた、懐中時計。
懐中時計の針が、1秒、1秒、と時を刻んでいく。
大きな樹木がある、屋敷。
屋敷の側のハウス。


真剣な目。
シスターの手の動き。

時を刻む、懐中時計。
懐中時計が、カチリを言う。
顔を上げる、シスター。

大きな樹木のある屋敷。
「ボーン、ボーン」
屋敷から、柱時計の音が聞こえてくる。
シスター「時間ね」
腰をあげる、シスター。

正午の光が、屋敷に、陰影をつけている。

シスター「ちょっと、一息入れましょう」
畑を見渡す。
ビニールがはためき、日差しが、反射する。
目を細める、シスター。
シスター「これが、私の資産」
シスターに被って、老王が見える。
風が叫んだように思える。
「ファルムノームよ、どうか、夏の日差しを注ぎたまえー」

積乱雲が遠景に重なる、屋敷に入っていく、シスター。

屋敷の中は、窓からの、光で、足元が照らされる。
柱時計。
ティーカップと、お茶菓子。

せっせと、土の手入れをしているシスター。
「ミーン、ミン、ミン、シュクシュクシュク」
「ミーン、ミン、ミン、シュクシュクシュク」
ビニールハウスのはしにかけてある、温度計を見るシスター。
目盛りは、20度を指している。
懐中時計を見る、シスター。
シスター「もう、そろそろね」
人影が、シスターに近づいてくる。
人影は、緑に赤紫、金の縁取りといった、豪華な衣装に身を包んだ、少年だ。
ユーハン「シスター」
シスター「マスター」
ユーハン「シスター、これが、約束していた、野菜の種です」
シスター「ありがとうございます、マスターユーハン」
袋を受け取ると、軽くお辞儀する、シスター。
シスター「冬を越して、ハイリーフが収穫されるでしょう」
シスター「これで、飢えが癒されます」
「マスター、お茶でも」
ユーハン「ありがとう、私は、先を急いでいますので、今日はこれで」
シスター「はい」






腹プッチンになるまで、豪華な食事に呼ばれている、カール。
実は、策略だった。
エスオゴの王位継承者、カール。
アリエル国王は高齢で、国を継いでほしいのに、旅暮らし。
ランド=ダデム。キング=エドガーは、カールに、縁談の話を持ちかける、算段だった。
気づかず、食べまくる。カール。
カール「んっ?! これどうやって、作るんだろう?」
カール「これも美味しいなあ」


ある日、ソフィアの食事会に誘われる。
ソフィア「毎日、豪華な食事ばかり、食べていては、体に毒よ」
「私の知り合いに、ビーガンのシスターがいるの」
カール「ビーガン? ビーガンってあの。卵も、乳製品も食べない菜食主義者の?」
ソフィア「ええ」
「小麦に、お浸し、お漬物、汁物に、ウォーター」
「今度、食事会に呼ばれているの」
「よかったら、カールも行かない?」
カール「えぇ? 野菜かあ~」
「ソフィアが言うなら、行ってみるよ」



白金の渚亭
アラゴー「今日は、待ちにまった、ソフィアの、友人宅での食事会」
アラゴー「腹が鳴るぞい!」
ソフィア「カール、最近、贅沢なものばかり食べているから、腹に合うかしら」
カール「しょうがないだろ。王宮に呼ばれているんだから」
エディブ「なんだ?!、飯の話か!?」
ソフィア「ビーガンの、シスターに食事会に誘われているの」
エディブ「そりゃあ良い。ヘルシーだねえ。」
エディブ「今日中は、天気も良いし」
アラゴー「わしゃあ。菜食主義者は、はなから、好きじゃ」
笑う一行。
エディブ「いつ、お帰りで」
ソフィア「2日、宿泊の許可を取っているの」
カール「帰ったら、肉を食わせてくれよ」
エディブ「OK! 用意して待ってるよ」
アラゴー「それじゃ、行くとするか」
白金の渚亭を後にする、冒険者一行。




蒼天の中、馬車での旅は続く。
田園を超え。
長い道のりの後、簡素な建物の屋敷が見えてくる。
時間は、午後3時過ぎ。
風の音。
ゴオオオオオー。
ビューオ、ビューオ。
強い風の中、ビニールがはためいている。
反射する日差し。
屋敷に、面した、ビニルハウスは、日光で眩しく輝いている。
アラゴー「見えてきたぞい」


静かな農園。
風の音は強い。
ビニルハウスに出向く、3人。
シスターは黙々と、野菜の手入れをしている。
ソフィア「シスター!」
畑仕事の、手を止める。シスター。
シスター「いらしたわ」
麦わら帽子を取ると、汗を拭うシスター。
アラゴー「ああ、シスターじゃ」
シスター「初めまして、シスター=ザ=エスナーと申します」
「長い、疲れを癒してください。お茶でも出します」
アラゴー「お気遣いなくエスナー」
シスター「ちょっと、夏野菜を撮り終えてから向かいます」
カール「ちょっと待ってこ」
ソフィア「ええ」


夕飯時。
一汁一菜の、質素な食事。
菜物の、おひたしを食べる、アラゴー。
アラゴー「こりゃあ、美味いですな」
「どうやって、作られているんです?」
「葉野菜は、冬に収穫では?」
シスター「はい、このあたりは、酸性土壌で、土が悪いのですが、野菜は育ちます」
「石灰をやっているのですが、最近話題の、バスキア博士の農薬666を取り寄せまして」
「季節はというと、ユーハン=フリーベリ子爵が、発電機を置いた時に、フリーザーを用意してくれまして」
アラゴー「ほう」
「それにしても、この水菜感がなんとも」
ソフィア「初夏の野菜の、ソテー、美味しいわ」
カール「あの、野菜だけですか?」
ソフィア「汁物もあるでしょ」
カール「&%$#~」
アラゴー「それにしても、お住まいは一人で?」
シスター「はい、あの方が誘致してくださいまして」
アラゴー「あの方?」
シスター「サナトリウムの老王」
ソフィア「せむし男ね」
ブレッドを食べながら。
ワンナイフごと、大事そうに、食物を運ぶ、ソフィアと、アラゴー。
静かに時は流れる。
ナイフとフォークを置く、二人。
ソフィア「美味しゅうございました」
「夏野菜のソテー。鮮度もいいし、手頃な大きさで、とても柔らかかったわ」
アラゴー「初夏に、よく冷えた、みずみずしい、菜つけを食べられたので、満足じゃわい」
アラゴー「お野菜、スープとも、非常に甘かった」
カール「えー~」
「なんか、ちょっと、物足りなかったなあ」
膝をソフィアにつねられる、カール。
カール「アイテッ」



カール「お茶はありませんか?」
シスター「すみません、この一杯で」
「すぐに、井戸から水を汲んできます」
「スプッシュもありますよ」
「あの、お食事、お口に合いませんでしたか」
カール「久しぶりに、安いものを食ったぜ」
シスター「えっ?」
ソフィア「馬鹿、カール」
「すみません、ありがとうございます」



贅沢病よ。




帰り際。
ソフィア「なんで、あんなこと言ったのカール?!」
カール「だって、貧しい食事じゃないか」
ソフィア「贅沢に慣れてしまっているのよ」
「カールは、宮廷で、綺麗な、皇女と踊っていれば良いわ」
「私は、先に帰るから」
「一緒に、来ないで」
カール「&%$#~」



貧しい家庭。ふとしたことから、食事に呼ばれる。
井戸から、水を汲んでくる、シスター。
一汁二菜の、質素な食事。
大切そうに食べる、ソフィアに、文句を言う、カール。
仲違いに。
別々に帰る、カール一行。
カールは、帰り道。とある、容疑をかけられてしまう。



カール帰り道。
カール「ちぇっ、ちょっとくらい文句言ったって良いだろ」
「とほほ」
「それにしても、帰り、一人かあ」
保安官に呼び止められるカール。
保安官「ちょっと、君待って」
保安官「手配書の人相に、似ているな」
カール「えっ?!」
保安官「この辺りで、つい昨今、殺人事件が起きてな」
「ちょっと署まで来てもらおう」
カール「ちょっと、冗談じゃ?!」
「俺、飛ばして帰るから」
保安官「あっ、ちょっと待ちなさい」
馬「ブヒヒーーン」
急いで、手綱を取ったカールは、前方をよく見ず、子供にぶつかってしまう。
カール「!!」
保安官「犯罪だ!!」
署に連行されるカール。

カール「だから、俺はやってない」
「人違いだって」
保安官「ますます怪しいな」
カール「2日後、宮廷で、晩餐会にファナ王女がやってくる」
「それまでに、帰らないとならないんだ」
保安官「お前が、宮廷に?!』
「とりあえず、取り調べがすむまで、檻に入ってろ」
カール「&%$#~」


カール「なんだ、牢屋か」
見上げるカール
カール「んっ?!」
カール「これは、出られるかもしれないぞ」
壊れかけている、上の鉄格子を外し、体を外に滑り出させる。
カール「よし。うまくいった」
路上駐車している、車の発火プラグのコードを合わせるカール。
車「ブルン、ブロロロ」
カール「よし」
「勘弁。エスオゴに帰ったら、倍にして返しますから」
車で走り去る、カール。


つまらない事から、罪を被ってしまう、カール。
あらぬ、犯罪の容疑をかけられる、カール一行。
容疑を晴らそうとするが、追っ手が大きい。
果たして、どうなることやら。




午後2時の昼下がり。
白金の渚亭。
気だるそうに、時間は流れている。
窓からの斜陽は、アラゴーとソフィアに、格子模様をつける。
エディブの買った新製品。
神棚に置いた、テレビジョン。
番組を変えている、エディブ。
突然大きな声を出す、マスターダッド。
エディブ「ウワアアアア!!」
アラゴー「んっ、何じゃ、何じゃ?」
エディブ「これっ?! これって、カール坊ちゃんじゃ?!」
ソフィア「あら、ほんと」
「ブサイクな映りねえ」
「で、なんで、TVに映っているの」
アラゴー、ソフィア「えーー~~!!」
ローブタール、バスク地方。地元警察。
「報道によりますと、容疑者、カールザルツバーグは、地元に、土の保温材バーミュキライトを購入しにやってきていた。ランド=ダデム。エセックス、ユーハン=フリードリ邸、研究所、助手、ボニー=ケネクットを殺害した模様。現在、地元の車を盗んで、逃走中。容疑は、目下不明。捜査中」
アラゴー「ブプゥ~~」
ソフィア「何かの間違いよね」
アラゴー「ユーハンは知り合いじゃが、カールが殺すわけはないじゃろう」
ソフィア「いや、ボニーは、ユーハンが抱えている、博士の助手」
エディブ「どうする?」
アラゴー「とりあえず、行ってみるんじゃ」
ソフィア「ちょっと、待って、車を盗んで逃走中とあるわ。戻ってくるかも」
アラゴー「!!」


その頃、ランド=ダデム。ユーハン=フリードリ邸。
鉢植えに、植物育成材666をやっている博士。

ラジオから、流れる放送。
ラジオ放送「ローブタール、バスクに、土の保温材バーミュキライトを購入しにやってきていた。ランド=ダデム。エセックス、ユーハン=フリードリ邸、研究所、助手、ボニー=ケネクットを殺害した模様。容疑者と見られる、カール=ザルツバーグは、現在、地元の車を盗んで、逃走中。容疑は、目下不明。捜査中」

ガシャーーン!!
鉢植えを落とす、博士。
博士「何じゃと、ケネトがお使いに行って殺されたー~!?」



ソフィア「行くべきか、待つべきか」
そわそわする、ソフィアに、アラゴー。

キキキーー!!!

白金の渚亭に、車で乗り付ける、カール。
クラクションを鳴らす。
アラゴー「んっ、カール!!」
「戻ってきた」
ソフィア「ビンゴ!!」

バタン!!
ドアから勢いよく降りてくる、カール。
迎える、ソフィアとアラゴー。
カール「なんか俺、殺人犯に間違われて!?」

ファンファンファンファンファン!!!

パトカーの、サイレンが、白金の渚亭を取り囲む。

アラゴー「万事休す」
ソフィア「ひとまず、捕まって、黙秘して」
カール「!!」
ソフィア「あとは、犯人は私たちが探すから」
アラゴー「カールを助け出すんじゃ」


憲兵隊が、流れ込む。

大人なしく、捕まる、カール=ザルツバーグ。





レイク=ギガポートから、ゲヘナ=フロントを通り、落ちた都市の、南東500キロメートル。
イースト、キャロライン地方。ニコ。 海風の香る、ニコだ。
ダデムでの、土の主要販売所。ニコ。ハインリヒから、土の貿易船がくる。
小都市になっている。


海風の香る、ニコにやって来た、アラゴーとソフィア。
早速、聞き込みを始める、アラゴーとソフィア。

土取引の、商店。ニコの、最大手の、ガーデンショップにやっていく、一行。

非番にしていた、店員に話しかける。こと数回。

店員ダハ「なるほど、それで、ニコのガーデンショップにやってきたと」

店員ダハ「殺されるとは思いませんでしたよ」
「私は、聞きましたよ」

「オーナーと話しているのを」

「菜種の次に、ジャガイモ。その次に、人参となれば、もうけはまずまず」
「情報をミサハマに流してほしいと」

アラゴー、ソフィア「!!」

ソフィア「そのことを憲兵隊には?」

店員ダハ「いいえ」

「どうも、捕まった、カールというのが、私が思うに、人違いのような気がして」

アラゴー「と言うと?」

店員ダハ「黒いフードを被った男が、ケネトさんにつきまとっていたような」

「あなたたちが、ランド=ダデムの王宮から来た方達だから言うのです」

「最近、憲兵隊も怪しいし」

「うっかり、言うと、僕が殺される場合も」

頷く、ソフィアとアラゴー。



各国で、著作権を争わせて、認定していた、ランド=ダデムのキング=エドガー。
貧差の差で、他国に、著作権が移ってしまうことなど、多くあった。


マキシム=マクシモフ「ダハさん!」
アラゴー「!?」
マキシム=マクシモフ「うわっ!! びっくりした!」
アラゴー「なんで、こんな所におぬし、おるんじゃ?!」
ソフィア「黒づくめ。もしかして、犯人?!」
マキシム=マクシモフ「こっちが、聞きたいような‥」

店員ダハ「黒づくめですが、ちょっと違うような‥」

マキシム=マクシモフ「いえ、私も、調べに、やってまいりまして」

ソフィア「本当に?」

マキシム「ええ」

マキシム=マクシモフ「どうかご内密に」
「私は、助手ボニー=ケネクット、ランド=イオから、客員教授としてやってきた頃より、探りを入れておりました」

「そして、17日の晩、事実を発覚したのです」
ランド=イオの賢人会では、土の版権全てを、ランド=ミサハマに、集中させようとの動きがあり、その後、助手ボニー=ケネクットが派遣されてきた事実を」

「私も、騎士です。名誉をあげて、男爵の爵位を取った。ランド=ダデムの、男爵。マキシム=マクシモフ。剣に忠誠を」

頷くソフィア。

マキシム=マクシモフに、一部始終を話す、ソフィアとアラゴー。

マキシム=マクシモフ「!!」
「殺されたんじゃない。消されたんだ‥」





レイク=ギガポートから、ゲヘナ=フロントを通り、落ちた都市の、南東500キロメートル。
イースト、キャロライン地方。ニコ。 海風の香る、ニコだ。
ダデムでの、土の主要販売所。ニコ。ハインリヒから、土の貿易船がくる。
小都市になっている。



カールに似た人物。
ボニー=ケネクットに背後から、襲いかかる。
ボニー「!!」




鉢植えに、石を引く、さらに、研究開発して、できた、キャロットソイル。堆肥と石灰、バーミュキライトを加えて。種を撒く。


ボニー=ケネクット「あっ、発芽した」

博士「原材料が高いが、もしもの時のため、使える土になるじゃろう」






冬の品評会。
王宮に呼ばれる、シスター=ザ=エスナー。

王宮では、8角の、暖炉がこんこんと炊かれれいる。
宮廷内は暖かい。

土の品評会。

未開拓地ヴァージンランドで、取れた作物があるとの話。

第三王宮から、エドガー=ファナ=ドミニツゥア王女も呼ばれてやってきている。


キング=エドガー「あの地方では、植物が育たなかったのでは?」
ビショップ「こちらを献上したいと言うことです」
エドガー「ほう、菜つけか」
「適度に発酵していて、美味い」
「見事なレギュムだ」

ファナ「ほんと、美味しい」
「みずみずしい、ハイリーフ」

キング=エドガー「それにしても、エセック地方で、野菜が育つとは」

ユーハン子爵「土をアルカリ性に、土壌改良しまして」
「ヴァージンランドで、農園を営む、シスター=ザ=エスナーの協力があって出来たのこと」

「先達しか、エセック地方は、先代の老王バル=マウリッツの土地」
「ご子息がおられたが、父より、早く、この世を去ったとか」
「現在、老王は、消息不明」

キング=エドガー「老王に伝えておくれ」
「未開拓地ヴァージンランドは、そなたの土地」
「思う存分、土壌改良をやってほしいと」

拍車喝采の宮廷内。

キング=エドガー「私の、可愛い、娘が、今宵、宮廷での、ダンスの相手を望んでいる」
キング=エドガー「それでは、アラゴー=ルイス公爵。プリンセス=ソフィア。カール王子を助けに行こう!」

ソフィア「ええ」

アラゴー「ヨシッ!!」





巨大な白亜の法廷。
裁判に、出廷するカール。

遅れて、やってくる、エドガー、アラゴー、ソフィア、ユーハン。

アラゴー「虫が走るな」
ソフィア「あっ、あそこ!!」

黒いフードを被った、男性が公聴人席の奥から眺めている。

指示する、キング=エドガー。
「3階の奥の段」

店員ダハ「違う、そのおじさんじゃない!!」
公聴人席の後ろにいた影が動く。
逃げる影。
店員ダハ「あっいた!!」
「違う、あっちのおじさん!!」


警備兵が押しかける。
捕まる影。
舌を噛む。
「!!」

ユーハン子爵「この人、カールの、影人だ」
マキシム=マクシモフ「ああ! ほんとだ」
ソフィア「遺伝学で判るか‥」

カール「!?」
「なんで、俺の、影人が‥?」

顔を振る、ソフィア。

カール「?!」
「?!」
「?!」


カール「ソフィアに怒られてばっかりだ」
「ダメだあ」
「だけど、おかげで、助かった」
「お野菜好きなんだなあ、ソフィア」
「菜つけなんか、発酵食品なんか、簡単そうなものと考えていたけど」
「野菜作りからしてみるか」

カール「そりゃ、どでかい、ハイリーフ」
カール「そりゃ、どでかい、ハイリーフ」



各国で、著作権を争わせて、認定していた、ランド=ダデムのキング=エドガー。
貧差の差で、他国に、著作権が移ってしまうことなど、多くあった。

バーミュキライトの商号は、ランド=ミサハマを母体とする。屋号。



ユーハン=フリーベリ邸。
博士「そうか、そんなことがあったのか」
「助手、ボニー=ケネクットには、低給で働かせていたから」

夢を見る、博士。


白き荒野には、枯れ木が数本そそり立つ。

灰色の荒野だ。

白い突風。

白塵の舞う荒野。

1面の白。

風の鳴き声が聞こえる。

ビューー
ビューーオ
ビューー
ビューーオ

荒野の中に、人影が見える。

荒野の中、一人、立ち尽くす、老王。

苦労を経た相貌は、シワが年輪のように、深く刻まれ、彫像のようである。

スックと立つと、天空に向かい、両手を広げる。

「ファルムノームよ~ー!」

「土壌に光」

一眼は、目を見開く。

虚空に向かい、気が触れたように、叫ぶ老王。

「ファルムノームよ~ー! 我が土地を救いたまえ~~ー!!」

風が鳴き止む。

無音。

巨大な崩落音。

竜巻に思える、白塵の、突風が吹き荒れる。

何か、龍を思わせる、巨大な影が見える。

跪く、老王。

止まる白塵。

現れる赤龍。

老王の周りだけ、ポツンと虚空が広がる。

老王「ファルムノームよ~ー」

跪き、土をすくう、老王。

ゴツゴツを節くれだった指は、小枝をも、思わせる。

両手に精霊の光が集まる。

そこには、みずみずしい、双葉が。


 -Fin.-


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