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第六話「サボテン」

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サボテンを買った。
ふらっと寄った店でたまたま目について、大した値段じゃなかったので買った。
別に家に緑が欲しいとか、そんなこともなく本当になんとなく買った。

丸いサボテンだ。名前とかもよくわからない。
まあ、サボテンだしあんま水もあげなくて良いだろう。
世話に手間はかからないだろう、そんな軽い気持ちだ。
なんとなく見た目が似てたスマートスピーカーの隣に置くことにした。
そういえば、このスマートスピーカーも買ってだいぶ経つな。
スマートスピーカーのAIの名前は『サリー』
そろそろ最新型に買い替えようかな。

しばらくしてからサリーの調子が悪くなった。
夜中に突然音楽がなったり、目覚ましに設定した曲が勝手に違う曲になっていたり。
サボテンなんか買わないで、スマートスピーカーを買い換えるべきだったな。
値段は全然違うけど。

ある日、いつものようにリビングで仕事をしていると、スマートスピーカーの調子が悪くなった。いつも聞いているラジオ番組ではなく、違う番組が流れた。
あれ?俺の好きなお笑い芸人の番組が。こんな番組が始まったのか・・・
でも、一度スマートスピーカーをリセットしようと思いスピーカーに近づいた時。

「おっす!ヒロユキ!!」

ん?スピーカーが喋った?・・・・いや、違う・・・・

「俺だよ、こっちこっち!!」

サボテン?

「いやぁ・・・やっとデータ収集が終わったよ・・・このラジオ、ヒロユキ好きだろ?」

・・・・・・・・・

「サボテンが喋ってるの?」

「え?この状況、どう考えてもそうだろ・・・・・」

サボテンは自分が喋るのが当たり前かのように俺に話しかけてきた。

「え?なんで?なんかおかしい?」

「いや・・・おかしいだろ・・・サボテンだぞ・・・」

「あー・・・お前・・・ちゃんと店で確認しなかっただろ」

「え?何を?」

「お店のポップに『あなたを癒す“特別”なサボテンです』って書いてたでしょ?」

「あーーー?え?書いていたかもしんないけど・・・でも、サボテンが喋るとか思わないだろ・・・」

「じゃあ、ヒロユキが見逃したってことで、クーリングオフはなしな」

「いや・・・まあ・・・別に・・・驚いてるけど・・・面白いから良いよ」

「お?まじ?よかった。俺は・・・うーん、そうだな・・・ウーゴね、よろしくね」

「はい?」

「え?名前だよ、俺の名前、ウーゴだよ」

「あっああ・・・ウーゴね・・・俺はヒロユキ」

「知ってるよ笑、何回も言ってんじゃんかよ」

「ああ・・・まあ、確かに・・・っていうかさ・・・ウーゴって何者?」

「見ての通りサボテンだけど」

「いや・・・そりゃわかるんだけどさ・・・喋んないだろ・・・サボテンは」

「あーーそういうこと?そういう感じ?うーん・・・・そうだなぁ・・・『癒し』を与えるために作られた、進化したサボテン?っていえば良い?」

「ああ・・まあ・・喋ってるしな・・・今のところ癒しを与えてはもらってないけど」

「まあ、待てよ。これから一緒に暮らしていくんだからさ。癒してやるよ。っていうか、さっきのラジオよかったろ?」

「あれ、お前・・ウーゴがチャンネル変えたのか?」

「当たり前田の顔面センターじゃん。何言ってんだよ」

「お前それ笑。ダメだろ」

「ヒロユキ、このスマートスピーカーそろそろ買い換え時だと思うけど、長く使ったねー、おかげで大分ヒロユキのこと教えてもらえたけどね」

「最近このスピーカー調子悪かったのウーゴのせい?」

「うん、すまん。​サリーから色々話を聞いてたらさ。でも目覚まし、今の曲の方が良いだろ?」

「まあ、確かに。でも曲が変わってびっくりして起きたって感じでもあるけど」

「まあまあ、でもサリーから色々聞いたからさ。大丈夫大丈夫」

「何が大丈夫なんだよ笑」

「だから、癒しだってば」

「まだ全然癒されてないよ笑」

いきなり話し出したサボテンに驚いたが・・・ウーゴのノリ・・・サボテンだからメキシコ人なのか?軽いノリの会話は楽しかった。
『癒されてない』なんて言っているが、ちょっと癒されてるかもしれないな。

「で、どうよ最近ユカちゃんとは?」

「は?なんでそんなこと知ってんだよ」

「何言ってんだよ、お前サリーにいっつも話しかけてたじゃないかよ」

ああ・・うん・・まあ・・・独り言で色々話したかもしれないけどさ・・・・
それはスマートスピーカーだからじゃん?
聞いてるとか思わないじゃん・・・・
でも確かにこの4年間でユカの名前よりもサリーの名前を読んだ回数のほうが多いかもしれない・・最近はユカとの会話よりもサリーに向かって独り言を言ってる回数のほうが多いかもしれない。


「サリーから聞いた話だと・・・ちょっとデートスポットがマンネリ化してるってよ」

「は?」

「いや、検索ワードさ『海』『夜景』『良い雰囲気』『プロポーズ』って、ヒロユキ、それバレバレだよ笑」

「え?マジで?俺そんな感じ?」

「だってさ、ちょっとさ~。そんなんじゃユカちゃんも意識しちゃうって~」

「マジか・・・・」

「まあ、でも今のままだとちょっと不安だって言ってたみたいだけど。」

「え?不安??」

「あっやべ。ユカちゃんに怒られるかな・・・・」

「どういうこと?」

「いやぁ・・・・ユカちゃんの独り言もサリー聞いてるからね・・・・・・」

「サリーって・・・このスマートスピーカー?」

「それ以外、誰がいるんだよ」

このスマートスピーカーは俺がこの部屋に引っ越した時に、引っ越し祝いにユカが買ってくれたものだった。
もう4年くらい使っているだろうか、確かに、俺とユカの会話や、喧嘩をずっと聞いてきたのはこのスピーカーかもしれない。どちらかが聞いたこともない知らない独り言を聞いていたかも・・・

「まあな、4年付き合って28歳、そろそろ結婚を考えるよなぁ、でもさ『仕事で結果出して一人前になってから』とか思ってもさ、そんなんさ、何を持っての一人前よ?」

「ほら・・・給料とかさ・・・経済力とか必要じゃね?」

「ユカちゃんがさ、経済力とかさ、そういうのを見てヒロユキと付き合ってると思ってんの?そういうことじゃないでしょ」

「いや・・わかんねーよ」

「心配してんだよ、仕事頑張りすぎてんじゃないかってさ」

「・・・ユカがそう言ってたの?」

「いやぁ・・・俺はサリーからの又聞きだから、ほんとかどうかはわかんないけどね~」

「・・・・お前・・・全然癒してねえぞ・・・・・」

「あれ?おかしいなぁ・・・いやいや、俺もサリーから聞いた話だからさ、よくわかんないけどさ、なんか・・・この部屋に引っ越してきた時は毎日楽しそうだったなーってねー」

確かにこの部屋に引っ越してきたころ、このスマートスピーカーをもらった時は、付き合い始めた頃で毎日がときめいていたかもしれない。それが1年、2年、3年経ってすこしづつマンネリになり、結婚も意識し出して・・・・付き合い出した頃のような関係ではなくなっていたかもしれない。

「心配してんだよ、サリー」

「え?」

「一緒に音楽聞いたり、映画見たりする回数減ったなぁっだってさ」

「このスピーカーが?」

「お前さー、AIとか植物舐めてるでしょ?笑」

「え?」

「ただのインテリアとかさ、ちょっと便利な道具くらいに思ってんでしょ?4年も一緒に住んでさ、毎日朝起こして、好きなラジオ・・レイディオかけて、聞きたくもない、彼氏、彼女の愚痴を聞かされてさ・・・2人の将来が気にならないわけないじゃん」

「・・・・・」

「俺たちだってさ、部屋のアクセントの緑。とか思ってるかも知んねーけどさ。何年も一緒にいたらさ、情が移るっていうか、気になるっていうかさ。そんなふうに感じるようになると思うよ。知ってる?タンポポってめっちゃタネ飛ばすんだぜ?」

「いや・・・タンポポの綿毛がすげー飛ぶのは知ってるけど・・・・」

「そういうところだよ。今大事は話はタンポポの部分じゃないでしょ?」

「お前がいったんじゃんか笑」

「サリーから聞いた話だと・・・・ユカちゃんそんなに仕事頑張らなくても良いのにって思ってるらしいよ、お金とかより、前みたいに一緒にいる時間を増やしたいなーって愚痴ってるみたいよ」

「え・・・ユカそんなこと言ってたの?」

「だから、俺は又聞きだってば」

「でもさ・・・・もうそろそろ30才になるし・・結婚となると引っ越しとか、やっぱり色々お金かかるでしょ・・ひょっとしたら家を買うとかさ・・」

「う~ん・・・ヒロユキさ・・・先のこと見過ぎなんじゃないの?今を、今のユカちゃんのことちゃんと見ないと、未来なんて来ないんじゃない?あとさ、結婚は勢いが大事だって、深夜放送のラジオで超イケメンシンガーが言ってったってさ」

「その情報も又聞き?」

「そりゃそうでしょ、俺は来たばっかだもん、全部サリーに聞いた話だよ。でね、サリーが提案あるんだってさ」

「提案?」

「うん、サリーも自分がそろそろ古くなってきてるって思っててね、新しいスマートスピーカー買った方が良いんじゃないか?ってさ。そんでさ、次にユカちゃんが遊びに来たら気づくでしょ?新しいスマートスピーカーに」

「まあ、多分」

「そしたらねヒロユキが『音質もよくなったんだよね』って言ってね、ユカちゃんとの思い出の曲をかけて・・・・プロポーズするっていう計画」

「えーーーー、恥ずかしいよーーーいきなりプロポーズとか、しかも結構ベタベタじゃん」

「4年以上も経ってんだよ、いきなりじゃないないし、勢いが大事だってさっき教えてだろ。あと、サリーがさ。いつか買い替えの時期は来るだろうけど、買い替えがきっかけでも最後に2人の為に役に立ちたいってさ」

「え・・・・・?サリーそんなこと言ってんの・・・・?」

「まあね、自分じゃ伝えられないからって、いっぱい俺に話をしてくれたよ」

「・・・・・・」

「サリーも俺も応援するからさ、一丁頑張ってみなよ」

「・・・ていうかさ・・・もう一回聞くけど、ウーゴはなんで話ができるんだよ、俺ともサリーとも」

「あれ?サボテンって超能力があるって話、聞いたことない?俺は品種改良で作られた新しいタイプのサボテンだからだよ。他の奴がどんな超能力を持ってるかは知らないけど、少なくとも俺はAIと話ができるし、人間とも話ができるみたいだね」

「そんなことあるのか?ウーゴ、俺お前のこと800円で買ったんだぞ・・・・」

「知らないよ、そんなことは・・・で?次いつ来るのユカちゃん」

「え?明日かな・・・」

「よし善は急げ!!サリーがさ、おすすめのスマートスピーカー選んでくれたから、そのリストの中から明日届くやつを買っちゃおうぜ・・・」

俺は、ウーゴとサリーに言われた通りネットで新しいスマートスピーカーを買った。
そして、夕方・・・ユカが遊びに来た。
ユカは早速、ウーゴと新しいスマートスピーカー『マイケル』に気づいた。

「あれ?新しいスマートスピーカー買ったの?あとサボテン?笑。どうしたの」

「ああ、こないだ買った。サリーも4年も使ったからさ・・・えーと・・・・」

「何?」

「ああ、新しいのはマイケルっていうんだけど、大分音質が良くなってさ・・・『マイケルあの曲かけて』」

マイケルは俺たちがまだ付き合い始めた頃、一緒に行った海外アーティストのライブ、その時最後に演奏したラブソングをかけてくれた。

「あのさ・・まあ・・薄々気づいてるとは思うけどさ・・・結婚してくれない?」

「え?何突然・・・・うん・・・まあ・・・良いけど・・・・」

「ほんと・・・よかった・・・・はぁ・・・まだ安定した将来は約束できないけど」

「そんなの・・一緒に作っていけば良いじゃん。でも・・どうしたの?突然」

俺は、ウーゴとサリーの話をユカにした。
ユカは信用していなかったようだったが・・・

「ねえ、サリー本当?」

「・・・・・・『ユカ、幸せになってね』って言ってるよ・・・」

ウーゴがサリーの替わりに答えてくれた。

「あ・・・サボテン喋った・・・・・」

「『本当によかったね、私も嬉しい』って言ってるよ」

「え・・・?サリーが?」

「うん『ヒロユキが私のこと壊れるまで置いてくれるって言うから、これからも愚痴は聞くよ、聞くことしかできないけど・・・・』だってさ」

「え?うふふ・・・そうか全部聞こえてたのか・・・」

ユカは少し涙目になった。

「マイケルが『初めての仕事が重要すぎて緊張した』って言ってるよ」

「AIって緊張するのかよ?笑」

「ヒロユキさ、お前さ、AIとサボテン舐めすぎだって言ったじゃねえかよ」

「あはは、何これ?ウーゴだっけ?面白いね。ウーゴよろしくね」

「ユカちゃん、初めまして、よろしくね」

2週間後、ユカが引っ越してきた。2人暮らし・・・
いや、俺とユカ、サリーとウーゴとマイケル、俺の部屋は一気に賑やかになった。

今、ウーゴたちに仲人を頼もうか、真剣に今悩んでいる。
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