貧乏令嬢は玉の輿なんか夢みない

皆月潤

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第9話 火中の栗は冷めておりました。-2-

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公爵家筆頭執事であるヘンリックの言伝に凍てついた貴婦人方に周囲を囲まれながら、彼のもたらした手紙に目を通した私は貼り付けていた笑みを一段と深めた。

”予想通り婚約申し込みの取り消しの手紙みたいだけれど、これは使えるわね。遠回しに私を非難しつつ、ちゃんと謝罪の一言が添えてある。公爵本人が認めたのか、目の前の執事さんが認めたのかは分からないけれど助かるわ。”

私は素早く手紙の内容を把握すると周囲の様子を伺う。
エラリー様もヴィクトリカ王妃も瞳に困惑の色が浮かんでいる。復旧までまだ暫くかかりそうだ。

”普通、自分から婚約の打診をしといて顔合わせの場にすら来ないってあり得ないものね。フラれる前提で来てる私ですら驚いたもの。そりゃ場も凍りつくわよ。公爵様もなかなかやるわね”

などと、私の中で勝手に会った事があるかどうかも覚えていない、今まさにフラれた相手の評価を上方修正しながら、私は思考の海に飛び込む。

”さて、一先ず私は公爵様に会う事すらなくフラれたわけだけど、この際フラれ方はどうでもいいわ。フラれると言う事実は変わらなかったのだし、こちらは当初の予定通りに動きましょう。このままお開きにしちゃって帰りの馬車の中でこの手紙をエラリー様に渡して泣きつくのが私としては一番簡単だけど……”

そこまで考えて私はもう一度周囲の様子を伺う。
笑顔で固まるエラリー様とヴィクトリカ王妃のその向こう、楚々として佇む王妃付きの従者たちを。

”手紙の内容を私しか把握していない以上、公爵からの申し込みの取り消しを確定情報として持っているのは私だけだけど、私が公爵様に相手にされていないと言う事実を断定するには状況証拠的に十分よね。多少でも恋慕を抱いている相手であれば流石に婚約の顔合わせをドタキャンするなんてあり得ないし”

そんな事を考えながら、バレない様に視線だけで様子を探る。

”やっぱり、さっきよりいい笑顔の方が何人かいるわね。このまま帰るとあの辺りから色々ばら撒かれそうだし、さてどうしたものかしら。この場で手紙をエラリー様に見せられれば、特大の釘を刺してくれそうだけど、その場合王妃様も手紙を見る事になるのよね……、王妃様にだけ見せないとか不敬にも程があるし”

私は後でエミリッタに伝える要注意人物リストに良い笑顔を浮かべている侍女の特徴を記しながら、ちらりと横目で王妃様を窺う。

”この際、王妃様に見られる事は気にしなくても良いかしら。エラリー様に引っ張り出されている時点で賛成派か促進派だろうし、それにそろそろ執事さんを解放してあげないと可哀想よね、真っ青な顔で震えてるし、お年もそれなりにいってそうだからそのままポックリ逝っちゃいそうだわ”

私は一つ息を着くと目を閉じた。
方針が決まれば後は演じるだけだ。
私はほんのちょっとだけ息を深く吸い込んで目の端に水滴を作ると、なるべく儚く見える様に微笑んで公爵家筆頭執事へと言葉をかける。

「ヘンリック様、事情は理解致しました。公爵様にはお気になさらないで下さいと、お伝えください」
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