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その先の未来って

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 国の支配が始まって三週間後。
 
 注射を打っても全然症状が出ないものもいた。それがルヴァイたち家族だった。突然変異の体なのかもしれない。注射を受けても、何も起きなかった。
 何とか監視の中で生きていても、平気になっていて、これからどう生活していくかを考えていた。ルヴァイは、まるで、携帯ゲームをしているかのように、くわの作り方レシピを落ちている小枝を使って地面に書いた。そして、素材を次々に探してきた。レシピの内容は頭の中に入っていた。機械が無くても、思いつくものだった。ローラのために、ルヴァイはくわを作ってあげた。とりあえずは自分達家族の分の畑を作ろうと考えていた。
「ほら、母さん。くわを作ったよ。これで畑作れるから!」
「そうね、そしたら、ルヴァイは大きい石を拾ってくれると嬉しいわ。」
「あ、はいはい。」
 ルヴァイは、嫌な顔で畑になる土の中から、石を拾い集めた。相変わらず、空にはドローンが飛び回ってこちらを監視している。畑を作るには、時間がかかりそうだった。土を柔らかくするにはくわが必要で、肥料は手に入れることはできていない。とりあえずはうねを作るところまでだった。何の種を植えるかなんて、そもそもどこに種があるのだか。何もできない。そろそろ、断食も限界に近づいて来た。今までは山の上流にある川のきれいな水を飲んでどうにか生き繋いできたが、栄養の偏りが見え、もう肋骨あまりがガリガリにやせ細って来た。何か固形物を食したいところ。体を動かすには水だけでは限界がある。命がまだあるだけでも奇跡なもんだ。こうなる前は食事を当たり前にできることがどれだけ幸せだったか。一日三食を自由気ままに食べて来た。いらないものはすぐに捨てていた。捨てたものが恋しい。懐かしい。嫌いなものでも食べられそうな予感がする。もう、そんな贅沢は言っていられない。そう思っていても、上に飛んでいるドローンは食べ物を運んできてはくれないし、電波をピッピっと飛ばしているだけ。なんて役に立たないロボットだ。国の言うことしか聞かないロボット。イライラして来た。壊したくなってくる。でも、そんなことしたら、自分の命さえもなくなる可能性がある。地面にある砂や石を握りしめて、遠くへ投げた。なんとも言えないこの思いを何かで発散したかった。お金に苦労はしない。お金の価値は発生しない。でも、何かを手にするにはお金を使って欲しいものを手に入れたい。生活に必要な野菜の種。ご近所さんが、どこからか拾ってきたらしいが、交換することは稼ぐことに等しい。貰うことはできない。できることは黙って様子を伺うことだった。そんなことをしてると、もう人間関係の崩壊だ。話すことも聞くことも億劫になる。交換ができない。つまりは自然と会話もできなくなる。これ以上の争いを避けるためだ。畑があるだけでは野菜は育たない。種が無いと何もならないのだ。ルヴァイたちは、目の前で種を植えられているのを見て、どうすることもできなかった。ただ単に野菜を育てたいだけなのに。あれ、これって独占しているからいじめと同じなんじゃないのかな。ドローンを見上げても何も反応してない。何が正しくて何が間違ってるのか自問自答ばかりが続く。
「もう、何のために俺たちはここにいるんだろう。当たり前の毎日が続いていた生活に戻りたい。贅沢は言わないし、わがまま言わないから元に戻りたい。」
 砂埃が巻き上がる。ルヴァイは大の字で横になった。乾燥した畑の周りは、風で砂が宙に浮いていた。ギラギラと太陽が照りつける。雲が勢いを増して飛んでいる。空や大地は何も変わっていないのに、人間はこんなにも衰退していく。物がないだけで、お金がないだけで、絶望の淵に立つ。自然に倒れて亡くなる人が増えてきた。抵抗することもできず、希望が持てず、生きる勇気も失った。気持ちが少しでもネガティブな考えをするだけでこの世は終わってしまう。ルヴァイ家族は突然変異の体質で生き延びることができた。それは無駄なく生きていこうと天に誓った。生きていれば必ずいつか報われる時が来るだろう。
 ふと天を見上げると、ドローンが何台も集まってきた。大きな皮でできた布を広げて、一台のドローンが布に映像を映し出した。

「おめでとう。よく頑張ったな。君たち家族に勲章を与えることとする。君たちは選ばれた戦士だ。」
 国王のドュマンド王が、通信回線で映像を送ってきたようだった。時々映像が乱れている。背景には赤い旗、大きな立派な椅子。前と変わらない生活を送っているようだった。いまいち状況を理解できないロバートは目を見開いた。
「どういうことですか? よくわかりません。」
「君たちは、自らの意志で生きる方法を見つけ出した。我々は、お金のない世界で生き抜ける人材を探していたんだ。私は、集団の集まりの欠如を指摘したい。個人として生き抜ける知識を持っていたのは優秀な君たちだったのだよ。本来の人間のあり方は、人に頼らずに如何にして生き抜く知恵を見つけるか。それは全てにおいて失っていた。便利な世の中な故に、知識を失っていくんだよ。流れに任せて生きていく者も多い。その人材を見つけるには、多少残酷だったかもしれないが、このようなやり方になってしまった。申し訳ないと思っている。許させることではないが、世界、いや、この地球を救うにはこの方法しかなかった。だからこそ、君たちには期待しているんだ。これからの世界を担う、最高責任者として私の元で働いて欲しい!」
 ドュマンド王は、手振り身振りを交えて、訴えていた。ロバートたちは現実を未だ受け入れられない。この三週間の間に数々の困難に耐え、知識を生み出し、生きようと工夫したが、まだ野菜さえも育てることが出来ていない中でのこの有り様。何がどうなっているか栄養失調もあるからか、ふらふらしてきた。
「稼いではいけないと、働いてはいけないと前におしゃったのではないですか? それはどうなるのです? 私たちはこれからどうやって生きるのですか?」
「確かにそう指示を出した。それはこの優秀な人材を見つけるためのものなんだ。安心したまえ、これからの命は我が国がきちんと管理をして君たちを生かす。これからは優秀な人間しか生きられない地球を作らなければならないんだ。地球は危機に直面している。もう、この惑星の寿命も後がない。天の神のお告げも優秀な人間を炙り出せとのことだ。君たちは貴重な頭脳を持っている。今、そっちにヘリコプターを飛ばした。すぐに乗り込め。君たちを大いに期待している!」
 地球の寿命が近づいている。この惑星の命はまもなく終わりを迎える。そのためには、いくらでも長く続くように、地球に影響のある者は生きていくことのできない世界にする。そして、貴重で優秀な者しか生き残れない。ふるいにかけられていくのだ。亡くなった者たちは、輪廻転生の生まれ変わりで何度も繰り返し死んでは生まれて、選ばれるまで何度も繰り返し繰り返しリセットされては生き直す。すごろくの振り出しスタートに戻るように人生のリセットをかけられる。その回数が昔と比べて速くなったと言うことだ。もちろん、亡くなったら生きていた記憶は忘れてしまう。もう一度生まれてきて、同一人物でも同じルートを回るかもしれない。
 将来の夢が本当は消防士になりたくて、なったが、火事に見舞われて亡くなって、嫌だって思い、今度は警察官になったが、強盗に襲われて亡くなって、それを何回も繰り返す。どんな生き方を選んでも、いつかは死んでしまう。職種は関係なく、人間の六十兆個の細胞に宝くじが当たる確率でガタがきて、故障するだけで死んでしまうこともある。
 ただし、選ばれた者だけが、不老不死になれるという薬を飲むことができる。ずっと生きている。死ぬことはない。それがこの世界だった。なぜ、生きていかなければならないか。この世界、この地球を救うため。知識をひけらかすため?ドゥマンド王は有無を言わすこともなく、ルヴァイたち家族をヘリコプターに乗せて、国の所有するお城に迎え入れた。空からの村は、人が住むような場所じゃない廃墟と化していた。本当にルヴァイたちはここで生活していたのかと忘れてしまうほどだった。すべての家が焼き尽くされ、生き残っているのはルヴァイ家族だけ。みな、生きることの希望を失い、食べ物にも飢えて、死んでしまった。その中で生き抜いた彼らはむしろ生き残りの意味を見出せなかった。
 隣に住んでたマーロン両親と子どもの三人家族。この生き方に耐えられず、飢えて水さえも求めることなく、その場に眠りにつきながら逝ってしまった。
 目の前で亡くなっていく身近な存在の死。ルヴァイは、どうして生き抜いてしまったんだと嘆いた。生きる術を見つけないでみんなと一緒に天国に行きたかった。苦しい思いをして生きるのはなぜなんだ。生きたい時に生きて、死んでしまいたい時に死んでなんでだめなんだろう。

 ご立派な部屋に案内された。高級なタンス、柵付きの大きなベッド。新品のオーガニックなパジャマ。豪華な食事。
 見たこともなかった高級キャビア、フォアグラ。A5ランクの牛肉。和食の松茸。中華の燕の巣。フカヒレ煮込み。
これが望んでいたことなんだろうか。確かに高い食べ物をいつかは食べたいと思ってた。
 でも、本当は本当は…家族三人でテーブルを囲った母の作った温かいシチューが飢えているルヴァイには欲していた。そんな母は目の前に出された高級食材に真っ先にありついていた。父も同様、お腹が空いていたのが、すぐにナイフとフォークを持って食していた。
 ルヴァイは、もう意志とは関係なく、無我夢中で食事にありついていた。
欲求を満たすには、食事が第一優先だった。

大きなテレビ画面に、大きな音をたて、国王が映し出された。

「諸君、今までよくぞ耐え抜いて生きてくれた。その食事はせめてものお礼だ。大事に食べておくれ。もう、その食事を準備することは不可能と思ってくれて良い。その高級食材を作ったシェフや牧場、農場スタッフ、そのほかその食事に携わっていた人はもうこの世にはいない。全て真空冷凍してとっておいたものだ。もう、用意して作ることもできない。ヘリコプターに乗ってきたから分かるだろうが、もう世界は滅亡の危機に達している。見ただろ、絵の具で言う赤しか思いつかない世界を。」
 ドゥマンド王は、左の窓を手で指し示した。ルヴァイ家族は、飢えを満たしていた手を止めた。
お腹が空いて思考が止まっていたのか、ヘリコプターに乗っていて一切外を見ていなかったが、外は無惨にも戦争があったかのように炎で覆い尽くされていた。森は緑が赤になり、川は青色の透き通った色からドス黒い灰色へと変化していた。泥水が流れているところもある。
家があったはずであろう都市もすべて崩れ落ち、燃え盛っている。
口にくわえていたパンが落ちた。
「な、な、な、なんで、こんなことに?」
空いた口が塞がらない。
「うそよ、嘘だと言って!あーあーあー。もう、いやーー。」
自分を頭をかきむしって涙が止まらない母。
「これって、国王、あなたですよね?!」
ルヴァイは問い詰めた。

「ああ。その通りだ。反論はしないよ。私がやったことだ。」

「どうしてこ、こんなむごいことを!」

感極まった。

「こうするしか、世界、いや、地球を救うことは出来なかったんだ。人が増えるってことはそう言うことなんだ。数々の犠牲を払わないとできないんだ、我ら人間が存続するためには!破壊しなければ新しく創造することはできない。世界のリセット、ワールドリセットなんだ、これは。」

「リセットってゲームの世界じゃないんだから現実に起こす必要ないでしょう!私たちが生きていたって新しく世界を作るなんて無理です。辞退させていただきたい!」

ドゥマンド王は悲しい顔をしている。

「とても残念だが、それは無理だ。君らは辞退することは出来ない。私はもうこの世にはいない。この映像は、A iロボットにより君たちと会話している。君たちが世界を変える最高責任者だと言ったはずだ。もう、周りの人間はいない。君たちだけだ。今、お世話しているすべての人間は人じゃない。Aiロボットなんだよ。さあ、もうすぐ、ロボットがこの部屋に不老不死の薬を持ってくる。その薬があれば何年も生きられる。さあ、君たちの世界を作っておくれ。」
 ガッガッガッと鉄がこする音が聞こえてくる。明らかに見た目がロボットの大群が廊下を歩いてくる。ザッと20人近くはいるだろう。ルヴァイたちは、食事など取ってる暇ないと、とりあえずナイフを片手に身構えた。

「父さん、これ、どうするの?」
「もう、これは、この窓から脱出しよう!」
「待って、父さん。俺もいく!」
母は父から離れなかった。注射器を持ったロボットたちに、追い詰められて追い詰められて逃げたい気持ちが強くなる。
父は背中で窓を開けて、そのまま高いであろう10m下に落下した。
ルヴァイも続けて、追いかけて落下した。急に目の前が真っ白に包まれた。



体がバラバラになったかな。
俺たち死んじゃったのかな。


真っ白な世界に包み込まれたまま、ルヴァイはハッと目が覚める。全部白の世界だった。何もない。ここはどこだろう。


冷静に考えて、ロボットに支配ってどう言うこと。飢え死にしそうになって最高責任者って何のこと。国王も死んでるってなんなのそれ。体をゆっくりと起こした。


「あなた、まだここにいてはいけない。」

耳の奥の奥のそのまた奥に響き渡った。
誰の声か検討もつかない。
花火のような光が頭の上を光り出す。

目をつぶって気を失った。

また場面が変わった。

ふかふかの、ベッド。お気に入りのまくら。見たことのある風景。

「ルヴァイ!朝よ。起きなさい!」

長い長い夢を見ていたらしい。
現実のような夢のような…。

「母さん、おはよう。今朝の天気は?!あ?」
窓の外を見ると自衛隊の軍隊が整列していた。右手にはたいまつを握りしめてる。
にわかに信じがたい。ルヴァイは目を何度も擦り、ほっぺを握りしめた。とても痛い。現実のようだった。
「母さん、外に軍隊が!」
後ろを振り返ると、後ろから左腕に注射器を刺された。そして、薬液がじわじわと体に入っていく。その注射器を刺しているのはエプロンをしている母の姿をした鉄のロボットだった。ルヴァイはその場に膝から崩れ落ちる。ドクンドクンと左腕がなっている。痛い。かなり痛い。
「やったな。注射を打ったんだな!」
もう持ち堪えられない。ルヴァイはうつ伏せに倒れた。呼吸が荒くなる。体が熱くなってきた。指先から銀色に変わっていく。あれ、不老不死の薬じゃないのか。なんだこれ。体がすごい重い。よく見ると濃い灰色?銀?鉄の色?

(え、まさか!?)

そう、ルヴァイの打たれた注射に入った薬剤は人間をロボットにするものだった。不老不死。もちろん、意味は同じ。人間ではない。ロボットとして、ずっと生きていく。そして、体を永遠を生きる代わりに脳という大切な考えが詰まってるものを失った。
ボタン一つで動くロボットだか、もう意志はない。自由には動けない。

ある一定の決まりでしか動けないのだ。
プログラムされた通りにしか動けない。

そう、悪さをすることもなく、他人も傷つけることもない。
どんちゃん騒ぎをすることもない。
ずっとずっと同じリズムで同じ動きしかしないそういう人間、いやロボットで生きる。

それって生きてるって言えるのか。

もう後戻りはできない。
人間には戻れない。

そのうち、世界、地球すべてがロボット化されて、どこからともなくやってくる何個何個も数えきれない隕石が墜落し、地球はなくなる。
 太陽は大爆発を起こし、灰になった地球とともに消えてなくなっていく。

悲しむ人はいなかった。
不老不死だから。
地球が終わっただけだから。
人はいなくなったから。

遠い遠い惑星。


地球があったとされる


ここから離れた


土星の輪のところに八の字を、

書いた飛行物体があった。

UFOなのか。




もしかしたら、それが新しい生命体で土星に住み始めるのかもしれない。



太陽と地球が亡くなったこの銀河系で。


おしまい
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