シリウスをさがして…

もちっぱち

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BBQと星空観察

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あれから数ヶ月の月日が過ぎた。

陸斗は眼力で、見てくる生徒を避けて、やり過ごした。学校の先生にまで睨みをきかすため、間違って叱られる始末になるくらいだった。

 だんだんとマスコミに追われることなく、被害被ることもなかった。

 インターネット上に残る記事は消えることはなく、疑いは疑われたままになっている。

 紬はというもの、ずっと学校に登校することができず、不登校ということになっていた。

 そんな生活を送りながら、世の中は夏休みという太陽がギラギラと光る輝かしい季節になっていた。

 周りを気にすることなく、部活に専念するだけで良くなったため、陸斗は気楽だった。

 松葉杖も使わなくても剣道の稽古もできるようになり、もちろん、閉鎖的な静かにできる競技でもあることながら、個人的な話をされることなく、過ごすことも可能だった。

 その代わりの変化といえば、もう陸斗の父が剣道をしに来ることはないということだった。

 残念な反面、強制されてないことで気持ちも緩やかになっていた。

部活を終えて、ふと、スマホを見るとラインが届いていた。

『明後日、みんなでバーベキューしよう!手ぶらでも行ける施設でやるから絶対こいよ!場所はココ→』

 宮島洸からのバーベキューのお誘いだった。参加メンバーは宮島家族と大越家族の全部で8人ということらしい。場所は市内のバーベキューができる施設で、テントも設営できるところだった。

 住所と地図も添付されていた。

 夜には星空観察もできるところらしい。小学生以来やったことがなかったけれど、何だか日頃の学校と家しか行き来してないため、気分転換なりそうで少しだけワクワクしていた。


 家に着くと、悠灯と父のさとしが揉めていた。
「ただいまー。」

「だからさ、バーベキューに行くのいいけど、泊まりたくないんだけど、虫もいっぱいいるし、家にあるテントは狭いし小さいし、みんなで寝れないでしょう!?」

夕ご飯の準備をしながら、2人はさっきのバーベキューの話で揉めていた。悠灯は泊まりたくないらしい。

「んじゃ、コテージにする? それとも、可愛いテントが設置されてるところにする? 虫刺されくらい、夏の醍醐味だろ?」

 さとしは、スマホを開いて、こう言うのだと説明するために、ネット情報を悠灯に見せた。

「え、なにこれー。超可愛い! 遊牧民になったみたいじゃん。結構広いし、オシャレ。これなら良いよー!Instagram映えしそうだし。」

「えー…何で盛り上がってんの?」

「おー、陸斗。おかえり。さっき洸からライン来ただろ?そのバーベキューの話でお金かかってはしまうんだけど、持参するテントじゃなくて既に設置してある丈夫なテントに泊まるってところがあってさ。これ見てよ。」

 横から顔を覗き込んでネット情報を確認した。

 レンタルグランピングというものがあり、いろんな種類のテントを用意してもらえるものだった。シャワー室やWi-Fiも、完備されており、キャンプも楽しめるほかに日常もそのまま溶け込めるようだった。


「女子はそう言うの、好きそうだよね。良いじゃないの?」

「洸に言っておこう。これがいいって。」

「うん。そうだね。父さん言っておいて、いただきます。」

 納得すると悠灯はご飯を食べ始めた。ケチャップオムライスだった。

 陸斗も洗面所で手を洗うとお腹が空いていたようですぐにご飯にありついた。

「そういや、五十嵐先生に何も言われない?俺、行けてないじゃない。平気かな?」

「あ、別に…。何も言われないし聞かないし。稽古は真面目に受けてきたけど?」

「そうなのね。なら、いいか。しばらくは行かない方がいいね。」

 本当は剣道したいのにできないもどかしさがあって、もやもや気持ちになっていた。状況が状況だから仕方ない。


 親子の喧嘩はほとぼりを、冷めたかに思われたが、元々陸斗が忘れてることが多くて、平常心になってきていた。

 けれども、忘れていたことを思い出せないもどかしさでイラ立ちは続いていた。まだ、紬のことをどう接していけば分からずに何の連絡も取っていなかった。





 数日後、急遽決まった。宮島家と大越家のバーベキューそして、お泊まり会が始まった。ちょうど紗栄も出張から終えて自宅に戻ってきていた。

 手ぶらで行けるとあって、持ち物はさほど、いらなかった。

 青いセダンの乗用車に乗って、大越家族はバーベキュー施設の現地駐車場に着いた。既に宮島家族はバーベキューの準備に取り掛かっていた。


「おーい!こっちこっち!」

 到着したことがわかると洸は手を大きく振ってこちらに合図していた。

「久しぶりだね。みんな元気だった?」

 宮島裕樹が、バーベキュー用の炭が入った段ボールを運びながら言う。

 裕樹の背格好は以前と比べてぷっくりとした状態だった。

 横には相変わらず派手な化粧とアクセサリーを付けた花鈴がいた。

服装はアクティブに合う濡れにくいものを、着ていた。

 深月は、テントの中で本を読んでいた。


「元気ですよ。相変わらずですわ。裕樹さん、幸せ太りですか? 仕事変わって気が緩んでますね。」

「何を?! そんなことないよ。上げ膳据え膳で食べられるようになって嬉しいことは無いんですよ。花鈴は頑張って料理覚えくれたから、俺は仕事に専念すればいいってなったし、家事を全くしないわけではないけどね。」

「え?! 花鈴がご飯作ってるの?大丈夫?砂糖とお塩間違えてない?」

 紗栄が横から話し出す。
 子どもの頃からお料理に関して苦手意識がある花鈴ができるようになるなんで驚いていた。

「はー?! 塩と砂糖くらい分かるよ!失礼しちゃうよね。そりゃー、初めはお米を洗剤で洗っちゃいけないとか色々ねミスはあったけど、ごく一般的な料理はできるようになったからさ。」

「うん。あれには驚いたよ、俺も。お米に洗剤入れたら全部食べられないよね。」

 それぞれバーベキューの準備をしながら、花鈴の料理のこれまでのぶっ飛んだミスに関して盛り上がっていた。

 洸と陸斗は、バーベキューの準備そっちのけでクヌギの木を探しに周りをうろうろしていた。

 童心に返ったようにカブトムシやクワガタを探しに行った。

 これでも2人は20歳と18歳。いつでも遊び心があるようだった。兄2人の行動を見て呆れる女子2人。

 高校生の深月と中学生の悠灯は、まったりとテントの中でトランプしながら過ごしていた。

「木の近くに行ったら蚊に刺されるよね。テントの中の方が安全、安全。」

「本当、本当。でも、このテントめっちゃ可愛いよね。深月ちゃん、Instagram載せる?」

「あ、私は良いや。写真は撮るけどね。Instagramにあげると女子のマウント合戦始まるからやめとく。悠灯も気をつけなよ?」

「えー。そうなの? 私の友達はそう言う人いないけど…。」

 深月は高校生にして、人間のドロドロした部分とお付き合いしてるようだった。仲良しこよしの関係は今は無いようだった。

 表面に他人にはわからない仮面をかぶって本当の自分を出さない生活をし続けているようだ。


「おーい、ほら、見つけたぞー。デカイカブトムシ。」

 わりかし背の高い陸斗がカブトムシを見つけたようだ。

 このB BQをやると決めたのも、洸が20歳になったこともあり、みんなが成長してバラバラになるだろうと思い、企画したものだった。

 深月も高校2年、悠灯も中学2年になる。来年は2人とも受験に専念しなきゃないと今年で最後の親戚の集まりだった。

 そう言いながらも、今年、受験のはずの陸斗まで呼ばれたが、そこはみんな気にして無いらしい。

 勉強しなくても大丈夫だろとどこかタカをくくっている。本人は多少心配していたが、周りは全然気にしてない。

 学年首席が何を言うかと家族みんなが逆にイライラしている。

「すごいね。結構大きいじゃん。」
 
 悠灯がマジマジと観察する。
 幼少期は虫なんて大嫌いで近寄らなかったのに、成長したのか平気になったようだ。

 深月は虫は大の苦手で、もちろん、カブトムシも無理だった。

「ほら、深月。見てみなよー。」

「ちょっと、私が虫嫌いの知ってるでしょ!! やめてよ。」

 怯えて、後ずさりする。陸斗は嫌がるのをわかっていて、近づける。

「陸兄、マジ最悪!!」

 その場から走り去っていく。

「陸斗、その辺にしとけって。深月は虫嫌いなんだから。」

「知っているよ。でも、カブトムシは蜂とか蚊と比べて、刺さないのに…。」

 陸斗はカブトムシの体を撫でた。そして、元の樹に戻してあげた。

 くぬぎの木には樹液がたくさん出ていて、カブトムシには絶好の餌だった。

 西の空には、夕日が卵の色のようにだんだんと沈んでいく。

 東の空には少し水色がかった空に白い半分の月が顔を出していた。

 遠くで、ひぐらしが鳴き始めていた。

「おーい、肉焼けたぞーーー!」

 父のさとしが、大きな声で叫んでいる。
 洸と陸斗はその声に反応して、みんなが集まるバーベキューコンロのあるところに向かった。

「どこまで、行ってたんだよ。少しはこっち手伝えって。」

「いやいや、父さんの手伝いは洗い物で十分だよ。作るのにいちいち文句言うじゃないか!こだわり強すぎて…。」

「俺も激しく同意!! うちも同じだもんね。な!父さん。」

 洸は、裕樹の背中をバシッとたたく。

「すいませんね、こだわり強くて。元料理人ですから、焼きにはうるさいのよ。その分、美味しく食べられるっしょ!?」

「はいはい。いただきまーす。」

 テーブルにみんなが座るとそれぞれに好きな肉を紙皿に乗せた。
 
 大人4人は缶ビールや缶酎ハイなどのお酒で、子どもたちは炭酸ジュースを飲んでいた。

「あれ、洸は、お酒飲まないの?」

  陸斗が聞く。

「うん。今日は念のため飲まないでおこうかな。誰も車運転できなくなるっしょ。ま、もう大人だからいつでも飲めるけどね…。コーラも好きだし。」

「ふーん。そうなんだ。」

「お兄がお酒飲むと、大変だよ。陸兄。やめといた方がいい。」

「え?なんで?」

 洸は慌てて深月の口を塞ぐ。苦しそうになっている。

「???」

「確かに洸はここでは飲まない方がいいかも。」

 洸の父、裕樹は言う。横の花鈴も何度も頷く。

「だから、なんでよ?!」

「それは…。」

「言わないでよ!!」

 洸は怒り出す。

「別に良いじゃん。家族だし、言っても。」

「陸斗には知られたくない。バカにされるから。」

 そう言ってる間に深月から耳打ちで聞いていた。

「え!まじで? 引くわ~。本当、絶対飲むな。俺の前では絶対飲むなよ!?」

「飲むか!? こっちから願い下げだわ!…なんで深月言うんだよ~。」

「日頃の恨みですぅ。」

 兄妹喧嘩は壮絶で、いつも妹が負けている。その恨みのことを言っているらしい。

「もう、次から冷蔵庫のプリンは食べません。」

「分かればよろしい!!」

 みんな爆笑して、その場が和やかになった。兄妹喧嘩は少しでも落ち着いていきそうだった。

 洸がお酒を飲みすぎると、手あり次第にキス魔になるという弱点があった。
 
 それは男女も年齢も関係なく、そうなってしまう変なくせを持っていた。

 原因はわかっていない。


***

ひとしきりお肉や野菜、ピザなどを食べてお腹が落ち着いた頃、

 陸斗と深月は真っ暗な小高い丘に座って、街の灯りがキラキラと光る遠くを見ていた。

 ドサっと、寝っ転がり、空を見上げた。天候も晴れていて、夜空には雲は浮かんでいない。

 眩しいくらいに星たちが輝いていた。
 
「あれとあれを結んで、北斗七星で、カシオペアだったかな?」

 陸斗も同じように寝っ転がってみて、空を見てみた。

「深月、星座詳しいの?」

「うん。地学で最近やってた。あれははくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガだよね。陸兄、ベテルギウスは冬にしか見えないって知ってた?」

「へぇ~、なるほどね。あぁ、ベテルギウス?歌にもなっているやつでしょ?」

 陸斗は、星を見て、頭痛がした。何だか、目をつぶると、真っ暗だった瞳の中で白く光る。
 光った先に顔がはっきり見えない女の人が映し出す。

 過去に起きたであろう、走馬灯のように突然、記憶が思い出された。

 暗い夜空とリンクする場所で、プラネタリウムの施設の中を頭の中に映った。

(あれは、誰と行った時だったんだ…。)

ーーー…ギリシャ神話では、大神ゼウスの姉で収穫の神デメテルの姿と言われています。

 また、スピカはアークトゥルスと合わせて「春の夫婦星」とも呼ばれています。


 ここで、私個人的に好きな星がありまして、紹介させていただきます。


 季節は冬になるのですが、南の空に都会の夜空でも一目で分かる明るさのシリウスという星です。


 冬の大三角と呼ばれております。


 おおいぬ座の口元でかがやくシリウスは「焼きこがすもの」という意味があります。


 こちらは全天体でも1番の輝きがある星なんだそうです。


 話が脱線してしまいましたが、今は、春ですので、こちらのうしかい座のアルクトゥルス、りょうけん座のコルカロリ、おとめ座のスピカの春の大三角というものになっております。



 ぜひ、冬の空をじっくりと観察の際にシリウスの説明をさせていただきますので、またのご来館をお待ち申し上げております。

 館内のアナウンスが終わると、隣には涙を流している谷口 紬がいた。
 
(確か、この後、コンタクトを落として…。)

「陸兄!陸兄。聞いている?」

 ぼんやりと回想していた陸斗に深月は声をかける。

「え、あぁ。何だっけ?」

「だから、ベテルギウスはオレンジ色だけど、それよりもすごい光るのがシリウスって星なんだってさ。街の灯りよりも光ってるらしいよ。凄いよね。え?陸兄!どこ行くの??」
 
 陸斗は深月のシリウスの話を聞いて、何もかもが鮮明に思い出した。1番、好きだった女性のこと。曖昧にしか頭の中に映し出さなかった表情がはっきり見えてきた。

 次は絶対シリウスを一緒に見ようと約束していたこと。

「…ごめん。話の途中で申し訳ないけど、全部思い出したから!!」

 陸斗は慌てて立ち上がり、洸のいる場所まで行く。

「は?!」

 深月は起き上がってびっくりした。

 紬と同い年の深月。少し、陸斗で片思いしていた気持ちがあって一緒にいて嬉しかったが、離れていくともの寂しくなった。いとこ同士だし、恋愛はできても御法度な部分もある。気持ちは抑えていた。


 陸斗は小声で洸にお願いをした。
 親には内緒で車を借りて、行きたいところがあると説明した。

  夏の合宿で取り立て免許で初心者マークの陸斗。練習がてら、助手席に座ってほしいと懇願した。あわよくば、洸が運転でもいいってことでもいいからとお願いした。

 洸と陸斗は、両親たちに見つからないようにセダンの青い車に乗り込んだ。
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