シリウスをさがして…

もちっぱち

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あの時の夢

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無言のまま、街の電灯が輝きを見渡せる道路を車は走っていく。


音楽はつけずに車のエンジン音だけが響く。


右手で,ハンドルを回し、シフトレバーに左手を置いていた。

 
 紬は窓に顔をつけて、夜景を眺めた。


 一緒に車の中にいるけども、何だか1人の世界にいるみたいだ。


陸斗は何も言わずに話してくれるのを待っていた。


車はカーブがある山道へと目指している。


 キラキラと光る街の灯りを横目に車はどんどん山を登る。


仙台でも数少ない星空観察スポット。



泉ヶ岳の駐車場に車を停めた。


何組かの車が停まっていた。


 陸斗はエンジンを切り、車から降りて、街を見下ろしたあと、空を見上げた。



空気澄み切っていて凛とした満天の星たちが輝き放っていた。




 紬も外の様子が気になってそっと車から降りて同じように空を見上げた。


 
 よく見るオリオン座が東の空に見えた。

 右側に見えたのは赤く光るかの有名なベテルギウスだった。

 他の星よりも輝いている。

 オリオン座のすぐ下はおおいぬ座があるり、その左の隣はこいぬ座がある。


 この3つは合わせて冬の大三角形となる。


 星座はそれぞれひとつひとつ辿らないと、完成しない。

 ただ一つだけでは星一つ。
 
 天体を見上げても星座の線は描いてはない。

 頭の中で繋げなければならない。

 星座は自然のものではない。

 人間という先人たちが願いや祈りを捧げるために線を作り上げて、あれは動物、神様などの形を当てたもの。

星のそのものは、自然なものだ。

何者にも変えられない。


一つ一つ星が輝き続けるが、線を繋げれば、星座という一つの物語が完成する。


 一人一人が星ならば、周りの人間関係は星座となる。


いろんな人と交われば、様々な物語の星座が完成する。


それを遮断すれば、ただ一つの星。


真っ暗な宇宙というキャンバスに星だけが存在する。

その一つだけでも成り立つというメリットもあるが、他の星と交わるだけで視野が広がる。


どちらにしても星は人と同じ。

 
 どんな星の中でも、全天体のシリウスは、1番の輝きを秘めている。


 空を見ると、街灯やお店の灯りよりも負けないくらい目立つくらいの星だと言われている。


 陸斗は、いつもシリウスを探してる。


真っ暗な中で輝いてるはずの紬を元気にさせたい。


殻に閉じこもった心を氷のようにゆっくりと溶かし、明るい元気な紬になってほしいと願った。


陸斗は車のトランクから、天体望遠鏡を取り出して、スタンドをセットした。

  
 南西に方角を向けた。

  
 レンズ越しに星を探す。


 空を見てた紬の肩を軽くポンと叩き、レンズをのぞくように誘導した。

 
 200倍の望遠レンズで見える土星は輪っかがクッキリと見えた。


 まるで、キーホルダーのように写った。


 紬は、それを見れて凄く心地が良く、鼓動が高鳴った。

 肉眼ではただの光っている星でしかない。


望遠レンズで見るだけでこんなにも変化するなんて想像できなかった。


図鑑や教科書で見るより真実味があった。

レンズを外して裸眼で見て、望遠鏡を通して見てを繰り返した。


その様子を少し離れたところから見ていた陸斗は飼い主の帰宅を喜ぶ子犬のような動きで微笑ましかった。


「…1人で過ごすのも楽な時あるよね。でも、俺らいること忘れないで。森本さんや隆介くん、康範、輝久とか…。洸もかな。無理に話さなくてもいいからさ、待っているから。この星と同じで、紬は紬。1人でも輝けるから。こうやって、星と星を線で繋いだら、星座になるっしょ。俺らと話したら、もっと楽しいってこと。」

 
 陸斗は天体望遠鏡をおおよそ南東方向に動かした。

 レンズを覗いてみる。

「ほら、これ。シリウス。1番明るいけど、望遠鏡で見るとただの点にしか見えない。」

 陸斗は紬に覗かせた。
 確かに青白い星が点として見える。

「知ってる?」

「?」

「このシリウスってさ、2つあるんだってさ。シリウスAとシリウスB。アルファベットで分けて、同じ名前が2つ。眩しい星と前に光ってた星が暗くなってしまったみたいでさ、望遠鏡からは見えないけど、代わりに光っている感じが俺と紬だったりして?なんてね。意外と大事なものって気づかないかもしれないのかもしれないって考えちゃうよ。目の前にあるのにね。灯台下暗し?」


アスファルトの駐車場に横になって、頭に腕を組んだ。


「こんなに広い宇宙に星が数知れずあるのに地球に存在している僕らはちっぽけだよな。」


 紬は陸斗の真似をして、横になってみた。ゴツゴツしていて少し体が痛かった。今はそれさえも忘れるくらいに夢中になって星を観察していた。


 プラネタリウムで見た星よりも周りの光が影響して見えない部分もあるが、とても新鮮だった。



裏切らない光。


目をつぶらなければ消えない。


何だか心が洗われたような気がした。


「綺麗…。」



自然と声を出せた。


「うん。綺麗だよね……。ん?紬が喋ったの?」


 体を起こして紬の方を向いた。


 望遠鏡を準備する際に近くに置いていたLEDランタンを紬の顔に近づけた。


「顔、近いよ!」


 星以上に眩しすぎた。

ランタンを置いて、思わず、膝立ちでぎゅーと紬を抱きしめた。


「良かった~。やっと話したー。」

「近いー。」

 周りには何台かの車が停まっていることを忘れていた。

 同じように星空観察しているだろうカップルが多かった。

 紬は暗くて見えないとは分かっていても恥ずかしかった。

 紬は両手ではねのけた。

「あー。ごめんごめん。ちょっと肌寒いし、車の中に行こうか。」

 ごまかすように、トランクに望遠鏡を積んだ。

紬は小走りに助手席に座った。
陸斗は運転席に座ってエンジンをつける。


車のナビを見ると時刻は8時を過ぎていた。

「そろそろ帰るか。」

 ぎゅるぅううう

 大きな音が車内に響き渡る。

「ん?」


「なんだろ・・・ね。」


 お腹を両手でおさえて誤魔化す。


「お腹、空いているのね。コンビニ寄るから。」

と言ってるそばからまたぎゅーーーとお腹が鳴った。


「1日、何も食べてない。」


「お腹空いてきたってことは元気が出た証拠だね。」


 陸斗はヘッドレストに手をかけて、車をバックさせた。

 なんてないことにドキッとした。


 車をしばらく走らせた。

 着いたコンビニで陸斗は1人でジューシー肉まんを2つとあたたかいカフェオレを2つ買って車に戻った。

 紬は留守番する犬のように車で待っていた。

「はい。肉まん。これ美味しいよ。急に食べすぎるのは良くないから少量からね。飲み物はここに置くよ。」


「いただきます。」

 ほかほかと湯気がわきあがる肉まんにメガネが曇る。


 数十時間の空腹をパクッと1つの肉まんで一瞬で満たされた。


 心の底から美味しく感じた。



 ペットボトルに入ったあたたかいカフェオレも口の中を潤した。


「肉まんってこんなに美味しかったんだね。」



小さな肉まん一つでこんなに喜んでくれるなんて、思わなかった。


紬は涙が出るほど嬉しかった。


陸斗は紬の頭をポンっと撫でた。


紬が喜んで食べて話してることに安心しかなかった。

「食べられる幸せってあるよな。紬が戻ってくれて本当に良かった。」


肉まんを全部平らげて、少しずつカフェオレを飲みながら

「…どうして、私のこと放っておかないの?」

紬は教室のことを思い出した。誰にも話しかけられないずっと1人の空間。

なんか変だと感じたみんなは誰1人話しかけに来なかった。

陸斗は拒絶しても近寄ってきたり、歌ったり、外に連れ出したり、嫌なことしても放っておかなかった。

「どうしてそんなこと聞くの?」

紬のことをずっと彼女だと思っているのに拒絶されることは本当は恐くて逃げ出そうとした。


でも、あの時の瞬間から避けられていたことを思い出した陸斗はそうなった原因が、分かって今日のここに来ることができた。


「私が話せなくなった時からみんなが私を避けてたから、もう陸斗と話せないんだろうなって思ってた…」



「放っておけないよ。大事な彼女だもん。俺が先に事故で記憶喪失になって酷いことしたのに、紬に拒絶された時は同じくらいに嫌な気持ちになったんだろうなって思い出してた。俺,今まで拒絶されたら関わろうと思わなかったけど、紬には元気になってほしいって思うから、嫌がってても来ちゃった。ごめんね。」

 首を横に大きく振る。

 シフトレバーに置いてた左手に右手を添えた。


「ありがとう。」


指を絡めて手を繋ぐ。


何だか気持ちが元通りになった気がした。


陸斗は紬の頬に手を添えて、顔を近づけた。


お互いに目をつぶって軽くキスをした。


頬を赤らめて、ささっと体勢を元に戻した。


目の前はコンビニの電気が煌々と光って、雑誌コーナーが見えた。


誰かに見られたら恥ずかしいと思い、エンジンをつけて、車を走らせた。


紬にはにかむ笑顔が戻った。



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