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プロローグ

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―――“妹は七月五日に死にました。”

尋ねてきた人にはそう伝えてください―――。





 俺は真夏の深夜の繁華街を素っ裸で走っていた。

 スナックの蛍光色のライトが、ぼんやり明るくくすんだ居酒屋の看板が、眩い車のヘッドライトが、線になって視界の端から後方へと流れていく。

 それくらい全力疾走だった。裸足でアスファルトを駆けているせいでヒリヒリと痛む足が「これ以上走るんじゃない」と訴えかけてきている気がする。

 しかし、止まれなかった。それは別段、世界の危機が迫っているだとか、好きな女の子が襲われているだとか、そう言った理由ではない。肉親が危篤状態のために急いでその元へ駆けつけている途中だからでもない。

 単純に、警察に捕まるからな。

 もしこんなところを誰かに見つかってしまえば世間の常識に、日本のルールに則って、公然猥褻罪によって裁かれてしまう。ついでに、そんなやつは社会からも除け者にされて、社会的に死んでしまう。

 だから万が一の事も考えて、俺は人のいないであろう深夜にこんなことを試みたのだ。ネオン街を蔓延る酔っぱらいは人間には含まれないのでノーカウントだ。

 ここで一つだけ言い訳をさせて欲しいのだが、別に俺の頭がイかれちゃってるわけではないという事だけは分かっていて欲しい。

 これは簡単に言ってしまえば若気の至り的な「憧れ」みたいなもなのだ。自暴自棄なわけじゃあないぜ?

 まだ高校生にもかかわらず喉が焼けるような高い度数の酒を飲んでみたいだとか、美味くないと分かっていても煙草を吹かしてみたいだとか思うようなちょっとした世間とか常識とかからの脱出というか、そういう確固たるもののない浮ついたもんなんだ。

 ちなみに今の俺は、どうにもこうにも異世界に行ってみたかった。というか、本当にそんなもんがあるのか自分で試してみたかったのだ。んでもって何かの本で読んだその方法が「背中に自分の名前を書いて裸で川に飛び込む」っつうなんとも胡散臭いもんだった。なら飛び込む直前に脱げよって話だよな。アドレナリンの過剰分泌のせいで家を出る時にはそんな事思いつかなかったんだ。

 俺は自分がわりかし常識人だという自負はあるし、この行動がおかしい事だというのも理解している。だがしかし、試さずにはいられなかった。この頭のおかしい行動をとるほんのひと月ほど前までは普通に高校に通うどこにでもいる裸で川に飛び込む様なことはしない普通の高校生だったのにな。

 まぁ、ついひと月前まで、と言うからには今はちょっとだけ違うわけだ。

 どうやら俺は「変わり者」だったらしい。

 では、なぜそんな常識人でまともなはずだった俺が「変わり者」だなんて不名誉な二つ名を付けられたにもかかわらず、こんな奇行にはしってしまっているのか。

その理由を語るには時間を少し遡らなければなるまい。



 それは、俺みたいな血気盛んな高校生が思わず夜の町を裸で走り回るくらいのリスクを冒すくらいには刺激的なもんで、何の確証のない戯言を疑いつつも異世界転移を試してみたくなるほどの、二人の天才と一人の凡人を中心とした小説よりも奇なる事件だった。
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