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#001
宮之阪という女子
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どういう訳か、俺が通っている高校にはトイレの花子さんとか、笑う肖像画みたいな七不思議はないが、「学校の悪魔」なるうわさ話があった。
うわさの発生源は去年の冬、約半年程前からたて続けに学校で四人の生徒の自殺死体が発見された一連の事件だ。その死因は首吊りやプールの水中に重りで沈んでいたりと多種に渡っており、当時はその全てが他殺の可能性が高いとされていたのだが、その犯人は結局見つからずじまいでうやむやになって、最終的にはその誰もが自殺扱いになっていたはずだ。
ともあれ、犯人が見つかっていないだけでどこかにいるはずである、と考えるのは当然の事。そこで、そんな結果に納得なんて出来るはずのなかった好奇心旺盛な生徒達は考えた。
どこかに彼らを殺した、いや、自殺に追い込んだ犯人がいるはずだ、と。
そして、生徒たちは十代らしく刺激を求めるように、そのいるのか分からない架空の犯人に、「学校の悪魔」と名付けたのだった。
でもまぁ、トンデモ名探偵が現れないかぎりは架空の域を出そうにないただのうわさ話さ。
「さっきの授業中にも何か話してたみたいだけど、もしかしてその話かなーって」
「残念ながら。日本には登り坂と下り坂どちらが多いかの議論くらいくだらない事さ」
ちなみに同数である。
だが、それにしても宮之阪みたいな頭の良い常識的なやつがこんな都市伝説じみたうわさ話の事が気になるなんて意外だな。
「なんだってまた急にそんなことを?」
「いや、違うんだったらいいの」
宮之阪はたいして気にしていない様子で丸眼鏡のふちを一指し指の第二関節でくいと持ち上げると、
「……お話に夢中になるのはいいけど程々にしないとめっ、だよ?授業についていけなくなったら大変な事になっちゃうんだからねっ」
さっきの話は本当に興味本位での質問だったのだろう、いつもの調子に戻ると、頼んでもないのに俺の机に自分の地理のノートを置き、ついでと言わんばかりに今日ノートを取ったところを簡単に説明してくれた。お前は十年来の隣に住む幼馴染みかよ。残念ながらツインテールではないので減点だがな。
大変ありがたいことなのだが、ノートの中は美しい字が端から端までびっしりと並んでいて、まるで手書きの教科書みたいなせいで結局後から目を通すのが億劫になりそうだった。
「まさか教師が口にした言葉を一言一句書いてるんじゃないだろうな」
「そんな事ないよ?でも、重要な事だったり、考えたり思いついたりした事なんかは何でもかんでもとりあえず紙に書いておきたい質なんだよ」
そう言って胸元から取り出したメモ帳を俺たちに見せつけた。
「へぇ、試しにそっちを見してくれよ」
「これはだーめ!乙女の秘密なの!誰にも見せたりしないんだからっ」
ぷくっと頬を膨らませウインクしつつ腰に手を当て怒ったようなポーズをとる宮之阪のその一挙手一投足は、お世辞抜きでクラスの男子のほとんどを勘違いさせるのには十分なほど魅力的だった。現に、俺の目の前でデレデレと鼻の下を伸ばしているあほ面は、俺が礼を言うより先に彼女のノートを手に取って新型のゲーム機を手に入れた少年のように目をキラキラとさせていたからな。お前も必死に勉強するタイプでもないだろうが。
「ああ、そら残念だ。……ノート、ありがとな」
礼を言うと宮之阪はかわいらしく「どういたしましてっ」と言って時間でも測っていたかのように休憩終了を告げるチャイムと同時に席を立つと、去り際にウインクをひとつ飛ばして自分の席へと戻っていった。これにはさすがの俺もクラっと来ちまったぜ。
「いやぁ~、まーじで可愛いよなぁお嬢。俺なんか話すのも恐れ多いぜ。あの胸、あの尻!タレ目に涙ボクロに眼鏡っつーのもなんかもー、大人っぽい色気もあってこう、たまんねぇよな!牛丼で言ったらねぎマシつゆだく半熟卵のせだぜ!」
「アホ言うな」
それには大きく賛同するが、この下品な会話を誰かに聞かれているかもしれないので俺は同意する代わりに枚方にゲンコツ一つ食らわしてノートを奪い返すと、もう一度宮之阪に頭をさげておいた。まったくアニメキャラみたいな絵に描いたようなやつだ。
「おい見ろよ、俺に向かって手を振ってるぜ!」
お前はもう一生勘違いしてろよ。
うわさの発生源は去年の冬、約半年程前からたて続けに学校で四人の生徒の自殺死体が発見された一連の事件だ。その死因は首吊りやプールの水中に重りで沈んでいたりと多種に渡っており、当時はその全てが他殺の可能性が高いとされていたのだが、その犯人は結局見つからずじまいでうやむやになって、最終的にはその誰もが自殺扱いになっていたはずだ。
ともあれ、犯人が見つかっていないだけでどこかにいるはずである、と考えるのは当然の事。そこで、そんな結果に納得なんて出来るはずのなかった好奇心旺盛な生徒達は考えた。
どこかに彼らを殺した、いや、自殺に追い込んだ犯人がいるはずだ、と。
そして、生徒たちは十代らしく刺激を求めるように、そのいるのか分からない架空の犯人に、「学校の悪魔」と名付けたのだった。
でもまぁ、トンデモ名探偵が現れないかぎりは架空の域を出そうにないただのうわさ話さ。
「さっきの授業中にも何か話してたみたいだけど、もしかしてその話かなーって」
「残念ながら。日本には登り坂と下り坂どちらが多いかの議論くらいくだらない事さ」
ちなみに同数である。
だが、それにしても宮之阪みたいな頭の良い常識的なやつがこんな都市伝説じみたうわさ話の事が気になるなんて意外だな。
「なんだってまた急にそんなことを?」
「いや、違うんだったらいいの」
宮之阪はたいして気にしていない様子で丸眼鏡のふちを一指し指の第二関節でくいと持ち上げると、
「……お話に夢中になるのはいいけど程々にしないとめっ、だよ?授業についていけなくなったら大変な事になっちゃうんだからねっ」
さっきの話は本当に興味本位での質問だったのだろう、いつもの調子に戻ると、頼んでもないのに俺の机に自分の地理のノートを置き、ついでと言わんばかりに今日ノートを取ったところを簡単に説明してくれた。お前は十年来の隣に住む幼馴染みかよ。残念ながらツインテールではないので減点だがな。
大変ありがたいことなのだが、ノートの中は美しい字が端から端までびっしりと並んでいて、まるで手書きの教科書みたいなせいで結局後から目を通すのが億劫になりそうだった。
「まさか教師が口にした言葉を一言一句書いてるんじゃないだろうな」
「そんな事ないよ?でも、重要な事だったり、考えたり思いついたりした事なんかは何でもかんでもとりあえず紙に書いておきたい質なんだよ」
そう言って胸元から取り出したメモ帳を俺たちに見せつけた。
「へぇ、試しにそっちを見してくれよ」
「これはだーめ!乙女の秘密なの!誰にも見せたりしないんだからっ」
ぷくっと頬を膨らませウインクしつつ腰に手を当て怒ったようなポーズをとる宮之阪のその一挙手一投足は、お世辞抜きでクラスの男子のほとんどを勘違いさせるのには十分なほど魅力的だった。現に、俺の目の前でデレデレと鼻の下を伸ばしているあほ面は、俺が礼を言うより先に彼女のノートを手に取って新型のゲーム機を手に入れた少年のように目をキラキラとさせていたからな。お前も必死に勉強するタイプでもないだろうが。
「ああ、そら残念だ。……ノート、ありがとな」
礼を言うと宮之阪はかわいらしく「どういたしましてっ」と言って時間でも測っていたかのように休憩終了を告げるチャイムと同時に席を立つと、去り際にウインクをひとつ飛ばして自分の席へと戻っていった。これにはさすがの俺もクラっと来ちまったぜ。
「いやぁ~、まーじで可愛いよなぁお嬢。俺なんか話すのも恐れ多いぜ。あの胸、あの尻!タレ目に涙ボクロに眼鏡っつーのもなんかもー、大人っぽい色気もあってこう、たまんねぇよな!牛丼で言ったらねぎマシつゆだく半熟卵のせだぜ!」
「アホ言うな」
それには大きく賛同するが、この下品な会話を誰かに聞かれているかもしれないので俺は同意する代わりに枚方にゲンコツ一つ食らわしてノートを奪い返すと、もう一度宮之阪に頭をさげておいた。まったくアニメキャラみたいな絵に描いたようなやつだ。
「おい見ろよ、俺に向かって手を振ってるぜ!」
お前はもう一生勘違いしてろよ。
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