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#007
真相3
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……あら、そこまで分かってたのね。意外だわ。誰の入れ知恵かしら。
「……まあ、いいわ。だって彼ら、生徒を虐めてたのよ?特に何かしたというわけでもないのに」
それを「悪」と呼ばずして何と呼ぶのかしら。
私がそう言うと天野ヶ原君は複雑な面持ちで、
「……やっぱりそうか。あまりにいじめがピタッと止まったもんだからおかしいと思ったんだ。つまるところお前は偽者だけでなく、学校で悪さをした普通の人間も殺していたわけだ。確かに死体になりゃ偽者か人間かなんて俺たちにはわからないもんな。だが、だからって殺す事もなかっただろ」
「なぜか私が攻められてるみたいだけど、殺したという言い方が良くないのかもしれないわね。そうね、間引いた、裁いたのよ」
悪人を排除する。これ以上に正しい事なんてないでしょう。
私がそう言うと、天野ヶ原君は少し目を伏せて、
「……いや、たぶんだがお前がやってることは間違っちゃいないんだろうな。罪を犯した者は罰を受ける。それ事態は何も間違っちゃいない」
「そうでしょ?なら、私こそ聞きたいわね、どうしてそれを理解しているあなたもまた私の方を悪者だと決めつけて捕まえようとするのか」
なぜ気が付いていて見て見ぬふりをする人間ばかりのこの世界で、唯一向き合った私を、何もできないあなたが。
答えようによってはあなたを生かしてあげる。
「……私が死んだと勘違いしたまま、死んでいないと気付いても放っておけばよいものを、どうして?」
「そりゃお前……」
天野ヶ原君は何とも気味の悪い笑顔でこう言った。
「―――俺も変わり者らしいからな」
そして、天野ヶ原君は大きく叫んだ。
「すまん!ヘルプだ!」
次の瞬間、突風かと思う程のスピードで私の方へ何かが接近し、その脚力をもって私を天野ヶ原君の上から蹴り飛ばした。咄嗟に腕でガードしたものの、骨が軋むほどの鋭く重い蹴り。
私は屋上の手すりにつかまり身体を起こすと、蹴りを繰り出したその少女の方を見る。
「……へえ、良いセンスしてるわね。あなた、名前は?」
「ははっ、俺の妹だぜ?最終兵器だ」
「全然似てないわね……っ」
だが、まだ甘い。力は強くとも取ってつけた様な武術である事には変わりない。私はフードを取りスニーカーを脱ぎ捨てると、ひとっ飛びで少女に接近、パンチに合わせて上体を反らせてその場でくるりと反転、後ろ回し蹴りでお返しにと少女を蹴り飛ばした。
「鳩尾にまともに入ったわ。小一時間起きれないと思う」
「おいおいマジかよ……」
残念ながら交渉決裂。あなたも殺さなくてはいけなくなってしまったわ。
私は鈍い痛みの残る腕を摑みながら、天野ヶ原君の方へと歩みを進める――――
「―――なーんてな」
頭のすぐ後ろでなった引き金が引かれる音にハッと息を飲んだ。
一瞬、どこか―――――懐かしい匂いがした。
「すまんなユウキ、俺は俺自身が何より弱い事を知ってるんだ。だから大人に頼らせてもらった。情けない事にな」
天野ヶ原君はそれから私の後ろで私に銃を突きつける人にも目だけで「すんません」と謝った。
「……まだ負けてないッ」
銃の射線から素早く身を躱し、反転、ひじうちを試みる。だが、私以上のスピードでそれを素早く裁くと、私が天野ヶ原君にした様に地面に組み伏せられてしまった。
「……っ」
なぜ私がこんな風に組み伏せられているというの。
「……私の何が悪いっていうの……」
何が悪かったの。
どうして正しいはずの私がこんな目に合っているの。ただ、世界を救う為に誰もやらない、やりたがらない事をしただけなのに。
私が拘束され秘密裏な護送の為か目隠しをされる中、天野ヶ原君がかすれた声で言う。
「もう少し他に何かやり方があったんじゃあないか?何も殺さなくたって良かったはずだ」
「……人間の性格なんてそうそう変わりはしない。一度した人間は必ずもう一度する。だから殺すのが一番効率が良かったのよ」
「罪の意識がなかったわけじゃないんだろ?だから、宮之阪を殺した。あいつが、その死体が―――――」
―――人間かKかを見分ける方法を知っていた”から
一呼吸おいて、
「自分がしていることが『人殺し』であると自分自身で分かっていたからこそ、お前は何の罪のない宮之阪を殺したんだ」
天野ヶ原君は続けて言った。
「なあ、ユウキ。そうなったらもう、お前はヒーローなんかじゃない。救世主でもないし、学校の悪魔でもない。……ただの殺人鬼だ」
「……。」
“あなたもわかってくれないのね”
口に布を噛まされて、私はそれに上手く言い返せなかった。
「……まあ、いいわ。だって彼ら、生徒を虐めてたのよ?特に何かしたというわけでもないのに」
それを「悪」と呼ばずして何と呼ぶのかしら。
私がそう言うと天野ヶ原君は複雑な面持ちで、
「……やっぱりそうか。あまりにいじめがピタッと止まったもんだからおかしいと思ったんだ。つまるところお前は偽者だけでなく、学校で悪さをした普通の人間も殺していたわけだ。確かに死体になりゃ偽者か人間かなんて俺たちにはわからないもんな。だが、だからって殺す事もなかっただろ」
「なぜか私が攻められてるみたいだけど、殺したという言い方が良くないのかもしれないわね。そうね、間引いた、裁いたのよ」
悪人を排除する。これ以上に正しい事なんてないでしょう。
私がそう言うと、天野ヶ原君は少し目を伏せて、
「……いや、たぶんだがお前がやってることは間違っちゃいないんだろうな。罪を犯した者は罰を受ける。それ事態は何も間違っちゃいない」
「そうでしょ?なら、私こそ聞きたいわね、どうしてそれを理解しているあなたもまた私の方を悪者だと決めつけて捕まえようとするのか」
なぜ気が付いていて見て見ぬふりをする人間ばかりのこの世界で、唯一向き合った私を、何もできないあなたが。
答えようによってはあなたを生かしてあげる。
「……私が死んだと勘違いしたまま、死んでいないと気付いても放っておけばよいものを、どうして?」
「そりゃお前……」
天野ヶ原君は何とも気味の悪い笑顔でこう言った。
「―――俺も変わり者らしいからな」
そして、天野ヶ原君は大きく叫んだ。
「すまん!ヘルプだ!」
次の瞬間、突風かと思う程のスピードで私の方へ何かが接近し、その脚力をもって私を天野ヶ原君の上から蹴り飛ばした。咄嗟に腕でガードしたものの、骨が軋むほどの鋭く重い蹴り。
私は屋上の手すりにつかまり身体を起こすと、蹴りを繰り出したその少女の方を見る。
「……へえ、良いセンスしてるわね。あなた、名前は?」
「ははっ、俺の妹だぜ?最終兵器だ」
「全然似てないわね……っ」
だが、まだ甘い。力は強くとも取ってつけた様な武術である事には変わりない。私はフードを取りスニーカーを脱ぎ捨てると、ひとっ飛びで少女に接近、パンチに合わせて上体を反らせてその場でくるりと反転、後ろ回し蹴りでお返しにと少女を蹴り飛ばした。
「鳩尾にまともに入ったわ。小一時間起きれないと思う」
「おいおいマジかよ……」
残念ながら交渉決裂。あなたも殺さなくてはいけなくなってしまったわ。
私は鈍い痛みの残る腕を摑みながら、天野ヶ原君の方へと歩みを進める――――
「―――なーんてな」
頭のすぐ後ろでなった引き金が引かれる音にハッと息を飲んだ。
一瞬、どこか―――――懐かしい匂いがした。
「すまんなユウキ、俺は俺自身が何より弱い事を知ってるんだ。だから大人に頼らせてもらった。情けない事にな」
天野ヶ原君はそれから私の後ろで私に銃を突きつける人にも目だけで「すんません」と謝った。
「……まだ負けてないッ」
銃の射線から素早く身を躱し、反転、ひじうちを試みる。だが、私以上のスピードでそれを素早く裁くと、私が天野ヶ原君にした様に地面に組み伏せられてしまった。
「……っ」
なぜ私がこんな風に組み伏せられているというの。
「……私の何が悪いっていうの……」
何が悪かったの。
どうして正しいはずの私がこんな目に合っているの。ただ、世界を救う為に誰もやらない、やりたがらない事をしただけなのに。
私が拘束され秘密裏な護送の為か目隠しをされる中、天野ヶ原君がかすれた声で言う。
「もう少し他に何かやり方があったんじゃあないか?何も殺さなくたって良かったはずだ」
「……人間の性格なんてそうそう変わりはしない。一度した人間は必ずもう一度する。だから殺すのが一番効率が良かったのよ」
「罪の意識がなかったわけじゃないんだろ?だから、宮之阪を殺した。あいつが、その死体が―――――」
―――人間かKかを見分ける方法を知っていた”から
一呼吸おいて、
「自分がしていることが『人殺し』であると自分自身で分かっていたからこそ、お前は何の罪のない宮之阪を殺したんだ」
天野ヶ原君は続けて言った。
「なあ、ユウキ。そうなったらもう、お前はヒーローなんかじゃない。救世主でもないし、学校の悪魔でもない。……ただの殺人鬼だ」
「……。」
“あなたもわかってくれないのね”
口に布を噛まされて、私はそれに上手く言い返せなかった。
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