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学校編
奇跡
奇跡だ。封書を破いて中身を見た瞬間、シズはそう思った。
「ジャモン! ジャモンジャモンジャモン! ジャモン! 」
キミドリアパートの入り口にあるポストから叫びながら、シズは階段を駆け上がる。そしてミズイロドアを開け放ち台所で洗い物をしていたジャモンに合格通知を見せた。
「合格だ! 合格した! 」
ジャモンはきょとんとし、合格通知をじっと見ると理解できたのか泡だらけの手を上にあげた。
「やったじゃないかシズ! 」
泡だらけのままでジャモンを抱きしめた。泡で服が汚れることもジャモンの贅肉で締め付けられることも、シズは全然気にならなかった。実技は手ごたえがあったが筆記はもう無意味なんじゃないかっていうぐらい何もできなかったので、シズは不合格を覚悟していた。そのことをジャモンにも話していた。落ちたら探偵事務所でもなんでも屋でもやってカーネスを捜そうという案も出していた。金ならあるからそれで、がたいのいい従業員を雇えはどうにかなるんじゃないかと話していた。それも面白そうだったとシズは思った。
「バリミアに電話しないと」
先々週ひいたばかりの電話でシズはバリミアに連絡をした。合格したと言えば、嘘でしょと言われた。シズもそう思った。けどよかった、とバリミア喜んだ。バリミアは勿論合格だった。しかも次席だ。
「じゃあ今度一緒に買い物にいきましょう」
「買い物?」
「九月から寮生活でしょ? 色々買いそろえなきゃ。教科書もペタの本屋に予約しておかなくちゃ」
「え、教科書自分で買いに行くの? 」
「シズちゃんと合格通知と一緒に入ってた書類読んだ?」
「まだ」
床に放り投げられた封書をシズは見下ろした。合格通知にしか意識がいってなかった。
「一日じゃ買い物終わらないわね。ホテルとらなきゃ」
「それならうち泊まれば?」
「いいの? 」
シズがジャモンに聞くと快く承諾した。バリミアはキミドリアパートに二泊することになった。八月の上旬にと約束をして電話を切った。
「このアパートここ以外の部屋使ってないしね。隣の部屋でも使って貰おう」
「掃除しないとな」
ジャモンと隣の部屋を見に行く。やはり中身は荒れ放題でふたりで部屋を綺麗にした。掃除をしながらジャモンがアパートの部屋全部綺麗にして、アパート経営しようかと言い出した。どうやらこのアパート自体がジャモンの持ち物になっているらしい。大家になっているということだった。
「お金があるから働かなくてもいいんだけど、暇なんだよね。一年ぐらいかけてリフォームするのもいいかもね。キッチンとかバス周り僕らの部屋のもだけど大分傷んでるし」
「ジャモン、大工とかできるのか? 」
「親父は大工だったよ。若いころ手伝っていたこともある。手先は器用なんだ。器用貧乏って奴だよ」
ジャモンは照れたように笑った。それからふたりでどうにかバリミアが泊まれる部屋にして、シズは教材の予約や買うものリストなどを作ったり、身体を鍛えたりと慌ただしい毎日を過ごした。そうすればあっという間にバリミアがペタに来る日がやってきた。
鉄道でくるバリミアをシズは改札前でオレンジのアイスキャンディーを食べながら待っていた。
「シズ! 」
改札からの人ごみを抜けてバリミアがトランクを抱えて走ってきた。
「迎えにきてくれてありがとう」
「いいえ。けど今日本当に暑いな」
じっとしているだけで額や腕から汗が流れてくる。
「本当にね。蒸発しそう」
バリミアはかぶっていた帽子をとるとそれで顔を仰いだ。そしてアシスは受かったのかと聞かれたが分からないと首を振った。アシスとは連絡先を交換しなかった。けれどあの怪力で落ちるとはシズは思えなかった。入学式できっと会えるだろうとシズトバリミアは話した。とりあえず一度キミドリアパートにバリミアの荷物を置きに戻った。
「アパート経営してるんだ。てっきりシズの部屋で寝ると思ってたから。バスルームもここの使っていいの?」
「いいよ。水道も電気もガスも出るようになってる。けどご飯はジャモンが作ってくれるからうちに来て」
雑貨屋で買ってきていたポットとコップも使うようにシズは言った。
「ジャモンさんってシズの親戚とか? 」
「いや、赤の他人。保護者になってくれてる。私、親いないから」
「あ、ごめん」
バリミアが申し訳なさそうな顔をした。
「いや、気にすんな」
本当はいる。今頃母さんと父さんなにしてるうだろう。心配はきっとしてくれてる。ちゃんと寝れているんだろうか。そんなことを考え、シズは自然にため息が出た。
「今日は教材とか買いにいきましょう。生活に必要なのは明日」
バリミアが空気を変えるためか明るい声で話を切り替えた。シズは親のことはそこで考えるのをやめた。
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