33 / 49
悪役令嬢が××××××××× 1
しおりを挟む
――創立記念パーティー。
毎年三月の初旬に行われるそれは、学年末に行われる訳ではないものの、シルヴィア王国におけるプロムのようなものだ。卒業を控える高学年は大体の者が婚約しているということ、婚約者が学園にいないということもあり、高学年の学生はダンスを踊らない人もいるが、雰囲気はよく似ているのではないかと思う。いや、一年生や二年生もパートナーを見つけて踊ることができるようになっているらしいので、大規模な貴族の舞踏会をややフランクにしたもの、と表現する方が正確かもしれない。また、
毎年陛下や高級官吏たちが顔を出すため、特に貴族階級でない特待生たちにとっては、よりよい就職先を探すための足がかりイベントとしても機能しているそうだ。……まあ、今年ばかりは陛下はここにはいらっしゃらないだろうが。
(やっぱり、ハインツ殿下が死んでしまうのは創立記念パーティーが終わって、そう時間も経たないうちなんだろうな……)
わたしは今朝届いた、零課からの通信の内容を思い出して、大きく溜息をついた。
――二月も半ば。残す懸念もそのままに、創立記念パーティー直前の一斉学力試験が終わったばかりで、わたしはたった今ハンナと共に今回の成績を見に行ったところだった。
成績は狙った通り、成績上位者の最下層を取得することができた。気を緩められない時期が続いて気が滅入っていたが、テストで少し気分を入れ替えることができたことに関してはよかったかもしれない。ちなみに、クルトもいつもの通り、シャルロットに次いで二位であった。
……ただ。
「素晴らしいですわ、ハンナ。おめでとう」
「まあ! ユリア様、ありがとうございます。光栄ですわ!」
今回は、ハンナも成績上位者の表の中に名前が入ったのだった。
わたしが褒めると、ハンナはとても嬉しそうに頬を染め、弾んだ声でお礼を言った。目は子どものようにきらきらと輝いていてとても眩しく、そして可愛らしい。
ハンナはあまり勉強が得意ではなく――それこそ侯爵令嬢として、淑女教育を優先されられていたからだ――今まで一度も成績上位者の一覧表に名前が載ったことがなかった。
しかし、彼女は今回、とても力を入れて勉強をしていた。わたしもそれに協力したが、時にクルトや他の同級生の優秀者たちからも自分から助言を貰いにいっていたくらいに、努力していた。
彼女がこれほどまでに、頑張っていた理由とは――、
「創立記念パーティーでレオナルド様と踊るのですもの、あの方の隣に立って恥ずかしくないくらいの賢さでなければならないと思って、わたくし必死に頑張っておりました。ですから、目標が達成できて本当に嬉しいですわ!」
「……ええ」
わたしは頷き、目を細める。
そう、彼女がずっと努力をしていたのは、創立記念パーティーでパートナーを務める自身の婚約者に恥じない自分になるためだったのだ。
……わたしとしては、正直なところ、レオナルド・ティガーはやめておいた方がいいんじゃないかというのが本音だ。生徒会室に呼び出された時の様子を見たため、彼はハンナに相応しい器量を持った殿方ではないと、わたしはそう思っている。ハンナは貴族以外には少し高飛車なところがあるが、努力家で、一途ないい子だ。探せばもっといい人が見つかるはずだ。
そもそも婚約者がいるにも関わらず、他の女に入れ上げている男など、現代日本の乙女の感性としては論外である。
(でも、ハンナ本人がレオナルドのことを本当に好きなんだよね……)
で、あるならば。……非常に不本意ではあるが、口出しをするのは野暮だろう。
それに、婚約者の問題は正直、わたしもあまり他人事ではない。ウィンターホリデー前の生徒会室での一件以来、わたしはハインツ殿下に完全に無視されている。
もう諸々面倒なので、『インアビ』のシナリオをぶち壊すという意味でも、わたしから婚約破棄してやろうか。……まあ無理なんだけれども。
「……アイリーン様にも、報告したかったですわ。大丈夫なのかしら、お身体の具合は」
「ええ……心配ですわね」
ハンナが眉尻を下げ、成績上位者の一覧表を見上げる。いつもは真ん中あたりにあるアイリーン・ノールの名前は、どこを探してもない。
……アイリーンは、あの後憲兵総局に引き渡した。ノール伯爵家も近いうちに取り潰しになるだろう。ノールが繋がっていたディーヴァルドには波が立たない可能性が高いようだったので、やはり彼女もノール伯爵家も蜥蜴の尻尾であったのだ。
ボスには一応、彼女の助命嘆願をしておいた。ボスにも、そしてもちろんアイリーンを担当する判事にも聞き入れてもらえるかどうかはわからないが、少しでも彼女の罪が軽くなればと思う。
「ユリア」
ふと、後ろから声を掛けられた。成績上位者の表の周りにいた令嬢たちが、きゃあと黄色い声を上げる。
振り向くと、後ろには兄が立っていた。
「お兄様、ごきげんよう」
「少し話がある。来てもらえるかな」
そう言う兄の表情は、少し固い。……一体何の用だろう。
「ハンナさん、申し訳ないのですけれど……」
「ええユリア様、わたくしのことなどお気になさらず、行ってらっしゃいませ。わたくしは先に教室に戻っておりますわ」
「ありがとう」
すぐにこちらの言いたいことを察してくれる友人に、わたしは少し笑ってお礼を言った。……いつもなら、彼女の隣にアイリーンがいるのだが、今はいない。
それを少し寂しく思いつつ、わたしは「場所を変えよう」と言って歩き出した兄について行った。
毎年三月の初旬に行われるそれは、学年末に行われる訳ではないものの、シルヴィア王国におけるプロムのようなものだ。卒業を控える高学年は大体の者が婚約しているということ、婚約者が学園にいないということもあり、高学年の学生はダンスを踊らない人もいるが、雰囲気はよく似ているのではないかと思う。いや、一年生や二年生もパートナーを見つけて踊ることができるようになっているらしいので、大規模な貴族の舞踏会をややフランクにしたもの、と表現する方が正確かもしれない。また、
毎年陛下や高級官吏たちが顔を出すため、特に貴族階級でない特待生たちにとっては、よりよい就職先を探すための足がかりイベントとしても機能しているそうだ。……まあ、今年ばかりは陛下はここにはいらっしゃらないだろうが。
(やっぱり、ハインツ殿下が死んでしまうのは創立記念パーティーが終わって、そう時間も経たないうちなんだろうな……)
わたしは今朝届いた、零課からの通信の内容を思い出して、大きく溜息をついた。
――二月も半ば。残す懸念もそのままに、創立記念パーティー直前の一斉学力試験が終わったばかりで、わたしはたった今ハンナと共に今回の成績を見に行ったところだった。
成績は狙った通り、成績上位者の最下層を取得することができた。気を緩められない時期が続いて気が滅入っていたが、テストで少し気分を入れ替えることができたことに関してはよかったかもしれない。ちなみに、クルトもいつもの通り、シャルロットに次いで二位であった。
……ただ。
「素晴らしいですわ、ハンナ。おめでとう」
「まあ! ユリア様、ありがとうございます。光栄ですわ!」
今回は、ハンナも成績上位者の表の中に名前が入ったのだった。
わたしが褒めると、ハンナはとても嬉しそうに頬を染め、弾んだ声でお礼を言った。目は子どものようにきらきらと輝いていてとても眩しく、そして可愛らしい。
ハンナはあまり勉強が得意ではなく――それこそ侯爵令嬢として、淑女教育を優先されられていたからだ――今まで一度も成績上位者の一覧表に名前が載ったことがなかった。
しかし、彼女は今回、とても力を入れて勉強をしていた。わたしもそれに協力したが、時にクルトや他の同級生の優秀者たちからも自分から助言を貰いにいっていたくらいに、努力していた。
彼女がこれほどまでに、頑張っていた理由とは――、
「創立記念パーティーでレオナルド様と踊るのですもの、あの方の隣に立って恥ずかしくないくらいの賢さでなければならないと思って、わたくし必死に頑張っておりました。ですから、目標が達成できて本当に嬉しいですわ!」
「……ええ」
わたしは頷き、目を細める。
そう、彼女がずっと努力をしていたのは、創立記念パーティーでパートナーを務める自身の婚約者に恥じない自分になるためだったのだ。
……わたしとしては、正直なところ、レオナルド・ティガーはやめておいた方がいいんじゃないかというのが本音だ。生徒会室に呼び出された時の様子を見たため、彼はハンナに相応しい器量を持った殿方ではないと、わたしはそう思っている。ハンナは貴族以外には少し高飛車なところがあるが、努力家で、一途ないい子だ。探せばもっといい人が見つかるはずだ。
そもそも婚約者がいるにも関わらず、他の女に入れ上げている男など、現代日本の乙女の感性としては論外である。
(でも、ハンナ本人がレオナルドのことを本当に好きなんだよね……)
で、あるならば。……非常に不本意ではあるが、口出しをするのは野暮だろう。
それに、婚約者の問題は正直、わたしもあまり他人事ではない。ウィンターホリデー前の生徒会室での一件以来、わたしはハインツ殿下に完全に無視されている。
もう諸々面倒なので、『インアビ』のシナリオをぶち壊すという意味でも、わたしから婚約破棄してやろうか。……まあ無理なんだけれども。
「……アイリーン様にも、報告したかったですわ。大丈夫なのかしら、お身体の具合は」
「ええ……心配ですわね」
ハンナが眉尻を下げ、成績上位者の一覧表を見上げる。いつもは真ん中あたりにあるアイリーン・ノールの名前は、どこを探してもない。
……アイリーンは、あの後憲兵総局に引き渡した。ノール伯爵家も近いうちに取り潰しになるだろう。ノールが繋がっていたディーヴァルドには波が立たない可能性が高いようだったので、やはり彼女もノール伯爵家も蜥蜴の尻尾であったのだ。
ボスには一応、彼女の助命嘆願をしておいた。ボスにも、そしてもちろんアイリーンを担当する判事にも聞き入れてもらえるかどうかはわからないが、少しでも彼女の罪が軽くなればと思う。
「ユリア」
ふと、後ろから声を掛けられた。成績上位者の表の周りにいた令嬢たちが、きゃあと黄色い声を上げる。
振り向くと、後ろには兄が立っていた。
「お兄様、ごきげんよう」
「少し話がある。来てもらえるかな」
そう言う兄の表情は、少し固い。……一体何の用だろう。
「ハンナさん、申し訳ないのですけれど……」
「ええユリア様、わたくしのことなどお気になさらず、行ってらっしゃいませ。わたくしは先に教室に戻っておりますわ」
「ありがとう」
すぐにこちらの言いたいことを察してくれる友人に、わたしは少し笑ってお礼を言った。……いつもなら、彼女の隣にアイリーンがいるのだが、今はいない。
それを少し寂しく思いつつ、わたしは「場所を変えよう」と言って歩き出した兄について行った。
0
あなたにおすすめの小説
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ
あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。
その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。
敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。
言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。
悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!
ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」
特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18)
最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。
そしてカルミアの口が動く。
「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」
オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。
「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」
この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜
白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。
私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。
けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?
関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。
竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。
『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』
❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。
*乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。
*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
*いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。
*他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
婚約破棄されたスナギツネ令嬢、実は呪いで醜くなっていただけでした
宮之みやこ
恋愛
細すぎる一重の目に、小さすぎる瞳の三百眼。あまりの目つきの悪さに、リュシエルが婚約者のハージェス王子に付けられたあだ名は『スナギツネ令嬢』だった。
「一族は皆美形なのにどうして私だけ?」
辛く思いながらも自分にできる努力をしようと頑張る中、ある日ついに公の場で婚約解消を言い渡されてしまう。どうやら、ハージェス王子は弟のクロード王子の婚約者であるモルガナ侯爵令嬢と「真実の愛」とやらに目覚めてしまったらしい。
(この人たち、本当に頭がおかしいんじゃないのかしら!?)
【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】
暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」
高らかに宣言された婚約破棄の言葉。
ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。
でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか?
*********
以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。
内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる