追放令息と進む傭兵の道。

猫科 類

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イヴェリス族国とストルエーセン王国ヴァンディエム領の国境付近。



領都を囲む森を抜け、短い草地を抜けれるとひたすらに荒野となる。

そして、荒野を進み続けると、しだいに岩と土だらけの細い山道となる。



荒野と山道はダラダラとした坂になっており、イヴェリス族国の国境付近になると、標高も平地よりはかなり高くなり、時には岩と岩とが重なり合う場所を越えていかなくてはならない。



見上げる先は高く垂直に近い崖。

この崖を横に、足場の悪い山道を進まなくてはならない。

その代わり、このそびえ立つ崖がイヴェリス族国戦士の侵入を阻んでくれる。

この高さと角度の崖を降りるのは難しい。

同時に、この崖を越えられないストルエーセン王国兵もイヴェリス族国へ侵入することは難しい。



それ故か、両国暗黙としてこの山岳部は不可侵状態となっている。



そんな崖に肩を寄せつつ、二つの国の国境を越えたり戻ったりしながら、少しでも歩きやすい場所を選んで慎重に進む。

馬に乗りながら進める場所は無く、馬を降りて手綱を引いて歩く。

足場の悪さに怯える馬を宥めながら進む場所ばかり。

大小様々な石や岩がゴロゴロと転がる道を慎重に、しかし、可能な限り速やかに進む。

このような足場では馬が怪我をしかねないし、太陽の光が有るとはいえ、昼を過ぎれば周囲の気温は瞬く間に下がっていく。そして、暗くなれば足元が危なくて動くことは難しい。





余談だが、イヴェリス族国は女王が統治する山岳国家。

山脈の中腹から上とその頂きを越えた先を統治している。

イヴェリス族国の中心都市はまだまだ高い山の頂きにある。

だからこそ、攻められにくい。

イヴェリス族国の者にとっては国境沿いの、今登っている小山など、山どころか丘でもなく、単なる坂道なのだろうな……





この世界にも四季は有る。

ストルエーセン王国は比較的年中気温差がない国。

しかし、イヴェリス族国は王国とは違い、標高的な意味合いでも気温差が激しい。

天気の変化も、だ。

前世で山登りが趣味の同僚が、山の天気は変わりやすい、と言っていたのを思い出す。





「カリアン。そろそろコートを羽織ってください。」

「まだ大丈夫だ。」

「…、すぐにもっと下がります。冷えてからでは遅い…」

私はマントの下でゴソゴソモゾモゾしながら、いそいそとコートを羽織る。



フード付きの皮マントは蝋でコーティングしてあり、多少の雨には対応できるが、所詮は薄皮一枚。

防寒までは期待できない。



なので防寒用にコートが必要となってくる。

コートの外側素材は厚手の布地。

首元と背中、七分袖の袖口の内側に岩飛兎という鋭い爪と角のある中型犬ほどの大きさの茶色い毛がフワッフワの兎型魔獣の毛皮を縫い付けてある。

防水はマントがなんとかしてくれるので、コートにはあえて蝋コーティングはしていない。



それに袖を通し、前綴じをしっかり止める。

首元は特に念入りに、足元は足捌きに支障が無いよう今は閉めない。

コートの厚み分、マントの首元の留め具を緩める。



チラリとカリアンに視線を向けると、渋々だがコートを取り出していた。

彼のはマント状のコート。

こちらも、首元と内側に出来得る限りに岩飛兎の毛皮を敷き詰めてある。

彼のマントタイプのコートは前を全て閉じても腕を出せるように2箇所のスリットを作ってある。

スリットからの寒風侵入を防ぐため、そちらにも毛皮を付けてある。





王国では、イヴェリス族国との国境沿いの、それも最前線に居なければ必要のない装備品の一つが防寒具としてのコートだ。

小競り合いになる国境付近は王国内では最も標高が高い。

故に、南部にある王都などと比べて非常に寒い。

寒気が酷い時は雪が降る。

王都や、更に向こうの地で生まれ育った王国民は雪など見たこないだろう。

援軍に来た部隊や南の方が出身の騎士など、ミゾレやアラレが降っただけで良くも悪くも外聞はばからず大騒ぎし、何度落ち着くよう声を荒げる羽目になったことか……



もちろん、王国にも冬と呼ばれる季節はある。

しかし、いつもより寒い程度。厚手の服やマント、皮のコートを一枚余計に羽織る程度だ。

では、この気温差激しい国境付近では今までどうしてたのか?

国境警備着任当時に古参の騎士に聞いけば、その答えは戦線を下げ、火を炊いて暖を取りしのいでいた、そうだ……



それを知った日から、私は国境警備の合間に狩りに勤いそしんだ。

山岳部から降りて来た岩飛兎を狩りまくり、毛皮を剥ぎ、洗い、乾かし、縫い合わせ、そして作り上げたのが、今、私とカリアンが来ている2着のコート。







なぜコートを作れるのか?

それはーー【錬金術師】というなんとも万能な《職業》を保持しているから。





【錬金術師】という職業は、多種多様な自作アイテムを使って、回復や補助、たまに攻撃や防御を行う支援職。

この職業の特徴はなんと言っても多種多様なアイテムを自作できることだろう。

アイテムが自作ということは、買わなくても良い。

職種レベルによっては販売されている物よりも質の良い物を作ることができる。

そのアイテムによる支援はかなり有益だ。

そして、売ればお金になるのも有り難い。



しかし、【錬金術師】がコート……



と、思うだろう。

手に入れた『初級錬金術指南書』には、回復薬やポーションの作り方だけでなく、少なからず衣類や食べ物の作り方も載っていた。

自作したマジックアイテムをそれらに付与することにより、さらなるマジックアイテムとなる為だ。



例えるなら、クッキー+ポーション=回復クッキーみたいな。





私は、そんな便利な【錬金術師】の職種スキルを使いアイテムを作った。

そう!!この2着のコートを!!





思い出す………

攻めてきたイヴェリス族国戦士の戦力が、たいしたことないのを良いことに、カリアンへ敵を誘導し、カリアンが相手をしている間にイヴェリス族国内の岩飛兎をちゃっかりこっそりガッツリ狩らせてもらったなぁ……

途中でイヴェリス族国の女戦士に見つかって憐れまれたなぁ……

毛皮を剥いだ後の肉を差し出すことで見なかったことにしてもらったなぁ………

……ナイショだけどなぁ……

因みに、狩った岩飛兎の肉は毎回煮込んだり焼いたりして食べた。

無駄にはしていない。



では、なぜ【錬金術師】という《職種》を私が持っているのかーー





転生、転移物ではよくある展開だ。

《チートスキル》《加護》《祝福》ナドナドナドーー



ソレが私にもあったのだ。

《全職種取得》

コレが私の《チート》。


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