追放令息と進む傭兵の道。

猫科 類

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イヴェリス族国の戦士に見送られ見送られ見逃され、荒野を駆ける。
詰めていた息を吐き出し、馬の脚を少しだけ緩める。

「おい!」

カリアンに声をかけられ、吐き出した息と共に落とした視線を馬の背からカリアンに向ける。

振り返る彼の眉間にはかなり深い皺が……



「イヴェリスの扱いなんざ!今更だろうが!もう少しでしなくてもいい殺し合いをするとこだったんだぞ!」

「…すみません…」

「くそ!!」

カリアンは距離を取るかの様に馬の脚を緩めることをしなかった。





ストルエーセン王国での人生の半分程はイヴェリス族国の戦士と接したきたというのに……

あのまま武器を手にし、ましてや威嚇だとしても攻撃をしていたら…… 

………今頃、ただでは済んでいなかっただろう……



カリアンの苛立ちもわかる上に、私自身も冷静さを欠いていたと理解している為、反論など無い。

ただただ、自身の未熟さを反省するだけだ……

前世四十年では、戦争や暴力とは無縁だった……

王国での日々で多少どころか、かなり慣れ、冷静な対応ができると思っていたが……

まだまだ……ということだろう……



無言のまま先を駆けるカリアンの後ろを、ひたすら続いていく。

荒野が草原に変わり始めた。

ここら辺あたりがイヴェリス族国とスティー共和国の境目。

既に夕方。真っ赤な夕日が草原を照らしている。



イヴェリス族国からスティー共和国内に入ったとしても、まだ安心はできない。

地の利がない土地での夜の行動は特に危険だ。



目指すのは、スティー共和国の国境付近にある村。

地図上にはテーラ村と記名されている。

その村までは、まだ距離がある。









馬の体力にも気を使いつつ進み、テーラ村にたどり着いたのはすでに陽が暮れてからだった。

点々とある村の家々には淡い橙の灯りが微かに漏れている。



村の入口で馬を降り、馬の首元を軽く叩き労を労い、手に水を注いで馬に飲ませる。

馬は荒い息を吐きながら勢いよく口をつける。

かなり無理をさせてしまった……できればきちんと休ませたい……



村の入口では夜警らしき男性が訝しげにこちらを見ていた。



「あの、旅の者なのですが…」

少しでも警戒心を解こうと笑顔を向ける。

男性は困った様に眉をしかめた。



「日も暮れてしまって…。この村に泊まれる場所はあるでしょうか?」

笑顔で訪ね、銅貨1枚を握らせる。

男は銅貨をポケットに突っ込むと、一つ咳をし、



「村の真ん中辺りに2階建ての家がある。そこが宿屋だ。」

と、教えてくれた。



「ありがとうございます。行ってみます。」

お礼と共にもう一枚銅貨を手渡し、手綱を手に村に入った。





今世でのお金の単位はもちろん『円』ではない。

『リル』だ。

そして、ファンタジー世界で定番の硬貨コイン。

黒金貨、赤金貨、白金貨、金貨、銀貨、銅貨、大鉄貨、鉄貨の8種。

では、『円』に変換してみよう。



鉄貨=50リル=50円。

50円が最安値となる。この下の金額は無い。

大鉄貨=100リル=100円

銅貨=1000リル=1000円

銀貨=5000リル=5000円

金貨=1万リル=1万円

白金貨=20万リル=20万円 

赤金貨=50万リル=50万円

黒金貨=100万リル=100万円



大体こんな感じだと思っていいだろう。



つまり、村の夜警に渡した袖の下は約2000円ということになる。

前世的には少く見えるだろうが、今世では一般家庭の1ヶ月の生活費が金貨5枚程。つまり、約5万。そして、5万リル。

5万リルなら、一般家庭ならそこそこ余裕ある生活が送れる。

そんな物価の中で銅貨2枚はまぁまぁの金額だ。







月明かりだけでは、はっきりとは確認できないが、テーラ村は高さのある木の柵で囲まれた中に家と畑が点在している様だ。

唯一と言ってもいい道は、村の入口から真っ直ぐ伸びている。

村のほぼ中央は広場の様に開けており、道はそこで途切れ、周囲には既に閉まってはいるが、店の看板も月明かりの下に見える。



そして、そんな広場の一画に静かな夜の村で唯一明るく、笑い声の漏れる建物が目に入る。

平屋の家が多い中で、二階建てで一際大きな建物。



大抵の村や街は宿屋の下が酒場や食堂といった造りになっている。

ここも例外ではないだろう。

溢れる灯りと笑い声。

入り口の側にある馬留の横木に手綱を結ぶ。



「中の様子を、あぁ!ちょっと…!」

先に中の様子を見てこようとしたのだが、カリアンはサッサと扉を潜って行ってしまった。

慌てて後を追う。



開けた扉は古いのか、キィキィと音をたてる。

中はそれ程広くはなく、カウンターの席が4席と4人がけのテーブル席が2つ。

その内のテーブル席1つは3人組の男性客が座っている。

カウンターの中には店主だろうか、壮年の男性が一人。



店内4人の視線を一身に受けながらカリアンはズンズン進んでいく。

4人の視線は明らかに不審がっている。



カリアンはカウンターの前に立ち、



「宿はここか?」

と一言。

突然巨体の武器を持った厳つい男がやって来て挨拶もなしに開口一番威圧感のある低い声での質問……

カリアンの背後で様子を伺っているがのだが、店主が明らかに動揺し、怯えているのが見て取れる。



「…、そ、そうだが…」

絞り出すように答える店主。



「食事はここでか?」

「あ、ああ…」

「まだあるのか?」

「か、簡単な物なら、」

「馬がいる。厩はあるのか?」

「う、裏に…」

「部屋を借りたい。」

「と、泊まるのか!?」

店主の怯えたような、驚いた様な声が響き、



「…!」

背後でゴクリと喉がなる音がした。

カリアンを見上げる店主だけではなく、店内の客達も不安そうにしている。



「と、盗賊か……?」

「バカ!!盗賊がわざわざ店に来るかよ!」

「じゃぁ…」

「身なりは悪くない…身体がゴツいし…もしかしたら、脱走兵とか……」

「ありえるな……、イヴェリスじゃ男は肩身が狭いって聞くし…」

「通報したら、賞金とか……」

客がヒソヒソと話しているのが聞こえてくる……

チラリと様子を伺うと、顔を突き合わせた赤ら顔の男達と目があった……



「……」

「…………」

「………………」 

「兄と……にしちゃ、似てなさすぎる…」

「親子……には、見えねぇな……」

「駆け落ちか…?」

「誘拐かも……」

憶測が極端!?!



「わ、私達!」

憶測の行き着く先が怖いので、大慌てでカリアンと店主の間に入る。



「私達、幼馴染で!!共和国の首都を目指してましてっ!」

慌てたせいか、思った以上の大声が出た。



「おお!そ、そうか!」

なぜか店主まで大声になっている。

威圧感MAXのカリアンよりも話しやすいと思ったのだろう。

店主の顔色が先程までは真っ青を通り越して真っ白だったが、幾分か良くなった。

まぁ…カリアンの後なら誰でも優しそうに見えるだろうが……



とにかく、ここから私と店主はムダに大声での会話を続けていく事になる。



「なにせ!ストルエーセン王国出身でして!イヴェリス族国の戦士を警戒して!少々無理をしてきました!そしたらこんな時間で!宿の部屋が空いているようなら一晩お借りしたいのですが!!」

「そ、そうか!!大変だったな!!王国とイヴェリスとの不仲は耳にしている!!無事に国境を越えられなによりだ!!ここはこんな辺鄙なとこだ!!泊まり客なんて居ねぇ!!部屋は空いてる!!泊まるんなら一部屋5000リル!!!」

「ご、5000!!」

「一人部屋!5000!!二人部屋!8000!!6人部屋27000!!」

ハァハァと店主が言い切って、そ~とカリアンを見上げる。

私も同様にカリアンを見上げた。



「……」

「う、厩うまや代は、1頭1000リルだ……」

「2頭で2000…」

「飯は…ここで、別料金…」

「別……」

ジーと、店主と共にカリアンを見上げる。



「一人部屋を2へ、」

「二人部屋、馬2頭でお願いします!」

「おい!」

即座に訂正する。

カリアンに肩をグイッと引かれたが無視する。

明らかに二人部屋の方が安いのに一人づつ泊まる理由は無い。

むしろ、節約しなくてはいけない。

今更袖の下の銅貨2枚、2000リルを後悔している……

なので、引けない!



「二人部屋で!お願いします!」

「お、おぅ…」

微笑み力強く言い切ると店主はカリアンを見上げたまま引きつった顔で返事をした。

こうして今晩の宿が決まった。




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