追放令息と進む傭兵の道。

猫科 類

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カリアンは腰に護身用の手斧を下げる。

私もショートソードを下げている。

宿とはいえ旅先で無防備になるのは危険な行為だ。



旅をしているということは、旅の資金が有ると言うこと。そして、それなりに身綺麗だったり、宿に泊まるということは、資金に余裕が有るということである。

善からぬことを考える輩に目を付けられる事もある。

なので、部屋になるべく金品は置いておかないようにするのが旅の基本。

腰ベルトに通した革製のウエストポーチの中に入れていおくのが一般的だ。



カリアンを先に部屋から出して、扉に鍵をかけ、階段を降り、酒場のテーブルに向かい合う形で腰を降ろす。

夜も遅いためか、先にいた3人の客は既に居なかった。

店主とその息子のノアのみ。



「…、夕食かい?」

「はい。」

店主のあからさまにオズオズといった態度に苦笑しつつ、返事をする。



「二人分、お願いできますか?」

「煮込みスープとパンになるが、いいかい?」

「はい。お会計は出る時に纏めてですか?」

「ああ。…、酒はいるか?」

店主がチラリとカリアンを伺う。



「あー…、彼の分だけお願いします。」

「…、アンタはいらないのかい?」

「私は、あまり得意ではないので……お茶とかあれば、」

隠したり誤魔化したりする必要もないので正直に答える。



この周辺国家の一般的なアルコール類はワインがほとんど。

ビールや、まして清酒などは文献の中だけの異国の酒類になる。

前世ではアルコール度数には強くても甘いモノしか飲めなかった。

そして、それは今世も同じようで……

ワインは味がキライだ……渋い苦い……どこにフルーティーがある?甘口ってどこら辺が?である……



「お茶は、リリ茶とレー茶がありますが、どちらにしますか?」

ノアが即座に対応してくれた。 



リリ茶は黄色のお茶でルイボスティーの様な味だ。

世界各国で広く流通している一般的なお茶だ。

レー茶は、レーレの木の実を煎った豆茶の様な味の赤色のお茶。こちらは季節的な事もあり、リリ茶よりはお値段が高めだ。



どちらも個人的に飲み慣れたお茶。



「リリ茶を。」

リリ茶を頼むことにした。

静かな店内でカウンター内からの食器の音が響く。





改めて店内を見渡す。

特別な装飾も無いが、暖炉の上には花が飾られたり、木の戸棚は飾り彫りがされていたりして可愛らしいデザインになっている。

カントリー調?という感じだろうか?



「先に飲み物を置いていきますね。」

ノアが、リリ茶の入った大きなマグカップと500ミリリット位の瓶を置いていく。



酒場や食堂等でのお酒はこのくらいの大きさの瓶で提供されることが一般的で、瓶はコルクで蓋がされ、飲み終われば回収され、洗浄し、浄化魔法で浄化され再利用される。

グラスにお酒を注ぐのは貴族の嗜みであり、一般的には瓶に直接口をつけて飲む、いわゆるラッパ飲みが主流なのだ。



カリアンがワイン瓶に口をつける。

チラリと目にしたラベルは平民が買いやすい安価な物だ。

元辺境伯爵家の子息であったカリアンの邸宅に揃えられていた酒瓶に比べると天と地程の値段の差がある。

が、カリアンは文句など言わない。

カリアンいわく、酒場の、俗に言う安酒は飲み慣れているそうだ。

たしかに……カリアンが邸宅に帰ってこない、と言われ探しに行くと、大抵酒場で酒の瓶に口を付けていたな……





熱いリリ茶をふーふーと冷ましながらそんなことを考えながら瓶のラベルを見ていると、カリアンが酒瓶を差し出してきた。



「さっきから見過ぎだ。」

どうやら見つめすぎて、カリアンは私が酒を飲みたそうにしていると勘違いしたようだ……



「あー…、その、」

本当にいらないのだが……



「俺の口をつけた瓶が嫌なら、もう一本頼むぞ?」

おおっと…違った気遣いが……



「ま、待って下さい!」

店主を呼ぼうとするカリアンを慌てて止める。



そもそも、間接キス!?はずかしい!……なんて、ならない。

瓶での回し飲みは庶民では一般的。

唾液などの感染症や虫歯菌が……と、気になるかもしれないが、魔法アイテムが進んだこの世界ではポーションでウガイをすれば虫歯菌も歯槽膿漏菌も死滅。例え、戦闘で歯が吹っ飛んでも、歯さえ有れば回復薬でくっつける事ができる。

なので、この世界では歯磨きの習慣は無い。

馬の毛で作られたフロスでの歯間掃除とポーションでのウガイのみ、なのだ。

しかし、それだけで口腔内の健康と清潔を維持できるのだからポーションとは凄い。



ちなみに、ポーションは液体。回復薬は軟膏。

回復薬を口から摂取してもポーション同様の効果は有るが……口当たりは…まぁ、油脂なので……

前世の食べ物で例えるならーーポーションはエナジードリンク、回復薬は無塩バター、な感じだろうか……


ポーションも回復薬も初級、中級、上級、最上級とある。

外傷の回復系アイテムとしてポーションや回復薬以外にあるとすれば、エリクサーだろうか。

ポーション、回復薬は基本的には殺菌や除菌、外傷ケガを治すマジックアイテム。

エリクサーは、欠損部位を生やしたり、切断部位をくっつけたりするマジックアイテムとなっている。

他にも毒消しや麻痺消し等もある。





万能に思える魔法医療にも欠点はある。

深い傷に低いランクのポーションや回復薬を使えば、傷が治りきらなかったり痕が残ったりする。



エリクサーも欠損部位を接合させるにしても、新たに生やすにしても、5日を過ぎれば不可能になる。そして、何より値段が高い。エリクサー1本の値段でポーションが20本買える。







とにかくーー

飲みもしない酒を頼まれてはたまらないので……



「一口だけ…」

瓶を受け取り口を付ける。



「ぅング…」

ごギュリ、と無理やり飲み込んだ音が喉から鳴る。

ワインは相変わらず、私の口には合わなかった……

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