追放令息と進む傭兵の道。

猫科 類

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国境の街

国境の街 6

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「……」
「ねぇ…、恵んでくれよぉ…」
「…」
「お願いします…。幼い子供がお腹を空かせて待っているんです…」
「…」
「なんでもします!なんだってできます!飼ってください!!」
「……」


街の外にある小中規模の村々を横切り、城壁までの一本道。

荷馬車が進む度に浮浪者が周囲に増えていく。


「よるんじゃねぇ!!ぶっ叩くぞ!!」
先を進む行商人と思われる一行から怒声が響く。
ムチか棒を振り回したのか、先の行商人の荷馬車から浮浪者がワラワラと遠ざかる。
がーー

「しつこいぞ!!商品にさわんじゃねぇ!!」
浮浪者がついては離れを繰り返し、持ち主と浮浪者達との攻防が繰り広げられている。


もちろん、私達の周りにもーー


前を行く荷馬車同様、私達の方にも浮浪者がワラワラと群がり始める。
拘束しているとはいえ、野盗を連れているので人に寄って来てほしくはない。
そちらに気を取られているうちに逃げる隙を与えたり、もしかしたら、この浮浪者の中に仲間が紛れている可能性だってある……

がーーー

「…あ…、あの…、おめぐ…ヒィ!!」
「どうか…、ひぃ!!お、お許しをっ!!」
「うぁぁああん!!!!」
「泣かないで!!しー!しーー!!!」

皆、カリアンに見下され固まってしまう。
固まるだけなら良い……
人によっては逃げ出し、子供は泣き、母親らしい人は子供の口を必死にふさぐ。

カリアンは別に怒ってもいないし、不機嫌でもない。
いや…不機嫌ではなかった。の、方が正しいだろう。
普通にしているだけで、怖いだ何だと言われ逃げられ、泣かれるのだ。
それも、勝手に近寄ってきたくせに。
現在進行系でカリアンの機嫌は下降気味で、眉間のシワが深くなっていく。
私は見慣れた顔なのでなんとも思わないが、人から恐ろしい、凶悪と囁かれるカリアンの顔が今は更に凶悪度が増して見えるのだろう。

だが……
カリアンには申し訳ないが、前の荷馬車の様に取り囲まれないのは本当にありがたい。

前の荷馬車は取り囲まれ、馬が怯え嘶き、進めば浮浪者を跳ねる危険がある為、身動がとれなくなってしまっている。

私達は、その横を難なく通り過ぎる。

あの荷馬車の様に面倒な事になっていないのは、浮浪者達がカリアンの顔面に勝手に怯えてくれるおかげだ。

「…」
「……」
「………」
「…………」
内心でカリアンに感謝する。
ただし、あえて口にすることは、な

「便利な顔じゃなぁー」
「!!」
全員の視線がベントレー爺さんに注がれる。

あえて口にしなかったのに!!

チラリとカリアンの様子を覗えば、眉間にシワどころか、半眼になっている。

ノアはカタカタと震え、ダレンは、

「はは………」
と、乾いた、笑いとも言えない声を漏らした。
先程まであからさまに隙を伺っていた野盗でさえ、空気になれるように努めている。

ベントレー爺さんは、こちらを一切気にする事なく、

「いや~、いつもは寄ってくる連中を追っ払うのに苦労するが、あんたと居ると人っ子一人寄って来ん!いや!ありがたいのぉ!」
フォ~フォフォ!!
と、高らかに笑うベントレー爺さん。

「爺ちゃんは!腰が悪いから!浮浪者が群がって時間を取られるのがいつも辛いって言ってて!!だから!!………、…か…な~…なん、て……」
ノアが大慌てでベントレー爺さんをフォローするが、しだいに声が小さくなっていく。

「……」
「…」

重苦しい沈黙。

私はカリアンの顔は嫌いではない。
彫りも深くて目鼻立ちがしっかりしていて、カッコいいと思っている。
たしかに、ムスッとした表情と左眼に残った火傷の痕が少々……まぁ…、かなり損をしていると思うが。
偉丈夫ってヤツだ。

ちなみに、カリアンは自分の顔を一時期嫌っていた。
異母弟の柔和な美しい顔に令嬢が群がり、家臣一同が褒め称え、カリアンと比べて褒め囃していたのだ。
カリアンが気にして、こっそり笑顔の練習をしていたのを知っている。
父親似のカリアンの顔を罵る事は、父親である辺境伯の顔も罵る事じゃないのかなぁ~?
なんてことを何も知らない子供のふりをして大人達に問いかけると、今度は純粋な王国の血では無い、と言い出し呆れた事がある。


チラリとカリアンを伺う。

眉間に深いシワを寄せ、一見不機嫌に見えるが、眉尻は少し下がっている。

あぁ~…コレは、ヘコんでますね?

「困りましたね?」
苦笑を向ければ、カリアンは舌打ちを1つしてそっぽを向いてしまった。

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