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しおりを挟む「遅れてしまい、申し訳ございません。」
鬱屈した気分の中聞こえてきたバリトンボイス。
声のした方を見れば、ペウシ男爵が側近と共に慌てたように階段を降りてくる。
「気になさらないで下さい。」
待ったには待ったが、たいして待ってはいなかったし、予定の時刻より早くロビーに来たのだし、逆に慌てられると申し訳ない気持ちになる。
「たまたま早く来ただけなので。」
「そう言っていただけると助かります。」
ペウシ男爵がホッとした様な笑顔と共に厚手の外套を羽織る。
ペウシ男爵は馬車に乗るので、雨用のマントは必要ないのだろう。
「では、向かいましょう。」
イトヴァが視線を向けると、扉の前にいたロドリゴが頷き、今回ついて行く一部隊が一斉に動き出す。
ペウシ男爵とその側近は馬車に乗り、イトヴァとロドリゴ、そして騎士達は自身の馬に跨る。
イトヴァも自身の愛馬に跨る。
緑の毛色に緑の瞳。額には小さな出っ張りが有り、その下に縦状の三つ目の瞳がある。
フサフサとしたタテガミ。
喉元から胸元にかけてと、六本有る脚の足元にもタテガミと同じ毛質のフサフサとした毛に覆われている。
前の世界の馬との違いは、毛色のカラフルさと、羊の様な毛質のタテガミ。額のコブとその下の三つ目の瞳、そして脚が六本有ると言う所だ。
体格と鳴き声、尻尾の毛質がストレートヘアーなのは、前世でよく見た馬そのものだった。
因みに、4本足の馬はこの世界には居ない。
食物連鎖の最底辺で、弱すぎて絶滅したと言われている。らしい……
弱い4本足が生き残る為に妖精馬ケルピーや神馬スプレイニル等と交配して現在の馬となったと一説では言われている。
頭も良く、勇敢で、頑丈さと力強さ、中には魔力供えている馬もいる。従順で人懐っこく、しかし、危害を加える者には容赦はしない獰猛な部分も兼ね備えている。。
前世から動物は好きで馬は特に好きだった。脚が何本だろうと、可愛い、頼りになる、いい子、とにかく、いい子だ!
因みに名前はアイビーで牝。イトヴァが所有する軍馬の中ではスピードが秀でている馬だ。
イトヴァの隊でペウシ男爵の馬車と護衛を挟むようにして、ヨンパルト・デラ公国の王城を目指す。
時々雨露を振り払う馬の声を聴きつつ進む。
雨とはいえ、外を歩く人は多い。
皆上半身のみの雨用のフードマントを羽織、雨が顔にかからないよう、俯き気味に歩いている。
有り難い事に、進む道では歩く人、一般の馬車や牛車等などが自ら避けてくれる。
主国の騎士隊と馬車が進む進路をワザワザ塞ごうとする者はなかなか居ないだろう。
館の正門から出て、王都の中央広場を通りぬける。
雨の為か、屋台は少ない。出ていても、日曜生活で必要な品や食材を売る屋台ばかりで、お忍びで来た時の様な甘味や肉焼の屋台、花屋、木彫り細工等の屋台は出ていなかった。
城門は、既に門が開かれていた為止まることなくくぐり抜ける。
本日のメインはペウシ男爵だ。
ペウシ男爵の本格的な外交役、監査役としての初仕事である。
馬車をエントランス正面に停め、ペウシ男爵と補佐の文官達が馬車から降りる。
それを見届けた後、イトヴァとロドリゴ、そして隊の半数が馬を降り、隊の隊長を含めた残りの半数に手綱を預ける。
馬を降りた者達はイトヴァやペウシ男爵と共に城内へ。
隊長を含めた残りの騎士は不測の事態に備え、場外で待機となる。
ヨンパルト・デラ公国の王城は控え目な装飾だが、素朴で重厚な品で纏められていた。そして、いたるところに植物が配置されている。
おおきな花瓶に生けられた花もあれば、石の鉢に植えられ花を咲かせた樹木、中庭の池には水草が浮きエキゾチックな花を咲かせている。
蔦が這う壁も、伸びた枝の為に開けられた壁の穴も品良く纏まって、城内を樹木や草花で満たした城はシンプルな石造りで装飾が少ない外観とのギャップから、とても幻想的だった。
室内エントランスで外套を預け、案内役の従者に従い、大きな会議室へとうながされる。
中では既にヨンパルト・デラ公国王と宰相、そして補佐役達が揃っていた。
それぞれがそれぞれに挨拶を交わし、席に着く。
進行役は公国の宰相補佐殿だ。
会議室の長テーブル。
最奥には公王が座り、王から見て右側に公国が、左側に帝国が座している。
公国側は進行役の宰相補佐の他に、宰相、軍務長官、財務官、騎士団長等重役が並び、特に目を引くのは3人の若い男性。
一人はイトヴァがある意味よく知る人物だった。
公王の背後に佇む一人の騎士。
ヨンパルト・デラ公国最強騎士 バレリオ・ガレナ
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