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グリフォン肉の濃厚シチュー
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鍋の蓋を開ければモクモクと白い湯気が登って、中から焼きサーモン入りシチューが姿を表す。ブロッコリーや人参は食べやすいサイズにカットされていた。
ほかにも鶏肉の香草焼きや、マンドラゴラのソテーが入ったサラダが並んでいた。
すごい、王城で暮らしていたごろに食べていた食事ぐらい……それよりも美味しそう。
「今までは残飯になってしまうのが怖くて鍋料理は作ってきませんでしたが、これからは好きなだけチャレンジでしますね。奥様、味付けで不満な点があれば遠慮なくお申し付けくださいね」
文句なんてあるはずない。
食べる前から、そう確信できた。
「リゼ、べつに余ったぶんは次の朝に出してくれれば良いだろ」
ダーレンがポツリと呟くと、リゼは不満そうに頬を膨らませた。
「いえ、坊ちゃんに昨日の余りを食べさせることなどできません」
二人のやり取りを見ていたレージュは、ふふっと笑う。
「お二人とも仲が良いのですね。王城にいたごろは、こんなに仲の良い使用人と主人を見たことがなかったので驚きです」
ダーレンは薬草入りスープをすくいながら、苦笑いする。
「リゼは俺が魔界から追放されたときに唯一ついてきてくれた使用人だ。もともとは俺の侍女と教育係を兼任していた」
「そうなんですね」
なるほど。きっとダーレンにとってリゼは、最後まで自身の味方をしてくれたかけがえのない存在で、リゼにとってもダーレンは、ずっと寄り添ってきた大切な主人なのだろう。
ほんのちょっぴり羨ましい。
小皿に分けられたシチューをひと口食べる。
コクのあるスープに、薬草とサーモンの旨みが混ざりあっている。飲み込んだ後は後味が甘くてとろけるよう。
人参はとくに味付けされていないにも関わらず、ひと口ひと口噛み締めるごとに甘みが広がる。
おいしい。心がホカホカする。
私もいつか料理にチャレンジしてみようかな。
なんどか舌の上でシチューの味を確認しているうちにレージュは確信した。
シチューの中にグリフォンのミルクで作ったバターと、チーズが入ってる。間違いない。
どおりで咀嚼する度にスープの美味しさが口いっぱいに広がったのね。
「リゼさん。これ、見た目はサーモンシチューですけど、味付けはヴァルニア帝国の伝統料理に寄せていますよね?」
「やったー、お気づきになられたんですねぇ」
リゼは弾けるような笑顔を浮かべながら、両手を頬に当てた。
「なにせ味付けがそのまんまグリフォニアシチューにそっくりですから、すぐに分かりました」
「なんだそれ?」
リゼとレージュの会話を隣から眺めていたダーレンが尋ねる。
「グリフォニアシチューはヴァルニア帝国の伝統料理で、グリフォンの肉を燻製にして入れるんです。スープはグリフォンのミルクを使ったバターやチーズで味付けして濃厚な味わいに仕上げるんです」
「ほう、レージュにとっては故郷の味なのか。いつか本物のグリフォニアシチューとやらも食べてみたいものだな」
「ふふっ、実はグリフォニアシチューには言い伝えがあって、素直になれない時に食べると気持ちがスッキリするとか……」
「へぇー、素直になれないねぇ」
心做しかどこか不満気な顔でリゼを見るダーレン。
リゼの方はというと、空になったレージュのカップに水を注ぎながら聞こえないフリをしていた。
なにかあったのだろうか……?
ダーレンはリゼからレージュに視線を、移して怪しくもどこか優しげな表情で笑った。
「お前、今まで痩せて木の枝ぐらい細かったのに、最近はふっくらしてきたな」
「それって良いことですか?」
「もともと可愛かったのが美人になった」
「ありがとう……ございます……?」
返事に困ったレージュがちょこんと首をかしげると、リゼがクスクスと笑った。
ほかにも鶏肉の香草焼きや、マンドラゴラのソテーが入ったサラダが並んでいた。
すごい、王城で暮らしていたごろに食べていた食事ぐらい……それよりも美味しそう。
「今までは残飯になってしまうのが怖くて鍋料理は作ってきませんでしたが、これからは好きなだけチャレンジでしますね。奥様、味付けで不満な点があれば遠慮なくお申し付けくださいね」
文句なんてあるはずない。
食べる前から、そう確信できた。
「リゼ、べつに余ったぶんは次の朝に出してくれれば良いだろ」
ダーレンがポツリと呟くと、リゼは不満そうに頬を膨らませた。
「いえ、坊ちゃんに昨日の余りを食べさせることなどできません」
二人のやり取りを見ていたレージュは、ふふっと笑う。
「お二人とも仲が良いのですね。王城にいたごろは、こんなに仲の良い使用人と主人を見たことがなかったので驚きです」
ダーレンは薬草入りスープをすくいながら、苦笑いする。
「リゼは俺が魔界から追放されたときに唯一ついてきてくれた使用人だ。もともとは俺の侍女と教育係を兼任していた」
「そうなんですね」
なるほど。きっとダーレンにとってリゼは、最後まで自身の味方をしてくれたかけがえのない存在で、リゼにとってもダーレンは、ずっと寄り添ってきた大切な主人なのだろう。
ほんのちょっぴり羨ましい。
小皿に分けられたシチューをひと口食べる。
コクのあるスープに、薬草とサーモンの旨みが混ざりあっている。飲み込んだ後は後味が甘くてとろけるよう。
人参はとくに味付けされていないにも関わらず、ひと口ひと口噛み締めるごとに甘みが広がる。
おいしい。心がホカホカする。
私もいつか料理にチャレンジしてみようかな。
なんどか舌の上でシチューの味を確認しているうちにレージュは確信した。
シチューの中にグリフォンのミルクで作ったバターと、チーズが入ってる。間違いない。
どおりで咀嚼する度にスープの美味しさが口いっぱいに広がったのね。
「リゼさん。これ、見た目はサーモンシチューですけど、味付けはヴァルニア帝国の伝統料理に寄せていますよね?」
「やったー、お気づきになられたんですねぇ」
リゼは弾けるような笑顔を浮かべながら、両手を頬に当てた。
「なにせ味付けがそのまんまグリフォニアシチューにそっくりですから、すぐに分かりました」
「なんだそれ?」
リゼとレージュの会話を隣から眺めていたダーレンが尋ねる。
「グリフォニアシチューはヴァルニア帝国の伝統料理で、グリフォンの肉を燻製にして入れるんです。スープはグリフォンのミルクを使ったバターやチーズで味付けして濃厚な味わいに仕上げるんです」
「ほう、レージュにとっては故郷の味なのか。いつか本物のグリフォニアシチューとやらも食べてみたいものだな」
「ふふっ、実はグリフォニアシチューには言い伝えがあって、素直になれない時に食べると気持ちがスッキリするとか……」
「へぇー、素直になれないねぇ」
心做しかどこか不満気な顔でリゼを見るダーレン。
リゼの方はというと、空になったレージュのカップに水を注ぎながら聞こえないフリをしていた。
なにかあったのだろうか……?
ダーレンはリゼからレージュに視線を、移して怪しくもどこか優しげな表情で笑った。
「お前、今まで痩せて木の枝ぐらい細かったのに、最近はふっくらしてきたな」
「それって良いことですか?」
「もともと可愛かったのが美人になった」
「ありがとう……ございます……?」
返事に困ったレージュがちょこんと首をかしげると、リゼがクスクスと笑った。
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