15 / 77
15 狼
しおりを挟む
酒場の外へと飛び出す千景。
それを追って俺も走った。
村人たちが走ってくる逆方向へ。すぐに入り口の門が見えた。
見張りの男が見張り台から何か指示を飛ばし、門の前では数人の武器を持った男たちが騒いでいる。
「開門! 儂が出る!」
駆けながら千景が叫ぶ。男たちが道を開け、門が開いた。
敵の種類や規模も聞かず、大丈夫なのだろうか。
外へ出るとすぐに門が閉まる。
シエラとイルネージュはついてこれなかったようだ。
「なんじゃ、お主も手伝うのか」
そういうつもりではなかったのだが……つい、勢いでついてきてしまった。
頷くと、千景はフッ、と笑う。
「構わぬが、足を引っ張るなよ」
すぐに魔物の気配。すでに囲まれているようだ。だが、暗闇で自分のわずかな範囲しか見えない。
グルル、という唸り声と、時折ギラッと光る眼。
「見えぬか? 魔物は夜目が効く。儂もだが」
太刀を抜き放ち、ギャッ、と前方へ斬りつけた。
ギャインッ、と叫び声。手応えがあったようだ。血刀を振りかざし、千景が舌なめずりする。
ステータスウインドウを開く。
よし、これだ。
剣を抜き、属性付与のスキル。光属性を付けると、剣が光り出し、周りを照らす。
囲んでいたのは──大型の狼だ。
ガアッ、と口を開け、次々と飛びかかってきた。
光る剣を振るう。三匹の狼を斬り落とし、一匹は盾で頭部を砕いた。
ウウウ、グルル、と警戒しながら距離を取る狼たち。踏み込んで斬りつけるが、素早い。ババッ、と間合いの外へ飛び退いた。
それなら、と左手を前に出す。五本の指にボボボと炎が灯る。
ドドドンッ、と炎弾を発射。
ドガドガドガッ、と地面をえぐり、木々をなぎ倒しながら命中。
今ので十数匹は吹っ飛ばしただろう。
「ほう、さすがは勇者。派手よのう」
千景が半ば呆れ、半ば感心したように言う。
生き残った狼たちが一斉に逃げ出した。
「逃がすわけがなかろう。この機に根絶やしじゃ」
すぐに追う千景。村の事が少し気になったが、俺も続いた。
ザザザザ、と林の中を駆ける。かなりの速度。追いすがりながら狼たちを斬り捨てていく千景。
俺は指先から電撃を放ち、いったん動きを止めてから確実に仕止めた。
あらかた片付け、先を走っていた千景が急に止まる。
「む、ちと面倒なのがおるな。油断するなよ」
ドスッ、ドスッ、と暗がりから現れたのは、今までの狼とは比にならないほどの巨体。ゆうに中型のトラックぐらいはある、二体の狼だった。
「でかっ、なんなんスか、アレ」
「狼の上級魔物じゃな。昼間、儂が巣穴ごと全て潰したと思っとったのじゃが……生き残りが報復に来たようじゃ」
ゴウッ、と吠え、周りの木々をへし折りながら一度の跳躍で距離を詰める。
前足の爪。盾で防ぐ。ズズズッ、と押されながらも剣を喉元へ突き刺した。
ガヒュッ、と喉を詰まらせるような声。剣を両手持ちにし、ひねるように斬り払って首を切断した。
「やるのう。どれ、儂も」
喰いつこうとした巨狼の牙を、太刀の刃で受け止めている。
ガカッ、と千景の身体が光った。バチバチバチィッ、と稲妻を思わせる斬撃。
巨狼は口から胴までを斬り裂かれ、倒れる。
斬り口からは焦げたような臭いが漂う。
太刀を鞘に納め、満足したような笑みを浮かべるが──すぐに真顔になり、鼻をひくつかせる。
「……ぬかったわ、儂としたことが。こやつらは囮じゃ。村が危ない」
振り返り、駆け出した。わけが分からないまま俺もついて行く。
村へ近づくにつれ、肌を刺すような冷気。
そしてちらちらと目の前に散る白い粉。
「……雪? 今の時期に? 解せぬな」
駆けながら首を傾げる千景。いや、俺は誰の仕業かすぐに分かった。
そしてこれは、イルネージュの危機を意味する。
俺は走る速度を上げた。
村が見えた。門が破壊されている。
悲鳴、怒号、壊れた家屋の残骸。降り積もる雪。そして──巨体。青白い毛を持つ狼。先ほどの巨狼の比ではない。五階建てのアパートぐらいはあるか。
「超級のフェンリルじゃ。何十年ぶりじゃ、マズイの」
千景の緊張した声。駆けながら太刀を抜いた。
フェンリルの周りには円錐状の氷柱が何本も突き出て、動きを封じるように囲んでいる。
少し離れた場所にイルネージュ。その腰にしがみつくようにシエラ。
俺の姿を見ると、シエラが飛び上がって叫んだ。
「おせーーよっっ! 死ぬわ、マジで死ぬわっ! 超級来るなんて聞いてねーよっ! はよ助けんかいっ!」
イルネージュも俺の姿を見て力尽きたように倒れる。
今まで食い止めててくれたのか。あんな化け物を。
フェンリルがガアッ、と一吠えすると、周りの氷柱がパパパパンッ、と砕け散る。
イルネージュめがけ、その牙が迫る──が、横っ面にドドドンッ、と俺の炎弾が命中。
フェンリルの視線がギロリとこちらに向けられた。
「ありゃ、全然効いてないっスね」
「気を引き締めよ。油断するとすぐに死ぬぞ」
千景はさらに脇差しを抜き、二刀で構えた。
それを追って俺も走った。
村人たちが走ってくる逆方向へ。すぐに入り口の門が見えた。
見張りの男が見張り台から何か指示を飛ばし、門の前では数人の武器を持った男たちが騒いでいる。
「開門! 儂が出る!」
駆けながら千景が叫ぶ。男たちが道を開け、門が開いた。
敵の種類や規模も聞かず、大丈夫なのだろうか。
外へ出るとすぐに門が閉まる。
シエラとイルネージュはついてこれなかったようだ。
「なんじゃ、お主も手伝うのか」
そういうつもりではなかったのだが……つい、勢いでついてきてしまった。
頷くと、千景はフッ、と笑う。
「構わぬが、足を引っ張るなよ」
すぐに魔物の気配。すでに囲まれているようだ。だが、暗闇で自分のわずかな範囲しか見えない。
グルル、という唸り声と、時折ギラッと光る眼。
「見えぬか? 魔物は夜目が効く。儂もだが」
太刀を抜き放ち、ギャッ、と前方へ斬りつけた。
ギャインッ、と叫び声。手応えがあったようだ。血刀を振りかざし、千景が舌なめずりする。
ステータスウインドウを開く。
よし、これだ。
剣を抜き、属性付与のスキル。光属性を付けると、剣が光り出し、周りを照らす。
囲んでいたのは──大型の狼だ。
ガアッ、と口を開け、次々と飛びかかってきた。
光る剣を振るう。三匹の狼を斬り落とし、一匹は盾で頭部を砕いた。
ウウウ、グルル、と警戒しながら距離を取る狼たち。踏み込んで斬りつけるが、素早い。ババッ、と間合いの外へ飛び退いた。
それなら、と左手を前に出す。五本の指にボボボと炎が灯る。
ドドドンッ、と炎弾を発射。
ドガドガドガッ、と地面をえぐり、木々をなぎ倒しながら命中。
今ので十数匹は吹っ飛ばしただろう。
「ほう、さすがは勇者。派手よのう」
千景が半ば呆れ、半ば感心したように言う。
生き残った狼たちが一斉に逃げ出した。
「逃がすわけがなかろう。この機に根絶やしじゃ」
すぐに追う千景。村の事が少し気になったが、俺も続いた。
ザザザザ、と林の中を駆ける。かなりの速度。追いすがりながら狼たちを斬り捨てていく千景。
俺は指先から電撃を放ち、いったん動きを止めてから確実に仕止めた。
あらかた片付け、先を走っていた千景が急に止まる。
「む、ちと面倒なのがおるな。油断するなよ」
ドスッ、ドスッ、と暗がりから現れたのは、今までの狼とは比にならないほどの巨体。ゆうに中型のトラックぐらいはある、二体の狼だった。
「でかっ、なんなんスか、アレ」
「狼の上級魔物じゃな。昼間、儂が巣穴ごと全て潰したと思っとったのじゃが……生き残りが報復に来たようじゃ」
ゴウッ、と吠え、周りの木々をへし折りながら一度の跳躍で距離を詰める。
前足の爪。盾で防ぐ。ズズズッ、と押されながらも剣を喉元へ突き刺した。
ガヒュッ、と喉を詰まらせるような声。剣を両手持ちにし、ひねるように斬り払って首を切断した。
「やるのう。どれ、儂も」
喰いつこうとした巨狼の牙を、太刀の刃で受け止めている。
ガカッ、と千景の身体が光った。バチバチバチィッ、と稲妻を思わせる斬撃。
巨狼は口から胴までを斬り裂かれ、倒れる。
斬り口からは焦げたような臭いが漂う。
太刀を鞘に納め、満足したような笑みを浮かべるが──すぐに真顔になり、鼻をひくつかせる。
「……ぬかったわ、儂としたことが。こやつらは囮じゃ。村が危ない」
振り返り、駆け出した。わけが分からないまま俺もついて行く。
村へ近づくにつれ、肌を刺すような冷気。
そしてちらちらと目の前に散る白い粉。
「……雪? 今の時期に? 解せぬな」
駆けながら首を傾げる千景。いや、俺は誰の仕業かすぐに分かった。
そしてこれは、イルネージュの危機を意味する。
俺は走る速度を上げた。
村が見えた。門が破壊されている。
悲鳴、怒号、壊れた家屋の残骸。降り積もる雪。そして──巨体。青白い毛を持つ狼。先ほどの巨狼の比ではない。五階建てのアパートぐらいはあるか。
「超級のフェンリルじゃ。何十年ぶりじゃ、マズイの」
千景の緊張した声。駆けながら太刀を抜いた。
フェンリルの周りには円錐状の氷柱が何本も突き出て、動きを封じるように囲んでいる。
少し離れた場所にイルネージュ。その腰にしがみつくようにシエラ。
俺の姿を見ると、シエラが飛び上がって叫んだ。
「おせーーよっっ! 死ぬわ、マジで死ぬわっ! 超級来るなんて聞いてねーよっ! はよ助けんかいっ!」
イルネージュも俺の姿を見て力尽きたように倒れる。
今まで食い止めててくれたのか。あんな化け物を。
フェンリルがガアッ、と一吠えすると、周りの氷柱がパパパパンッ、と砕け散る。
イルネージュめがけ、その牙が迫る──が、横っ面にドドドンッ、と俺の炎弾が命中。
フェンリルの視線がギロリとこちらに向けられた。
「ありゃ、全然効いてないっスね」
「気を引き締めよ。油断するとすぐに死ぬぞ」
千景はさらに脇差しを抜き、二刀で構えた。
0
あなたにおすすめの小説
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる