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34 鉄蟷螂と風輪蝶
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エルンストはルドラとともにジャケットの集団のもとへ。
エルンストが振り返り、俺の顔を見た。
懐から煙幕弾を取り出し、地面に叩きつける。
発生した濃い煙はあっという間に墓場全体を覆った。
ジャケットの男たちが騒ぐ中、エルンストの声が聞こえる。
「いまだっ、逃げろっっ!」
超加速を発動。とりあえずこの場から離れるのが先決だ。
ギャッ、と一蹴りで一気に離脱。このままシエラを安全な場所まで。
──なんだ、前に進まない? 身体が宙に浮いて、勝手に──。
宙に浮いたまま、何かの力によって吹き飛ばされる。シエラをかばうように抱え込む。背中から木に激突した。
ベキバキと数本の木をなぎ倒して俺は地面に落下。林の中をゴロゴロと転がる。超加速は解除されてしまった。
煙幕の中からゴヒュッ、と飛び出してきたのはダオ・マイ。宙を蹴るようにしてダダッと跳躍し、俺の前に華麗に降り立つ。
「残念~、このまま帰れると思った? 悪いけど死んでもらうわ。その子も一緒にねぇ」
「……どうしてっスか」
「どうしてって……バカね、あたしたちのジャマだからよぉ。あのブルーデモンズの仲間なんでしょう?」
ダオ・マイは両手を肩のあたりで上に向ける。
手の平にシュルルル、と風が渦巻いて円盤状の形になった。
「いや、そうじゃないっス。アンタの風の能力なら、あの煙幕を晴らすのも簡単っスよね。なんでそうしないかってことっス」
「手柄をあたしだけのモノにするためよぉ。アンタ殺したら銀貨五千枚って姐さんが言ったのぉ」
ダオ・マイが両手の円盤を投げつけてきた。
ブウゥンッ、とドローンのような音を立てながら円盤が迫る。
シエラを抱えたまま跳躍してかわす。
下を通り抜けた円盤はブーメランのように旋回して戻ってきた。
円盤は周囲の木を切り裂きながら飛ぶ。見た目は小さいが、恐ろしい威力だ。
「さすが勇者ねえ。その子を見捨てれば、あなただけなら逃げ切れるでしょうに」
前方からダオ・マイが突っ込んでくる。円盤との挟み撃ち。
両手には十手に似た三ツ又の武器──たしか釵とかいう武器だ。それを突き出してきた。
両手がふさがった状態。炎や電撃を飛ばしたり、剣も使えない。
基本能力スキルで対応するしかない。俺の体術レベルはMAX。
釵の連続突きをかわしながら低い体勢。強引に懐へ潜り込む。ダオ・マイは俺にのしかかるような格好に。
「あら、やだあ」
なまめかしい声と背中に当たる柔らかい感触に惑わされている場合ではない。
膝に力を込めグアッ、と上体を起こす。ダオ・マイは後方に吹き飛び、自身の風の円盤に切り裂かれ──なかった。
直前で能力を解除したようだ。しかし、体勢は崩している。
俺はシエラを抱えたまま跳躍。木を蹴り、飛び移りながら移動する。いや、前方に黒い影。カマキリを模した手刀でボボッ、と突いてきた。
コイツは──《鉄蟷螂》穆依楠。
蹴りで応酬。ガガッ、と手刀を防いだが、次の木には飛び移れない。
背中から地面へ落下。なかなかの衝撃だが、腕の中のシエラは目を覚まさない。ある意味感心する。
「死ねえっっ! テメーは終いだっ!」
「あら待ってぇ! あたしが先よぉっ!」
上からは穆依楠。後ろからはダオ・マイ。逃げ場は──ない。
俺は仰向けのまま、ステータスウインドウを開く。もともと持っているスキル、硬化を自分ではなくシエラに付与。
起き上がりながら穆依楠に投げつける。
「むごおっ!」
人間魚雷、見事命中。次は──ダオ・マイ。
身体に風をまといながら釵の連続突き。ガガガガッ、と喰らいながらも俺は素手で襟と袖を掴む。
「離してよぉっ!」
暴れるが、俺はダオ・マイを持ち上げたまま、ゴッ、ゴッ、ゴゴッ、と木にぶつけ、ぶち折りながら突進。
ダオ・マイのあちこちの骨が折れる感触が手に伝わる。ダオ・マイは血をブフッ、と吐きながら笑った。
「──っさすがは……勇者ねえ。好きに……なっちゃいそう……」
ダオ・マイが抱きついてくる。むうっ、と引き剥がそうとしたが──突然の竜巻。周囲の木をなぎ倒し、巻き上げるほどの勢い。
ダオ・マイの身体は引きちぎれ、舞い上げられた俺の手足もあらぬ方向へベキベキとねじ曲がる。
ダオ・マイの最期の力だったようだ。
物理防御、魔法防御最大値の俺にこれだけのダメージを与えるとは驚きだが……すぐに超再生で回復する。
着地し、シエラの姿を探す。
いた。木の枝に引っかかり、ぶら下がっていた。マンガみたいに鼻ちょうちん出してまだ眠っている……。自分が飛び道具にされたと知ったら、鬼のように怒るだろう。
降ろそうと木の下まで近づいたとき、根元からゴッ、と飛び出したのは穆依楠。不意討ちだが俺は鷹の目で気づいていた。
突き出された蟷螂手に拳を合わせる。
ゴシャアッ、と穆依楠の両手が潰れた。
「テメェッ、クソッ! こんな……」
穆依楠は両手を見つめながら膝をつく。俺は躊躇せず、脳天へ拳を振り下ろした。
穆依楠は頭蓋が砕け、絶命。
ようやくこれで一息つけるか……と思ったのも束の間。
煙幕が晴れ、ジャケットの男たちが俺に気づいた。怒号をあげながらこちらに向かってくる。
エルンストが振り返り、俺の顔を見た。
懐から煙幕弾を取り出し、地面に叩きつける。
発生した濃い煙はあっという間に墓場全体を覆った。
ジャケットの男たちが騒ぐ中、エルンストの声が聞こえる。
「いまだっ、逃げろっっ!」
超加速を発動。とりあえずこの場から離れるのが先決だ。
ギャッ、と一蹴りで一気に離脱。このままシエラを安全な場所まで。
──なんだ、前に進まない? 身体が宙に浮いて、勝手に──。
宙に浮いたまま、何かの力によって吹き飛ばされる。シエラをかばうように抱え込む。背中から木に激突した。
ベキバキと数本の木をなぎ倒して俺は地面に落下。林の中をゴロゴロと転がる。超加速は解除されてしまった。
煙幕の中からゴヒュッ、と飛び出してきたのはダオ・マイ。宙を蹴るようにしてダダッと跳躍し、俺の前に華麗に降り立つ。
「残念~、このまま帰れると思った? 悪いけど死んでもらうわ。その子も一緒にねぇ」
「……どうしてっスか」
「どうしてって……バカね、あたしたちのジャマだからよぉ。あのブルーデモンズの仲間なんでしょう?」
ダオ・マイは両手を肩のあたりで上に向ける。
手の平にシュルルル、と風が渦巻いて円盤状の形になった。
「いや、そうじゃないっス。アンタの風の能力なら、あの煙幕を晴らすのも簡単っスよね。なんでそうしないかってことっス」
「手柄をあたしだけのモノにするためよぉ。アンタ殺したら銀貨五千枚って姐さんが言ったのぉ」
ダオ・マイが両手の円盤を投げつけてきた。
ブウゥンッ、とドローンのような音を立てながら円盤が迫る。
シエラを抱えたまま跳躍してかわす。
下を通り抜けた円盤はブーメランのように旋回して戻ってきた。
円盤は周囲の木を切り裂きながら飛ぶ。見た目は小さいが、恐ろしい威力だ。
「さすが勇者ねえ。その子を見捨てれば、あなただけなら逃げ切れるでしょうに」
前方からダオ・マイが突っ込んでくる。円盤との挟み撃ち。
両手には十手に似た三ツ又の武器──たしか釵とかいう武器だ。それを突き出してきた。
両手がふさがった状態。炎や電撃を飛ばしたり、剣も使えない。
基本能力スキルで対応するしかない。俺の体術レベルはMAX。
釵の連続突きをかわしながら低い体勢。強引に懐へ潜り込む。ダオ・マイは俺にのしかかるような格好に。
「あら、やだあ」
なまめかしい声と背中に当たる柔らかい感触に惑わされている場合ではない。
膝に力を込めグアッ、と上体を起こす。ダオ・マイは後方に吹き飛び、自身の風の円盤に切り裂かれ──なかった。
直前で能力を解除したようだ。しかし、体勢は崩している。
俺はシエラを抱えたまま跳躍。木を蹴り、飛び移りながら移動する。いや、前方に黒い影。カマキリを模した手刀でボボッ、と突いてきた。
コイツは──《鉄蟷螂》穆依楠。
蹴りで応酬。ガガッ、と手刀を防いだが、次の木には飛び移れない。
背中から地面へ落下。なかなかの衝撃だが、腕の中のシエラは目を覚まさない。ある意味感心する。
「死ねえっっ! テメーは終いだっ!」
「あら待ってぇ! あたしが先よぉっ!」
上からは穆依楠。後ろからはダオ・マイ。逃げ場は──ない。
俺は仰向けのまま、ステータスウインドウを開く。もともと持っているスキル、硬化を自分ではなくシエラに付与。
起き上がりながら穆依楠に投げつける。
「むごおっ!」
人間魚雷、見事命中。次は──ダオ・マイ。
身体に風をまといながら釵の連続突き。ガガガガッ、と喰らいながらも俺は素手で襟と袖を掴む。
「離してよぉっ!」
暴れるが、俺はダオ・マイを持ち上げたまま、ゴッ、ゴッ、ゴゴッ、と木にぶつけ、ぶち折りながら突進。
ダオ・マイのあちこちの骨が折れる感触が手に伝わる。ダオ・マイは血をブフッ、と吐きながら笑った。
「──っさすがは……勇者ねえ。好きに……なっちゃいそう……」
ダオ・マイが抱きついてくる。むうっ、と引き剥がそうとしたが──突然の竜巻。周囲の木をなぎ倒し、巻き上げるほどの勢い。
ダオ・マイの身体は引きちぎれ、舞い上げられた俺の手足もあらぬ方向へベキベキとねじ曲がる。
ダオ・マイの最期の力だったようだ。
物理防御、魔法防御最大値の俺にこれだけのダメージを与えるとは驚きだが……すぐに超再生で回復する。
着地し、シエラの姿を探す。
いた。木の枝に引っかかり、ぶら下がっていた。マンガみたいに鼻ちょうちん出してまだ眠っている……。自分が飛び道具にされたと知ったら、鬼のように怒るだろう。
降ろそうと木の下まで近づいたとき、根元からゴッ、と飛び出したのは穆依楠。不意討ちだが俺は鷹の目で気づいていた。
突き出された蟷螂手に拳を合わせる。
ゴシャアッ、と穆依楠の両手が潰れた。
「テメェッ、クソッ! こんな……」
穆依楠は両手を見つめながら膝をつく。俺は躊躇せず、脳天へ拳を振り下ろした。
穆依楠は頭蓋が砕け、絶命。
ようやくこれで一息つけるか……と思ったのも束の間。
煙幕が晴れ、ジャケットの男たちが俺に気づいた。怒号をあげながらこちらに向かってくる。
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