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44 再び討伐へ
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「我が国の精鋭をもってしても討てなかった超級魔物をひとりで……さすがは勇者といったところですね」
ミリアムはいつの間にか手にしている白い本のページをめくりながら、俺の前を行ったり来たりしている。
「ですが、溢忌さん。超級はもう一体いるとご存知ですか? 我々が確認したギガオーガは二体。あなたが倒したのはそのうち一体に過ぎないのです」
「えっ、もう一体いるんスか? それは……」
驚いて伊能を顔を見る。ヤツはプイと顔をそむけた。野郎……これは知ってたな。
ミリアムは俺の前で歩みを止めると、メガネをクイと上げながら言った。
「もう一体の討伐……今度は正式にこちらから依頼をお願いします。そして、これは内密にして欲しいのですが……」
ミリアムもひざまずくように腰を下ろし、俺の目をまっすぐに見つめる。
「討伐をするのはあなた。しかし手柄はアドン様に譲って欲しいのです」
手柄をあのヘンテコな領主に? たしかに二体も俺が討伐したとあっては、領主の威厳もクソもないだろうが……。
だが、そんな事をして俺にメリットがあるのだろうか。
「そりゃ構わねぇよ。褒美さえもらえればな。他言も一切しねえ」
伊能が即答。おい、ちょっと待て。あの化け物と戦うのは俺なんだぞ。
伊能はまかせとけ、とこちらに目配せする。また何か企んでいるな。
「無論、こちらが出来うる限りの事はさせてもらいます。アドン様、再度ご出馬となりますが……これも臣下や民にアドン様のご勇姿を見せるため」
ミリアムがアドンに向かって頭を深く下げる。
アドンは自らは戦わなくてもいいのに、むむむ、と難色を示している。
前の討伐戦でよほど恐ろしい目に遭ったのだろう。
「閣下。お気に召した、かの娘を馬車に同乗させましょう。なに、危険な場所までは行かなくてもよいのです。出発と帰還の時だけ、それっぽく見せれば。あとは狭い空間に美女とふたりきり……」
「なぬ、あの女と馬車にふたりきりか……むむ、悪くない。よし、すぐに用意せい。高貴なる余の勇ましい姿、再び皆に見せてやろう」
伊能の提案に急に乗り気になったアドン……っていうか、イルネージュをダシに使うのか。これはさすがに了承しかねる。
文句を言おうと立ち上がると同時に、伊能が俺の背中を押してドドド、と出口へ向かう。
「それでは、閣下。我らは外でお待ちしておりますので」
謁見の間から退出。そのままの勢いで城の外まで。
「ちょっ、伊能! どういうつもりっスか、イルネージュを利用するなんて」
「落ち着けよ。マジでそんな真似するわけねえだろう。あのアホ領主を釣るためについたウソだよ。アイツには討伐についてきてもらわねえと困るからな」
「何考えてるんスか? 魔物倒しても手柄をアイツにあげるんスよね……褒美とか恩を売るのが目的なんスか」
「まあ、そんなトコだ。あとは俺に任せとけって。勇者殿は超級魔物を倒す事だけに集中、集中」
しばらくして、ゴテゴテと飾り立てられた馬車が用意されてきた。
俺と伊能は正体がバレないよう、兵士の鎧を着込む。今回の討伐はあくまで領主の手柄だと人々に信じ込ませるためのようだ。
ミリアムは城の留守を任されている。
討伐に参加するのは、アドンと六人の兵。御者には伊能。俺は最後尾につく。
前回の討伐隊に比べれば随分小規模だが、元々アドンは戦う気が無いので当然だ。
ただ、領主自ら再度討伐に向かうと街中に宣伝している。
馬車の行く先で、野次馬がすでに集まっていた。だが前のような期待を込めた歓迎ではない。
皆、どこか冷めきっている。
前回失敗したにも関わらず、兵の数はぐっと減っているし、馬車の窓から手を振るアドンの横には女性の姿。どう見ても遊びに行くようにしか見えない。
女性は黒いヴェールで顔を隠しているが……イルネージュではない。ここからでもはっきり分かる。アホの領主は気づいてないようだが。
ざわざわと人々が注目する中を通りすぎ、城の外へ。
兵士達は不安そうな顔をしている。事情を知らないし、この中に勇者の俺がいることも、もちろん知らない。たったこれだけの人数で……と思っているはずだ。
昨日と同じ場所へ向かっている。昼間なので魔物の襲撃は無さそうだ。
横に回りこんで馬車の中の様子をうかがう。
アドンは隣の女性に何やら話かけたり、その肩や手を撫でまわしている。顔を隠しているヴェールにも手を伸ばしたが、女性は巧みにそれをかわしていた。
あれが本物のイルネージュだったら、アドンをブチ殺してやりたいところだが……一体、誰なのだろうか。
昨日、ギガオーガと遭遇した辺りに着いた。
おや、アドンを乗せた馬車はここまで来ていいのか? 危険な場所までは来ないはずでは……。
アドンは女性とイチャつくのに夢中で、こんな所まで来た事にやっと気づいたようだ。
「ここは……前に我が部隊が壊滅した場所ではないかっ! おい、御者! 行き過ぎだ、引き返せっ、ここは危険な場所だ!」
「あ、ああ~、すいません。うっかりでしたなあ。ぼうっとしてこんな所まで……あ、ああ……閣下、遅かったようです」
伊能のわざとらしい謝罪の声をかき消す地響きの音。
これは……間違いない。ギガオーガだ。山と山の間から、ぬうっ、と灰色の巨体を現した。
ミリアムはいつの間にか手にしている白い本のページをめくりながら、俺の前を行ったり来たりしている。
「ですが、溢忌さん。超級はもう一体いるとご存知ですか? 我々が確認したギガオーガは二体。あなたが倒したのはそのうち一体に過ぎないのです」
「えっ、もう一体いるんスか? それは……」
驚いて伊能を顔を見る。ヤツはプイと顔をそむけた。野郎……これは知ってたな。
ミリアムは俺の前で歩みを止めると、メガネをクイと上げながら言った。
「もう一体の討伐……今度は正式にこちらから依頼をお願いします。そして、これは内密にして欲しいのですが……」
ミリアムもひざまずくように腰を下ろし、俺の目をまっすぐに見つめる。
「討伐をするのはあなた。しかし手柄はアドン様に譲って欲しいのです」
手柄をあのヘンテコな領主に? たしかに二体も俺が討伐したとあっては、領主の威厳もクソもないだろうが……。
だが、そんな事をして俺にメリットがあるのだろうか。
「そりゃ構わねぇよ。褒美さえもらえればな。他言も一切しねえ」
伊能が即答。おい、ちょっと待て。あの化け物と戦うのは俺なんだぞ。
伊能はまかせとけ、とこちらに目配せする。また何か企んでいるな。
「無論、こちらが出来うる限りの事はさせてもらいます。アドン様、再度ご出馬となりますが……これも臣下や民にアドン様のご勇姿を見せるため」
ミリアムがアドンに向かって頭を深く下げる。
アドンは自らは戦わなくてもいいのに、むむむ、と難色を示している。
前の討伐戦でよほど恐ろしい目に遭ったのだろう。
「閣下。お気に召した、かの娘を馬車に同乗させましょう。なに、危険な場所までは行かなくてもよいのです。出発と帰還の時だけ、それっぽく見せれば。あとは狭い空間に美女とふたりきり……」
「なぬ、あの女と馬車にふたりきりか……むむ、悪くない。よし、すぐに用意せい。高貴なる余の勇ましい姿、再び皆に見せてやろう」
伊能の提案に急に乗り気になったアドン……っていうか、イルネージュをダシに使うのか。これはさすがに了承しかねる。
文句を言おうと立ち上がると同時に、伊能が俺の背中を押してドドド、と出口へ向かう。
「それでは、閣下。我らは外でお待ちしておりますので」
謁見の間から退出。そのままの勢いで城の外まで。
「ちょっ、伊能! どういうつもりっスか、イルネージュを利用するなんて」
「落ち着けよ。マジでそんな真似するわけねえだろう。あのアホ領主を釣るためについたウソだよ。アイツには討伐についてきてもらわねえと困るからな」
「何考えてるんスか? 魔物倒しても手柄をアイツにあげるんスよね……褒美とか恩を売るのが目的なんスか」
「まあ、そんなトコだ。あとは俺に任せとけって。勇者殿は超級魔物を倒す事だけに集中、集中」
しばらくして、ゴテゴテと飾り立てられた馬車が用意されてきた。
俺と伊能は正体がバレないよう、兵士の鎧を着込む。今回の討伐はあくまで領主の手柄だと人々に信じ込ませるためのようだ。
ミリアムは城の留守を任されている。
討伐に参加するのは、アドンと六人の兵。御者には伊能。俺は最後尾につく。
前回の討伐隊に比べれば随分小規模だが、元々アドンは戦う気が無いので当然だ。
ただ、領主自ら再度討伐に向かうと街中に宣伝している。
馬車の行く先で、野次馬がすでに集まっていた。だが前のような期待を込めた歓迎ではない。
皆、どこか冷めきっている。
前回失敗したにも関わらず、兵の数はぐっと減っているし、馬車の窓から手を振るアドンの横には女性の姿。どう見ても遊びに行くようにしか見えない。
女性は黒いヴェールで顔を隠しているが……イルネージュではない。ここからでもはっきり分かる。アホの領主は気づいてないようだが。
ざわざわと人々が注目する中を通りすぎ、城の外へ。
兵士達は不安そうな顔をしている。事情を知らないし、この中に勇者の俺がいることも、もちろん知らない。たったこれだけの人数で……と思っているはずだ。
昨日と同じ場所へ向かっている。昼間なので魔物の襲撃は無さそうだ。
横に回りこんで馬車の中の様子をうかがう。
アドンは隣の女性に何やら話かけたり、その肩や手を撫でまわしている。顔を隠しているヴェールにも手を伸ばしたが、女性は巧みにそれをかわしていた。
あれが本物のイルネージュだったら、アドンをブチ殺してやりたいところだが……一体、誰なのだろうか。
昨日、ギガオーガと遭遇した辺りに着いた。
おや、アドンを乗せた馬車はここまで来ていいのか? 危険な場所までは来ないはずでは……。
アドンは女性とイチャつくのに夢中で、こんな所まで来た事にやっと気づいたようだ。
「ここは……前に我が部隊が壊滅した場所ではないかっ! おい、御者! 行き過ぎだ、引き返せっ、ここは危険な場所だ!」
「あ、ああ~、すいません。うっかりでしたなあ。ぼうっとしてこんな所まで……あ、ああ……閣下、遅かったようです」
伊能のわざとらしい謝罪の声をかき消す地響きの音。
これは……間違いない。ギガオーガだ。山と山の間から、ぬうっ、と灰色の巨体を現した。
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