異世界の餓狼系男子

みくもっち

文字の大きさ
57 / 77

57 勇者VS勇者

しおりを挟む
 スキル鷹の目ホークアイを発動。そして再び減速スローを放つ。
 時間を稼ぎつつ、荒木の能力の謎を解かなければならない。

──が、荒木の姿が消えた。背後から衝撃。
 蹴られた。鷹の目ホークアイで確認出来なかったということは、単に超高速で移動しているわけではない。
 瞬間移動か、もしくは──。

 片手をつき、前転しながら振り返る。
 荒木は短ランを脱ぎ、指をベキベキと鳴らす。

「気付いたか? 禁忌とかいう種類のスキルらしいぜ、この時間停止はよぉ。この辺りだけなのか、世界全体が止まってんのか知らねーけどよぉ」

 禁忌のチートスキル……俺の瞬間移動のようにバカみたいに願望の力を使うか、アトミックフレアとかいう、そもそも使えない自爆技……。強力だが、リスクを伴う。しかも時間停止だと……まさに究極のチート中のチートではないか。
 理解できないのは、そんなスキルをアイツは少なくとも短時間に3回は使っている。 

「ああ。テメーが思ってる通り、すげぇ力を消耗するぜ。だがな、こいつは俺のオリジナルスキル、吸地精地上げでカバーする事が出来るっ」

 荒木の願望の力がギュウウウッ、と高まっていく。そう、この世界は《女神》シエラの願望の力で形成されている。
 その願望の力を大地から吸い取っているのか。

「そいつは卑怯っスね……なんかこっちはポイント使わなきゃ必殺技使えないのに、CPUはバカスカ使ってくるゲーム思いだしたっス」

「まだ減らず口叩く余裕があんのかよ。気に入らねぇな」

 荒木が離れた位置から拳を突き出す。
 男の拳アイアンフィスト。巨大な拳の闘気の塊が飛んでくる。

 剣を抜き、叩きつける。
 闘気の塊が破裂。俺は吹き飛びながらスキル飛翔レイヴンを発動。
──空中へ。ギュアアッ、と一気に上昇。時間停止といっても止められるのは一瞬だろうし、連続では使えないはず。俺の力も7割程度は回復している。遠距離からの攻撃で近づけさせない──。

 ガクゥッ、と上昇が止まった。俺の意思とは関係なく。
 これは……落ちているのか。スキルはまだ発動中なのに。
 グングンと地上が迫ってくる。一体、なにが──。

 衝撃、轟音──目の前が真っ暗になる。
 高度からの急落下で地中に埋まったようだ。荒木の直接攻撃ではないのでダメージはないが……。

 ボンッ、と地中から飛び出す。周りはクレーターのように大きく抉れていた。

「空を飛ぼうが逃げられねえぞ。今のは強重力グラビトンでテメーを落とした。そんでまた喰らってみるかよ、時間停止を」

 荒木の姿が消えた。
 時間が止まり、その中で自由に動けるのはアイツだけ。アイツがどう動き、どんな攻撃するのかも見えない。

 ドゴオオッッ、と爆発音。焦げながら落ちていくのは荒木だ。俺は空中に飛び出したままの状態。

 ブスブスと煙を出しながら荒木は着地。だがよろめいている。それなりにダメージはあったようだ。

「テメェ……味な真似しやがって。調子に乗んじゃねーぞっ!」

 そう。地中に埋まっている間にステータスウインドウで使えそうなスキルを調べ、発動させていた。 

 今のは浮遊機雷。自分の周囲に、触れれば爆発する魔法弾を多数浮かべていた。しかもステルス効果を付与している。

「クソがあっ!」

 荒木はまた願望の力を大地から吸収しようとしている。だが──俺はさらに手を打っていた。

 減速スローを解除。地中からドドドドドッ、と無数の雷光の矢ライトニングアローが飛び出す。追尾ホーミングの効果が付いたそれらは荒木の全身に突き刺さり、さらに電撃のダメージも与えた。

 身体中から血と黒煙を噴き出しながら、荒木はなおもこちらに向かってくる。

「俺がっ、俺が勇者だっ! テメーじゃねえっ、テメーなんかがっ!」

「見苦しいっスね。まだ俺は本気を出してないっスよ」

 剣を鞘に収める。そこから──スキル紫電一閃。鍔鳴りの音のあと、荒木の首がぼろりと落ちた。

 これで勝負はついた。元の世界での知り合いだが、構わない。むしろスッキリした。
 あとはシエラとイルネージュを正気に戻すだけだ。
 俺は振り返り、城のほうを確認する。シトライゼが城の中を捜索しているはずだが……あのヨハンとかいう領主を倒したほうが早いかもしれない。

 ドンッ、と背後から押された。
 痛み……生温かいドロリとした血……俺のだ。これは俺の血……。俺の背中から胸を、荒木の拳が貫いている。

「油断しやがってぇ。俺は《死を乗り越えし者》だってのを忘れたのか。この程度……俺が味わってきた地獄に比べりゃあよ、たいしたことじゃねぇ」
 
 たいしたことないって……首を落としたのに。間違いなく、確実に殺した。
 身代わりや超再生のようなスキルを発動した形跡もない。

 これは──マズイ。超再生で傷がふさがりつつあるが、大きなダメージのせいで時間がかかる。その間、荒木が見逃すはずがない。

「知らねー仲でもねーからよぉ、命だけは取らねぇつもりだったが……テメーはマジで俺を殺そうとした。その報いだぜ」
 
 拳を引き抜いた荒木が動けない俺を見下ろしながら願望の力を高めている。

 何か手を……手を打たないと、死ぬ。
 俺はとっさに地面に手をつき、巨大な門をゴオッと出現させた──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...