異世界の餓狼系男子

みくもっち

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 翌朝──ドアをぶち破って入ってきたのは暴虐の《女神》シエラだ。

「溢忌っ! 寝てる場合かっ! 大変だぞっ!」

 すでに目は覚めていたのだが、どうにも起き上がる気にならなくて横になったままだった。
 シエラはベッドの上に飛び乗り、バインバインと跳ねる。

「何ヨユーかましてんだっ! ついに出たんだよっ、魔王がっ! カーラがすぐに来るから、用意しとけっ!」

 魔王──ついに。ついに現れたのか。
 勇者として俺が倒すべき最終目標。
 


 身支度をすませ、城内の教会へ。
 すでにそこにはクロワの大臣たちをはじめ、イルネージュ、シトライゼ。そしてブルーデモンズのマスター、《紅玉の殲滅者せんめつしゃ》カーラ・ヴィジェ=ルブランの姿があった。

「色々聞きたいことがあるだろうけど、時間がないわ。すでに昨夜から朝にかけてクロワの街や村が七つ消失している。前兆も無しにいきなり魔王級の魔物が現れるなんて……はじめてだわ」

 教会の中央に置かれた広い机。その上にはクロワの地図が広げられている。
 カーラは指揮棒タクトでカツ、カツ、と襲われた街と村を指していく。

「この城に来るのも時間の問題……いえ、かえって好都合。前のように追い回す手間が省けるわ。でもその前に、溢忌君。ゲートヤンを喚び出して」

 楊……たしか、伊能の部下で猫耳の美少年か。
 伊能と共にブルーデモンズと袂を分かち、今はブクリエの諜報部門に所属している。
 その楊をなぜ喚び出すのか。いや、今は緊急事態だ。いちいち質問しているヒマはない。カーラには何か考えがあるのだろう。

「分かったっス。ここじゃ狭いんで、城の外でやるっスよ」

 城の外へ出て、皆が見ている前でゲートを出現させる。
 
 ゴゴゴ、と重そうな扉から現れた楊。突然のことで唖然としている。
 カーラが近付くと萎縮してひざまずく楊だったが、事態の説明を聞いて頷き、俺の側へ。

「事情は分かりました。僕の持っているチートスキルを急ぎ溢忌さんに譲ります」

 楊のチートスキル……そういえばまだ譲り受けていなかった。しかし、そんな事をしている場合なのか。

「溢忌君、急いで。魔王に対抗するメンバーを集めるには彼のチートスキルが必要なの」

 カーラに急かされ、俺は慌てて身構える。楊も木の棒を取り出し、ヒュオオオ、と回転させた。

「急ぎますが──手は抜きません。全力でいきますっ」

「──望むところっスよ」

 ふたり同時にしかけ、一瞬の交差。
 木の棒で身体の数ヶ所を突かれた俺は、ふらふらと数歩進んだところでヒザをつく。が、すぐに立ち上がって振り返る。
 
「さすがは……溢忌さん。僕の点穴てんけつ技も通じないなんて。僕の負けです」

 楊は右肩を押さえながら棒を落とした。すれ違う瞬間、軽く手刀で打ったのだ。

 楊から光る球体が飛び出し、俺に吸い込まれる。ステータスウインドウを開いて何気に確認して、あっ、と気付いた。
 今のでチートスキルの数が107。あとひとつでコンプリートだ。

「シエラ! チートスキルがあとひとつで全部そろうっスよ。あ、でもあとひとつ探すヒマなんてないっスよね」

「分かってんなら、さっさと今手に入れたチートスキルを使わんかいっ! 魔王が近づいてんだよっ、ボヤボヤすんなっ!」

 怒られた……喜ぶと思ってたのに。
 俺は渋々手に入れたばかりのチートスキルを発動。

 ズラアアアッ、と俺の横一列に人間が現れた。というか、全部俺だ。俺自身の姿が鏡写しのように並んでいる。
 俺を含め、全員で8人。俺そっくりの姿をしたヤツらも驚いた顔でキョロキョロしている。

「ふんふん、初めてにしてはまあまあだな。このスキルは分身。ナ○トほどじゃないけど、気合いを入れればもっと増えるぞ。この分身はお前と同等の力を持っている。攻撃を受けたら消えちゃうけどなー」

「スゴいっスね! ああ、それで分身とゲートを使えば一気に仲間を喚べるってことっスね」

「そう……だからゲートを使うタイミングには気を付けて。喚び出した願望者デザイアには時間制限があるから──」
 
 説明の途中。カーラの表情が険しくなった。
 紅い瞳が一点を見つめている。

「……来るわ。地の底から這い出てくる……前回と一緒ね。溢忌君、早速ゲートを使って。あなたが今までの旅で出会った願望者デザイア達。きっと力を貸してくれるわ」

 ゲートを発動。
 俺の分身たちも同じくスキルを発動。
 八つの門がドドドドンッ、と一斉に出現。これは圧巻だ。

「喚び出された人達が混乱しないように、念話で説明しておくわ。溢忌君、あなたは魔王に備えて。あとシエラを絶対に守り抜くこと。彼女の力も必要になるから」

 八つの門が開くのと、視線の先──ゴゴゴゴ、と何か巨大なものが浮かび上がってくるのが同時。
 
 デカイ。あれが魔王か。
 全身に鳥肌が立つ。いや、怯んでいる場合ではない。

 真っ黒い巨体から複数の長い脚が伸びている。
 頭部と思わしき部分には二列に並ぶ八つの目。
 魔王は巨大な蜘蛛の姿をしていた──。

 
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