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25 罠

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 王城前で待ち受けている剣豪ソードマスターと護衛の弓猟兵ボウマスター2体。
 拠点を守っているだけあって、通常の上位ユニットより手強そうだ。

 でも数の上ではもうこちらが逆転している。両クラスとも技の数値が高いから、気をつけるのはクリティカルヒットぐらい。念のために防御力の低いユニットは近接しないようにしとかないと。

 王城前の剣豪ソードマスターは動かないし、弓猟兵ボウマスターも射程に入らなければ動いてこない。
 そこまではすでに安全地帯だ。わたしたちは勝利を確信しながら進む。

 心配なのはこのあと。
 王城内の敵はそこまで多くないが、このマップ14以上の精鋭揃い。
 しかもボスは王都フレゼリシアを陥落させたフェルディナン将軍。

 大陸屈指の名将と称される帝国駐屯軍最高司令官だ。
 わたしが転生する直前にゲームで戦っていた相手。
 このフェルディナン将軍を倒してマップ15をクリアすれば晴れて王都フレゼリシアを奪還し、祖国ロスキレを帝国から完全に取り戻したことになる。

 祖国再興を悲願としてるアネリーゼ姫にとっては最重要な局面だ。そしてわたし、権現崎ごんげんざきかなめにとっても。

 転生する前のゲームと同じところまでストーリーが進んだら、何か起きそうな気がする。もしかしたら元の世界に戻れるとか。
 このままこっちで第4章まで進むってのもかなり不安だ。
 ゲームで進めてなかった未知のストーリーにマップ。これまでもゲーム通りじゃなかった部分もあったけれど、予備知識があるのとないのじゃ大違いだ。

 最終章である第4章は大まかなことしかわかんないけど、完全に帝国軍を追い出したロスキレが今度は逆に帝国へ攻め込むって話だ。
 そこんとこのアネリーゼ姫の心境はどうなんだろ。やっぱ自分以外の王族を殺されたことによる復讐心なのかな。

 そもそも帝国がどんな理由で侵攻してきたかとか、どうしてアネリーゼ姫だけ生かされてたかって謎も明らかになってない。
 王都を奪還すればそういうことも少しはわかってくるのかな……って、考えながら進んでいたらもう王城は目の前だ。

 敵弓猟兵ボウマスターが動き始めた。
 だけど大盾を構えたホルガーが前面に出て防御の面では安全。隙を見て一気に近づいて撃破すれば問題ない。

 わたしはそうたかをくくっていた。
 ここで急に諜報兵がわたしに近づいてきて耳打ちする。
 この諜報兵たちは元ギオルグの配下だった盗賊たち。ゲームでは仲間になるはずのなかったイレギュラーな存在。
 陰ながらわたしの身辺警護や情報収集に力を尽くしてくれる頼もしい存在だ。

「なんですって……!」

 諜報兵の報告にわたしは一気に血の気が引いた。

 このフレゼリクスハウン平原の四方には敵の侵攻に備えた砦が存在するが、現在兵力が割かれた帝国軍がそこに兵を配備する余裕はない。

 ゲームでも無人だった。ある程度のターンが過ぎようとそこから増援が現れることなんてなかった。それなのに──。

「まさか、罠だった……⁉」

 ゲームとは違う展開がまた起きたというのか。その砦から大量の増援部隊が現れ、こちらに向かっているという。
 このままでは囲まれる。逃げ場はどこにもない。

 クヌーズ先生の策が見破られていたのか。フェルディナン将軍は多数の兵を地方に派遣したように見せかけ、実はわたしたち主力軍を誘き出す用意をしていた。

 わたしは助けを求めるようにセヴェリン王子のほうを見る。
 彼ももう異変に気付いているようだ。四方から迫る砂塵を確認し、素早く状況を判断。混乱しているわたしに代わってみんなに指示を出す。

「左右後方より敵の増援! 退くことはできない! 正面の敵を倒し、城に突入する!」

 さすがはセヴェリン王子だ。このピンチに冷静で的確な判断。
 留まることも退くこともできないこの状況。だけど正面は手強いとはいえ敵ユニットは3体。

 正面の敵を倒して城に突入。そして門を閉じれば外の敵は防げる。
 これしか私たちが生き延びる方法はない。

 わたしたち全員で前進。敵弓猟兵ボウマスターの厳しい弓射にさらされるが、大盾を構えたホルガーの陰に隠れながら接近。近付いたところでセヴェリン王子とアグナーが素早く倒した。

 残るはマップボスの剣豪ソードマスター
 大勢でボコることになるけどこっちだって必死だ。城へ入る前に敵増援に追いつかれたら全滅は免れない。
 ここは迅速に、そして安全に倒させてもらう。

 剣豪ソードマスターは近接攻撃しかできない。ここは間接攻撃できるユニットで攻めるのがセオリーだ。
 エイナルの弓射とクラーアの魔法で先制攻撃。おっと、さすが回避率が高い。城門前という地形効果も加わって、ふたりの攻撃はかわされてしまった。

 だけど反撃があるわけじゃない。ここはこのまま遠間から攻撃させてもら──あれっ、エイナルとクラーアがダメージを負ってしまった。
 鋭い刃物で斬られたような傷。慌ててふたりを下がらせる。どうして……剣豪ソードマスターはあの位置から攻撃する術を持たないはず。

「姫っ、あぶない!」

 突然セヴェリン王子がわたしに体当たり。
 地面へもつれるようにして倒れ、イケメンの顔がくっつきそうなほど間近に。

 ふわわ、と顔が熱くなるのを感じながらも、セヴェリン王子が苦痛に顔を歪めているのに気付く。
 
「セヴェリン王子!」

 その背にはエイナルとクラーアが負ったような裂傷。王子の軽鎧ライトアーマーを容易く切り裂いている。

 ここでわたしはハッと思い出す。 
 このマップ14のボスの装備武器。剣ではあるが、間接攻撃可能な超レアな魔法剣エアブレードだった。

 敵剣豪ソードマスターが遠間から剣を振るうと、飛翔する斬撃が次々と向かってくる。
 倒れたわたしたちをかばってホルガーが盾がわりになるけど、ダメだ、この剣は魔法ダメージ効果。魔法防御の低いホルガーが大ダメージを負ってブッ倒れてしまった。

 トドメとばかりに敵剣豪ソードマスターがさらに剣を振る。
 だがここは聖騎士パラディンウルリクが間一髪、身を挺してホルガーをかばった。

 魔法防御の高いはずの聖騎士パラディンだが、それでもよろめいて落馬しそうだ。あのボス、相当手強い。
 ゲームでわたしはどうやって倒したっけ。
  
  睡眠スリープの魔法で対抗しようとするけど、魔法を使うには若干溜めがいる。その隙を与えないほど相手の連続攻撃がまた飛んでくる。

「わたしが出るしかない」

 魔法防御の高い王女プリンセスのわたしが突っ込むしかない。
 フリーダとギオルグの投げ斧トマホーク、ヴィリの弓で援護してもらいつつ、わたしは剣を抜きながら前へ。

 カマイタチのような風の刃が正面からぶつかる。
 わたしは剣で受け止め、弾きながら前進。うん、たしかに重いけど耐えられないほどじゃない。このまま近付いたところを他の仲間で攻撃してもらおう。

 ある程度間合いを詰めたところで敵の攻撃がやんだ。ここはチャンスだ。さあ、みんなやっちゃって。そしてあいつの持ってるレア武器をゲットしよう。

 わたしが引き、代わりに仲間が前にでようとした時だった。
 ズッ、と敵剣豪ソードマスターが一瞬で接近。この能力──ユニット特有の特技、【縮地】だ。

 上位クラスがさらに高レベルに達すると、この特技が使えるようになる。
 それぞれの職種で習得できる特技は様々だがいずれも強力。剣豪ソードマスターの縮地は瞬く間に敵に近付き、連続攻撃を叩きこむというもの。

 自らの命を犠牲にしようが、わたしさえ倒してしまえば帝国の勝利。完全に油断していた。剣豪ソードマスターの連続攻撃なんか喰らったら間違いなく終わりだ。眼前で振り下ろされる刃をはっきりと捉えてはいるが、わたしの身体は硬直して動かなかった。
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