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第1章 留学生
1 シノ
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午後からの授業が始まる前。
隣の席の女子生徒がペンの先で脇腹をつつきながら話しかけてきた。
「ねえ、葵くん。このクラスに留学生が来るって噂、知ってるよね。わたし、さっき職員室の前で見てビックリした。マジで外国人。スゴいキレイな子だったよ」
留学生……たしかに数日前から噂になっていた。
アメリカからとは聞いていたが、そんなに美人なのか……。
「なんで午後からなんだろ。あっ、先生が来た」
女子生徒が慌てて席に座りなおす。
教室のドアから入ってきたのは男の担任とひとりの少女。
おお~っ、と主に男子生徒たちから声がもれる。
長い金髪に青い瞳。女優のように美しく整った顔立ち。同い年にしてはずいぶん大人びて見える。スラッとしたスタイルで足が長い。
この高校の制服は青っぽいブレザーとチェックのスカートなのだが、留学生はシックな感じのグレーのセーラー服。
アメリカの高校で着ていたものだろうか。あっちの高校って私服じゃなかったっけ、と葵は考えながらもその目はつい胸にいってしまう。
特に興味があるというわけじゃないが……さすがはアメリカンサイズ。なんかエロゲに出てくるキャラクターみたいだ。
「やっぱ男の子だねえ。どこ見てんのさ、スケベ」
隣の女子生徒がイシシ、とからかうように小声で笑う。
葵は顔を赤らめ、うつむく。
担任が咳払いをしてから転校生の紹介をはじめた。
「え~、みんなもう知っているとは思うが、アメリカからの留学生、シノ・メッシングさんだ。日本語はしゃべれるが、こちらで生活するのは初めてらしい。色々と教えてあげるように。え~と、それで席は……」
葵と担任の目が合った。
「お、佐賀野の隣が空いてたな。シノさん、とりあえずあそこの席へ」
担任が俺の隣を指さした。
何を言っている──。葵は怪訝な目を担任に向けた。
空いている席なんてない。隣にはさっきまで話していた生徒が……あれ、おかしい。
思い出せない。たしかにいたはずだ。俺の隣……今は無人の席だ。
隣の席を見ながら呆然としていると、留学生のシノが葵の顔をのぞきこむように声をかけてきた。
「はじめまシテ。よろしくお願いしマス。佐賀野葵サン」
「あ、ああ……。よろしく」
葵はひきつった顔で返事をする。
クラスの男子生徒からの羨望と嫉妬の眼差しが痛い……。
あれ、今フルネームで呼ばれたけど自己紹介したっけ? と思いながら首をかしげた。
📖 📖 📖
授業が終わり、帰りのホームルームの時だった。
担任が留学生に部活動の紹介をしてやれと言ってきたのだ。
どうやら葵に向けて言っているようだ。
葵は露骨に面倒くさそうな顔。リアルな女子は苦手だし、目立つのもキライだ。
こんな金髪美少女を連れて校内を歩き回っていたら目立ちまくるのは間違いない。
ホームルームが終わると、隣の席に男子生徒たちがぐわっと押し寄せてきた。
口々に俺が案内しますよと言っている。
葵はヒジや背中で押され、椅子から転げ落ちそうになる。
「ゴメンナサイ。部活はもう決まっテテ。わたし、葵サンと一緒がイイ。文芸部に入るんデス」
ピタリと動きを止める男子生徒たち。シノは葵の手を両手でつかむと、強引に引っぱって男子たちの包囲を突破。そのままの勢いで教室を飛び出した。
📖 📖 📖
「ちょ、ちょっと待って。ストップ」
逃げるように葵の手を引き、廊下を走り抜けるシノに声をかける。
シノはやっと手をはなし、ニッコリと笑う。
「アハハ、文芸部ってどこにあるんですカネ……?」
知らないで走ってたのか。いや、それよりどうして俺が文芸部に入ってるのを知っているんんだ。
葵は謎の多い転校生に質問する。
なぜはじめから俺の名前や文芸部に入っていることまで知っているのか、と。
「それはでスネ、運命だからデス。あなたとわたしは出会う運命だったんデス。まあ、すぐにわかりまスヨ」
キレイな顔をぐいっと近づけられ、葵はたじろぐ。
あ、なんかヤバい人なのかも……とそれ以上の質問は控えることにした。
「えっと、文芸部に入りたいんだよな? ちょうどよかった。今季の部誌の締め切りが近いんだ。ひとりでも多いと助かるよ」
運命なんたらの話題を避けるようにそう言い、葵は廊下の奥のほうへと歩きだす。
「部室はこっち。多分みんな集まってるだろうから紹介するよ」
「ハイ」
部室といっても図書室の一角を借りているだけだ。
全員で3人の弱小部活だから仕方ないとはいえ、まともに部室もないと知ったらがっかりするかもしれない。
そんなことを心配しながら葵は図書室のドアを開ける。
うしろから覗きこんだシノはわあ~、と感動したような声を出した。
「スゴいデス! 本がたくさんありマス! さすがは文芸部でスネ」
「いや、ここは図書室だから本がたくさんあるのは当たり前で……」
シノは聞いていない。本棚のほうへ走り、次々と本を取り出してはページをペラペラとめくる。
「あっ、葵。その子って留学生だよね。なんでアンタと一緒にいるの?」
図書室奥のスペースからひとりの少女が声をかけてきた。
葵と幼なじみの赤星瑞希。
クラスは違うが、家が近所なので登下校は同じ。葵はなぜか小さい頃からこの少女に頭が上がらない。
今も突然シノのことを聞かれ、うおっと怯んでとっさに答えることができなかった。
「フム。海外からの麗しき乙女を冴えないキミがエスコートする理由はひとつ。先生に頼まれ、校内を案内しているのだろう。さあ、その役は僕に譲りたまえ。語学力に乏しいキミには荷が重いだろう」
続けて出てきたのはひとつ上の先輩。3年生で文芸部部長の立山文雄だ。
「いや、この人、バリバリ日本語話せますよ。それに……」
ここに連れてきたのは校内の案内ではない。文芸部に入りたいというからだ。
その事を伝えると、部長の立山のメガネがキラリと光り、天然パーマの頭がブルッと震えた。
隣の席の女子生徒がペンの先で脇腹をつつきながら話しかけてきた。
「ねえ、葵くん。このクラスに留学生が来るって噂、知ってるよね。わたし、さっき職員室の前で見てビックリした。マジで外国人。スゴいキレイな子だったよ」
留学生……たしかに数日前から噂になっていた。
アメリカからとは聞いていたが、そんなに美人なのか……。
「なんで午後からなんだろ。あっ、先生が来た」
女子生徒が慌てて席に座りなおす。
教室のドアから入ってきたのは男の担任とひとりの少女。
おお~っ、と主に男子生徒たちから声がもれる。
長い金髪に青い瞳。女優のように美しく整った顔立ち。同い年にしてはずいぶん大人びて見える。スラッとしたスタイルで足が長い。
この高校の制服は青っぽいブレザーとチェックのスカートなのだが、留学生はシックな感じのグレーのセーラー服。
アメリカの高校で着ていたものだろうか。あっちの高校って私服じゃなかったっけ、と葵は考えながらもその目はつい胸にいってしまう。
特に興味があるというわけじゃないが……さすがはアメリカンサイズ。なんかエロゲに出てくるキャラクターみたいだ。
「やっぱ男の子だねえ。どこ見てんのさ、スケベ」
隣の女子生徒がイシシ、とからかうように小声で笑う。
葵は顔を赤らめ、うつむく。
担任が咳払いをしてから転校生の紹介をはじめた。
「え~、みんなもう知っているとは思うが、アメリカからの留学生、シノ・メッシングさんだ。日本語はしゃべれるが、こちらで生活するのは初めてらしい。色々と教えてあげるように。え~と、それで席は……」
葵と担任の目が合った。
「お、佐賀野の隣が空いてたな。シノさん、とりあえずあそこの席へ」
担任が俺の隣を指さした。
何を言っている──。葵は怪訝な目を担任に向けた。
空いている席なんてない。隣にはさっきまで話していた生徒が……あれ、おかしい。
思い出せない。たしかにいたはずだ。俺の隣……今は無人の席だ。
隣の席を見ながら呆然としていると、留学生のシノが葵の顔をのぞきこむように声をかけてきた。
「はじめまシテ。よろしくお願いしマス。佐賀野葵サン」
「あ、ああ……。よろしく」
葵はひきつった顔で返事をする。
クラスの男子生徒からの羨望と嫉妬の眼差しが痛い……。
あれ、今フルネームで呼ばれたけど自己紹介したっけ? と思いながら首をかしげた。
📖 📖 📖
授業が終わり、帰りのホームルームの時だった。
担任が留学生に部活動の紹介をしてやれと言ってきたのだ。
どうやら葵に向けて言っているようだ。
葵は露骨に面倒くさそうな顔。リアルな女子は苦手だし、目立つのもキライだ。
こんな金髪美少女を連れて校内を歩き回っていたら目立ちまくるのは間違いない。
ホームルームが終わると、隣の席に男子生徒たちがぐわっと押し寄せてきた。
口々に俺が案内しますよと言っている。
葵はヒジや背中で押され、椅子から転げ落ちそうになる。
「ゴメンナサイ。部活はもう決まっテテ。わたし、葵サンと一緒がイイ。文芸部に入るんデス」
ピタリと動きを止める男子生徒たち。シノは葵の手を両手でつかむと、強引に引っぱって男子たちの包囲を突破。そのままの勢いで教室を飛び出した。
📖 📖 📖
「ちょ、ちょっと待って。ストップ」
逃げるように葵の手を引き、廊下を走り抜けるシノに声をかける。
シノはやっと手をはなし、ニッコリと笑う。
「アハハ、文芸部ってどこにあるんですカネ……?」
知らないで走ってたのか。いや、それよりどうして俺が文芸部に入ってるのを知っているんんだ。
葵は謎の多い転校生に質問する。
なぜはじめから俺の名前や文芸部に入っていることまで知っているのか、と。
「それはでスネ、運命だからデス。あなたとわたしは出会う運命だったんデス。まあ、すぐにわかりまスヨ」
キレイな顔をぐいっと近づけられ、葵はたじろぐ。
あ、なんかヤバい人なのかも……とそれ以上の質問は控えることにした。
「えっと、文芸部に入りたいんだよな? ちょうどよかった。今季の部誌の締め切りが近いんだ。ひとりでも多いと助かるよ」
運命なんたらの話題を避けるようにそう言い、葵は廊下の奥のほうへと歩きだす。
「部室はこっち。多分みんな集まってるだろうから紹介するよ」
「ハイ」
部室といっても図書室の一角を借りているだけだ。
全員で3人の弱小部活だから仕方ないとはいえ、まともに部室もないと知ったらがっかりするかもしれない。
そんなことを心配しながら葵は図書室のドアを開ける。
うしろから覗きこんだシノはわあ~、と感動したような声を出した。
「スゴいデス! 本がたくさんありマス! さすがは文芸部でスネ」
「いや、ここは図書室だから本がたくさんあるのは当たり前で……」
シノは聞いていない。本棚のほうへ走り、次々と本を取り出してはページをペラペラとめくる。
「あっ、葵。その子って留学生だよね。なんでアンタと一緒にいるの?」
図書室奥のスペースからひとりの少女が声をかけてきた。
葵と幼なじみの赤星瑞希。
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今も突然シノのことを聞かれ、うおっと怯んでとっさに答えることができなかった。
「フム。海外からの麗しき乙女を冴えないキミがエスコートする理由はひとつ。先生に頼まれ、校内を案内しているのだろう。さあ、その役は僕に譲りたまえ。語学力に乏しいキミには荷が重いだろう」
続けて出てきたのはひとつ上の先輩。3年生で文芸部部長の立山文雄だ。
「いや、この人、バリバリ日本語話せますよ。それに……」
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