葵の戦神八姫~アンカルネ・イストワール~

みくもっち

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第2章 壊れていく世界

8 A級魔族

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 ショッピングモールの2階。
 階段を登った先、正面には映画館の入り口。右の通路からその奥はアミューズメントパーク。
 雛形結ひながたゆいが正面のほうをズンズン歩いていく。

「大きな反応はこちらからですね。わたくしにお任せください。邪悪なる魂はひとつ残さず浄化してみせます」

 ちょっと待って、とあおいが止めるのも間に合わず、結は映画館の扉をバァン、と開けた。
 この探索の目的はあくまで生存者を探すことだ。むやみやたらに魔族を倒してまわるものではない。
 強力な魔族に遭遇、運良く撃退できたとしてもこちらにメリットは少ない気がする。

 館内は真っ暗。静かだが──葵にもわかった。
 何かがいる──。
 シノが手の平からオレンジ色の球体を飛ばす。
 それは館内の四方に飛び、辺りを明るく照らした。

 スクリーンの前。グオオオ、と縦に大きな黒い塊がそびえ立つ。
 柱のようなそれは天井まで伸びると、ババババと大樹のような枝を何本も生やした。
 その枝からボトンボトンと果実のように落ちる黒い物体。
 床に触れると、赤い目玉と鋭い牙を持ついつもの魔族になり、シートを乗り越えてこちらに向かってくる。

「あの大きな魔族グリデモウスはA級魔族デス! 知能はC級以下ですが、あのように低級魔族を生み出すことができマス。さらに生命力や再生力が比較にならないほど強イ……!」

 シノの説明を聞いているのかいないのか、結はそのままシートの上を蹴りながら軽やかに移動。
 まずは前衛の魔族数体をシートごとブッタ斬った。
 A級魔族はさらに枝から魔族をボトボト生み落とす。
 
 結は間合いを詰め、床に落ちたばかりの魔族を浄化。そこから跳躍し、A級魔族に斬りつける。
 枝のような部分を何本も斬り落とした。着地した結が刺突のために太刀を引いて構えたそのとき──。
  
 斬り落とした部分から枝がゾゾゾと再生。さらに伸びて結の足首をつかんだ。

「あっ!」

 ものすごい勢いで結は放り投げられ、壁に激突。
 そこへドドドドドッ、と伸びた枝先が連続で突く。
 さすがにこれはヤバいと葵はアンカルネ・イストワールを発動させるために集中──。
 結はすでに立ち上がり、太刀で枝を斬り落としながら突き進んでいる。その枝も斬った先からすぐに再生をはじめていた。

「なるほど。たしかに面倒ですね、この再生力は」

 太刀を振るう結は冷静だ。だが頭部から血が流れている。
 戦姫せんきがダメージを負っているのをはじめて見た葵は動揺し、アンカルネ・イストワールの発動に失敗した。
 発動しかけていた魔導書はブン、とバッテリー切れのタブレットのように光を失う。

「枝葉がダメならば元を断てば済むこと」

 葵の動揺も知らず、結は駆け抜けるように太刀を一閃。
 大樹のような魔族の胴体が横に裂けた。
 メキメキと自重に耐えきれず、傾くA級魔族。
 しかし、その胴体の傷口がビュルル、と黒い繊維がまとわりつくように再生。
 体勢を立て直したA級魔族は枝によるメッタ突きを上から繰り出す。
 結はその雨のように降り注ぐ猛攻を防ぎつつ、反撃している。
 だがやはり枝も胴体もすぐに再生してしまう。

「くそっ、落ち着け……俺がなんとかしなきゃ……」

 焦る葵。再びアンカルネ・イストワールを発動させようとするが、やはり集中が足りない。その時──。

 ボボッ、ボオッ。
 3発の火球が葵を横切り、A級魔族に命中。
 シノが放ったものだ。だが魔族の勢いは衰えず、5本の枝を同時に突き出して結を吹っ飛ばした。

 ゴッ、とすぐ真横でシートにめり込む結。
 葵とシノが急いで助け起こす。

「結、ダメだ、相手が強すぎる! 無理して戦う必要はない! 逃げよう」

「たしかにあの敵とわたくしの相性はあまり良くないようです。ですが──見てください」

 結が太刀の先をA級魔族に向けながら言った。
 A級魔族に負わせた傷。また再生をしているが、さっきよりもスピードが遅い。シノがあっ、と声をあげた。

「あの魔族は炎に弱イ! 炎で再生力を鈍らせることがでキル!」

「その通りです。シノさん、援護をよろしくお願いします」

 太刀を構えなおし、結が走る。
 ズアアッ、と伸びてきた枝をかわしながら接近。
 ボタボタと増殖された魔族も束になり、襲ってきた。
 飛び込むようにそれらを斬り伏せ、結は前転。その上をシノの放った火球が通り過ぎ、A級魔族に命中──グギギギ、と動きが鈍くなった。

 ヒザをついた状態から結がつぶやく。

禍津祓極神明流奥義まがつはらいきょくしんめいりゅうおうぎ──」

 立ち上がりながらの斬り上げ。ゾアァッ、と間欠泉のように破邪の気が噴き出し、A級魔族を根元から引っこ抜く。

「うおっ、すげえっ」

 葵が驚きの声をあげる。
 大樹のような魔族は上部が天井に突き抜け、全体にビキバキと亀裂が入る。再生する様子はない。シノの炎が効いたためか。

 結はそこから半月を描くように太刀を振りかぶる。
 シャアンッ、と鈴の音が鳴り、柄から切っ先までが巨大な白い光に覆われる。

帷神かんながらの道──」

 太刀を振り下ろす。
 白い光に巻き込まれたA級魔族はスクリーンをぶち破って砕け散り、跡形もなく消滅した。

「うわっ!」

「キャアッ!」

 結の放った技によって映画館のフロアは崩壊。葵とシノは1階まで転落した。

「いってえ……」

 それなりの高さから落ちたが、葵もシノもケガはないようだった。
 ふわりと降り立った結がシャラン、と鈴を鳴らしながら葵の前にひざまずく。

「葵様、あなた様を害する敵はこの雛形結が討ち果たしました。ご安心ください」

 そう言う結の背後には、先ほどの技で出来た衝撃波によって建物はおろか地面までえぐれ、白く光る道がまっすぐに伸びていた。
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