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第2章 壊れていく世界
10 魔結界
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ドォンッ、とリッカの鉄拳飛環烈迅砲が7体の魔族を吹き飛ばす。
戻ってきた手甲を装着。ローラーダッシュしながら次の魔族の顔面をわしづかみに。
うしろにいた3体も巻き込みながら壁に叩きつけ──いや、壁ごと破壊して隣のフロアに。
そこでも多くの魔族がうごめいている。
「いくらでもかかってこいよ、ザコども」
リッカは笑いながら両手の拳を打ちつける。
ショッピングモールの戦いから3日が過ぎていた。その間の探索で葵たちはさらに12名の生存者を見つけることができた。
今日は図書館を探索。視聴覚室で若い男性をひとり。地下駐車場で女子大生のひとりを見つけた。
戻る際に大勢の魔族に囲まれたが、戦神八姫のひとり、リッカ・ステアボルトの前に大半の魔族は引き裂かれ、打ち砕かれて消滅した。
「リッカ! これ以上生存者はいないみたいだ! 必要以上に戦わなくてもいい! 退くぞ!」
葵がシノとともに生存者ふたりをかばいながら後退。
もの足りねーな、と言いながらリッカもこちらに来ようとして──立ち止まる。
「なんだ、この感じ……」
葵もすぐに異変に気付いた。
息苦しい……身体が重い。熱にうなされたようにふらつく。
ふたりの生存者も苦しそうな表情。シノにいたっては顔面蒼白でガタガタ震えている。
「シノ……大丈夫か? なんなんだ、この重苦しい雰囲気」
「……魔結界デス。我々人間の力を半減させ、魔族を活性化させる領域が形成されまシタ。まずいデス、早く学校まで戻らなイト」
グオオオ、と魔族たちの咆哮が響きわたる。
赤い目玉をギョロギョロ動かし、その黒い塊がズモモ、とひとまわりデカくなった。
リッカめがけて複数の魔族が殺到。
舌打ちしながらリッカが拳を突き出す。
いつもならまとめて吹っ飛ばされる魔族だが、グシャアとアゴが砕けたのは1体のみ。しかもまだ動いている。
「──っの、なんだっ、いででっ」
リッカの腕と脚がつかまれ、引き倒される。その上にバババと跳躍した魔族が襲いかかる。
「くそっ! アンカルネ・イストワール、発動」
葵の持つ本から光が放たれ、その中から少女が飛び出してくる。
伝説の傭兵、グォ・ツァイシーだ。
リッカに牙や爪が届く前にツァイシーの矢が魔族どもを射ち落とした。
さらにリッカを押さえつけている魔族の頭部をドドドッ、と射抜く。
自由になったリッカ。至近距離で鉄拳飛環烈迅砲を喰らわせ、2体の魔族を粉砕した。
葵自身キツかったが、なんとか召喚に間に合った。余計なことしやがって、とリッカの罵声が聞こえるが今はそれどころではない。
「わたしたちの力は半減どころじゃない……十分の一も出せていない。葵殿の安全を確保するためにも迅速に撤退すべきだ」
ツァイシーは冷静だ。魔族どもに矢を浴びせつつ、リッカに先へ行けと言った。
「殿はわたしが務める。お前は退路を断たれぬように先頭で道を切り開け」
「ちっ……仕方ねー。おい、余計なマネしたテメーもいずれブチのめしてやるからな。それまで死ぬんじゃねーぞ」
「気遣い無用……早く行け」
📖 📖 📖
ツァイシーが敵を食い止めている間に図書館を脱出。だがイヤな感じはまだ消えない。魔結界の範囲は一体どれぐらいなのか。
「……おそらく街全体を覆っているほど広いものでショウ。ですが、それよりも問題なのは魔結界を作り出せるのは最上位の魔族……S級魔族だということデス」
「S級……敵の幹部みたいなもんか。でも俺の戦姫たちなら……」
「いえ、S級魔族は今までの魔族とはまったくの別次元。高い知能と強大な魔力を持つ恐ろしい相手デス。この魔結界内での勝ち目はゼロと言っていいでショウ」
「じゃ、じゃあどうすれば……」
「こっちには一般人もいますし、戦姫の召喚時間も限られていマス。ツァイシーの言った通り、いったん学校へ戻るしかありまセン。学校の結界内には強化した魔族も入れないでしょうカラ」
📖 📖 📖
何度か危うい場面もあったが、リッカの奮闘のおかげで学校近くまで無事にたどり着くことができた。
挟撃されないのはまだ後方で敵の追撃を止めているツァイシーのおかげだ。
もう一息、というところで現れたのは、ぞろぞろとまとまった集団を指揮する人型の黒いバケモノ。
B級魔族だ。こちらの体格も以前見たものより大きくなっている。
「逃がすかよ、人間ども。お前らは全員ここで死ぬんだよォ。ザマァみやがれ!」
B級魔族の合図で一斉に襲いかかってくるバケモノたち。
「いつものオレならこんなヤツら一撃なのに! クソッタレが!」
双鉄拳飛環烈迅砲を放ち、群れの中へ飛び込むリッカ。
「今のうちだっ! 早く学校の中へ行けっ! 葵っ!」
「──すまないっ!」
生存者のふたりを先に走らせながら、葵とシノも校門へと向かう。
「うおおおおっ!」
リッカの雄叫び。そして衝撃音。
振り返ると、リッカが負傷しながらも魔族たちに体当たり。葵たちのほうへ向かわせないように押さえ込んでいる。
だが、それを飛び越える5体の魔族。
シノが放つ火球をものともせず、一直線に葵のほうへ──。
ドガガガッ、と魔族の影を矢が貫いた。
5体の魔族は地面に縫いつけられたように動けなくなっている。この技は……【影縫い】!
「呆けているヒマはないぞ。走れっ」
上からの声。見上げれば、電柱の上に弓を構えたツァイシー。
無事で良かった、と葵は喜んだが、その姿はリッカと同じく負傷している。
5体の魔族はジタバタとあがき、矢の拘束から解き放たれようとしている。あの【影縫い】で影を射られれば身動きひとつできなくなるはずだが、これも魔結界の影響なのか。
生存者のふたりが校門をくぐった。
それと同時に力ずくで拘束から解き放たれた魔族が再び突進。
葵とシノが飛び込むように校門へと突っ込む──。
バシイッ、と5体の魔族は結界に阻まれてうしろへ転がる。
「ヤバかった……なんとかギリギリ間に合った」
安堵する葵の目の前で、魔族たちはさらに結界へ向けて体当たり。同じように弾かれたが、以前は触れただけで消滅していたはずだ。やはり魔結界により格段にパワーアップしている。
「わたしたちは助かりましたが、戦姫のふたりガ……!」
シノが悲痛な声を出す。
リッカとツァイシーは傷つきながらもまだ戦っている。
さらに魔族の包囲は増し、このままではふたりは学校まで戻ることができない。
しかし、葵は落ち着いていた。
「召喚時間切れだ。もう大丈夫だ……」
リッカとツァイシーは光に包まれて葵の本に吸い込まれていった。
光を追いながら結界の壁にぶつかるC級魔族たちの音と、B級魔族の悔しそうな罵声がいつまでも響いていた。
戻ってきた手甲を装着。ローラーダッシュしながら次の魔族の顔面をわしづかみに。
うしろにいた3体も巻き込みながら壁に叩きつけ──いや、壁ごと破壊して隣のフロアに。
そこでも多くの魔族がうごめいている。
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今日は図書館を探索。視聴覚室で若い男性をひとり。地下駐車場で女子大生のひとりを見つけた。
戻る際に大勢の魔族に囲まれたが、戦神八姫のひとり、リッカ・ステアボルトの前に大半の魔族は引き裂かれ、打ち砕かれて消滅した。
「リッカ! これ以上生存者はいないみたいだ! 必要以上に戦わなくてもいい! 退くぞ!」
葵がシノとともに生存者ふたりをかばいながら後退。
もの足りねーな、と言いながらリッカもこちらに来ようとして──立ち止まる。
「なんだ、この感じ……」
葵もすぐに異変に気付いた。
息苦しい……身体が重い。熱にうなされたようにふらつく。
ふたりの生存者も苦しそうな表情。シノにいたっては顔面蒼白でガタガタ震えている。
「シノ……大丈夫か? なんなんだ、この重苦しい雰囲気」
「……魔結界デス。我々人間の力を半減させ、魔族を活性化させる領域が形成されまシタ。まずいデス、早く学校まで戻らなイト」
グオオオ、と魔族たちの咆哮が響きわたる。
赤い目玉をギョロギョロ動かし、その黒い塊がズモモ、とひとまわりデカくなった。
リッカめがけて複数の魔族が殺到。
舌打ちしながらリッカが拳を突き出す。
いつもならまとめて吹っ飛ばされる魔族だが、グシャアとアゴが砕けたのは1体のみ。しかもまだ動いている。
「──っの、なんだっ、いででっ」
リッカの腕と脚がつかまれ、引き倒される。その上にバババと跳躍した魔族が襲いかかる。
「くそっ! アンカルネ・イストワール、発動」
葵の持つ本から光が放たれ、その中から少女が飛び出してくる。
伝説の傭兵、グォ・ツァイシーだ。
リッカに牙や爪が届く前にツァイシーの矢が魔族どもを射ち落とした。
さらにリッカを押さえつけている魔族の頭部をドドドッ、と射抜く。
自由になったリッカ。至近距離で鉄拳飛環烈迅砲を喰らわせ、2体の魔族を粉砕した。
葵自身キツかったが、なんとか召喚に間に合った。余計なことしやがって、とリッカの罵声が聞こえるが今はそれどころではない。
「わたしたちの力は半減どころじゃない……十分の一も出せていない。葵殿の安全を確保するためにも迅速に撤退すべきだ」
ツァイシーは冷静だ。魔族どもに矢を浴びせつつ、リッカに先へ行けと言った。
「殿はわたしが務める。お前は退路を断たれぬように先頭で道を切り開け」
「ちっ……仕方ねー。おい、余計なマネしたテメーもいずれブチのめしてやるからな。それまで死ぬんじゃねーぞ」
「気遣い無用……早く行け」
📖 📖 📖
ツァイシーが敵を食い止めている間に図書館を脱出。だがイヤな感じはまだ消えない。魔結界の範囲は一体どれぐらいなのか。
「……おそらく街全体を覆っているほど広いものでショウ。ですが、それよりも問題なのは魔結界を作り出せるのは最上位の魔族……S級魔族だということデス」
「S級……敵の幹部みたいなもんか。でも俺の戦姫たちなら……」
「いえ、S級魔族は今までの魔族とはまったくの別次元。高い知能と強大な魔力を持つ恐ろしい相手デス。この魔結界内での勝ち目はゼロと言っていいでショウ」
「じゃ、じゃあどうすれば……」
「こっちには一般人もいますし、戦姫の召喚時間も限られていマス。ツァイシーの言った通り、いったん学校へ戻るしかありまセン。学校の結界内には強化した魔族も入れないでしょうカラ」
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何度か危うい場面もあったが、リッカの奮闘のおかげで学校近くまで無事にたどり着くことができた。
挟撃されないのはまだ後方で敵の追撃を止めているツァイシーのおかげだ。
もう一息、というところで現れたのは、ぞろぞろとまとまった集団を指揮する人型の黒いバケモノ。
B級魔族だ。こちらの体格も以前見たものより大きくなっている。
「逃がすかよ、人間ども。お前らは全員ここで死ぬんだよォ。ザマァみやがれ!」
B級魔族の合図で一斉に襲いかかってくるバケモノたち。
「いつものオレならこんなヤツら一撃なのに! クソッタレが!」
双鉄拳飛環烈迅砲を放ち、群れの中へ飛び込むリッカ。
「今のうちだっ! 早く学校の中へ行けっ! 葵っ!」
「──すまないっ!」
生存者のふたりを先に走らせながら、葵とシノも校門へと向かう。
「うおおおおっ!」
リッカの雄叫び。そして衝撃音。
振り返ると、リッカが負傷しながらも魔族たちに体当たり。葵たちのほうへ向かわせないように押さえ込んでいる。
だが、それを飛び越える5体の魔族。
シノが放つ火球をものともせず、一直線に葵のほうへ──。
ドガガガッ、と魔族の影を矢が貫いた。
5体の魔族は地面に縫いつけられたように動けなくなっている。この技は……【影縫い】!
「呆けているヒマはないぞ。走れっ」
上からの声。見上げれば、電柱の上に弓を構えたツァイシー。
無事で良かった、と葵は喜んだが、その姿はリッカと同じく負傷している。
5体の魔族はジタバタとあがき、矢の拘束から解き放たれようとしている。あの【影縫い】で影を射られれば身動きひとつできなくなるはずだが、これも魔結界の影響なのか。
生存者のふたりが校門をくぐった。
それと同時に力ずくで拘束から解き放たれた魔族が再び突進。
葵とシノが飛び込むように校門へと突っ込む──。
バシイッ、と5体の魔族は結界に阻まれてうしろへ転がる。
「ヤバかった……なんとかギリギリ間に合った」
安堵する葵の目の前で、魔族たちはさらに結界へ向けて体当たり。同じように弾かれたが、以前は触れただけで消滅していたはずだ。やはり魔結界により格段にパワーアップしている。
「わたしたちは助かりましたが、戦姫のふたりガ……!」
シノが悲痛な声を出す。
リッカとツァイシーは傷つきながらもまだ戦っている。
さらに魔族の包囲は増し、このままではふたりは学校まで戻ることができない。
しかし、葵は落ち着いていた。
「召喚時間切れだ。もう大丈夫だ……」
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