葵の戦神八姫~アンカルネ・イストワール~

みくもっち

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第2章 壊れていく世界

15 妖と魔

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 ぬえが前足で薙ぐと、三つの竜巻が発生。
 瓦礫や木を巻き込みながらフォゼラムへ向かう。
 
 フォゼラムは後退してかわしたが、さらに鵺の落雷攻撃。これは避けられず、5発の雷撃をまともに受ける。
 そして動きが止まったところを竜巻。
 三つの竜巻がひとつとなり、ギュオオオ、とすさまじい勢いでフォゼラムを飲み込んでいく。

「さしものヤツもこれはたまらぬであろう。さて、邪魔者が早く片付いたならばヌシ様と過ごせる時間が増えるというもの」

 玉響たまゆらは鵺の首を撫で、あおいのほうへ戻ろうと背を向けたときだった。

 爆発音ともに竜巻が消し飛ぶ。振り返った玉響と鵺にふたつの光線が飛んできた。
 玉響は扇子で受け流すが、鵺は脳天を貫かれて即死。ぐらりと傾き、地面へ倒れる前に消滅した。

 月明かりが照らす砂埃の中から現れたのはフォゼラム。手には愛用の剣、カッツバルケルの先を玉響のほうへ向けていた。

「驚いたぞ……わたしに剣を抜かせる者がこの世界にいるとはな。オーグルリオンの老魔導士以来か」

 フォゼラムがそう言った途端、葵の隣にいたシノが顔色を変えて飛び出した。

「オーグルリオンの魔導士……それはわたしのお祖父様デス! 許せない、お前がお祖父様ヲ……!」

「ほう、娘。あの老魔導士の孫か。この世界に転移術を用いて逃げてきたのだな。だが憐れなものよ……この世界もじきに我ら魔族グリデモウスによって滅びる。せっかく拾った命もムダになるわけだ」

「この世界は滅びナイ! この世界には創作者がイル! 物語を作れる創造の力が──お前たちを倒せる力がアル!」

「なるほど……娘。これでようやく納得ができた。お前の魔導の力が創作者に力を貸しているのだな。ならば──」

 カッツバルケルの先がキイイィ、と光りだす。先ほどの光線が放たれようとしている。

わらわを無視して勝手に出てくるでないわ、小娘。下がっておれ」

 シノとフォゼラムの間に玉響が割り込む。そして葵を守るように側に立っているツァイシーに声をかけた。

「そこの弓使い。不本意だが手を貸せ。あの異界の物の化、予想以上に面倒なヤツ……よいか、妾の合図に合わせて攻撃をしかけるぞ」

「お前の合図に? それはいいが、わたしの攻撃は幽体のヤツには通じない」

「なに、そこは妾がお膳立てしてやる。ほれ、はよう構えんと敵の攻撃がくるぞ」 

「…………」

 ツァイシーは矢をつがえる。フォゼラムの剣先から光線が放たれたとき、玉響が叫んだ。

「今じゃ! ていっ」

 ツァイシーが矢を放つ瞬間──弓の形状が変化。からすが羽を広げたような黒いものに。

「むっ! わたしの弓が──」

 ツァイシーは驚いたが、そのまま矢を放つ。

 異形の弓から放たれた黒い矢は光線とぶつかり、それを貫く。
 そのままフォゼラムの胸に命中。グワッと3本足の鴉のアザが広がり、瞬時に爆発。
 
 玉響の鬼兵召喚応用、咫八鴉やたがらす
 ツァイシーの弓に妖の力を付与した二戦姫同時攻撃ダブルアタックだ。
 
 爆発の中から出てきたフォゼラムの身体。
 胸元には大きな風穴。そこからビキビキと亀裂が四方に広がり、今にも崩壊しそうだ。

「幽体を保てぬほどに損傷したか……まあいい。お前たちの力は大体わかったし、置き土産もできた。ここはおとなしく退くとしよう」

 フォゼラムは宙に浮き、美しく微笑む。
 その身体が透けるほどに薄くなっていく。

「ほう、ここまでやっておいて逃げるつもりかえ……ふざけるのもたいがいにせよ」

 玉響の目がつり上がり、ギリリと牙をむき出しにする。
 扇を振り、3体の輪入道を召喚。宙へ向けて猛烈な勢いで飛ばす。

 だがその攻撃はすべてすり抜けてしまった。
 フォゼラムの姿は完全に消えたあとだった。

「逃がしたか……口惜くちおしや。せっかくの初陣に敵の首ひとつ手土産にできぬとは。ヌシ様に申し訳ないのう」

「おい、貴様」

 悔しがる玉響にツァイシーが殺気を込めて声をかける。
 なんじゃ、と不機嫌そうに振り返る玉響に、ツァイシーは変化の解けた自分の弓を突きつける。

「この神弓によくも妖の力などを……穢らわしい! 許さんぞ、女狐めぎつねが」

「勝つためには仕方なかろうて。それに咫八鴉は厳密に言えばあやかしというより神の使いぞ。大事な弓も元に戻っておるし、怒ることのほどでもなかろう」

 玉響はツァイシーの剣幕に怯むことなく、からかうように扇子で前髪をあおぐ。ツァイシーの身体からゴッ、と青いオーラが立ち昇る。

「女狐──射殺いころす!」

「やってみよ、青髪の小娘」

 至近距離からツァイシーの蹴り。ふわりと跳んでかわした玉響にギャッ、と神速の弓射。
 玉響は扇子で矢をはたき落とし、着物の袖下からヒュヒュヒュッ、と光る小狐──管狐くだぎつねを飛ばす。

「ああっ、何やってんだ。せっかく敵を追い払ったのに」

 葵の目の前でふたりの戦姫せんきが戦いはじめた。
 シノがあきれたようにため息をつく。

「まったく彼女たちは……強大な力を持ちながらあの仲の悪さだけは本当にどうしようもないでスネ」
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