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第3章 奪還
15 奪われた魔導書
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カードキーを差し込み、急いでドアを開ける。
まず探したのはベッドの上。寝る前までは確かに制服の中にいつものように忍ばせていた。
だが布団や毛布をめくったが見当たらない。シーツまでひっぺがしたが、やはり見つからない。
ベッドの下。チェストの上と下。トイレや浴槽の中まで見たが──ない。
部屋から出たときに落としたのか。ホテル内で行き来したのはロビーとホール。厨房は入口までで中までは入ってない。
今から1階まで降りて探すヒマはない。すでに魔族が3階に降りて数分は経っている。
「俺がやるしかない。この短剣で」
部屋に戻ったことを後悔しつつ、飛び出した葵。エレベーターより階段のほうが早いと再び非常階段へ。
飛び降りるように階段をおり、3階へ。通路へ出たときに葵は愕然とした。
すでにいくつもの部屋の扉が破壊されていた。
3階には瑞希がいる。最悪の事態を考えつつも、葵は走る。
魔族はちょうど通路の真ん中あたりの部屋で見つけた。
葵の姿を見ると途端にドロォッ、と液状化。葵の振る短剣をかいくぐり、通路へ逃れる。
魔族のいた跡にはどろどろに溶けてはいたが、かろうじて男物のスーツとわかる衣服の残骸。間違いなく生存者のひとりのものだ。
「くそっ、逃がすか!」
自分の判断ミスでこれ以上犠牲者を出すわけにはいない──。
葵は必死に追いすがり、飛びつきながら短剣を振り下ろす。
ズリュウウッ、とスピードアップした魔族は短剣をかわし、隣の部屋のドアを押し潰す。
そこは──たしか瑞希の部屋だ。
行かせるか、と叫びながら葵は再び走る。
だがゴウンッ、ゴオッ、と爆発音とともに魔族はのけぞり、壁にぶつかる。
部屋の中から飛び出したのはシノ。そしてその手に引かれるのは瑞希。
シノも同じ3階の部屋だった。いち早く異変を察知したシノが瑞希を守りにきていたようだった。
「葵サン、今です! エスパス・エトランジェをっ」
シノの機転に感謝しつつ、葵は短剣を構え直す。柄の青い宝石が光を放ち出す。
壁にぶつかった魔族はブスブスと煙を出しながら次第に黒い人型の姿を形どる。ダメージを受けると液状化は解除されるようだったが、今までに出会った魔族とは明らかにタイプが違う。
短剣で斬りつけようと一歩踏み出した葵の動きが止まった。魔族の顔のあたり。いつもの魔族なら赤いギョロついた目玉と大きく裂けた口に鋭い牙が現れるはずだが。
青白い面のように人の顔がズリュズリュと浮き出てきた。その顔は葵のよく知っている人物──文芸部部長の立山文雄だ。
「立山先輩っ……! 大変だ、立山先輩が魔族に取り込まれている!」
葵は後ずさる。これではうかつに攻撃できない。
だが、それは違いマス、と冷静な声をあげたのはシノだった。
「取り込まれているのではありまセン。あれは寄生型の魔族デス。部長はその宿主……もう部長は人ではありまセン」
ウソだろ……と葵が動けずにいると、魔族と化した立山の口がパクパクと動きだした。
「あひ、ひいいっ。すご、すごくいい気分だよっ、佐賀野君。もう何人も取り込んで創造力をもらったんだけどさあ、ただの一般人はやはり僕のような書籍化作家の糧となるべきだと思うんんんだよねっ。キミらもほら、僕の一部になりなよ、ほら、早くくく──」
葵は動けない。短剣を持ったまま、どうしていいかわからなかった。そうしてる間に 立山が近づいてくる。
「葵サンッ!」
ボッ、とシノの放った火球が立山に命中。
立山がよろめいている間にシノと瑞希は葵の側に。
「葵サン、ためらってはいけまセン。あれはもう魔族なのですカラ」
「待って、シノ! まだ部長には意識が残ってる。どうにかして助けられないの?」
「救う方法はありまセン。ああなってしまっテハ。早く倒さないと、寄生型の魔族は増殖してしまいマス」
シノと瑞希の会話を遮るようにぐにぐに動きながら立山はウオオオ、と咆哮。通路にビリビリと響き渡り、窓ガラスが次々に割れていく。
「どううしてっ! どうして佐賀野君っ、キミばかりにかわいい幼なじみやキレイな留学生が寄っていくんだっ! 僕は書籍化作家なんんんだっ! キミのような底辺作家が僕に敵うはずはないんだっっ、僕だって魔導書さえあればっ、創造のキャラクターなんて簡単に出せるんだっっ!」
ぐにぐにした立山の触手のような黒い右手には、見覚えのある分厚い革の装丁の本。
「あっ、その本はっ!」
魔導書アンカルネ・イストワール。
ホテル内で失くしたと思っていた本は葵が寝ている間に立山が持ち出していたのか。
立山の背中がボゴボゴと盛り上がり、通路に黒い塊をボトボトと落とす。
落ちたそれは小型だが、赤い目玉と牙を持ついつもの魔族へと変化していく。
「へ、あへっ、どうだ! 僕の召喚した創造のキャラクター達だ! どうだっ、僕ににだってやれるんだ! 選ばれた創作者なんだよよよっ、僕は書籍化作家なんんんだからっっ!」
あの化け物どもが立山の目には創作のキャラクターに見えているのだろうか。もちろん魔導書が発動するはずもない。
あの本は小説を書いた本人にしか扱えない。やはり立山はもう正気を失っているとしか思えなかった。
小型の魔族がゾワゾワと寄ってくる。
葵の短剣とシノの魔法でなんとか倒すことができたが、肝心の立山は液状化した状態で天井を移動。そのまま葵たちを避けて非常階段のほうへと向かった。
「葵サン、逃がしてはいけまセン!」
「わかってるよ! でもどうしろっていうんだ!」
言い合いながら葵とシノ、瑞希は立山のあとを追った。
まず探したのはベッドの上。寝る前までは確かに制服の中にいつものように忍ばせていた。
だが布団や毛布をめくったが見当たらない。シーツまでひっぺがしたが、やはり見つからない。
ベッドの下。チェストの上と下。トイレや浴槽の中まで見たが──ない。
部屋から出たときに落としたのか。ホテル内で行き来したのはロビーとホール。厨房は入口までで中までは入ってない。
今から1階まで降りて探すヒマはない。すでに魔族が3階に降りて数分は経っている。
「俺がやるしかない。この短剣で」
部屋に戻ったことを後悔しつつ、飛び出した葵。エレベーターより階段のほうが早いと再び非常階段へ。
飛び降りるように階段をおり、3階へ。通路へ出たときに葵は愕然とした。
すでにいくつもの部屋の扉が破壊されていた。
3階には瑞希がいる。最悪の事態を考えつつも、葵は走る。
魔族はちょうど通路の真ん中あたりの部屋で見つけた。
葵の姿を見ると途端にドロォッ、と液状化。葵の振る短剣をかいくぐり、通路へ逃れる。
魔族のいた跡にはどろどろに溶けてはいたが、かろうじて男物のスーツとわかる衣服の残骸。間違いなく生存者のひとりのものだ。
「くそっ、逃がすか!」
自分の判断ミスでこれ以上犠牲者を出すわけにはいない──。
葵は必死に追いすがり、飛びつきながら短剣を振り下ろす。
ズリュウウッ、とスピードアップした魔族は短剣をかわし、隣の部屋のドアを押し潰す。
そこは──たしか瑞希の部屋だ。
行かせるか、と叫びながら葵は再び走る。
だがゴウンッ、ゴオッ、と爆発音とともに魔族はのけぞり、壁にぶつかる。
部屋の中から飛び出したのはシノ。そしてその手に引かれるのは瑞希。
シノも同じ3階の部屋だった。いち早く異変を察知したシノが瑞希を守りにきていたようだった。
「葵サン、今です! エスパス・エトランジェをっ」
シノの機転に感謝しつつ、葵は短剣を構え直す。柄の青い宝石が光を放ち出す。
壁にぶつかった魔族はブスブスと煙を出しながら次第に黒い人型の姿を形どる。ダメージを受けると液状化は解除されるようだったが、今までに出会った魔族とは明らかにタイプが違う。
短剣で斬りつけようと一歩踏み出した葵の動きが止まった。魔族の顔のあたり。いつもの魔族なら赤いギョロついた目玉と大きく裂けた口に鋭い牙が現れるはずだが。
青白い面のように人の顔がズリュズリュと浮き出てきた。その顔は葵のよく知っている人物──文芸部部長の立山文雄だ。
「立山先輩っ……! 大変だ、立山先輩が魔族に取り込まれている!」
葵は後ずさる。これではうかつに攻撃できない。
だが、それは違いマス、と冷静な声をあげたのはシノだった。
「取り込まれているのではありまセン。あれは寄生型の魔族デス。部長はその宿主……もう部長は人ではありまセン」
ウソだろ……と葵が動けずにいると、魔族と化した立山の口がパクパクと動きだした。
「あひ、ひいいっ。すご、すごくいい気分だよっ、佐賀野君。もう何人も取り込んで創造力をもらったんだけどさあ、ただの一般人はやはり僕のような書籍化作家の糧となるべきだと思うんんんだよねっ。キミらもほら、僕の一部になりなよ、ほら、早くくく──」
葵は動けない。短剣を持ったまま、どうしていいかわからなかった。そうしてる間に 立山が近づいてくる。
「葵サンッ!」
ボッ、とシノの放った火球が立山に命中。
立山がよろめいている間にシノと瑞希は葵の側に。
「葵サン、ためらってはいけまセン。あれはもう魔族なのですカラ」
「待って、シノ! まだ部長には意識が残ってる。どうにかして助けられないの?」
「救う方法はありまセン。ああなってしまっテハ。早く倒さないと、寄生型の魔族は増殖してしまいマス」
シノと瑞希の会話を遮るようにぐにぐに動きながら立山はウオオオ、と咆哮。通路にビリビリと響き渡り、窓ガラスが次々に割れていく。
「どううしてっ! どうして佐賀野君っ、キミばかりにかわいい幼なじみやキレイな留学生が寄っていくんだっ! 僕は書籍化作家なんんんだっ! キミのような底辺作家が僕に敵うはずはないんだっっ、僕だって魔導書さえあればっ、創造のキャラクターなんて簡単に出せるんだっっ!」
ぐにぐにした立山の触手のような黒い右手には、見覚えのある分厚い革の装丁の本。
「あっ、その本はっ!」
魔導書アンカルネ・イストワール。
ホテル内で失くしたと思っていた本は葵が寝ている間に立山が持ち出していたのか。
立山の背中がボゴボゴと盛り上がり、通路に黒い塊をボトボトと落とす。
落ちたそれは小型だが、赤い目玉と牙を持ついつもの魔族へと変化していく。
「へ、あへっ、どうだ! 僕の召喚した創造のキャラクター達だ! どうだっ、僕ににだってやれるんだ! 選ばれた創作者なんだよよよっ、僕は書籍化作家なんんんだからっっ!」
あの化け物どもが立山の目には創作のキャラクターに見えているのだろうか。もちろん魔導書が発動するはずもない。
あの本は小説を書いた本人にしか扱えない。やはり立山はもう正気を失っているとしか思えなかった。
小型の魔族がゾワゾワと寄ってくる。
葵の短剣とシノの魔法でなんとか倒すことができたが、肝心の立山は液状化した状態で天井を移動。そのまま葵たちを避けて非常階段のほうへと向かった。
「葵サン、逃がしてはいけまセン!」
「わかってるよ! でもどうしろっていうんだ!」
言い合いながら葵とシノ、瑞希は立山のあとを追った。
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