葵の戦神八姫~アンカルネ・イストワール~

みくもっち

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最終章 魔族の主

5 到達

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「うおらぁっっ!」

 S級魔族グリデモウスシャバ。豪快な踏み込みからの一撃。
 アッパー気味の拳打はフレイアの腹にまともに入り、宙に浮かせる。
 
「っっしゃああああっっ!」

 そこから4本腕のラッシュ。
 フレイアはメッタ打ちになりながら宙を舞う。竜殺剣バルムンクも手放した。

「くたばりやがれぇっっ!」

 トドメの一撃とばかりに4本腕同時の拳打。
 大気を震わせる程の衝撃。フレイアの身体は大砲の弾のように真上に吹っ飛んでいく。

「ぶはぁ~っ、やったぜ。口ほどにもねえ。全身、骨やら内蔵がグチャグチャだろうぜ」

 大きく息を吐き、そしてシャバは空を見上げた。
 フレイアの姿はもう見えないほど上空に打ち上げられた。
 シャバはカカカカッ、と豪快に笑うと地面に落ちている大剣の柄に触れる。

「いい剣じゃあねーか。せっかくだからこの俺様が使ってやるとするか」

 片手で持ち上げようとしたがわずかに浮いただけ。シャバはウソだろ、と言いながら2本腕でやっと持ち上げた。
 だが構えるとなると3本の腕で支えるのがやっと。
 これを振るとなると4本腕でようやくといったところだった。

「おい、気安くアタシの剣に触れないでくれるかな。バッチィから」

 突然の背後からの声。シャバは驚いて大剣を放し、飛びずさる。

「テメエッ、どうしてっ! なんでこんなとこにっ」

 シャバのうしろにいたのはフレイアだった。片手で大剣を軽々と拾い上げ、肩に担ぐ。

「いやー、あんなに吹っ飛んだのはじめてだわ。アンタのことナメてた。ゴメンゴメン」

 口元に流れる血を拭いながらフレイアは軽い調子で謝る。
 そして竜殺剣バルムンクの先をシャバへと向けた。

「……でもねぇ。アタシ、こんなふうにしてても結構怒ってるんだ。大事な仲間を失ったからサ」

「テメーはバケモノかっ! なんでさっきので死なねーんだ! クソッタレがあっ!」

 シャバがヤケクソ気味に突っ込んでくる。フレイアは剣先を下げてから軽く上に振る。

 ボンッ、と爆発したように今度はシャバが打ち上げられた。
 きりもみながら落下。すでに意識がないのか、シャバは動く様子はない。

「バケモノにバケモノ呼ばわりされるのもねぇ。そら、竜閃──」

 竜殺剣バルムンクを逆手に持ちかえ、グッと溜める構え。
 シャバが眼前まで落ちてきたときに投擲──。

 大剣が触れた直後にシャバの全身は崩壊。木っ端みじんに吹っ飛ぶ。
 大剣の勢いは弱まらず、そのまま一直線に追っ手の軍勢のほうへ。

 大剣の着弾地点で爆発。魔族たちの断末魔が響き、バラバラになった黒い残骸が辺りに降り注ぐ。

 今の一撃で追っ手の軍も全滅。ペッ、と血の混じったつばを吐いてフレイアはきびすを返す。

「どれ、あおいさんたちのところに急ぐかね」

 歩きだすが、その視点がどんどん低くなっていく。大股に歩いていたつもりだが、ほとんど進んでいない。

「あや! アタチの身体かやだ……またか! かんじんなときに!」
 
 フレイアの身体は幼女化していた。さらに先程の戦闘で橋に入った亀裂がビキビキと広がっていく。

「おいおい、ウソやよ……」 

 幼女フレイアは懸命に走るが──ついに橋が崩壊。
 びゃあああ、と泣き叫びながら幼女フレイアは落下していった。


 📖 📖 📖


 その頃あおい戦姫せんきたちは──。
 すでに市庁舎が見える街の大通りにいた。

 魔族の群れが溢れかえってはいたが、戦姫5人の前進を止めることはできない。
 
「へー、少し減ってるけど、ちゃんとたどり着けてるじゃん。感心、感心」

 市庁舎前の広場。噴水の前で足を組んで拍手しているのは学者ふうのローブに羽根付き帽子、メガネの少年。
 ネコヒゲとシッポを持つ、S級魔族テネスリードだ。

「余裕かましちゃって。ムカつくっ」

 鴫野しぎのみさきが右足を昆虫のような脚に変化。 
 デストラクションホッパー。
 魔族を踏み潰しながら空高く跳躍し、さらに右手を凶刃デッドエンドチェーンソーに変化。

 飛行型魔族を数体斬り裂きながら落下。
 狙うのはテネスリードの首。

「おっとお、危ない」

 魔法の防御壁で防ぐテネスリード。みさきはさらに左腕を魔狼マーナガルムに変化。

「死ねえぇっ!」

 ガアッ、と牙をむき出したマーナガルムが防御壁に噛みつく。わずかにヒビが入り、そこにデッドエンドチェーンソーをねじ込む。

 防御壁を粉砕。チェーンソーの刃はテネスリードの顔面をかすめた。

「調子に乗ってるねぇ、キミ」

 テネスリードの懐から魔法弾が発射される。無数の魔法弾に撃ち抜かれ、みさきは血を噴き出しながら倒れた。

「みさきっ! おいっ、助け出すぞっ!」

 葵は戦姫たちに命じる。
 群がる魔族をなぎ倒しながらなんとか広場に到着。
 みさきはマルグリットが回収した。
 
 市庁舎前の広場に着いたところで周りの魔族の動きが止まる。テネスリードもそれ以上攻撃を加えようとしない。

 市庁舎の最上階。そこにはテラスがあり、見下ろしているのは貴族ふうの姿をしたヤギ角の美青年。

 S級魔族フォゼラム。
 フォゼラムはそこからスーッ、と浮遊しながら下りてくる。

「来たか、創作者と戦神八姫せんじんはっき。約束通りの時間に間に合ったようだな」

 テネスリードの横に並び、葵に話しかけてきた。

「シノを返してもらうぞ。……無事なんだろうな。もしあいつに何かあったら……」

 怒気を含む葵の言葉に呼応するように戦姫たちが身構える。
 フォゼラムは肩をすくめながらその前に、と自身が下りてきたテラスのほうを見上げる。

「お前たちに会われるそうだ。我ら魔族を統率される頂点にして絶対の存在……マスターが」

 魔族のマスター──ここにいるのか。
 葵たちの最終目標。
 そいつさえ倒すことが出来れば、この街、国、世界中にいるであろう魔族を全滅させることができる。

 現在の世界がどうなっているか。状況もわかってくるはず。生存者ももっと見つかる。世界は救われる。いや、救わなくてはならない。

「俺にしか出来ないんだ。俺がやらなくちゃいけない」

 葵は市庁舎最上階のテラスを睨みつけた。
 
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