異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
11 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

11 アサシン

しおりを挟む
《アサシン》の二つ名を持つ少女が下馬し、近づいてきた。
 いや、これは……わたしほどではないが少女だ。
 褐色の肌に丸みを帯びた銀髪のショートカット。ストールで口元はかくしてあるが、上からのぞく瞳はくりっとしてかわいい。ヘソ丸出しタンクトップにショートパンツにサンダル。
 うむ、健全な青少年が喜びそうな露出度だ。しかし、残念ながら胸のほうはわたしと同じくそれほどの大きさではない。初期設定というか初期願望で失敗したクチだろう。そこは親近感がわくが……。
 わたしは同じ美少女枠として対抗心ムキ出しでにらみつける。しかし《アサシン》アルマ・イルハムはそのくりくりした目でじーっと見つめたまま怯む様子はない。やるな。

「……………………」

「……………………」

 長い沈黙が続く。なにコイツ。クールな無口キャラを気取っているのか。
 さっきのダダダダでイラッときているわたしは町のヤンキー顔負けの表情でメンチを切る。
 オゥ、なんだコラ、テメェ。やんのか? やっちゃうのか? やっちゃうよわたし。《剣聖》、刀抜いちゃうよ?
 口には出さないが眼光で射殺すほどの殺気を飛ばす。するとアルマがストールの中で、なにかもにょもにょと言っている。
 
「………………なの?」

「は? 聞こえないんだけど」

 わたしは大げさに耳に手を当て、聞こえませんよー、と意地悪な態度を取る。アルマはまたもにょもにょとしゃべりだした。

「…………どうして胸がないの?」

「──!」

 わたしは怒りのあまり、白目を剥いて卒倒しそうになった。それ、おまえが言う? あ、わかった。こいつ死にたいんだ。

「……あたしは戦いにジャマだからこれくらいの大きさでいいの。あなたもそうなんでしょ?」
 
 怒りがプシュー、と収まっていく。ふ、そういうことか。

「あ、ああ。もちろん。居合いのときとかジャマだから。ほら、こうやって斬ったりするときも」

 身振り手振りで説明。ちらっ、とアルマを見るとまだじーっ、と見ている。

「武器が刀じゃなかったらなー。ほら、刀だとこう抜くときジャマ。元の世界じゃバインバインのボインボインだったんだけど」

 なにを言っているんだ、わたしは。誰か止めて。
 その後、わたしがなぜ胸が小さいのか、それは武器が刀のせいだ、という謎の講義は一時間ほど続き、日が暮れた。



 街道より少し外れた場所で野営。
 軍の兵士はさすがに手際がいい。アルマの部下4人はそれぞれ手分けして作業。地面を掘り、石を積んでかまどを作る者、狩りでウサギを捕らえる者、テントを張る者、周りに近づく魔物がいないか哨戒する者。
 わたしはその間に、焚き火をはさんでアルマに質問した。

「なぜ王都の兵がわたしを追う?」

「…………あたしが用があったのは《解放の騎士》天塚志求磨。隊商にまぎれて王都に近づく情報があったから……」

 あとのほうは、もにょもにょ言ってて聞こえなかったが、関所までのこのルートで待ち伏せてたらしい。わたし自身に用がないならさっさと解放してくれ。

「あなたは《覇王》に会いたいんでしょ……あたしが案内するから」

 それはありがたい。《覇王》の部下と一緒なら関所も簡単に通れるだろうし、王都でのトラブルも無いだろう。こいつ、けっこうイイヤツなのかも。

 しばらく話している間に(半分はもにょもにょで何言っているか分からない)食事の用意も出来ていた。
 ウサギを焼いた肉にポテトスープ。贅沢とはいえないが、味付けはなかなかウマイ。
 そして食べたあとは眠い。ウサギの足の骨を持ったままうつらうつらしていると、アルマがテントまで手を引いて連れてってくれた。なんだ、やっぱりイイヤツじゃないか。
 わたしはそのまま夢の中に──。



「ぐえっ」
 
 腹に重い衝撃──目が覚め、自分の腹の上の物を押しのける。ぬるっ、と生暖かい。これは──血だ。
 馬の首が切断され、転がっていた。普通じゃない。わたしはテントの中で寝てたはずだが、周りは荒野。暗闇の中、目を凝らす。
 そう遠くないところで争っている音が聞こえる。わたしはそこへ走った。
 
 巨大な影が動いていた。暗闇に目が慣れ、それは一軒家ほどもある化け物サソリだと分かった。対峙しているのはアルマひとり。

「なんなんだ、この化け物は。おい、部下たちは?」

「……食べられた。馬も」

 アルマは表情も変えず2本のダガーを逆手に構え、なにか集中しているようだ。ダガーの刀身が赤く発光しはじめる。
 ヒュッ、と巨大サソリのハサミがうち下ろされた。アルマは最小限の動きでかわし、即反撃。ハサミがボボッと火に包まれたが、それはすぐに消えた。

「……効いてない。火属性はダメ」

 ボッ、と毒針が繰り出された。アルマは宙返りしながらかわし、距離を取る。この化け物、図体の割にかなり素早い。
 
「わたしも手伝う。この化け物を仕留めるぞ」

 腰を沈め、わたしは太刀風の構えに入った。

 
 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...