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第1部 剣聖 羽鳴由佳
11 アサシン
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《アサシン》の二つ名を持つ少女が下馬し、近づいてきた。
いや、これは……わたしほどではないが美少女だ。
褐色の肌に丸みを帯びた銀髪のショートカット。ストールで口元はかくしてあるが、上からのぞく瞳はくりっとしてかわいい。ヘソ丸出しタンクトップにショートパンツにサンダル。
うむ、健全な青少年が喜びそうな露出度だ。しかし、残念ながら胸のほうはわたしと同じくそれほどの大きさではない。初期設定というか初期願望で失敗したクチだろう。そこは親近感がわくが……。
わたしは同じ美少女枠として対抗心ムキ出しでにらみつける。しかし《アサシン》アルマ・イルハムはそのくりくりした目でじーっと見つめたまま怯む様子はない。やるな。
「……………………」
「……………………」
長い沈黙が続く。なにコイツ。クールな無口キャラを気取っているのか。
さっきのダダダダでイラッときているわたしは町のヤンキー顔負けの表情でメンチを切る。
オゥ、なんだコラ、テメェ。やんのか? やっちゃうのか? やっちゃうよわたし。《剣聖》、刀抜いちゃうよ?
口には出さないが眼光で射殺すほどの殺気を飛ばす。するとアルマがストールの中で、なにかもにょもにょと言っている。
「………………なの?」
「は? 聞こえないんだけど」
わたしは大げさに耳に手を当て、聞こえませんよー、と意地悪な態度を取る。アルマはまたもにょもにょとしゃべりだした。
「…………どうして胸がないの?」
「──!」
わたしは怒りのあまり、白目を剥いて卒倒しそうになった。それ、おまえが言う? あ、わかった。こいつ死にたいんだ。
「……あたしは戦いにジャマだからこれくらいの大きさでいいの。あなたもそうなんでしょ?」
怒りがプシュー、と収まっていく。ふ、そういうことか。
「あ、ああ。もちろん。居合いのときとかジャマだから。ほら、こうやって斬ったりするときも」
身振り手振りで説明。ちらっ、とアルマを見るとまだじーっ、と見ている。
「武器が刀じゃなかったらなー。ほら、刀だとこう抜くときジャマ。元の世界じゃバインバインのボインボインだったんだけど」
なにを言っているんだ、わたしは。誰か止めて。
その後、わたしがなぜ胸が小さいのか、それは武器が刀のせいだ、という謎の講義は一時間ほど続き、日が暮れた。
街道より少し外れた場所で野営。
軍の兵士はさすがに手際がいい。アルマの部下4人はそれぞれ手分けして作業。地面を掘り、石を積んで竈を作る者、狩りでウサギを捕らえる者、テントを張る者、周りに近づく魔物がいないか哨戒する者。
わたしはその間に、焚き火をはさんでアルマに質問した。
「なぜ王都の兵がわたしを追う?」
「…………あたしが用があったのは《解放の騎士》天塚志求磨。隊商にまぎれて王都に近づく情報があったから……」
あとのほうは、もにょもにょ言ってて聞こえなかったが、関所までのこのルートで待ち伏せてたらしい。わたし自身に用がないならさっさと解放してくれ。
「あなたは《覇王》に会いたいんでしょ……あたしが案内するから」
それはありがたい。《覇王》の部下と一緒なら関所も簡単に通れるだろうし、王都でのトラブルも無いだろう。こいつ、けっこうイイヤツなのかも。
しばらく話している間に(半分はもにょもにょで何言っているか分からない)食事の用意も出来ていた。
ウサギを焼いた肉にポテトスープ。贅沢とはいえないが、味付けはなかなかウマイ。
そして食べたあとは眠い。ウサギの足の骨を持ったままうつらうつらしていると、アルマがテントまで手を引いて連れてってくれた。なんだ、やっぱりイイヤツじゃないか。
わたしはそのまま夢の中に──。
「ぐえっ」
腹に重い衝撃──目が覚め、自分の腹の上の物を押しのける。ぬるっ、と生暖かい。これは──血だ。
馬の首が切断され、転がっていた。普通じゃない。わたしはテントの中で寝てたはずだが、周りは荒野。暗闇の中、目を凝らす。
そう遠くないところで争っている音が聞こえる。わたしはそこへ走った。
巨大な影が動いていた。暗闇に目が慣れ、それは一軒家ほどもある化け物サソリだと分かった。対峙しているのはアルマひとり。
「なんなんだ、この化け物は。おい、部下たちは?」
「……食べられた。馬も」
アルマは表情も変えず2本のダガーを逆手に構え、なにか集中しているようだ。ダガーの刀身が赤く発光しはじめる。
ヒュッ、と巨大サソリのハサミがうち下ろされた。アルマは最小限の動きでかわし、即反撃。ハサミがボボッと火に包まれたが、それはすぐに消えた。
「……効いてない。火属性はダメ」
ボッ、と毒針が繰り出された。アルマは宙返りしながらかわし、距離を取る。この化け物、図体の割にかなり素早い。
「わたしも手伝う。この化け物を仕留めるぞ」
腰を沈め、わたしは太刀風の構えに入った。
いや、これは……わたしほどではないが美少女だ。
褐色の肌に丸みを帯びた銀髪のショートカット。ストールで口元はかくしてあるが、上からのぞく瞳はくりっとしてかわいい。ヘソ丸出しタンクトップにショートパンツにサンダル。
うむ、健全な青少年が喜びそうな露出度だ。しかし、残念ながら胸のほうはわたしと同じくそれほどの大きさではない。初期設定というか初期願望で失敗したクチだろう。そこは親近感がわくが……。
わたしは同じ美少女枠として対抗心ムキ出しでにらみつける。しかし《アサシン》アルマ・イルハムはそのくりくりした目でじーっと見つめたまま怯む様子はない。やるな。
「……………………」
「……………………」
長い沈黙が続く。なにコイツ。クールな無口キャラを気取っているのか。
さっきのダダダダでイラッときているわたしは町のヤンキー顔負けの表情でメンチを切る。
オゥ、なんだコラ、テメェ。やんのか? やっちゃうのか? やっちゃうよわたし。《剣聖》、刀抜いちゃうよ?
口には出さないが眼光で射殺すほどの殺気を飛ばす。するとアルマがストールの中で、なにかもにょもにょと言っている。
「………………なの?」
「は? 聞こえないんだけど」
わたしは大げさに耳に手を当て、聞こえませんよー、と意地悪な態度を取る。アルマはまたもにょもにょとしゃべりだした。
「…………どうして胸がないの?」
「──!」
わたしは怒りのあまり、白目を剥いて卒倒しそうになった。それ、おまえが言う? あ、わかった。こいつ死にたいんだ。
「……あたしは戦いにジャマだからこれくらいの大きさでいいの。あなたもそうなんでしょ?」
怒りがプシュー、と収まっていく。ふ、そういうことか。
「あ、ああ。もちろん。居合いのときとかジャマだから。ほら、こうやって斬ったりするときも」
身振り手振りで説明。ちらっ、とアルマを見るとまだじーっ、と見ている。
「武器が刀じゃなかったらなー。ほら、刀だとこう抜くときジャマ。元の世界じゃバインバインのボインボインだったんだけど」
なにを言っているんだ、わたしは。誰か止めて。
その後、わたしがなぜ胸が小さいのか、それは武器が刀のせいだ、という謎の講義は一時間ほど続き、日が暮れた。
街道より少し外れた場所で野営。
軍の兵士はさすがに手際がいい。アルマの部下4人はそれぞれ手分けして作業。地面を掘り、石を積んで竈を作る者、狩りでウサギを捕らえる者、テントを張る者、周りに近づく魔物がいないか哨戒する者。
わたしはその間に、焚き火をはさんでアルマに質問した。
「なぜ王都の兵がわたしを追う?」
「…………あたしが用があったのは《解放の騎士》天塚志求磨。隊商にまぎれて王都に近づく情報があったから……」
あとのほうは、もにょもにょ言ってて聞こえなかったが、関所までのこのルートで待ち伏せてたらしい。わたし自身に用がないならさっさと解放してくれ。
「あなたは《覇王》に会いたいんでしょ……あたしが案内するから」
それはありがたい。《覇王》の部下と一緒なら関所も簡単に通れるだろうし、王都でのトラブルも無いだろう。こいつ、けっこうイイヤツなのかも。
しばらく話している間に(半分はもにょもにょで何言っているか分からない)食事の用意も出来ていた。
ウサギを焼いた肉にポテトスープ。贅沢とはいえないが、味付けはなかなかウマイ。
そして食べたあとは眠い。ウサギの足の骨を持ったままうつらうつらしていると、アルマがテントまで手を引いて連れてってくれた。なんだ、やっぱりイイヤツじゃないか。
わたしはそのまま夢の中に──。
「ぐえっ」
腹に重い衝撃──目が覚め、自分の腹の上の物を押しのける。ぬるっ、と生暖かい。これは──血だ。
馬の首が切断され、転がっていた。普通じゃない。わたしはテントの中で寝てたはずだが、周りは荒野。暗闇の中、目を凝らす。
そう遠くないところで争っている音が聞こえる。わたしはそこへ走った。
巨大な影が動いていた。暗闇に目が慣れ、それは一軒家ほどもある化け物サソリだと分かった。対峙しているのはアルマひとり。
「なんなんだ、この化け物は。おい、部下たちは?」
「……食べられた。馬も」
アルマは表情も変えず2本のダガーを逆手に構え、なにか集中しているようだ。ダガーの刀身が赤く発光しはじめる。
ヒュッ、と巨大サソリのハサミがうち下ろされた。アルマは最小限の動きでかわし、即反撃。ハサミがボボッと火に包まれたが、それはすぐに消えた。
「……効いてない。火属性はダメ」
ボッ、と毒針が繰り出された。アルマは宙返りしながらかわし、距離を取る。この化け物、図体の割にかなり素早い。
「わたしも手伝う。この化け物を仕留めるぞ」
腰を沈め、わたしは太刀風の構えに入った。
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