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第1部 剣聖 羽鳴由佳
21 藤田原氷山
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条件なんか出せる立場なのかこいつは。変なことを言い出したら、このもにょっ娘をけしかけてやる。
アルマはさっきから、爪を剥いで、逆さ吊りにしてとか、もにょもにょ様々な拷問方法を呟いている。ちょっとコワイんですけど。
実は……とモンティレが話し出した内容は、条件というよりお願いに近いものだった。
モンティレほどの富豪は客将として願望者を屋敷に招く。いざというときの用心棒だったり、豊富な知識を持つ者から助言を受けたりするのだが、今現在屋敷に居着いてしまっている願望者を追い出してほしいというのだ。
「武芸に優れ、様々な芸術に精通していると聞いて招いたんだが……まったく働こうとしない。おまえたちが侵入したときも微動だにしなかった」
タチの悪い、ゴロツキみたいな願望者に居座られてしまったのだろうか。それなら簡単だ。わたしたちが力ずくで追い出せばいい。
「ちょうど食事中だ。いまからその人のところまで案内する」
食事中……館の主人を差し置いて、一人だけ飯を食うとはなかなか図々しい奴だ。いったいどんな奴なのか、顔を見てみたい。
食堂へ着くとなるほど、一人の男がテーブルを占拠し、その周りでは使用人たちが慌ただしく料理を運んでは片付け、運んでは片付けしている。
男は和装で50代ぐらいだろうか。運ばれてくる料理を一口食べては首を振り、一口食べては叱責している。おや、どこかで見たことあると思えば、某料理アニメのキャラクターではないか。しかし、おかしい。初見なのにダダダダがない。
「先生、藤田原氷山先生。まだ、満足されないのですか?」
モンティレがうやうやしく聞くと、その男は尊大な態度で答える。
「こんな料理でこの藤田原氷山が満足できるわけなかろう。わたしの求める極限のメニューには程遠い」
わたしと目があった。すると途端に気まずそうな顔になり、そっぽを向く。
「おい、あんた……藤田じゃないか?」
武道大会でわたしと対戦し、勝手に一人で倒れた男。この妙なコスプレ感、間違いない。
「な、ななな何を言っているのだ。わたしは文化人、藤田原氷山だ。無礼だぞ、小娘」
あきらかに動揺している。まあ、そんなことはどうでもいい。こいつが問題の願望者なら今すぐ首根っこつかんで外に放り出すだけだ。
わたしが近づいて手を伸ばす。すると、藤田に触れる寸前でバチッ、と見えない壁に弾かれた。
「無駄だ。食事中の先生を力ずくで動かそうとすると見えない壁に阻まれる。料理を出さなければいいが、先生が訪れると、もてなさずにはいられないのだ」
モンティレが苦々しく言って首を振る。藤田はハハハと笑いながら立ち上がった。
「そうだ! これがわたしの能力ッ! わたしが満足できる料理を出さなければ永遠に食事を提供し続けなければならないのだッ!」
顔を片手で隠し、のけ反るようなポーズ。ズギャアアアァン、と効果音が入り、ドドドドドド、と具現化した効果音がそこらに散らばる。おい、これ違うアニメの演出だ。
「カーラさん、どうします?」
「そうね……わたしなら願望者の能力関係なしに因果律そのものを消し去ることが出来るけど。影響の出る範囲が調整できないから、この地方一帯が無かったことになるかも……」
「あぁ、やっぱりいいです。違う方法を考えましょう」
危ない。この人が何かするとシエラ=イデアルの世界地図が変わりかねない。わたしはダメ元でアルマにも聞いてみる。
「……美味しい料理、わたしたちで作る」
アルマの意見に、わたしたちはうーん、と首を傾げる。
富豪のモンティレが雇っているのは一流の料理人だし、食材も高級なものだろう。それでも満足できない相手に、素人の料理が通用するのだろうか。
「いや、案外いい考えかもしれん。願望者を満足させるには願望者の料理じゃないとダメなのかもしれない。やってもらえないか」
モンティレにとってはワラにもすがる思いなのだろう。わたしたちもあまりのんびりしていられない。
「そうね、それなら三人で同じ料理を作るんじゃなくて、一人ずつ違う料理を作りましょう。せっかく女子三人いるんだし。そのほうが成功する可能性も高いわ」
カーラの提案にナルホド、と意見がまとまった。食材やジャンルは各自に任せ、それぞれに料理を作り藤田に満足できるものを選んでもらう。
さっそく三人の女子はほうぼうに別れ、食材の調達から取りかかる。
しかし、このときのわたしたちは気づいていただろうか。
本来の目的は志求磨の石板を取り戻すため、持ち主のモンティレの条件を満たすための行動だ。
それが今や──女のプライドをかけた、火花を散らす料理対決となっていたことを。
アルマはさっきから、爪を剥いで、逆さ吊りにしてとか、もにょもにょ様々な拷問方法を呟いている。ちょっとコワイんですけど。
実は……とモンティレが話し出した内容は、条件というよりお願いに近いものだった。
モンティレほどの富豪は客将として願望者を屋敷に招く。いざというときの用心棒だったり、豊富な知識を持つ者から助言を受けたりするのだが、今現在屋敷に居着いてしまっている願望者を追い出してほしいというのだ。
「武芸に優れ、様々な芸術に精通していると聞いて招いたんだが……まったく働こうとしない。おまえたちが侵入したときも微動だにしなかった」
タチの悪い、ゴロツキみたいな願望者に居座られてしまったのだろうか。それなら簡単だ。わたしたちが力ずくで追い出せばいい。
「ちょうど食事中だ。いまからその人のところまで案内する」
食事中……館の主人を差し置いて、一人だけ飯を食うとはなかなか図々しい奴だ。いったいどんな奴なのか、顔を見てみたい。
食堂へ着くとなるほど、一人の男がテーブルを占拠し、その周りでは使用人たちが慌ただしく料理を運んでは片付け、運んでは片付けしている。
男は和装で50代ぐらいだろうか。運ばれてくる料理を一口食べては首を振り、一口食べては叱責している。おや、どこかで見たことあると思えば、某料理アニメのキャラクターではないか。しかし、おかしい。初見なのにダダダダがない。
「先生、藤田原氷山先生。まだ、満足されないのですか?」
モンティレがうやうやしく聞くと、その男は尊大な態度で答える。
「こんな料理でこの藤田原氷山が満足できるわけなかろう。わたしの求める極限のメニューには程遠い」
わたしと目があった。すると途端に気まずそうな顔になり、そっぽを向く。
「おい、あんた……藤田じゃないか?」
武道大会でわたしと対戦し、勝手に一人で倒れた男。この妙なコスプレ感、間違いない。
「な、ななな何を言っているのだ。わたしは文化人、藤田原氷山だ。無礼だぞ、小娘」
あきらかに動揺している。まあ、そんなことはどうでもいい。こいつが問題の願望者なら今すぐ首根っこつかんで外に放り出すだけだ。
わたしが近づいて手を伸ばす。すると、藤田に触れる寸前でバチッ、と見えない壁に弾かれた。
「無駄だ。食事中の先生を力ずくで動かそうとすると見えない壁に阻まれる。料理を出さなければいいが、先生が訪れると、もてなさずにはいられないのだ」
モンティレが苦々しく言って首を振る。藤田はハハハと笑いながら立ち上がった。
「そうだ! これがわたしの能力ッ! わたしが満足できる料理を出さなければ永遠に食事を提供し続けなければならないのだッ!」
顔を片手で隠し、のけ反るようなポーズ。ズギャアアアァン、と効果音が入り、ドドドドドド、と具現化した効果音がそこらに散らばる。おい、これ違うアニメの演出だ。
「カーラさん、どうします?」
「そうね……わたしなら願望者の能力関係なしに因果律そのものを消し去ることが出来るけど。影響の出る範囲が調整できないから、この地方一帯が無かったことになるかも……」
「あぁ、やっぱりいいです。違う方法を考えましょう」
危ない。この人が何かするとシエラ=イデアルの世界地図が変わりかねない。わたしはダメ元でアルマにも聞いてみる。
「……美味しい料理、わたしたちで作る」
アルマの意見に、わたしたちはうーん、と首を傾げる。
富豪のモンティレが雇っているのは一流の料理人だし、食材も高級なものだろう。それでも満足できない相手に、素人の料理が通用するのだろうか。
「いや、案外いい考えかもしれん。願望者を満足させるには願望者の料理じゃないとダメなのかもしれない。やってもらえないか」
モンティレにとってはワラにもすがる思いなのだろう。わたしたちもあまりのんびりしていられない。
「そうね、それなら三人で同じ料理を作るんじゃなくて、一人ずつ違う料理を作りましょう。せっかく女子三人いるんだし。そのほうが成功する可能性も高いわ」
カーラの提案にナルホド、と意見がまとまった。食材やジャンルは各自に任せ、それぞれに料理を作り藤田に満足できるものを選んでもらう。
さっそく三人の女子はほうぼうに別れ、食材の調達から取りかかる。
しかし、このときのわたしたちは気づいていただろうか。
本来の目的は志求磨の石板を取り戻すため、持ち主のモンティレの条件を満たすための行動だ。
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